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第二十三話 エステラン攻略戦 後編
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帝国軍とエステラン国軍による決戦が終結した頃・・・・・・。
「はあ・・・・・・」
「どうした?溜め息なんか吐いて」
「どうしたじゃありませんわよ。お弁当を食べながら獣男と大馬鹿の戦いを観戦するし、皆さんとイチャついてばっかりですし・・・・・・。ふざけているとしか思えませんわ」
「ちょっと間違ってるぞ。獣男じゃない、狼男だ」
「どっちでもいいですわ!貴方がいつまで経ってもそんなだから、情けなくて溜息を吐いてしまうんですのよ!」
帝国軍決戦部隊を囮にして、エステラン国へ侵攻中の帝国軍本隊は、エステラン国軍の防衛陣地を無事突破し、順調に進軍を続けていた。このままいけばエステラン国への到着も、無事に成功させる事が出来るだろう。
帝国軍本隊を指揮している、帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスは、作戦が順調に進行していく事に満足していた。決して油断などしていなかったが、こうも作戦通りに事が運ぶと、誰でも愉快になるだろう。
そんな雰囲気を出していたせいか、彼はいつものように、帝国軍師ミュセイラ・ヴァルトハイムの文句を聞かされていた。
「毎日そんなに怒鳴ってばっかだと頭の血管切れるぞ。少し落ち着けよ」
「誰のせいで毎日怒鳴っていると思っているんですの!参謀長は軍の最高指揮官なんですのよ。なのに貴方と言う人はどうしてそう緊張感がないのかしら・・・・・・」
怒鳴られた次は呆れられる帝国参謀長。彼の率いる本隊は、この戦争に勝利するための重要な任務がある。失敗はできない、最重要の作戦行動なのだ。
侵攻を続けている帝国軍本隊の中で、リックとミュセイラは騎乗して移動している。リック配下の精鋭達も、馬に跨り彼の後に続いていた。リックとミュセイラは馬上でいつもの会話を行ない、配下の精鋭である仲間達、狙撃手イヴと発明家シャランドラは、女性兵士アングハルトと楽しそうに話をしている。
そして、敵陣地突破時、エステラン国軍サーペント隊の一人、人狼ディランと激しい格闘戦を展開した、仮面ライガーことライガ・イカルガはというと、負傷者輸送用の荷車の中で眠っている。その荷車の中には、彼が激闘を繰り広げた相手である、人狼ディランことディラン・ベルナールの姿もあった。
ディランは魔法が解けており、人狼の姿ではなく人間の姿に戻っている。ライガもディランも、全身に包帯が巻かれ、死んだように眠っていた。
敵陣地突破時に発生した、仮面ライガー対人狼ディランの激闘は、常人を超えた体力で粘り勝ち、最後に渾身のアッパーカットを相手に決めた、仮面ライガーの勝利で終わった。
人狼ディランは戦いに敗れ、その場に倒れ伏した。激闘が終わった後、人狼ディランは魔法が解除され人間に戻り、気絶したまま動かなかった。戦いを見届けたリックは、兵士達に彼の捕縛と手当を命令したのである。
この時、当然の事ながらミュセイラを始めとする多くの者達が、彼を生かすのは危険だと唱えた。だがリックは、「多分こいつそんなに悪い奴じゃないと思う。殺すのは可哀想だ」と言って、彼の十八番である職権乱用を発動し、絶対の参謀長命令を下したのである。
異議を唱えた多くの者達は、リックの参謀長命令に従うしかなく、気絶したディランは帝国軍兵士達の手当てを受け、捕虜として運ばれたのである。ディランが帝国軍本隊と共にいるのはそのためだ。
そしてライガは、激闘を終えた後、戦場全体に響くよう高らかに「正義は勝つ!!」と大声で叫び、その場に倒れた。人狼ディランは強敵であり、彼は全力を出し切って勝利を収めたのである。故に体力を使い果たし、疲労も限界を超えていたため、気を失ってしまったのである。
仕方のない話だ。この二人は、激しい格闘戦を休まず一時間以上も続けていたのである。良く言えば豪傑、悪く言えば大馬鹿だろう。
「いや~、にしてもイヴっちのお弁当美味かったわ~。うちやと、あんな美味いお弁当作れへんわ」
「御馳走様でした。やはりイヴ殿は才色兼備の素晴らしい人です」
「待って二人とも、そんなに褒められると恥ずかしいよ・・・・・・・」
「そこの三人!参謀長みたいに緊張感なさ過ぎだと困りますわ!!」
「なあイヴ、また今度お弁当作ってくれないか?あれ絶品だった」
「だーかーら!!緊張感を持てと言っているでしょう、き・ん・ちょ・う・か・ん!!私を怒らせるのもいい加減にして下さいな!」
相変わらず緊張感がないように見えるリック達に対し、ミュセイラの怒りが爆発する。
しかしリックは、油断しているわけでも、遊んでいるわけでもない。彼は表面こそ余裕に振る舞っているが、内心では誰よりも緊張感を持っていた。
自分がこの軍の最高指揮官であり、自分の命令一つで、この軍の生死は別れるのである。最高指揮官である以上、この責任からは逃れられない。それを理解しているからこそ彼は、決して油断する事はなく、緊張感を捨てる事もない。
(決戦部隊を信じるなら、俺達がエステラン国へ到着する前に戦いは終わっているはずだ。そうすれば作戦は次へ進む・・・・・)
リックは懐から二通の手紙を取り出して、それを暫く見つめていた。一つは、帝国との交渉のために送られた、エステラン国王ジグムントからの密書であるが、もう一つの手紙は、意外な人物からの密書である。
二つ目の密書は、リックもエミリオも予想していなかった、衝撃的な密書であった。この密書の内容は、リックとエミリオを含む一部の者しか知らず、他言無用の極秘扱いとなっている。
(二つ目の手紙・・・・・。まさか、こんな内容の手紙を送って来るなんてな・・・・・・・)
リックの口元に、邪悪な笑みが浮かんだ。
今の彼には密かな楽しみがあった。彼もエミリオも度肝を抜かれた、二つ目の手紙を送った人物。その人物に会える事が、今の彼にとって大きな楽しみとなっている。
(楽しみだ・・・・・本当に・・・・・・)
二つ目の手紙を送った人物への興味。そして、念願であった宿敵を討ち果たす機会。邪悪な笑みを浮かべる彼は、エステラン国への到着が待ち遠しくて仕方がなかった。
帝国参謀長リクトビア・フローレンスが始めた、「エステラン攻略戦」。彼が指揮するヴァスティナ帝国軍初の侵攻作戦は、間もなく最終段階を迎えようとしていた。
「はあ・・・・・・」
「どうした?溜め息なんか吐いて」
「どうしたじゃありませんわよ。お弁当を食べながら獣男と大馬鹿の戦いを観戦するし、皆さんとイチャついてばっかりですし・・・・・・。ふざけているとしか思えませんわ」
「ちょっと間違ってるぞ。獣男じゃない、狼男だ」
「どっちでもいいですわ!貴方がいつまで経ってもそんなだから、情けなくて溜息を吐いてしまうんですのよ!」
帝国軍決戦部隊を囮にして、エステラン国へ侵攻中の帝国軍本隊は、エステラン国軍の防衛陣地を無事突破し、順調に進軍を続けていた。このままいけばエステラン国への到着も、無事に成功させる事が出来るだろう。
帝国軍本隊を指揮している、帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスは、作戦が順調に進行していく事に満足していた。決して油断などしていなかったが、こうも作戦通りに事が運ぶと、誰でも愉快になるだろう。
そんな雰囲気を出していたせいか、彼はいつものように、帝国軍師ミュセイラ・ヴァルトハイムの文句を聞かされていた。
「毎日そんなに怒鳴ってばっかだと頭の血管切れるぞ。少し落ち着けよ」
「誰のせいで毎日怒鳴っていると思っているんですの!参謀長は軍の最高指揮官なんですのよ。なのに貴方と言う人はどうしてそう緊張感がないのかしら・・・・・・」
怒鳴られた次は呆れられる帝国参謀長。彼の率いる本隊は、この戦争に勝利するための重要な任務がある。失敗はできない、最重要の作戦行動なのだ。
侵攻を続けている帝国軍本隊の中で、リックとミュセイラは騎乗して移動している。リック配下の精鋭達も、馬に跨り彼の後に続いていた。リックとミュセイラは馬上でいつもの会話を行ない、配下の精鋭である仲間達、狙撃手イヴと発明家シャランドラは、女性兵士アングハルトと楽しそうに話をしている。
そして、敵陣地突破時、エステラン国軍サーペント隊の一人、人狼ディランと激しい格闘戦を展開した、仮面ライガーことライガ・イカルガはというと、負傷者輸送用の荷車の中で眠っている。その荷車の中には、彼が激闘を繰り広げた相手である、人狼ディランことディラン・ベルナールの姿もあった。
ディランは魔法が解けており、人狼の姿ではなく人間の姿に戻っている。ライガもディランも、全身に包帯が巻かれ、死んだように眠っていた。
敵陣地突破時に発生した、仮面ライガー対人狼ディランの激闘は、常人を超えた体力で粘り勝ち、最後に渾身のアッパーカットを相手に決めた、仮面ライガーの勝利で終わった。
人狼ディランは戦いに敗れ、その場に倒れ伏した。激闘が終わった後、人狼ディランは魔法が解除され人間に戻り、気絶したまま動かなかった。戦いを見届けたリックは、兵士達に彼の捕縛と手当を命令したのである。
この時、当然の事ながらミュセイラを始めとする多くの者達が、彼を生かすのは危険だと唱えた。だがリックは、「多分こいつそんなに悪い奴じゃないと思う。殺すのは可哀想だ」と言って、彼の十八番である職権乱用を発動し、絶対の参謀長命令を下したのである。
異議を唱えた多くの者達は、リックの参謀長命令に従うしかなく、気絶したディランは帝国軍兵士達の手当てを受け、捕虜として運ばれたのである。ディランが帝国軍本隊と共にいるのはそのためだ。
そしてライガは、激闘を終えた後、戦場全体に響くよう高らかに「正義は勝つ!!」と大声で叫び、その場に倒れた。人狼ディランは強敵であり、彼は全力を出し切って勝利を収めたのである。故に体力を使い果たし、疲労も限界を超えていたため、気を失ってしまったのである。
仕方のない話だ。この二人は、激しい格闘戦を休まず一時間以上も続けていたのである。良く言えば豪傑、悪く言えば大馬鹿だろう。
「いや~、にしてもイヴっちのお弁当美味かったわ~。うちやと、あんな美味いお弁当作れへんわ」
「御馳走様でした。やはりイヴ殿は才色兼備の素晴らしい人です」
「待って二人とも、そんなに褒められると恥ずかしいよ・・・・・・・」
「そこの三人!参謀長みたいに緊張感なさ過ぎだと困りますわ!!」
「なあイヴ、また今度お弁当作ってくれないか?あれ絶品だった」
「だーかーら!!緊張感を持てと言っているでしょう、き・ん・ちょ・う・か・ん!!私を怒らせるのもいい加減にして下さいな!」
相変わらず緊張感がないように見えるリック達に対し、ミュセイラの怒りが爆発する。
しかしリックは、油断しているわけでも、遊んでいるわけでもない。彼は表面こそ余裕に振る舞っているが、内心では誰よりも緊張感を持っていた。
自分がこの軍の最高指揮官であり、自分の命令一つで、この軍の生死は別れるのである。最高指揮官である以上、この責任からは逃れられない。それを理解しているからこそ彼は、決して油断する事はなく、緊張感を捨てる事もない。
(決戦部隊を信じるなら、俺達がエステラン国へ到着する前に戦いは終わっているはずだ。そうすれば作戦は次へ進む・・・・・)
リックは懐から二通の手紙を取り出して、それを暫く見つめていた。一つは、帝国との交渉のために送られた、エステラン国王ジグムントからの密書であるが、もう一つの手紙は、意外な人物からの密書である。
二つ目の密書は、リックもエミリオも予想していなかった、衝撃的な密書であった。この密書の内容は、リックとエミリオを含む一部の者しか知らず、他言無用の極秘扱いとなっている。
(二つ目の手紙・・・・・。まさか、こんな内容の手紙を送って来るなんてな・・・・・・・)
リックの口元に、邪悪な笑みが浮かんだ。
今の彼には密かな楽しみがあった。彼もエミリオも度肝を抜かれた、二つ目の手紙を送った人物。その人物に会える事が、今の彼にとって大きな楽しみとなっている。
(楽しみだ・・・・・本当に・・・・・・)
二つ目の手紙を送った人物への興味。そして、念願であった宿敵を討ち果たす機会。邪悪な笑みを浮かべる彼は、エステラン国への到着が待ち遠しくて仕方がなかった。
帝国参謀長リクトビア・フローレンスが始めた、「エステラン攻略戦」。彼が指揮するヴァスティナ帝国軍初の侵攻作戦は、間もなく最終段階を迎えようとしていた。
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