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第六十一話 二つの帝国
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「よいっしょっと⋯⋯⋯。それじゃあお待ちかね、みんなこんばんわー!!」
「今夜は特別編やで! 全員集合せぇや!!」
「シャランドラちゃんと♪」
「イヴっちの!」
「「ヴァスティナ放送局!! 出張、アバランチア編!」」
「この放送は毎度お馴染みヴァスティナ帝国国防軍と♪」
「アーレンツ通信技術開発部の提供でお送りしとるで」
「いやー、アバランチア着いちゃったねー」
「あっと言う間やったな。休戦交渉でわざわざこんなところまで来たわけやけど、王国の連中は遅れとるんやっけ?」
「失礼しちゃうよね。呼び付けといて自分達は遅刻するなんてさ」
「イヴっちは遅刻せぇへんもんな。デートの時とか時間前にはおるし」
「そりゃそうだよ。相手を待たせたら失礼だし可哀想だもん」
「イヴっちがもしリックとデートすることになったら、めちゃ早く待ち合わせ場所にいそうやな」
「逆だね。敢えてそこは遅れていく」
「なんで?」
「僕とのデートに緊張して、待ち合わせ場所でソワソワしてる様子を隠れて堪能したい」
「はっ、発想が悪魔的や⋯⋯⋯!」
「悪魔だなんて人聞きの悪い。こう見えて僕、敵味方から天使って呼ばれてるんだから♪」
「いやそれ堕天使やろ? 殺し方に慈悲ないから付いたあだ名やん」
「ということで、今晩の特別ゲストをご紹介するね♪」
「この前はドラグノフ、さらにその前はホブスやったな? ここんところつまらん男ばっかやったんやけど、今回はばっちりええ女の子用意しといたで!」
「女の子って、そんなに若くな―――。ひっぎゃあああああっ!」
「アカンってイヴっち! 言葉選ばな耳千切られるで!」
「⋯⋯⋯あっ、改めてということで、今晩の特別ゲストは帝国宰相リリカ姉様と―—―」
「帝国メイド長ことウルスラさんや」
「ふふふっ、よろしく」
「皆様、こんばんわ」
「出ちゃったね、ヴァスティナ帝国二大影の実力者」
「権力と武力の象徴みたいな二人やもんな」
「そうかい? ふふっ、ふふふふ⋯⋯⋯」
「私は皆様が思われる程、暴力的ではないよう振る舞っておりますが⋯⋯⋯」
「えっ? メイド長それ本気で言ってる?」
「この前おたくのメイドがやらかして窓から投げ飛ばされとった気がするんやけど、うちの目の錯覚やった?」
「いつもだったらここでお便りの流れだけど、せっかくの超特別ゲストだから、今日は思い切ってゲストへの質問にいっちゃうね♪ ぶっちゃけリリカ姉様って、リック君のことどう思ってるの?」
「よっ、待ってました! 姉御ってリックをどうしたいんか、ぶっちゃけみんな知りたいと思うんよ」
「どうも何も、利用しがいのある可愛い玩具さ」
「大切にしてる割に酷いこと言うよね、リリカ姉様って⋯⋯⋯」
「半分くらい本気でそう思ってるやろ」
「ふふっ、私はあれと恋愛してるわけではない。あれとはそう⋯⋯⋯、悪友と言ったところだ」
「じゃあ別に、リック君が他の子と付き合っても気にしないってこと?」
「気にはする。あれが付き合う相手も私の玩具にしたいからね。私が良いと言った子でなければ困る」
「姉御はどこまでも、全てが自分の手中にないと気が済まんわけやな⋯⋯⋯」
「それじゃあ、次はメイド長の番だね♪ メイド長って、メイド部隊のお母さんって感じだけど、結婚とかって考えたりしないの?」
「そうそう。メイド長好みの男ってどんなんか気になるわ」
「結婚など致しませんし、好みの男もおりません」
「流石鉄の心臓を持つ女。女王への生涯忠誠って伊達じゃないね」
「そんじゃあ、例え話ってことで教えて欲しいんやけど、もしも結婚するなら誰みたいなのが良いとかないん?」
「例えばの話と言うなら、そうですね⋯⋯⋯。まず女たらしは陛下の教育上宜しくないので論外。酒好きも同様に論外。短気も論外。話が長いのも五月蠅いのも論外。後は―――」
「ちょっ、ちょっと待って。それメイド長の好みじゃないでしょ。しかも名前出さなくても特定の誰か分かっちゃうじゃん」
「逆に誰やったら教育にええんか気になるわ」
「陛下は紅茶を淹れるくらいしか満足に料理もできませんから、イヴ様のような方が料理を教えて下さるなら、私としては文句はありません」
「よっしゃああああああっ!!」
「イヴっちなに喜んどんの。ってかもう、メイド長やなくてアンジェっちの結婚の話になっとるやん」
「ふふふっ⋯⋯⋯、そういう二人の恋はどうなんだい? 私達より、よっぽど恋愛にときめく年頃だろう?」
「ぼっ、僕はねその⋯⋯⋯。別に今のままで良いっていうか⋯⋯⋯、アンジェリカちゃんとのこともあるし⋯⋯⋯」
「口の中でさくらんぼの柄結べられるくらい器用やのに、意外にも恋は不器用やな」
「僕そんなに器用じゃないからね。器用さで言ったら、何でも発明できちゃうシャランドラちゃんの方でしょ」
「この前の一発芸大会で、足使って狙撃披露した人間の言葉とは思えんわ。あれちょいエッチやったで」
「まあ、あれで拍手喝采浴びたけど、酔ったレイナちゃんがお酒と間違えて消毒液がぶ飲みしてクリス君にゲロ吐きかけた時の方が大うけだったよね」
「あれはずるいやろ。笑うに決まっとるやん」
「イヴ様が仰るように、シャランドラ様の手先の器用さは驚嘆に値します。以前城で水車を修理して頂いたことがありますが、あれは見事な手際でした」
「あんくらいお茶の子さいさいや。重戦車作るのに比べたら大したことないわ」
「ほんと、シャランドラちゃんの頭の中ってどうなってるんだろうね。次から次へとぽんぽん思い付いちゃう」
「なんていうか、思い付いたって言うより思い出したような感じに、色んな発明の設計図が頭の中で広がるんよ。特にリックがアイデアくれた時が一番閃く」
「シャランドラ様はやはり天才ですね」
「ではその天才様の恋愛事情を聞いてみようじゃないか」
「どうせうちなんて、イヴっちと違って可愛くもない発明馬鹿や。ろくな死に方せんやろし、女の幸せとか最早諦めたわ」
「⋯⋯⋯とかなんとか言って、僕と一緒に寝ると一肌恋しくなって抱き付いてくるんだよね」
「ふふっ、可愛いじゃないか」
「シャランドラ様も勇気を出して、愛する殿方に告白されて見ては?」
「うっ、うちはもう諦めついとるからええんや! はい、この話これで終わり!」
「そんで姉御は、なんでまたアバランチアまで付いてきたん? やっぱアンジェっちが心配やった?」
「陛下は強い子だ。私がいなくとも、休戦の交渉くらい一人でもできる」
「じゃあどうして一緒に来てくれたの?」
「あれが恐れる噂の第四皇女がどれほどのものか、私も見てみたくなってね。それに、帝国へ戻るよりもこっちの方が愉しめるだろう?」
「リリカ様が陛下の御傍にいて下さると、私としても大変助かります。ですが今回は、暇潰しだけが理由ではないのでは?」
「ふふっ、鋭いじゃないか。実は古い知り合いに会えるかと思っていてね」
「リリカ姉様の知り合い!?」
「奴隷はともかく友達はいなさそうやのに、知り合いとかおるん!?」
「にわかには信じられませんね⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯君達は私をなんだと思っている」
「前に聞いたんだけど、メイド長が北国の生まれってほんと?」
「もしや、このアバランチアが故郷だったりとかないん?」
「いえ、この国の生まれではありませんが、一度だけ訪れたことならあります」
「僕達初めてこの国に来たんだけど、アバランチアってどんなところ?」
「特別変わったところはありません。歴史的には、ゼロリアス帝国とホーリスローネ王国によるローミリア大戦終結の停戦交渉は、このアバランチアで行なわれました。現在も両国間で交渉の場を設ける際は、かつて停戦交渉の場となったこの地が選ばれております」
「へえ~、歴史詳しいんやな~」
「そういうわけではありませんが、帝国と王国の戦史を少々学んでいる程度です。他に知っている事情と言えば、ゼロリアスの裏社会による麻薬密輸ルートの一つになっていて、両国はこれを黙認しているということくらいでしょうか」
「それ、ここで喋っていい話じゃなくない?」
「普通に放送事故やろ」
アバランチアは、ゼロリアス帝国を仲介とした、ヴァスティナ帝国とホーリスローネ王国による、両国間の休戦交渉締結のための場所に指定された国である。
戦争に関与しない中立の立場を貫いており、勇者連合とグラーフ教会の庇護下にあるこの国では、大陸北方における勇者と教会の活動拠点の一つに定められている。特に北方方面で活動する勇者達は、このアバランチアから多くの支援を受けており、勇者連合にとっては重要な活動拠点であった。
この地に到着したヴァスティナ帝国国防軍第一戦闘団は、将軍リクトビア・フローレンスと、女王アンジェリカ・ヴァスティナを護衛している。他に二人を護衛しているのは、親衛隊並びに帝国メイド部隊や、帝国騎士団などの護衛部隊だ。
勿論、二人の傍には烈火と光龍の騎士団を始め、帝国の主戦力とも言える面々が集まっていた。集結した戦力は、これから休戦などするつもりがなく、寧ろ侵攻を開始するかのようであったが、事実それは間違いではなかった。
帝国の二大柱と言える、リクトビアとアンジェリカを守護するためというのもあるが、交渉の内容如何によっては、即座に侵攻を開始するという威嚇が含まれている。
交渉の場は、アバランチアに古くから存在する、グラーフ教の大聖堂が選ばれている。ゼロリアス帝国とホーリスローネ王国が交渉を行なう際も、度々この大聖堂で行なわれてきた。
大聖堂は現在、交渉の仲介役であるゼロリアス帝国側が控えている。仲介と休戦交渉締結の立会人となるのは、帝国第四皇女アリステリア・レイ・サラス・ゼロリアスである。配下の二代将軍と兵を連れ、先に大聖堂へと入った彼女達は、交渉の時を待って大聖堂で休息を取っていた。
読書家のアリステリアは、アバランチアの大聖堂内にある蔵書に興味があったため、この場所を休息地に選んだという理由がある。ホーリスローネ王国側の到着が遅れているため、アリステリアからすれば良い読書時間を得られたというわけだ。
ヴァスティナ帝国側は、アバランチア側が用意していた屋敷を拠点としている。この屋敷は大聖堂から離れてはいるが、リクトビアやアンジェリカ達が休息取るのに不自由はない。大きく豪勢な屋敷ではあるが、流石に第一戦闘団を含めた全戦力が待機できる程ではないため、帝国国防軍は各部隊に別れ、アバランチアの各所に駐屯していた。
リクトビア・フローレンスことリックは、一人寝室を用意され、ベッドの上で毛布を被っていた。ベッドの傍のランプの明かりのみで照らされる、薄暗い部屋の中で、無線機から聞こえるイヴとシャランドラの放送が、彼の寝室から静寂を奪っていた。
夜になり、早めに寝室へと戻ったリックは、イヴ達よりも先に一人休んでいる。ベッドの上で毛布を被りながら、二人の放送を聞いているかと思えば、放送の方にはあまり集中していなかった。
大陸北方だけあって冷えるのか、それとも寝苦しいのか、毛布の中で何やらごそごそと動いては、時々小さな声が漏れる。そんなリックの部屋に、突然扉をノックした音が鳴り響くのだった。
「!?」
誰も来ないはずだと油断していて、思わず裏返った声で返事をしてしまう。部屋の外で扉をノックした人物に怪しまれたかもしれないと考えながら、リックは咳払いして切り替え、ベッドから少し体を起こして扉の方を見る。
「だっ、誰だ⋯⋯⋯?」
「私です、リック様」
「レイナか⋯⋯⋯!? ちょっと待ってくれ」
返事をした声はレイナだった。よりにもよって彼女なのかと、怯えた様子で一度毛布の中を確認したリックは、下半身に毛布を被せたまま、手近にあった本を手に取る。
ベッドの上で如何にも読書していたように振る舞い、リックはレイナが入るのを許可した。寝室の扉を開け、部屋に入って来たレイナは、休んでいるリックの姿を見て、申し訳なくなり頭を下げた。
「お休みのところ、失礼しました」
「ちょうど本を読んでたところだったから、気にするな。それで用はなんだ?」
「今し方、ゼロリアス側より連絡がありました。王国側の到着が二日後になるとの連絡と、アリステリア殿下が明日、リック様にお会いしたいそうです」
予定より大きく遅れている王国側の到着は、リックにとって問題ではなかった。だがアリステリアの誘いは、何か狙いがあると予想せずにはいられない。
「まさか暇潰しのために俺を呼ぼうとしてないよな⋯⋯⋯。他に何か言ってきたか?」
「それだけです。返答はどうしましょう?」
「明日、大聖堂へ遊びに行くと伝えてくれ」
「わかりました。ゼロリアスからの使いには、そのように伝えます」
アリステリアに会う事を決め、レイナに返答を任せたリックは、内心胸を撫で下ろしていた。そんなリックの様子に気付いているからか、レイナは部屋を退出せずに、動揺する彼を見つめてこの場から動こうとしない。
「まだ、何かあった⋯⋯⋯?」
「いえ、特に何も⋯⋯⋯」
リックから目を逸らすレイナを見て、彼女が何かを悩んでいるのだと察する。悩みや不安が分かり易い彼女のために、口に出すきっかけをリックは与えようとする。
「もしかして、この放送で自分の痴態が暴露されないか不安なのか?」
「そっ、そんなことではありません⋯⋯⋯! 言われてみれば確かに不安になってはきましたが⋯⋯⋯」
「これ以外で他に悩むことなんてないだろ。俺なんかリリカに何を暴露されるか、さっきから恐くて仕方ないんだ」
「それは私も同じです。ただでさえ前の放送で恥ずかしい目に遭ったというのに、今夜がよりにもよってリリカ様なんて⋯⋯⋯」
悩んでいた事など忘れ、まだ放送が続く無線機に頭を悩ませるレイナ。そんな彼女を見てリックが微笑むと、気を遣われた事に気付いたレイナが咳払いし、意を決して打ち明ける。
「実は、リック様にお願いしたいことがありまして⋯⋯⋯」
「お願い? 三食必ず米が食いたいとかなら今は諦めろ。ここは南ローミリアじゃないんだから」
「そんな馬鹿なお願いはしません! 人をなんだと思ってるんですか!?」
「ヴァスティナ帝国最強の大食い女王。もしくは食いしん坊大魔神」
「なっ!?」
「心外だって顔するな。お前が毎日一個小隊分飯を喰らうせいで、我が軍の食費にどれだけの負担をかけているか自覚しろ」
リックに揶揄われ、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたレイナは、いつまでも迷っているのが馬鹿らしくなって、少し自棄気味に頼みを口にした。
「明日一日⋯⋯⋯、半日だけでも構いませんので、私用に出ても良いでしょうか」
「お前が自分から休みを取りたいだなんて珍しいな。いつも無理させてるから、一日休んでもらっても全然構わない。それと、遠出するなら車を使ってもいいぞ」
「ありがとう御座います。もしお願いできるなら、ドラグノフをお借りできるとありがたいです」
ドラグノフを借りたいという事は、帝国国防空軍を移動に使いたいという意味を持つ。竜騎兵を移動に使うとなれば、ここから距離があるのか、車などでは行き辛い場所にあるのだろう。
帝国空軍が運用している竜は、人を乗せて爆装できるだけの力を持っている。竜の背にレイナを乗せて一緒に飛ぶ事など、ドラグノフ達からすれば朝飯前だ。
「どうせあいつら暇してるだろ。将軍命令で許可する」
「感謝します」
「どこまで行くつもりだ? 遠くまで行くなら、一日と言わず二、三日休んでも―—―」
「一日だけで構いません。ほんの少しだけ、様子を見に行きたいだけですから⋯⋯⋯」
「ひょっとして⋯⋯⋯、実家帰りとか?」
当てずっぽうでリックが問いかけると、驚いたレイナが目を見開く。レイナの反応を見て、予想が正しかったと悟ったリックは、いつか彼女に言われた言葉を思い出す。
ボーゼアスの乱の際に、負傷したレイナの様子を見に行った時の事だ。レイナは自分の過去についてリックに、いつか話せる覚悟ができたら話すと語ったのである。
レイナ・ミカヅキの過去。それを知る者は、リックを含めて誰もいない。彼女の故郷の場所すら、一言も聞いた事がないのだ。
それが今、彼女の口から明かされようとしている。謎に包まれていた彼女の過去に迫れると思い、リックの興味はレイナの次なる言葉に向いていた。
「実はアバランチアの近くに、私の育った里が―—―」
語りかけたレイナだったが、ふと彼女の視線が、部屋の床に散乱しているあるものを捉え、言葉が止まる。薄暗かったせいと、注意がリックに向いていたせいで、気付くのが遅れたのだが、よく見れば自分の足元に、見慣れたブーツが捨てられている。
寝室のソファには、放り投げられたであろう見慣れたガンベルトと軍帽。どう見ても見慣れた二本のナイフと、見間違いようがない見慣れた黒い軍服の上着がベッドの傍に落ちている。
まさかと思い、レイナが座った目でリックを見つめる。するとリックは、一瞬肩を震わせたかと思うと、冷や汗を垂らしながら引き攣った笑みを浮かべていた。
「⋯⋯⋯」
「あっ、あのー、レイナさん⋯⋯⋯? 俺、早く続きが聞きたいなー⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯お邪魔だったようで、どうもすみませんでした。用は済みましたので、私はこれで失礼させて頂きます」
あからさまに機嫌を損ねたレイナは、リックの制止も聞く耳持たず、鼻息を荒くして寝室を出て行ってしまった。彼女が乱暴に扉を閉めて出て行ったのを見て、大きな溜め息を吐いたリックは、毛布に手をかけると、彼の傍でずっと息を潜めていた人物の顔を覗き込み。
「ばれたぞ」
「そのようですね、閣下」
毛布の中からその姿を現し、困り果てたリックを慰めるかのように、ベッドの中にいた彼女は彼の頬に口付けする。シャツ一枚で毛布の中に潜っていたのは、レイナの予想通りヴィヴィアンヌであった。
「お前が隠れてやり過ごそうなんて言うからだぞ」
「元はと言えば、閣下が私に迫られて拒絶しなかったのがいけないのです」
「どうすんだよ。かなり怒ってたぞ」
「後で菓子でも与えて機嫌を取るしかありません。閣下が同志との話を長引かせるから、こんなことになるのです」
お互いに罪を擦り付け合い、醜い言い争いを続けるのだが、言い負かされるのはいつもリックの方である。確かにヴィヴィアンヌが言う通り、彼女の甘い誘惑を拒まなかったのも、レイナとの話を長引かせてしまったのも、全てリックのせいであるのだから、返せる言葉がない。
「⋯⋯⋯だって気になるじゃんか。レイナって、自分のこと何も教えてくれないんだぞ?」
「そんなに同志が気になりますか? 私よりも?」
「妬いてるのか?」
「そう思われたのなら、もっと強く抱いてください」
今夜のヴィヴィアンヌは、妙に積極的だった。
リックが来るのを寝室で待ち構え、突然抱き付いて口付けをしたかと思えば、そのまま彼を抱いてベッドまで導いた。積極的なヴィヴィアンヌのおかげで、リックも盛り上がってきたところでレイナが現れ、この始末だ。
今夜の彼女はいつもと違う。何処か悲しげで、寂しそうなのは、抱いていて分かっていた。いつもの彼女なら、リックのために彼に抱かれようとするが、今日の彼女は自分のために彼を求めている。様子がおかしい彼女の望む通り、リックはヴィヴィアンヌを強く抱きしめ、無言で唇を重ねた。
「⋯⋯⋯珍しいな。お前が寂しがるなんて」
「⋯⋯⋯近頃、閣下が私を避けているように感じます」
「どうしてそう思う?」
「誘っても逃げられます」
このところは、お互いに忙しかったという理由もある。しかしヴィヴィアンヌの言う通り、リックが彼女の誘いを避けていたのは、隠しようのない事実だった。
彼女から誘われても、冗談を言ってはぐらかしたり、軍務などを理由に断り続けてきた。故に彼女は、今夜のような強行軍に出たわけである。
「私を抱きたくないなら、そう仰ってくれればいい」
「そんなわけない」
「いいえ、閣下は私に愛想が尽きたんです。こんなに醜く穢れた私の体なんて、もう嫌でしょう」
「⋯⋯⋯!」
自分が穢れた体だと彼女が口にして、リックはヴィヴィアンヌが何を考えていたのか、ようやく理解した。
先の反乱でヴィヴィアンヌが敵に捕らわれ、そこでどのような目に遭わされたのかは、リックもよく分かっている。彼女の穢れとは、捕虜になっていた際に受けた仕打ちの事だ。
敵を罠に嵌める為だったとは言え、リック以外の男の手に、自分の体を触れさせた事に変わりない。これが理由で、リックが自分を避けているのだと思い、ずっと苦しんでいたのである。
「馬鹿だな。いつもの勘の鋭さは何処行ったんだ?」
「!?」
「そんな詰まらないことで、お前を嫌いになったりしない。俺が避けてたのは、セリーヌに怒られたくないからだ」
セリーヌ・アングハルト。リックを愛し続け、彼のために命を散らせた女兵士の名。
彼女の名がリックの口から出た事で、ヴィヴィアンヌは自分が思い違いをしていたのだと悟る。こんな事くらい、少し考えれば直ぐに気付けたはずなのに、女としての彼女の勘は鈍かった。
「⋯⋯⋯やはり閣下は、アングハルトの想いに応えていたのですね」
「もっと早くそうしていればって、今は後悔してる。セリーヌを失ったあの日、セリーヌの気持ちを受け入れたから⋯⋯⋯。ヴィヴィアンヌを抱いてしまうと、セリーヌを裏切ったように思えて⋯⋯⋯」
「許して下さい⋯⋯⋯。あなたはそういう男だとわかっていたはずなのに、私は自分のことしか考えていなかった」
「悪いのは俺だ。お前が傷付いたのを知りながら、気を遣ってやれなかった」
リックはヴィヴィアンヌの体に腕をまわし、彼女の体を強く抱きしめた。互いの温もりを確かめ合いながら、高揚して頬を朱に染めた二人が、再び口付けを交し合う。
失った愛する者を裏切れない。彼女を失ったあの日から、リックがヴィヴィアンヌを抱いた事はなかった。それはリンドウに対しても同様である。
だが今は、彼女の想いを裏切る事になっても、ヴィヴィアンヌのために尽くしたいと思っている。失われた彼女の想いに報いたいという自分の心よりも、今目の前にいるヴィヴィアンヌを優先した。
自分の事よりも、いつだって大切な者のためにその身を、その心を犠牲にして守ろうとする。変わらぬリックの優しさと温もりが、ヴィヴィアンヌは堪らなく嬉しくて、その身を彼に委ねた。
「今夜は好きなだけ甘えてくれ。お前が苦しんでいた時⋯⋯⋯、助けられなかった俺に償いをさせて欲しい」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯それなら一つだけ、お願いを聞いていただきたい」
「なんでも言ってくれ」
「二人きりの時だけは、あなたを名前で呼ばせて欲しいです」
「それだけ?」
「それだけです」
彼女のささやかな願いを聞いてリックは思い出す。敵同士であった頃は呼び捨てで名を呼ばれていたが、彼女がリックに忠誠を誓って以降は、名前で呼ばれる事などなかった。
これは将軍たるリックの威厳を守るためと、ヴィヴィアンヌ自身の忠誠心によるものである。己に課したその誓いを、二人の時だけは破りたいというのが彼女の望みだ。
「好きに呼べばいい。二人だけの時じゃなくても、名前で呼んでくれて構わない」
「それでは⋯⋯⋯、リクトビア様」
「待て。それ恥ずかしい」
「ならば、リック様」
「待て待て。レイナの真似も困る」
「でしたら、リクトビアさん?」
「待て待て待て。急に他人行儀になったぞ」
「だったら、ポチで」
「そうそう俺は帝国の狂犬なんて呼ばれてるから犬の名前がお似合いって⋯⋯⋯、待て待て待て待て」
唐突な犬扱いに思わずツッコむリックに、ヴィヴィアンヌは無邪気に笑って見せた。皆の前でも笑ったり、冗談を言って見せたりするのが増えた彼女だが、ここまで柔らかな笑みを見せるのは、リックの前だけである。
ヴィヴィアンヌは、内に秘めた自分の本当の気持ちに気付いている。今まではその気持ちに蓋をしていたが、自分の意思だけでは抑えられなくなってきている。抑えられない気持ちのせいで、変な思い違いなどしてしまうのだ。
もし彼を名前で呼んでしまったら、いよいよ秘めたる想いが溢れ出てしまう。それが分かっていて、彼女は望んでしまったのだ。
こんな醜く汚らわしい番犬に、安らぎと温もりを与えてくれる存在の、特別な想い人でありたいと⋯⋯⋯。
「あなたを、リックと呼びたい⋯⋯⋯」
「望む通りにしろ。誰も怒らないから」
「それと、二人の時は私をヴィヴィと呼んでください」
ヴィヴィアンヌの口からそのような頼みが出ると思わず、驚いた様子のリックに向かって、彼女はねだるような上目遣いで見つめていた。
この時リックは知らなかったが、この愛称は彼女の両親が呼んでいたものだ。最愛の娘へと、温かな愛情が込められたその名で、両親は彼女を最後まで愛していた。
愛する自分の娘に殺される瞬間も、二人は彼女をヴィヴィと呼んで愛し続けた。愛する両親が自分を愛してくれた時と同じように、その名で呼ばれたいと願うのだ。
「わかったよ、ヴィヴィ」
「嬉しいです、リック⋯⋯⋯」
『リリカ姉様。ずっと気になってたんだけど、リック君に縁談って全然来ないよね』
『それうちも気になってん。リックってあれでも将軍やで? 貴族連中とか、どっかの国の王族とかから見合い話来てもおかしくないやろ』
『ふふっ、簡単な話さ。みんながあれのことを変態だなんだと言い触らすから、今じゃリックは、男も女も子供から熟女まで見境なく襲うとんでもない変態だと大陸中に知れ渡っているんだ』
『それもあって、リック様に縁談を申し込もうとする権力者は激減致しました。獣〈けだもの〉に自分の娘を渡したくないという親心でしょう』
『稀に物好きが、獣相手でも構わないと言ってくることもあるけれど―—―』
『ヴィヴィアンヌ様がリック様へ報告せず、隠れて全て処理しております』
『うわー⋯⋯⋯、リック君ちょっとだけ可哀想』
『一生結婚できないやつやん』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯おいヴィヴィアンヌ、今の話について詳しく教えて貰おうか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯機密事項です」
「今夜は特別編やで! 全員集合せぇや!!」
「シャランドラちゃんと♪」
「イヴっちの!」
「「ヴァスティナ放送局!! 出張、アバランチア編!」」
「この放送は毎度お馴染みヴァスティナ帝国国防軍と♪」
「アーレンツ通信技術開発部の提供でお送りしとるで」
「いやー、アバランチア着いちゃったねー」
「あっと言う間やったな。休戦交渉でわざわざこんなところまで来たわけやけど、王国の連中は遅れとるんやっけ?」
「失礼しちゃうよね。呼び付けといて自分達は遅刻するなんてさ」
「イヴっちは遅刻せぇへんもんな。デートの時とか時間前にはおるし」
「そりゃそうだよ。相手を待たせたら失礼だし可哀想だもん」
「イヴっちがもしリックとデートすることになったら、めちゃ早く待ち合わせ場所にいそうやな」
「逆だね。敢えてそこは遅れていく」
「なんで?」
「僕とのデートに緊張して、待ち合わせ場所でソワソワしてる様子を隠れて堪能したい」
「はっ、発想が悪魔的や⋯⋯⋯!」
「悪魔だなんて人聞きの悪い。こう見えて僕、敵味方から天使って呼ばれてるんだから♪」
「いやそれ堕天使やろ? 殺し方に慈悲ないから付いたあだ名やん」
「ということで、今晩の特別ゲストをご紹介するね♪」
「この前はドラグノフ、さらにその前はホブスやったな? ここんところつまらん男ばっかやったんやけど、今回はばっちりええ女の子用意しといたで!」
「女の子って、そんなに若くな―――。ひっぎゃあああああっ!」
「アカンってイヴっち! 言葉選ばな耳千切られるで!」
「⋯⋯⋯あっ、改めてということで、今晩の特別ゲストは帝国宰相リリカ姉様と―—―」
「帝国メイド長ことウルスラさんや」
「ふふふっ、よろしく」
「皆様、こんばんわ」
「出ちゃったね、ヴァスティナ帝国二大影の実力者」
「権力と武力の象徴みたいな二人やもんな」
「そうかい? ふふっ、ふふふふ⋯⋯⋯」
「私は皆様が思われる程、暴力的ではないよう振る舞っておりますが⋯⋯⋯」
「えっ? メイド長それ本気で言ってる?」
「この前おたくのメイドがやらかして窓から投げ飛ばされとった気がするんやけど、うちの目の錯覚やった?」
「いつもだったらここでお便りの流れだけど、せっかくの超特別ゲストだから、今日は思い切ってゲストへの質問にいっちゃうね♪ ぶっちゃけリリカ姉様って、リック君のことどう思ってるの?」
「よっ、待ってました! 姉御ってリックをどうしたいんか、ぶっちゃけみんな知りたいと思うんよ」
「どうも何も、利用しがいのある可愛い玩具さ」
「大切にしてる割に酷いこと言うよね、リリカ姉様って⋯⋯⋯」
「半分くらい本気でそう思ってるやろ」
「ふふっ、私はあれと恋愛してるわけではない。あれとはそう⋯⋯⋯、悪友と言ったところだ」
「じゃあ別に、リック君が他の子と付き合っても気にしないってこと?」
「気にはする。あれが付き合う相手も私の玩具にしたいからね。私が良いと言った子でなければ困る」
「姉御はどこまでも、全てが自分の手中にないと気が済まんわけやな⋯⋯⋯」
「それじゃあ、次はメイド長の番だね♪ メイド長って、メイド部隊のお母さんって感じだけど、結婚とかって考えたりしないの?」
「そうそう。メイド長好みの男ってどんなんか気になるわ」
「結婚など致しませんし、好みの男もおりません」
「流石鉄の心臓を持つ女。女王への生涯忠誠って伊達じゃないね」
「そんじゃあ、例え話ってことで教えて欲しいんやけど、もしも結婚するなら誰みたいなのが良いとかないん?」
「例えばの話と言うなら、そうですね⋯⋯⋯。まず女たらしは陛下の教育上宜しくないので論外。酒好きも同様に論外。短気も論外。話が長いのも五月蠅いのも論外。後は―――」
「ちょっ、ちょっと待って。それメイド長の好みじゃないでしょ。しかも名前出さなくても特定の誰か分かっちゃうじゃん」
「逆に誰やったら教育にええんか気になるわ」
「陛下は紅茶を淹れるくらいしか満足に料理もできませんから、イヴ様のような方が料理を教えて下さるなら、私としては文句はありません」
「よっしゃああああああっ!!」
「イヴっちなに喜んどんの。ってかもう、メイド長やなくてアンジェっちの結婚の話になっとるやん」
「ふふふっ⋯⋯⋯、そういう二人の恋はどうなんだい? 私達より、よっぽど恋愛にときめく年頃だろう?」
「ぼっ、僕はねその⋯⋯⋯。別に今のままで良いっていうか⋯⋯⋯、アンジェリカちゃんとのこともあるし⋯⋯⋯」
「口の中でさくらんぼの柄結べられるくらい器用やのに、意外にも恋は不器用やな」
「僕そんなに器用じゃないからね。器用さで言ったら、何でも発明できちゃうシャランドラちゃんの方でしょ」
「この前の一発芸大会で、足使って狙撃披露した人間の言葉とは思えんわ。あれちょいエッチやったで」
「まあ、あれで拍手喝采浴びたけど、酔ったレイナちゃんがお酒と間違えて消毒液がぶ飲みしてクリス君にゲロ吐きかけた時の方が大うけだったよね」
「あれはずるいやろ。笑うに決まっとるやん」
「イヴ様が仰るように、シャランドラ様の手先の器用さは驚嘆に値します。以前城で水車を修理して頂いたことがありますが、あれは見事な手際でした」
「あんくらいお茶の子さいさいや。重戦車作るのに比べたら大したことないわ」
「ほんと、シャランドラちゃんの頭の中ってどうなってるんだろうね。次から次へとぽんぽん思い付いちゃう」
「なんていうか、思い付いたって言うより思い出したような感じに、色んな発明の設計図が頭の中で広がるんよ。特にリックがアイデアくれた時が一番閃く」
「シャランドラ様はやはり天才ですね」
「ではその天才様の恋愛事情を聞いてみようじゃないか」
「どうせうちなんて、イヴっちと違って可愛くもない発明馬鹿や。ろくな死に方せんやろし、女の幸せとか最早諦めたわ」
「⋯⋯⋯とかなんとか言って、僕と一緒に寝ると一肌恋しくなって抱き付いてくるんだよね」
「ふふっ、可愛いじゃないか」
「シャランドラ様も勇気を出して、愛する殿方に告白されて見ては?」
「うっ、うちはもう諦めついとるからええんや! はい、この話これで終わり!」
「そんで姉御は、なんでまたアバランチアまで付いてきたん? やっぱアンジェっちが心配やった?」
「陛下は強い子だ。私がいなくとも、休戦の交渉くらい一人でもできる」
「じゃあどうして一緒に来てくれたの?」
「あれが恐れる噂の第四皇女がどれほどのものか、私も見てみたくなってね。それに、帝国へ戻るよりもこっちの方が愉しめるだろう?」
「リリカ様が陛下の御傍にいて下さると、私としても大変助かります。ですが今回は、暇潰しだけが理由ではないのでは?」
「ふふっ、鋭いじゃないか。実は古い知り合いに会えるかと思っていてね」
「リリカ姉様の知り合い!?」
「奴隷はともかく友達はいなさそうやのに、知り合いとかおるん!?」
「にわかには信じられませんね⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯君達は私をなんだと思っている」
「前に聞いたんだけど、メイド長が北国の生まれってほんと?」
「もしや、このアバランチアが故郷だったりとかないん?」
「いえ、この国の生まれではありませんが、一度だけ訪れたことならあります」
「僕達初めてこの国に来たんだけど、アバランチアってどんなところ?」
「特別変わったところはありません。歴史的には、ゼロリアス帝国とホーリスローネ王国によるローミリア大戦終結の停戦交渉は、このアバランチアで行なわれました。現在も両国間で交渉の場を設ける際は、かつて停戦交渉の場となったこの地が選ばれております」
「へえ~、歴史詳しいんやな~」
「そういうわけではありませんが、帝国と王国の戦史を少々学んでいる程度です。他に知っている事情と言えば、ゼロリアスの裏社会による麻薬密輸ルートの一つになっていて、両国はこれを黙認しているということくらいでしょうか」
「それ、ここで喋っていい話じゃなくない?」
「普通に放送事故やろ」
アバランチアは、ゼロリアス帝国を仲介とした、ヴァスティナ帝国とホーリスローネ王国による、両国間の休戦交渉締結のための場所に指定された国である。
戦争に関与しない中立の立場を貫いており、勇者連合とグラーフ教会の庇護下にあるこの国では、大陸北方における勇者と教会の活動拠点の一つに定められている。特に北方方面で活動する勇者達は、このアバランチアから多くの支援を受けており、勇者連合にとっては重要な活動拠点であった。
この地に到着したヴァスティナ帝国国防軍第一戦闘団は、将軍リクトビア・フローレンスと、女王アンジェリカ・ヴァスティナを護衛している。他に二人を護衛しているのは、親衛隊並びに帝国メイド部隊や、帝国騎士団などの護衛部隊だ。
勿論、二人の傍には烈火と光龍の騎士団を始め、帝国の主戦力とも言える面々が集まっていた。集結した戦力は、これから休戦などするつもりがなく、寧ろ侵攻を開始するかのようであったが、事実それは間違いではなかった。
帝国の二大柱と言える、リクトビアとアンジェリカを守護するためというのもあるが、交渉の内容如何によっては、即座に侵攻を開始するという威嚇が含まれている。
交渉の場は、アバランチアに古くから存在する、グラーフ教の大聖堂が選ばれている。ゼロリアス帝国とホーリスローネ王国が交渉を行なう際も、度々この大聖堂で行なわれてきた。
大聖堂は現在、交渉の仲介役であるゼロリアス帝国側が控えている。仲介と休戦交渉締結の立会人となるのは、帝国第四皇女アリステリア・レイ・サラス・ゼロリアスである。配下の二代将軍と兵を連れ、先に大聖堂へと入った彼女達は、交渉の時を待って大聖堂で休息を取っていた。
読書家のアリステリアは、アバランチアの大聖堂内にある蔵書に興味があったため、この場所を休息地に選んだという理由がある。ホーリスローネ王国側の到着が遅れているため、アリステリアからすれば良い読書時間を得られたというわけだ。
ヴァスティナ帝国側は、アバランチア側が用意していた屋敷を拠点としている。この屋敷は大聖堂から離れてはいるが、リクトビアやアンジェリカ達が休息取るのに不自由はない。大きく豪勢な屋敷ではあるが、流石に第一戦闘団を含めた全戦力が待機できる程ではないため、帝国国防軍は各部隊に別れ、アバランチアの各所に駐屯していた。
リクトビア・フローレンスことリックは、一人寝室を用意され、ベッドの上で毛布を被っていた。ベッドの傍のランプの明かりのみで照らされる、薄暗い部屋の中で、無線機から聞こえるイヴとシャランドラの放送が、彼の寝室から静寂を奪っていた。
夜になり、早めに寝室へと戻ったリックは、イヴ達よりも先に一人休んでいる。ベッドの上で毛布を被りながら、二人の放送を聞いているかと思えば、放送の方にはあまり集中していなかった。
大陸北方だけあって冷えるのか、それとも寝苦しいのか、毛布の中で何やらごそごそと動いては、時々小さな声が漏れる。そんなリックの部屋に、突然扉をノックした音が鳴り響くのだった。
「!?」
誰も来ないはずだと油断していて、思わず裏返った声で返事をしてしまう。部屋の外で扉をノックした人物に怪しまれたかもしれないと考えながら、リックは咳払いして切り替え、ベッドから少し体を起こして扉の方を見る。
「だっ、誰だ⋯⋯⋯?」
「私です、リック様」
「レイナか⋯⋯⋯!? ちょっと待ってくれ」
返事をした声はレイナだった。よりにもよって彼女なのかと、怯えた様子で一度毛布の中を確認したリックは、下半身に毛布を被せたまま、手近にあった本を手に取る。
ベッドの上で如何にも読書していたように振る舞い、リックはレイナが入るのを許可した。寝室の扉を開け、部屋に入って来たレイナは、休んでいるリックの姿を見て、申し訳なくなり頭を下げた。
「お休みのところ、失礼しました」
「ちょうど本を読んでたところだったから、気にするな。それで用はなんだ?」
「今し方、ゼロリアス側より連絡がありました。王国側の到着が二日後になるとの連絡と、アリステリア殿下が明日、リック様にお会いしたいそうです」
予定より大きく遅れている王国側の到着は、リックにとって問題ではなかった。だがアリステリアの誘いは、何か狙いがあると予想せずにはいられない。
「まさか暇潰しのために俺を呼ぼうとしてないよな⋯⋯⋯。他に何か言ってきたか?」
「それだけです。返答はどうしましょう?」
「明日、大聖堂へ遊びに行くと伝えてくれ」
「わかりました。ゼロリアスからの使いには、そのように伝えます」
アリステリアに会う事を決め、レイナに返答を任せたリックは、内心胸を撫で下ろしていた。そんなリックの様子に気付いているからか、レイナは部屋を退出せずに、動揺する彼を見つめてこの場から動こうとしない。
「まだ、何かあった⋯⋯⋯?」
「いえ、特に何も⋯⋯⋯」
リックから目を逸らすレイナを見て、彼女が何かを悩んでいるのだと察する。悩みや不安が分かり易い彼女のために、口に出すきっかけをリックは与えようとする。
「もしかして、この放送で自分の痴態が暴露されないか不安なのか?」
「そっ、そんなことではありません⋯⋯⋯! 言われてみれば確かに不安になってはきましたが⋯⋯⋯」
「これ以外で他に悩むことなんてないだろ。俺なんかリリカに何を暴露されるか、さっきから恐くて仕方ないんだ」
「それは私も同じです。ただでさえ前の放送で恥ずかしい目に遭ったというのに、今夜がよりにもよってリリカ様なんて⋯⋯⋯」
悩んでいた事など忘れ、まだ放送が続く無線機に頭を悩ませるレイナ。そんな彼女を見てリックが微笑むと、気を遣われた事に気付いたレイナが咳払いし、意を決して打ち明ける。
「実は、リック様にお願いしたいことがありまして⋯⋯⋯」
「お願い? 三食必ず米が食いたいとかなら今は諦めろ。ここは南ローミリアじゃないんだから」
「そんな馬鹿なお願いはしません! 人をなんだと思ってるんですか!?」
「ヴァスティナ帝国最強の大食い女王。もしくは食いしん坊大魔神」
「なっ!?」
「心外だって顔するな。お前が毎日一個小隊分飯を喰らうせいで、我が軍の食費にどれだけの負担をかけているか自覚しろ」
リックに揶揄われ、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたレイナは、いつまでも迷っているのが馬鹿らしくなって、少し自棄気味に頼みを口にした。
「明日一日⋯⋯⋯、半日だけでも構いませんので、私用に出ても良いでしょうか」
「お前が自分から休みを取りたいだなんて珍しいな。いつも無理させてるから、一日休んでもらっても全然構わない。それと、遠出するなら車を使ってもいいぞ」
「ありがとう御座います。もしお願いできるなら、ドラグノフをお借りできるとありがたいです」
ドラグノフを借りたいという事は、帝国国防空軍を移動に使いたいという意味を持つ。竜騎兵を移動に使うとなれば、ここから距離があるのか、車などでは行き辛い場所にあるのだろう。
帝国空軍が運用している竜は、人を乗せて爆装できるだけの力を持っている。竜の背にレイナを乗せて一緒に飛ぶ事など、ドラグノフ達からすれば朝飯前だ。
「どうせあいつら暇してるだろ。将軍命令で許可する」
「感謝します」
「どこまで行くつもりだ? 遠くまで行くなら、一日と言わず二、三日休んでも―—―」
「一日だけで構いません。ほんの少しだけ、様子を見に行きたいだけですから⋯⋯⋯」
「ひょっとして⋯⋯⋯、実家帰りとか?」
当てずっぽうでリックが問いかけると、驚いたレイナが目を見開く。レイナの反応を見て、予想が正しかったと悟ったリックは、いつか彼女に言われた言葉を思い出す。
ボーゼアスの乱の際に、負傷したレイナの様子を見に行った時の事だ。レイナは自分の過去についてリックに、いつか話せる覚悟ができたら話すと語ったのである。
レイナ・ミカヅキの過去。それを知る者は、リックを含めて誰もいない。彼女の故郷の場所すら、一言も聞いた事がないのだ。
それが今、彼女の口から明かされようとしている。謎に包まれていた彼女の過去に迫れると思い、リックの興味はレイナの次なる言葉に向いていた。
「実はアバランチアの近くに、私の育った里が―—―」
語りかけたレイナだったが、ふと彼女の視線が、部屋の床に散乱しているあるものを捉え、言葉が止まる。薄暗かったせいと、注意がリックに向いていたせいで、気付くのが遅れたのだが、よく見れば自分の足元に、見慣れたブーツが捨てられている。
寝室のソファには、放り投げられたであろう見慣れたガンベルトと軍帽。どう見ても見慣れた二本のナイフと、見間違いようがない見慣れた黒い軍服の上着がベッドの傍に落ちている。
まさかと思い、レイナが座った目でリックを見つめる。するとリックは、一瞬肩を震わせたかと思うと、冷や汗を垂らしながら引き攣った笑みを浮かべていた。
「⋯⋯⋯」
「あっ、あのー、レイナさん⋯⋯⋯? 俺、早く続きが聞きたいなー⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯お邪魔だったようで、どうもすみませんでした。用は済みましたので、私はこれで失礼させて頂きます」
あからさまに機嫌を損ねたレイナは、リックの制止も聞く耳持たず、鼻息を荒くして寝室を出て行ってしまった。彼女が乱暴に扉を閉めて出て行ったのを見て、大きな溜め息を吐いたリックは、毛布に手をかけると、彼の傍でずっと息を潜めていた人物の顔を覗き込み。
「ばれたぞ」
「そのようですね、閣下」
毛布の中からその姿を現し、困り果てたリックを慰めるかのように、ベッドの中にいた彼女は彼の頬に口付けする。シャツ一枚で毛布の中に潜っていたのは、レイナの予想通りヴィヴィアンヌであった。
「お前が隠れてやり過ごそうなんて言うからだぞ」
「元はと言えば、閣下が私に迫られて拒絶しなかったのがいけないのです」
「どうすんだよ。かなり怒ってたぞ」
「後で菓子でも与えて機嫌を取るしかありません。閣下が同志との話を長引かせるから、こんなことになるのです」
お互いに罪を擦り付け合い、醜い言い争いを続けるのだが、言い負かされるのはいつもリックの方である。確かにヴィヴィアンヌが言う通り、彼女の甘い誘惑を拒まなかったのも、レイナとの話を長引かせてしまったのも、全てリックのせいであるのだから、返せる言葉がない。
「⋯⋯⋯だって気になるじゃんか。レイナって、自分のこと何も教えてくれないんだぞ?」
「そんなに同志が気になりますか? 私よりも?」
「妬いてるのか?」
「そう思われたのなら、もっと強く抱いてください」
今夜のヴィヴィアンヌは、妙に積極的だった。
リックが来るのを寝室で待ち構え、突然抱き付いて口付けをしたかと思えば、そのまま彼を抱いてベッドまで導いた。積極的なヴィヴィアンヌのおかげで、リックも盛り上がってきたところでレイナが現れ、この始末だ。
今夜の彼女はいつもと違う。何処か悲しげで、寂しそうなのは、抱いていて分かっていた。いつもの彼女なら、リックのために彼に抱かれようとするが、今日の彼女は自分のために彼を求めている。様子がおかしい彼女の望む通り、リックはヴィヴィアンヌを強く抱きしめ、無言で唇を重ねた。
「⋯⋯⋯珍しいな。お前が寂しがるなんて」
「⋯⋯⋯近頃、閣下が私を避けているように感じます」
「どうしてそう思う?」
「誘っても逃げられます」
このところは、お互いに忙しかったという理由もある。しかしヴィヴィアンヌの言う通り、リックが彼女の誘いを避けていたのは、隠しようのない事実だった。
彼女から誘われても、冗談を言ってはぐらかしたり、軍務などを理由に断り続けてきた。故に彼女は、今夜のような強行軍に出たわけである。
「私を抱きたくないなら、そう仰ってくれればいい」
「そんなわけない」
「いいえ、閣下は私に愛想が尽きたんです。こんなに醜く穢れた私の体なんて、もう嫌でしょう」
「⋯⋯⋯!」
自分が穢れた体だと彼女が口にして、リックはヴィヴィアンヌが何を考えていたのか、ようやく理解した。
先の反乱でヴィヴィアンヌが敵に捕らわれ、そこでどのような目に遭わされたのかは、リックもよく分かっている。彼女の穢れとは、捕虜になっていた際に受けた仕打ちの事だ。
敵を罠に嵌める為だったとは言え、リック以外の男の手に、自分の体を触れさせた事に変わりない。これが理由で、リックが自分を避けているのだと思い、ずっと苦しんでいたのである。
「馬鹿だな。いつもの勘の鋭さは何処行ったんだ?」
「!?」
「そんな詰まらないことで、お前を嫌いになったりしない。俺が避けてたのは、セリーヌに怒られたくないからだ」
セリーヌ・アングハルト。リックを愛し続け、彼のために命を散らせた女兵士の名。
彼女の名がリックの口から出た事で、ヴィヴィアンヌは自分が思い違いをしていたのだと悟る。こんな事くらい、少し考えれば直ぐに気付けたはずなのに、女としての彼女の勘は鈍かった。
「⋯⋯⋯やはり閣下は、アングハルトの想いに応えていたのですね」
「もっと早くそうしていればって、今は後悔してる。セリーヌを失ったあの日、セリーヌの気持ちを受け入れたから⋯⋯⋯。ヴィヴィアンヌを抱いてしまうと、セリーヌを裏切ったように思えて⋯⋯⋯」
「許して下さい⋯⋯⋯。あなたはそういう男だとわかっていたはずなのに、私は自分のことしか考えていなかった」
「悪いのは俺だ。お前が傷付いたのを知りながら、気を遣ってやれなかった」
リックはヴィヴィアンヌの体に腕をまわし、彼女の体を強く抱きしめた。互いの温もりを確かめ合いながら、高揚して頬を朱に染めた二人が、再び口付けを交し合う。
失った愛する者を裏切れない。彼女を失ったあの日から、リックがヴィヴィアンヌを抱いた事はなかった。それはリンドウに対しても同様である。
だが今は、彼女の想いを裏切る事になっても、ヴィヴィアンヌのために尽くしたいと思っている。失われた彼女の想いに報いたいという自分の心よりも、今目の前にいるヴィヴィアンヌを優先した。
自分の事よりも、いつだって大切な者のためにその身を、その心を犠牲にして守ろうとする。変わらぬリックの優しさと温もりが、ヴィヴィアンヌは堪らなく嬉しくて、その身を彼に委ねた。
「今夜は好きなだけ甘えてくれ。お前が苦しんでいた時⋯⋯⋯、助けられなかった俺に償いをさせて欲しい」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯それなら一つだけ、お願いを聞いていただきたい」
「なんでも言ってくれ」
「二人きりの時だけは、あなたを名前で呼ばせて欲しいです」
「それだけ?」
「それだけです」
彼女のささやかな願いを聞いてリックは思い出す。敵同士であった頃は呼び捨てで名を呼ばれていたが、彼女がリックに忠誠を誓って以降は、名前で呼ばれる事などなかった。
これは将軍たるリックの威厳を守るためと、ヴィヴィアンヌ自身の忠誠心によるものである。己に課したその誓いを、二人の時だけは破りたいというのが彼女の望みだ。
「好きに呼べばいい。二人だけの時じゃなくても、名前で呼んでくれて構わない」
「それでは⋯⋯⋯、リクトビア様」
「待て。それ恥ずかしい」
「ならば、リック様」
「待て待て。レイナの真似も困る」
「でしたら、リクトビアさん?」
「待て待て待て。急に他人行儀になったぞ」
「だったら、ポチで」
「そうそう俺は帝国の狂犬なんて呼ばれてるから犬の名前がお似合いって⋯⋯⋯、待て待て待て待て」
唐突な犬扱いに思わずツッコむリックに、ヴィヴィアンヌは無邪気に笑って見せた。皆の前でも笑ったり、冗談を言って見せたりするのが増えた彼女だが、ここまで柔らかな笑みを見せるのは、リックの前だけである。
ヴィヴィアンヌは、内に秘めた自分の本当の気持ちに気付いている。今まではその気持ちに蓋をしていたが、自分の意思だけでは抑えられなくなってきている。抑えられない気持ちのせいで、変な思い違いなどしてしまうのだ。
もし彼を名前で呼んでしまったら、いよいよ秘めたる想いが溢れ出てしまう。それが分かっていて、彼女は望んでしまったのだ。
こんな醜く汚らわしい番犬に、安らぎと温もりを与えてくれる存在の、特別な想い人でありたいと⋯⋯⋯。
「あなたを、リックと呼びたい⋯⋯⋯」
「望む通りにしろ。誰も怒らないから」
「それと、二人の時は私をヴィヴィと呼んでください」
ヴィヴィアンヌの口からそのような頼みが出ると思わず、驚いた様子のリックに向かって、彼女はねだるような上目遣いで見つめていた。
この時リックは知らなかったが、この愛称は彼女の両親が呼んでいたものだ。最愛の娘へと、温かな愛情が込められたその名で、両親は彼女を最後まで愛していた。
愛する自分の娘に殺される瞬間も、二人は彼女をヴィヴィと呼んで愛し続けた。愛する両親が自分を愛してくれた時と同じように、その名で呼ばれたいと願うのだ。
「わかったよ、ヴィヴィ」
「嬉しいです、リック⋯⋯⋯」
『リリカ姉様。ずっと気になってたんだけど、リック君に縁談って全然来ないよね』
『それうちも気になってん。リックってあれでも将軍やで? 貴族連中とか、どっかの国の王族とかから見合い話来てもおかしくないやろ』
『ふふっ、簡単な話さ。みんながあれのことを変態だなんだと言い触らすから、今じゃリックは、男も女も子供から熟女まで見境なく襲うとんでもない変態だと大陸中に知れ渡っているんだ』
『それもあって、リック様に縁談を申し込もうとする権力者は激減致しました。獣〈けだもの〉に自分の娘を渡したくないという親心でしょう』
『稀に物好きが、獣相手でも構わないと言ってくることもあるけれど―—―』
『ヴィヴィアンヌ様がリック様へ報告せず、隠れて全て処理しております』
『うわー⋯⋯⋯、リック君ちょっとだけ可哀想』
『一生結婚できないやつやん』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯おいヴィヴィアンヌ、今の話について詳しく教えて貰おうか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯機密事項です」
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