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僕、アイドル目指します!
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七月の下旬。
夏休みに入り、僕は田舎にある祖父母の家で過ごしていた。
今年で三度目の夏になるが、相変わらず田舎での暮らしに慣れない。
都会と違って自然がたくさんあるし、空気が美味しいのが救いだ。
今は、祖母と一緒に縁側でお茶を飲みながら、のんびりとした時間を過ごしている。
すると、玄関の方から声が聞こえてきた。
誰か来たようだな。
今日は来客の予定はなかったはずだから、おそらく郵便屋さんかな? それとも、宅配便だろうか。
いずれにせよ、そろそろ休憩が終わる頃だし、応対しないとまずいな。
そう思った矢先、インターホンが鳴った。
「はい。どちら様でしょうか?」
と、言いつつ、ドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「こんにちは。翔太郎くん」
「えっ!? 香織さん?」
なんと、そこにいたのは、アイドルグループ「Rainbow Stars」の野口香織だった。
彼女は、普段とは違う格好をしている。
白いブラウスに紺色のスカート姿。
いわゆる、オフィスカジュアルというやつだろうか。
髪形もいつもとは違っている。
セミロングの髪を後ろでまとめており、ポニーテールのような髪型になっている。
さらに、眼鏡をかけていて、知的な雰囲気を感じる。
普段は、可愛らしい雰囲気だけど、今日の香織さんは、大人っぽい印象を受ける。
服装や髪型を変えただけで、こんなにも変わるものなのか。
それにしても、どうして彼女がここに……。
「どうしたんですか? 急に……」
「実は、翔太郎君に頼みたいことがあってきたの。とりあえず中に入れてもらってもいいかしら?」
「あっ! はい。分かりました。ちょっと待ってください!」
予想外の出来事だったので、少し動揺してしまったが、このまま外で立ち話を続けるわけにはいかない。
僕は慌てて彼女を家の中に招き入れた。
そして、リビングで彼女に麦茶を出す。
香織さんの話を聞こうと思ったのだが、その前に一つ気になることがあったので、質問してみた。
それは、彼女の後ろに立っている一人の男性についてである。
彼は、香織さんが所属する芸能事務所の社員で、マネージャーを務めているそうだ。
香織さんが所属している事務所の名前は、確か……
、
――
株式会社 芸能プロ
――
だったと思う。
マネージャーということは、香織さんの仕事上の関係者だろう。
でも、なぜ彼が一緒にここへやってきたのか。
その理由が分からなかった。
しかし、香織さんが説明してくれたおかげで、彼の訪問理由が分かった。
なんでも、香織さんたちは、僕にお願いしたいことがあるらしく、マネージャーと共に、この田舎にやってきたのだという。
マネージャーから話を聞いたところ、香織さんたちは、最近、大きなオーディションを控えていて、そのためにレッスンを行っているとのこと。
そのため、彼女たちは、地方で合宿を行うことにしたのだ。
だが、彼女たちが宿泊する予定だったホテルが満室で予約が取れず、急遽、この田舎にある空き家に泊まることになった。
そこで、マネージャーが、香織さんたちの面倒を見てくれる人物を探したところ、僕の名前が出てきたということだ。
つまり、僕は彼女たちの面倒をみるために呼ばれたということになる。
ただ、いきなりそんなことを言われても困る。
そもそも、僕は彼女たちと面識がない。
だから、彼女たちと仲良くなるどころか、まともに会話できるかも怪しい。
それに、仮に親しくなったとしても、アイドルと友達になるなんて恐れ多い。
もし、このことが世間にバレたら、とんでもないことになる。まあ、田舎でアイドル活動するのは無理があるよな。
彼女たちだって、都会でアイドル活動をしていた方が楽に決まっている。
わざわざ田舎に来てもらう必要もない
「すみません。お話はありがたいのですが、アイドルの皆さんのお世話をすることはできそうにありません」
と、断ると、香織さんは残念そうな表情を浮かべた。
「そうよね。突然押しかけてごめんなさい」
「いえ、こちらこそ力になれなくて申し訳ないです」
ただでさえ忙しい時期なのに、余計な仕事を増やしてしまったことを後悔しながら謝ると、香織さんは首を横に振った。
そして、彼女は再び口を開く。
何かを決心したような口調だ。
一体、何を言われるのだろうか。
もしかすると、怒られるかもしれない。
いや、むしろ、呆れられて、嫌われてしまう可能性もある。
いずれにせよ、いい結果にはならないはずだ。
不安を感じている僕の気持ちを察したのか、香織さんは優しい声色で話しかけてきた。
「ねえ、翔太郎くん。私たちと一緒にアイドル活動をしない?」
「えっ!? アイドル活動をですか?」
予想外すぎる言葉に思わず聞き返してしまう。
アイドル活動ってどういうことなんだろうか。
まさか、彼女たちのアイドル活動に付き合ってほしいということなのか。
「あの、アイドル活動って何のことでしょうか?」
「そのままの意味だよ。私たちは今度、オーディションを受ける予定なんだ。それで、翔太郎君にも協力してほしいと思って……」
「ちょっと待ってください! アイドル活動って、アイドルとしてデビューするってことですよ。それなら、もっと適任者がいると思います。例えば、同じ高校に通う生徒とか……。
ほら、他にも、アイドルになりたいと思っている人はたくさんいるはずなので、そういう人に声をかけてみてはどうでしょう? きっと喜んで引き受けてくれますよ。もちろん、俺も全力で応援します!」
俺は必死になって説得を試みた。
アイドル活動をするにしても、何もこんな田舎でやることはないだろう。
東京や大阪などの大都市の方が、競争率も低く、チャンスも多い。
また、アイドル活動をする上で、田舎は不便なことばかりだと思うし、アイドルとして活動するのも大変だろう。
彼女たちは、まだ高校生なのだから、これから大学に行ったり、就職したり、様々な進路が待っているはずである。
アイドル活動をするよりも、自分の将来のことを考えるべきではないか。
だから、アイドル活動をするくらいならば、他の人に頼んだ方がいいと思ったのだ。
しかし、香織さんは、僕の言葉を聞いて笑みを浮かべた。
その笑顔はどこか悲しげに見える。
どうして、そんな顔をするのだろう。
彼女の真意が分からない。
「ありがとう。翔太郎君の言う通り、確かに私には夢があって……、でも、私はアイドル活動を通して、誰かに勇気を与えたいと考えてるの。
これは、私のわがままだけどね。でも、アイドル活動をすることで、自分が変わるきっかけをつかめると思うの。
だから、お願い。翔太郎君、一緒にアイドル活動をしてくれないかな。あなたしかいないの。お願い。一生のお願いだから……」
香織さんの瞳には涙が浮かんでいた。
アイドル活動をしたいという強い意志を感じる。
だが、僕は迷っていた。
香織さんがそこまで真剣だというのであれば、それを応援すべきなのではないか。
それに、彼女が言っていることは正しい。
夢に向かって努力している人が報われないなんておかしい。
だから、僕は香織さんの夢を応援することにした。
それに、香織さんはアイドルとしての才能を持っているし、容姿端麗でスタイルもいい。
アイドルとして成功する素質がある。
彼女から学ぶことも多いに違いない。
それに、僕は香織さんに憧れていた。初めて見た時からずっと憧れ続けている。
いつか、彼女と話すことができたらいいなと思っていた。
それが叶うのである。
断る理由などあるわけがない。
「分かりました。ぜひ、協力させてください」
「本当!? 嬉しい!!」
香織さんは満面の笑みを浮かべる。
「ただ、条件がいくつかあります」
「条件?」
「はい。まず、学校では今まで通りに過ごしてほしいんです。それから、アイドル活動について、誰にも話さないでほしいです」
「うん。分かった」
「あと、もう一つだけ」
「なにかしら」
「アイドル活動についてですけど、秘密にするのはいいです。ですが、アイドル活動をするのはあくまで、俺たちだけです。アイドル活動について、周りに広めたり、応援したりするのはやめましょう。あくまで、こっそりと活動するということでいいですか?」
「ええ。構わないわ。でも、どうして?」
「それは、アイドル活動について、周りの人たちに知られると面倒なことになりそうだからですよ。もし、アイドル活動をしたことがバレたら、クラスのみんなから質問攻めにされたり、変に騒がれたりするかもしれません。そうなったら、アイドル活動どころじゃなくなります。せっかく、香織さんたちが頑張っているのですから、邪魔されたくないんですよ」
「そうだったの……。ごめんなさい。翔太郎くんのこと考えずに勝手なこと言って……」
香織さんは申し訳なさそうな表情をしている。
彼女は素直な性格なので、思ったことをすぐに口にしてしまうタイプだ。
そのため、自分の発言で、僕のことを困らせてしまったのではないかと心配になったのかもしれない。
「気にしないでください。俺の方こそ、すみませんでした。香織さんのことを気遣わずに勝手に決めてしまって……。でも、俺としては、香織さんたちの夢を応援したかったので、つい熱くなってしまって……」
「謝らないで。翔太郎君は悪くないから。むしろ感謝してる。だって、私たちのことを考えてくれたんでしょう。本当にありがとう。すごく嬉しかったよ。でも、翔太郎君の気持ちも分かるから、約束する。絶対に他の人に言わないと。これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします。一緒に頑張りましょう!」
夏休みに入り、僕は田舎にある祖父母の家で過ごしていた。
今年で三度目の夏になるが、相変わらず田舎での暮らしに慣れない。
都会と違って自然がたくさんあるし、空気が美味しいのが救いだ。
今は、祖母と一緒に縁側でお茶を飲みながら、のんびりとした時間を過ごしている。
すると、玄関の方から声が聞こえてきた。
誰か来たようだな。
今日は来客の予定はなかったはずだから、おそらく郵便屋さんかな? それとも、宅配便だろうか。
いずれにせよ、そろそろ休憩が終わる頃だし、応対しないとまずいな。
そう思った矢先、インターホンが鳴った。
「はい。どちら様でしょうか?」
と、言いつつ、ドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「こんにちは。翔太郎くん」
「えっ!? 香織さん?」
なんと、そこにいたのは、アイドルグループ「Rainbow Stars」の野口香織だった。
彼女は、普段とは違う格好をしている。
白いブラウスに紺色のスカート姿。
いわゆる、オフィスカジュアルというやつだろうか。
髪形もいつもとは違っている。
セミロングの髪を後ろでまとめており、ポニーテールのような髪型になっている。
さらに、眼鏡をかけていて、知的な雰囲気を感じる。
普段は、可愛らしい雰囲気だけど、今日の香織さんは、大人っぽい印象を受ける。
服装や髪型を変えただけで、こんなにも変わるものなのか。
それにしても、どうして彼女がここに……。
「どうしたんですか? 急に……」
「実は、翔太郎君に頼みたいことがあってきたの。とりあえず中に入れてもらってもいいかしら?」
「あっ! はい。分かりました。ちょっと待ってください!」
予想外の出来事だったので、少し動揺してしまったが、このまま外で立ち話を続けるわけにはいかない。
僕は慌てて彼女を家の中に招き入れた。
そして、リビングで彼女に麦茶を出す。
香織さんの話を聞こうと思ったのだが、その前に一つ気になることがあったので、質問してみた。
それは、彼女の後ろに立っている一人の男性についてである。
彼は、香織さんが所属する芸能事務所の社員で、マネージャーを務めているそうだ。
香織さんが所属している事務所の名前は、確か……
、
――
株式会社 芸能プロ
――
だったと思う。
マネージャーということは、香織さんの仕事上の関係者だろう。
でも、なぜ彼が一緒にここへやってきたのか。
その理由が分からなかった。
しかし、香織さんが説明してくれたおかげで、彼の訪問理由が分かった。
なんでも、香織さんたちは、僕にお願いしたいことがあるらしく、マネージャーと共に、この田舎にやってきたのだという。
マネージャーから話を聞いたところ、香織さんたちは、最近、大きなオーディションを控えていて、そのためにレッスンを行っているとのこと。
そのため、彼女たちは、地方で合宿を行うことにしたのだ。
だが、彼女たちが宿泊する予定だったホテルが満室で予約が取れず、急遽、この田舎にある空き家に泊まることになった。
そこで、マネージャーが、香織さんたちの面倒を見てくれる人物を探したところ、僕の名前が出てきたということだ。
つまり、僕は彼女たちの面倒をみるために呼ばれたということになる。
ただ、いきなりそんなことを言われても困る。
そもそも、僕は彼女たちと面識がない。
だから、彼女たちと仲良くなるどころか、まともに会話できるかも怪しい。
それに、仮に親しくなったとしても、アイドルと友達になるなんて恐れ多い。
もし、このことが世間にバレたら、とんでもないことになる。まあ、田舎でアイドル活動するのは無理があるよな。
彼女たちだって、都会でアイドル活動をしていた方が楽に決まっている。
わざわざ田舎に来てもらう必要もない
「すみません。お話はありがたいのですが、アイドルの皆さんのお世話をすることはできそうにありません」
と、断ると、香織さんは残念そうな表情を浮かべた。
「そうよね。突然押しかけてごめんなさい」
「いえ、こちらこそ力になれなくて申し訳ないです」
ただでさえ忙しい時期なのに、余計な仕事を増やしてしまったことを後悔しながら謝ると、香織さんは首を横に振った。
そして、彼女は再び口を開く。
何かを決心したような口調だ。
一体、何を言われるのだろうか。
もしかすると、怒られるかもしれない。
いや、むしろ、呆れられて、嫌われてしまう可能性もある。
いずれにせよ、いい結果にはならないはずだ。
不安を感じている僕の気持ちを察したのか、香織さんは優しい声色で話しかけてきた。
「ねえ、翔太郎くん。私たちと一緒にアイドル活動をしない?」
「えっ!? アイドル活動をですか?」
予想外すぎる言葉に思わず聞き返してしまう。
アイドル活動ってどういうことなんだろうか。
まさか、彼女たちのアイドル活動に付き合ってほしいということなのか。
「あの、アイドル活動って何のことでしょうか?」
「そのままの意味だよ。私たちは今度、オーディションを受ける予定なんだ。それで、翔太郎君にも協力してほしいと思って……」
「ちょっと待ってください! アイドル活動って、アイドルとしてデビューするってことですよ。それなら、もっと適任者がいると思います。例えば、同じ高校に通う生徒とか……。
ほら、他にも、アイドルになりたいと思っている人はたくさんいるはずなので、そういう人に声をかけてみてはどうでしょう? きっと喜んで引き受けてくれますよ。もちろん、俺も全力で応援します!」
俺は必死になって説得を試みた。
アイドル活動をするにしても、何もこんな田舎でやることはないだろう。
東京や大阪などの大都市の方が、競争率も低く、チャンスも多い。
また、アイドル活動をする上で、田舎は不便なことばかりだと思うし、アイドルとして活動するのも大変だろう。
彼女たちは、まだ高校生なのだから、これから大学に行ったり、就職したり、様々な進路が待っているはずである。
アイドル活動をするよりも、自分の将来のことを考えるべきではないか。
だから、アイドル活動をするくらいならば、他の人に頼んだ方がいいと思ったのだ。
しかし、香織さんは、僕の言葉を聞いて笑みを浮かべた。
その笑顔はどこか悲しげに見える。
どうして、そんな顔をするのだろう。
彼女の真意が分からない。
「ありがとう。翔太郎君の言う通り、確かに私には夢があって……、でも、私はアイドル活動を通して、誰かに勇気を与えたいと考えてるの。
これは、私のわがままだけどね。でも、アイドル活動をすることで、自分が変わるきっかけをつかめると思うの。
だから、お願い。翔太郎君、一緒にアイドル活動をしてくれないかな。あなたしかいないの。お願い。一生のお願いだから……」
香織さんの瞳には涙が浮かんでいた。
アイドル活動をしたいという強い意志を感じる。
だが、僕は迷っていた。
香織さんがそこまで真剣だというのであれば、それを応援すべきなのではないか。
それに、彼女が言っていることは正しい。
夢に向かって努力している人が報われないなんておかしい。
だから、僕は香織さんの夢を応援することにした。
それに、香織さんはアイドルとしての才能を持っているし、容姿端麗でスタイルもいい。
アイドルとして成功する素質がある。
彼女から学ぶことも多いに違いない。
それに、僕は香織さんに憧れていた。初めて見た時からずっと憧れ続けている。
いつか、彼女と話すことができたらいいなと思っていた。
それが叶うのである。
断る理由などあるわけがない。
「分かりました。ぜひ、協力させてください」
「本当!? 嬉しい!!」
香織さんは満面の笑みを浮かべる。
「ただ、条件がいくつかあります」
「条件?」
「はい。まず、学校では今まで通りに過ごしてほしいんです。それから、アイドル活動について、誰にも話さないでほしいです」
「うん。分かった」
「あと、もう一つだけ」
「なにかしら」
「アイドル活動についてですけど、秘密にするのはいいです。ですが、アイドル活動をするのはあくまで、俺たちだけです。アイドル活動について、周りに広めたり、応援したりするのはやめましょう。あくまで、こっそりと活動するということでいいですか?」
「ええ。構わないわ。でも、どうして?」
「それは、アイドル活動について、周りの人たちに知られると面倒なことになりそうだからですよ。もし、アイドル活動をしたことがバレたら、クラスのみんなから質問攻めにされたり、変に騒がれたりするかもしれません。そうなったら、アイドル活動どころじゃなくなります。せっかく、香織さんたちが頑張っているのですから、邪魔されたくないんですよ」
「そうだったの……。ごめんなさい。翔太郎くんのこと考えずに勝手なこと言って……」
香織さんは申し訳なさそうな表情をしている。
彼女は素直な性格なので、思ったことをすぐに口にしてしまうタイプだ。
そのため、自分の発言で、僕のことを困らせてしまったのではないかと心配になったのかもしれない。
「気にしないでください。俺の方こそ、すみませんでした。香織さんのことを気遣わずに勝手に決めてしまって……。でも、俺としては、香織さんたちの夢を応援したかったので、つい熱くなってしまって……」
「謝らないで。翔太郎君は悪くないから。むしろ感謝してる。だって、私たちのことを考えてくれたんでしょう。本当にありがとう。すごく嬉しかったよ。でも、翔太郎君の気持ちも分かるから、約束する。絶対に他の人に言わないと。これからもよろしくね」
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