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第十九話 甞めるなよ
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「やっりー!私が一番仕留めたわ♪♪」
「あんた私の獲物取り過ぎなのよ!いい加減自重を覚えなさい、自重を!」
「あわわわわ・・・・・、喧嘩は良くないのです・・・・・・」
「ああん、まだ遊び足りないわ~」
「・・・・・・」
城内に侵入した者達は、全員彼女達の餌食となった。
生き残り、ここから逃げ出せた者はいなかった。全員が彼女達の手にかかり、残酷な死を与えられたのである。
今彼女達がいる場所は、この城の主の玉座が聳える、謁見の間である。この場所へと逃げ込んだ侵入者達を仕留めるために、偶然彼女達は合流を果たし、つい先程片付けたところであった。
謁見の間に横たわり、真っ赤な血を流す、数人の男達の死体。謁見の間を血で染めたのは、彼女達五人のメイドだ。人殺しを得意とする、狂気のメイド達である。
侵入者達を全員片付け、少し物足りなさを感じている彼女達。侵入者は五十人程いたが、彼女達にかかれば、五十人の精鋭を片付けるなど、朝飯前なのである。それ故の物足りなさだ。
「ねぇねぇ、もう片付いたんだし、陛下とメイド長に報告に行かない?早めに報告しないと怒られちゃうし」
「そうね。メイド長がいたから心配ないと思うけど、陛下の無事を確認したいわ」
「その必要はない」
この場の五人以外の女性の声が、謁見の間に響く。声の主は、今まさに話題に上がっていた女性のものであった。
この謁見の間に、新たに足を踏み入れた一人の女性。その女性の後ろには、高貴な者が着る寝間着姿の、一人の少女の姿もあった。
「メイド長!それに陛下も!?」
「うっそ!?何で陛下が起きてるの!?」
「・・・・・・あれだけ悲鳴が聞こえれば、嫌でも起きる」
少女の言う事は尤もだった。やってしまったと思い、びくびくし始めるメイド達。彼女達が恐がっている理由は、メイド長に叱られるかも知れないと思ったからだ。
「ウルスラ。排除は済んだのか?」
「はい。城内に侵入した者達は、一人残らず無力化致しました」
「よくやった。やはり、お前達は頼りになる」
「勿体なき御言葉です」
少女は彼女達の主であり、一国を治める女王である。ヴァスティナ帝国女王アンジェリカ・ヴァスティナは、自らの配下である狂気のメイド達を労った。
メイド達を代表し、ヴァスティナ帝国メイド長ウルスラが言葉を返す。ウルスラ指揮下であるメイド達は労いの言葉を受けて、姿勢を正して頭を下げる。
「ウルスラ、お前も部下達を労ってやれ」
「はい、陛下」
女王アンジェリカから視線を外し、自分の部下である五人へ向き直ったウルスラは、一人ずつその名を呼ぶ。
「リンドウ」
「はい、メイド長」
「ラフレシア」
「はいはーい♪」
「アマリリス」
「はっ、はい・・・・・・」
「ノイチゴ」
「はあ~い♡」
「ラベンダー」
「・・・・・・・はい」
名前を呼ばれた、五人のメイド達。
緊張する彼女達へ、メイド長ウルスラは・・・・・・。
「よく陛下を守り切りました。ご苦労でした」
「「「「「!!?」」」」」
正直、怒られると思っていた五人。就寝していた女王を起こしてしまったため、それを怒られると思っていたのだが、意外な事に褒められてしまったので、驚き耳を疑う彼女達。そもそも、ウルスラに褒められる事など滅多になさ過ぎて、聞き間違いかと思ってしまったのである。
帝国メイド長ウルスラ旗下の、武装メイド部隊。彼女達五人はメイド部隊の中でも、最も戦闘力に秀でた者達である。
花の名前を持つ、五人のメイド達。彼女達は、かつて帝国を治めていた前女王ユリーシア・ヴァスティナに忠誠を誓い、花の名を与えられた、女王のメイド部隊。騎士や兵士も顔負けのこのメイド部隊は、元兵士や元傭兵、元暗殺者や元工作員などで構成されており、メイド仕事よりも、殺しを得意としている。
この五人、ナイフ使いのリンドウ、鉤爪使いのラフレシア、ワイヤー使いのアマリリス、大鎌使いのノイチゴ、大鋏使いのラベンダーは、メイド達の中で最も殺しに長け、最も狂った女性達だ。
そんな、危険人物と言える彼女達の指揮官が、メイド長ウルスラである。彼女達以上の圧倒的な実力を誇るウルスラが、女王のメイド隊、正式名称「フラワー部隊」を指揮しており、女王の身に危険が迫った時、帝国女王最後の砦として戦うのが、彼女達の役目だ。
彼女達フラワー部隊は、女王アンジェリカが眠っている間、交代で見張りに就いていた。この城の警備兵と違い、彼女達は勘が鋭い。侵入者達の存在に一早く気付いたのも、やはり彼女達である。
見張りに就いていたリンドウとラフレシアが、最初に侵入者の存在を察知した。リンドウは、経験で培った鋭い勘で察知し、ラフレシアは、「男!?男の匂いがする!!」と嬉しそうに叫び、匂い(?)で侵入を察知したのである。
侵入者を察知すると、彼女達はすぐさま迎撃に出た。自分達が動かなければ敵を排除出来ないと、よくわかっていたからだ。
この城の警備兵達は、全く当てには出来ない。錬度は低く、実戦経験も少ない。そんな兵達に、自分達の主の命を預ける等、出来るはずがないのだ。故に、自分達が動いたのである。
この場所が彼女達の国、ヴァスティナ帝国の城内であったならば、彼女達フラワー部隊が動く事はなかっただろう。そう、ヴァスティナ帝国であったならば、動く必要などなかった。
「へスカルの兵士が勝てる相手ではありませんでした。貴女達の働きにより、陛下は傷一つ負わなかった。その調子で、引き続き陛下の護衛に専念しなさい」
ここは、帝国の友好国の一つ、へスカル国の城内である。
女王アンジェリカ・ヴァスティナは、この国で行なわれる会談のため、二日前にへスカル城へと入城した。護衛の騎士団とメイド部隊を供に連れ、この地に訪れた彼女達は明日、帝国の今後を大きく左右する重要な会談を控えている。
その前日の夜に、このような襲撃があった。侵入者の正体は不明だが、明日に控えた会談が関係しているのは明らかである。
そうなのである。侵入者の正体は不明のままだ。
何故ならば・・・・・・。
「だがその前に、お前達に言う事がある」
「「「「「?」」」」」
「侵入者を皆殺しにして良いと、一体誰が命令した」
「「「「「!!!??」」」」」
「それと、他国の城内を汚し過ぎだ。どこもかしこも血の海だぞ」
顔面蒼白となった五人。
目の前のメイド長は、明らかに怒っている。凄まじく怒っている。完全に鬼化している。
「やり過ぎだ。皆殺しにしてしまったら侵入者共の正体がわからなくなると、何故気付かない。しかも、城内はそこら中が血で汚れてしまっている。首や腕や脚や臓物が至る所に散らばっているぞ」
「でっ、ですがメイド長-------」
「口答えは許さん。少なくとも、侵入者共の指揮官は私が捕縛した。情報を聞き出す事はこれで可能だが、それにしてもお前達、後先を考えずに行動し過ぎだ。全員、罰則と減給は覚悟しておけ」
「げっ!!」
「あわわわわ・・・・・!」
「ううっ・・・・・」
「・・・・・・恐い」
メイド長ウルスラは、戦闘の最中侵入者の指揮官と戦い、その男の四肢の骨を全て砕き、自害も出来ぬようにして、捕縛していたのである。舌を噛み切って死ねない様、口に猿轡を付ける徹底ようだ。
そんなウルスラと違い、久々の殺しに滾った五人は、調子に乗り過ぎてしまったのである。侵入者を捕まえる余裕があったにも関わらず、皆殺しにしてしまったのだから、指揮官であるウルスラは激怒しているのだ。
「とりあえず、指導は後にする。お前達はまず城内の清掃が先だ。夜が明ける前に全て片付けろ」
「ぜっ・・・・・全部ですか?」
「当たり前だ、城内全部を綺麗にしておけ。返事は?」
「「「「「はっ、はい!!」」」」」
ウルスラに睨まれ、すぐさま駆け出した五人。
彼女がやれと言った事は、何としてもやり遂げなければならない。それが、フラワー部隊の鉄の掟であるのだ。故に逆らえない。
慌てて部屋を飛び出した五人は、夜が明けるまでに、城内全てを掃除しなければならない。正直な話、現実的に考えて終わるわけがない。だがやらなければ、後に待つのは地獄だ。
「メイファちゃん!!大丈夫、怪我してない!?」
五人が大慌てで出て行ったのと入れ違いで、メイドの格好をした女の子にしか見えない人物が、玉座の間に駆け込んだ。
突然現れた人物、その正体は・・・・・・。
「・・・・・ベルトーチカか。私は無事だ、何をしに来た?」
「何って、僕はメイファちゃんが心配だったんだよ!!侵入者の人達はメイドさん達がみーんな殺しちゃったみたいだから、僕、メイファちゃんの無事を確かめたくて・・・・・・!」
帝国メイド部隊の格好に、手にはスコープ付きの狙撃銃。星形の髪飾りを頭に付ける、可愛らしい少女・・・・・・ではなく、男の娘。彼の名はイヴ・ベルトーチカ。ヴァスティナ帝国軍一の狙撃手であり、帝国参謀長配下の幹部である。
「私にはウルスラが付いていた、怪我はない。それより、私の無事を確かめる前に、宰相の護衛はどうした?」
「リリカ姉様には行ってもいいって言われたもん!だから僕は-------」
「お前の仕事は宰相の護衛だ。それを忘れるな」
「!!」
イヴの仕事は、女王アンジェリカと共にこの地へやって来た、帝国宰相リリカの護衛である。メイド服を着ている理由は、彼曰く「だって可愛いんだもん♪」である。
宰相リリカの推薦で、護衛の一人としてこの地へ訪れた彼は、宰相の護衛と言うより、気持ち的にはアンジェリカの身を守るためにここにいる。だからこそ、城内の侵入者に気付いた彼は、血相を変えて彼女を探しまわった。
彼がここまで彼女を案じる理由。それは彼が、まだ彼女の事を、親友だと想い続けている故だ。
だが、当の本人の反応は、この通り冷たい。
「わかったら戻れ」
「・・・・・・うん」
肩を落とし、俯いて、アンジェリカに背を向け、部屋を後にしようとするイヴ。
こんな関係ではなかった。しかし、あの日を境に、彼女は変わってしまった。
「アンジェリカだ」
「えっ・・・・・・?」
「私はアンジェリカだ。・・・・・・二度と間違えるな」
「・・・・・・はい」
力のない返事を残し、部屋を退出したイヴ。
彼女はもう、イヴのよく知る少女ではないのかもしれない。それでも彼は、彼女の事を想い続ける。
たとえ彼女が、帝国参謀長専属メイドの少女、メイファでなくなろうとも、イヴは彼女を、生涯の親友だと想い続ける。
「宜しいのですか?」
「・・・・・・それ以上、何も言うな」
ウルスラの言いたい事はわかっている。だからこそ、聞きたくない。
アンジェリカはウルスラと目を合わせず、何も言わずに、謁見の間を後にしようと歩み出す。そんな彼女の後ろ姿を見つめ、一瞬何かを言いかけたウルスラだったが、何も言わなかった。
(それほどまでに、自分を殺す必要はないというのに・・・・・・)
結局、ウルスラは黙ってアンジェリカに付き従うのみだった。
「あんた私の獲物取り過ぎなのよ!いい加減自重を覚えなさい、自重を!」
「あわわわわ・・・・・、喧嘩は良くないのです・・・・・・」
「ああん、まだ遊び足りないわ~」
「・・・・・・」
城内に侵入した者達は、全員彼女達の餌食となった。
生き残り、ここから逃げ出せた者はいなかった。全員が彼女達の手にかかり、残酷な死を与えられたのである。
今彼女達がいる場所は、この城の主の玉座が聳える、謁見の間である。この場所へと逃げ込んだ侵入者達を仕留めるために、偶然彼女達は合流を果たし、つい先程片付けたところであった。
謁見の間に横たわり、真っ赤な血を流す、数人の男達の死体。謁見の間を血で染めたのは、彼女達五人のメイドだ。人殺しを得意とする、狂気のメイド達である。
侵入者達を全員片付け、少し物足りなさを感じている彼女達。侵入者は五十人程いたが、彼女達にかかれば、五十人の精鋭を片付けるなど、朝飯前なのである。それ故の物足りなさだ。
「ねぇねぇ、もう片付いたんだし、陛下とメイド長に報告に行かない?早めに報告しないと怒られちゃうし」
「そうね。メイド長がいたから心配ないと思うけど、陛下の無事を確認したいわ」
「その必要はない」
この場の五人以外の女性の声が、謁見の間に響く。声の主は、今まさに話題に上がっていた女性のものであった。
この謁見の間に、新たに足を踏み入れた一人の女性。その女性の後ろには、高貴な者が着る寝間着姿の、一人の少女の姿もあった。
「メイド長!それに陛下も!?」
「うっそ!?何で陛下が起きてるの!?」
「・・・・・・あれだけ悲鳴が聞こえれば、嫌でも起きる」
少女の言う事は尤もだった。やってしまったと思い、びくびくし始めるメイド達。彼女達が恐がっている理由は、メイド長に叱られるかも知れないと思ったからだ。
「ウルスラ。排除は済んだのか?」
「はい。城内に侵入した者達は、一人残らず無力化致しました」
「よくやった。やはり、お前達は頼りになる」
「勿体なき御言葉です」
少女は彼女達の主であり、一国を治める女王である。ヴァスティナ帝国女王アンジェリカ・ヴァスティナは、自らの配下である狂気のメイド達を労った。
メイド達を代表し、ヴァスティナ帝国メイド長ウルスラが言葉を返す。ウルスラ指揮下であるメイド達は労いの言葉を受けて、姿勢を正して頭を下げる。
「ウルスラ、お前も部下達を労ってやれ」
「はい、陛下」
女王アンジェリカから視線を外し、自分の部下である五人へ向き直ったウルスラは、一人ずつその名を呼ぶ。
「リンドウ」
「はい、メイド長」
「ラフレシア」
「はいはーい♪」
「アマリリス」
「はっ、はい・・・・・・」
「ノイチゴ」
「はあ~い♡」
「ラベンダー」
「・・・・・・・はい」
名前を呼ばれた、五人のメイド達。
緊張する彼女達へ、メイド長ウルスラは・・・・・・。
「よく陛下を守り切りました。ご苦労でした」
「「「「「!!?」」」」」
正直、怒られると思っていた五人。就寝していた女王を起こしてしまったため、それを怒られると思っていたのだが、意外な事に褒められてしまったので、驚き耳を疑う彼女達。そもそも、ウルスラに褒められる事など滅多になさ過ぎて、聞き間違いかと思ってしまったのである。
帝国メイド長ウルスラ旗下の、武装メイド部隊。彼女達五人はメイド部隊の中でも、最も戦闘力に秀でた者達である。
花の名前を持つ、五人のメイド達。彼女達は、かつて帝国を治めていた前女王ユリーシア・ヴァスティナに忠誠を誓い、花の名を与えられた、女王のメイド部隊。騎士や兵士も顔負けのこのメイド部隊は、元兵士や元傭兵、元暗殺者や元工作員などで構成されており、メイド仕事よりも、殺しを得意としている。
この五人、ナイフ使いのリンドウ、鉤爪使いのラフレシア、ワイヤー使いのアマリリス、大鎌使いのノイチゴ、大鋏使いのラベンダーは、メイド達の中で最も殺しに長け、最も狂った女性達だ。
そんな、危険人物と言える彼女達の指揮官が、メイド長ウルスラである。彼女達以上の圧倒的な実力を誇るウルスラが、女王のメイド隊、正式名称「フラワー部隊」を指揮しており、女王の身に危険が迫った時、帝国女王最後の砦として戦うのが、彼女達の役目だ。
彼女達フラワー部隊は、女王アンジェリカが眠っている間、交代で見張りに就いていた。この城の警備兵と違い、彼女達は勘が鋭い。侵入者達の存在に一早く気付いたのも、やはり彼女達である。
見張りに就いていたリンドウとラフレシアが、最初に侵入者の存在を察知した。リンドウは、経験で培った鋭い勘で察知し、ラフレシアは、「男!?男の匂いがする!!」と嬉しそうに叫び、匂い(?)で侵入を察知したのである。
侵入者を察知すると、彼女達はすぐさま迎撃に出た。自分達が動かなければ敵を排除出来ないと、よくわかっていたからだ。
この城の警備兵達は、全く当てには出来ない。錬度は低く、実戦経験も少ない。そんな兵達に、自分達の主の命を預ける等、出来るはずがないのだ。故に、自分達が動いたのである。
この場所が彼女達の国、ヴァスティナ帝国の城内であったならば、彼女達フラワー部隊が動く事はなかっただろう。そう、ヴァスティナ帝国であったならば、動く必要などなかった。
「へスカルの兵士が勝てる相手ではありませんでした。貴女達の働きにより、陛下は傷一つ負わなかった。その調子で、引き続き陛下の護衛に専念しなさい」
ここは、帝国の友好国の一つ、へスカル国の城内である。
女王アンジェリカ・ヴァスティナは、この国で行なわれる会談のため、二日前にへスカル城へと入城した。護衛の騎士団とメイド部隊を供に連れ、この地に訪れた彼女達は明日、帝国の今後を大きく左右する重要な会談を控えている。
その前日の夜に、このような襲撃があった。侵入者の正体は不明だが、明日に控えた会談が関係しているのは明らかである。
そうなのである。侵入者の正体は不明のままだ。
何故ならば・・・・・・。
「だがその前に、お前達に言う事がある」
「「「「「?」」」」」
「侵入者を皆殺しにして良いと、一体誰が命令した」
「「「「「!!!??」」」」」
「それと、他国の城内を汚し過ぎだ。どこもかしこも血の海だぞ」
顔面蒼白となった五人。
目の前のメイド長は、明らかに怒っている。凄まじく怒っている。完全に鬼化している。
「やり過ぎだ。皆殺しにしてしまったら侵入者共の正体がわからなくなると、何故気付かない。しかも、城内はそこら中が血で汚れてしまっている。首や腕や脚や臓物が至る所に散らばっているぞ」
「でっ、ですがメイド長-------」
「口答えは許さん。少なくとも、侵入者共の指揮官は私が捕縛した。情報を聞き出す事はこれで可能だが、それにしてもお前達、後先を考えずに行動し過ぎだ。全員、罰則と減給は覚悟しておけ」
「げっ!!」
「あわわわわ・・・・・!」
「ううっ・・・・・」
「・・・・・・恐い」
メイド長ウルスラは、戦闘の最中侵入者の指揮官と戦い、その男の四肢の骨を全て砕き、自害も出来ぬようにして、捕縛していたのである。舌を噛み切って死ねない様、口に猿轡を付ける徹底ようだ。
そんなウルスラと違い、久々の殺しに滾った五人は、調子に乗り過ぎてしまったのである。侵入者を捕まえる余裕があったにも関わらず、皆殺しにしてしまったのだから、指揮官であるウルスラは激怒しているのだ。
「とりあえず、指導は後にする。お前達はまず城内の清掃が先だ。夜が明ける前に全て片付けろ」
「ぜっ・・・・・全部ですか?」
「当たり前だ、城内全部を綺麗にしておけ。返事は?」
「「「「「はっ、はい!!」」」」」
ウルスラに睨まれ、すぐさま駆け出した五人。
彼女がやれと言った事は、何としてもやり遂げなければならない。それが、フラワー部隊の鉄の掟であるのだ。故に逆らえない。
慌てて部屋を飛び出した五人は、夜が明けるまでに、城内全てを掃除しなければならない。正直な話、現実的に考えて終わるわけがない。だがやらなければ、後に待つのは地獄だ。
「メイファちゃん!!大丈夫、怪我してない!?」
五人が大慌てで出て行ったのと入れ違いで、メイドの格好をした女の子にしか見えない人物が、玉座の間に駆け込んだ。
突然現れた人物、その正体は・・・・・・。
「・・・・・ベルトーチカか。私は無事だ、何をしに来た?」
「何って、僕はメイファちゃんが心配だったんだよ!!侵入者の人達はメイドさん達がみーんな殺しちゃったみたいだから、僕、メイファちゃんの無事を確かめたくて・・・・・・!」
帝国メイド部隊の格好に、手にはスコープ付きの狙撃銃。星形の髪飾りを頭に付ける、可愛らしい少女・・・・・・ではなく、男の娘。彼の名はイヴ・ベルトーチカ。ヴァスティナ帝国軍一の狙撃手であり、帝国参謀長配下の幹部である。
「私にはウルスラが付いていた、怪我はない。それより、私の無事を確かめる前に、宰相の護衛はどうした?」
「リリカ姉様には行ってもいいって言われたもん!だから僕は-------」
「お前の仕事は宰相の護衛だ。それを忘れるな」
「!!」
イヴの仕事は、女王アンジェリカと共にこの地へやって来た、帝国宰相リリカの護衛である。メイド服を着ている理由は、彼曰く「だって可愛いんだもん♪」である。
宰相リリカの推薦で、護衛の一人としてこの地へ訪れた彼は、宰相の護衛と言うより、気持ち的にはアンジェリカの身を守るためにここにいる。だからこそ、城内の侵入者に気付いた彼は、血相を変えて彼女を探しまわった。
彼がここまで彼女を案じる理由。それは彼が、まだ彼女の事を、親友だと想い続けている故だ。
だが、当の本人の反応は、この通り冷たい。
「わかったら戻れ」
「・・・・・・うん」
肩を落とし、俯いて、アンジェリカに背を向け、部屋を後にしようとするイヴ。
こんな関係ではなかった。しかし、あの日を境に、彼女は変わってしまった。
「アンジェリカだ」
「えっ・・・・・・?」
「私はアンジェリカだ。・・・・・・二度と間違えるな」
「・・・・・・はい」
力のない返事を残し、部屋を退出したイヴ。
彼女はもう、イヴのよく知る少女ではないのかもしれない。それでも彼は、彼女の事を想い続ける。
たとえ彼女が、帝国参謀長専属メイドの少女、メイファでなくなろうとも、イヴは彼女を、生涯の親友だと想い続ける。
「宜しいのですか?」
「・・・・・・それ以上、何も言うな」
ウルスラの言いたい事はわかっている。だからこそ、聞きたくない。
アンジェリカはウルスラと目を合わせず、何も言わずに、謁見の間を後にしようと歩み出す。そんな彼女の後ろ姿を見つめ、一瞬何かを言いかけたウルスラだったが、何も言わなかった。
(それほどまでに、自分を殺す必要はないというのに・・・・・・)
結局、ウルスラは黙ってアンジェリカに付き従うのみだった。
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