贖罪の救世主

水野アヤト

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第四十六話 神殺し

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 クレイセル大平原に構築されていた、ボーゼアス義勇軍後方陣地。そこは今、教祖オズワルド・ベレスフォードが魔導具の力で生み出した怪物の出現で、壊滅的な損害を被っていた。
 天幕や防御柵は壊され、運び込まれた物資の多くも破壊されている。加えて、陣地内で焚かれていた炎が所々に燃え移り、各所で火災も発生していた。これによってボーゼアス義勇軍後方陣地は、戦力を維持するための機能を失ったのである。
 生き残った者達の多くは、人を喰らう怪物に恐怖して散り散りに逃げ出し始めた。逃亡する彼らは皆、ボーゼアス教の終わりを悟ったのである。

 ボーゼアス教はグラーフ教に負け、ここで終わる。教祖として立ち上がったオズワルド自身も、その事実を認めていた。
 だが彼は、ローミリア大陸の平和と秩序を取り戻すため、一人の同志に希望を託して送り出した。その同志の名はハンス。彼は今、護衛の精鋭部隊と共に陣地を後にし、生き残るため撤退中であった。
 馬に跨って平原を駆け、未だ戦いが続いている戦場を振り返らず、ただ生き残る事だけを考えて前を向く。同志だったオズワルドを残し、この戦場を離れてしまう断腸の思いに苦しみながらも、今は必死に堪えて手綱を強く握り締める。
 オズワルドが残した最後の希望となったハンスは、二十人の異質な護衛によって守られている。全員が黒いローブを身に纏い、無表情で馬に跨りハンスと共に平原を駆けていた。護衛の二十人は陣形を組んでおり、ハンスを中心に置いて、彼を囲むようにして守りながら移動していた。
 護衛に選ばれた彼らは、前線に投入される事のなかった、ボーゼアス義勇軍最後の精鋭部隊である。いざという時の為に温存されていた、主に偵察や暗殺に特化した特殊部隊である。護衛は専門ではないが、全員高い戦闘技術を持っている為、もし移動中敵に遭遇して戦闘に発展したとしても、並みの相手ならば排除は容易だ。
 現状確保できる護衛としては、これ以上ない程に頼もしい部隊である。グラーフ同盟軍があの怪物に注意を向けている中、こんな後方で敵と遭遇する事はないかも知れないが、万が一が起きても安心できる状態にあった。

(ベレスフォード様⋯⋯⋯⋯、貴方の願いは私が必ず叶えます!)

 一人、オズワルドへの忠義を胸に誓いを立てるハンス。託された希望は必ず次に繋げなければ、ローミリアの為に自らの手を血に染めたオズワルドと、犠牲となった全ての人々の死が無駄となる。それだけは、絶対にあってはならないのだ。
 だからこそハンスは振り返らず、クレイセル大平原を抜ける事を目指して駆け続ける。しかし彼の前に、絶望を届けにやって来た漆黒の集団が立ちはだかる。

「あっ、あれはヴァスティナの⋯⋯⋯⋯!」

 平原を駆け抜ける馬に追い付いた、地面を走る鋼鉄の馬。現れたのは、ヴァスティナ帝国国防軍が使用している戦闘車輛だった。現れた車輌は全部で五台で、乗っているのは黒の軍服に装備品を身に着けた兵士達である。
 その内の一台が急加速で接近する。乗っている兵士達の中には、一人だけ少女がいた。少女は腰のガンベルトのホルスターから拳銃を抜くと、一瞬で狙いを定めて引き金を引いた。
 少女は馬に乗る護衛の装備に弾丸を命中させた。護衛が取り囲んでいるせいで狙えない為、装備に当てて弾を跳弾させたのである。跳弾した弾丸は、正確にハンスの乗っている馬の頭部に命中した。
 銃で撃たれたハンスの馬は、走っていたままの勢いで転倒し、ハンスの身体は投げ出されてしまう。落馬して地面に叩き付けられたハンスを守るため、倒れた彼のもとに、馬から飛び降りた護衛達が瞬時に集まった。

 それを見届けた少女は、自らが乗る車輌の運転手に命じて、ハンス達の前で車を止めさせる。車から降りた少女は、先程抜いた拳銃を指で回しながら、自らの目標に向けて鋭い視線を突き刺した。
 黒軍服に制帽、黒髪と右眼を眼帯で隠してる姿が特徴的な、二丁拳銃使いの少女。現れた彼女の名は、ヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼ。率いる部隊の名は、ヴァスティナ帝国国防軍親衛隊である。

「手間をかけさせるな、元ジエーデル国防軍第十三中隊副隊長ハンス・シュトライプ」
「⋯⋯⋯⋯!」

 正体を見抜かれ驚きつつも、ハンスは彼女の正体を瞬時に理解した。それは彼にとって、今最も遭遇したくない存在である。何故なら彼女は、大陸最大の情報国家だった国が生んだ、恐怖の番犬であるからだ。
 
「その眼帯⋯⋯⋯⋯! 貴様があの情報局の番犬か!」
「分かるなら話は早い。武器を捨て、直ちに降伏しろ。でなければ、死よりも残酷な苦痛を味合わせてやる」

 ヴィヴィアンヌが降伏を迫る中、ハンス達を逃がさぬよう、彼女配下の親衛隊が周囲を取り囲む。逃げ場を失った彼らは、降伏を選ばず武器を抜いた。

「ほう⋯⋯⋯⋯、迷わず武器を取ったか。死ぬ覚悟は十分のようだ」
 
 生き残るのに必死な彼らが、大人しく降伏するとは思っていなかった。予想していた通りの相手の反応に、ヴィヴィアンヌはもう片方の拳銃も抜いた。両手に回転式拳銃を持って銃を回し、不敵な笑みを浮かべた彼女が更に口を開く。

「やはりな。貴様の護衛は、アーレンツ国家保安情報局特別処理実行部隊の第四部隊か」

 ボーゼアス義勇軍には、様々な国家の残党軍が集結している組織でもあった。その中には、ヴァスティナ帝国の侵攻を受けて崩壊した、中立国アーレンツの戦力も含まれていたのである。
 アーレンツ最大の組織、国家保安情報局の者達の多くは、ヴァスティナ帝国との戦争で降伏したか戦死した。だが中には、戦闘の混乱に乗じ、降伏を恐れてアーレンツを脱出した者達もいたのである。
 脱出したのは、降伏しても処刑される運命にある、情報局の危険人物達であった。ハンスを守る護衛達も、この時国を脱出した情報局の部隊である。暗殺等の殺しを得意とする、特別処理実行部隊の第四部隊が彼らの正体だった。

「国を捨てた情報局の残党共め。今は異教徒が貴様らの飼い主のようだな」

 帰るべき国を失い、異教徒の反乱に与して今を生きる、元情報局員の惨めな姿を彼女は鼻で笑う。普段ならば彼らは、こんな安い挑発に乗ってしまうような者達ではないが、相手がヴィヴィアンヌであれば話は別だった。
 
「⋯⋯⋯⋯⋯狂犬に尻を振った雌犬が。国を売った裏切り者め」

 感情を表に出さないよう訓練された彼らが、憎悪を込めた目でヴィヴィアンヌを睨み、怒りと殺意を露わにする。無表情だった部隊の全員が、ヴィヴィアンヌを憎んで敵意を剥き出しにしていた。
 それもそのはず、元情報局員にとってヴィヴィアンヌは、国家保安情報局が崩壊した原因の一人である。しかも今は祖国を捨て、祖国へと侵攻したヴァスティナ帝国側に身を置いた、言葉通りの裏切り者なのだ。行き場を失った第四部隊の者達が彼女を憎むのも、当然の話だった。
 ハンスの護衛は継続しつつも、憎しみに駆られた彼らは武器を取り、憎むべきヴィヴィアンヌへとその切っ先を向ける。自分達をここまで貶めた存在を、決して許さぬ意志を示して、仕掛ける瞬間を待ち侘びる。

「番犬、楽に死ねると思うな」
「連れの兵を皆殺しにしてお前を捕らえ、自ら死を乞うまで拷問してやる」
「簡単に殺しはしない。嬲り犯し抜いて最後は家畜の餌にでもしてやろう」

 仲間であるハンスですら、任務以外で彼らが言葉を口にするのはほとんど見た事がない。ヴィヴィアンヌに向かって憎悪を込めた言葉を吐く彼らの様子に、ハンスは一人驚きながらも、彼らが隠し続けてきた憎しみの深さを思い知る。
 精鋭二十人が、ヴィヴィアンヌ達相手に戦闘を仕掛けようとしている。全員が憎むべき彼女に地獄を味合わせようと、怒りと殺意を燃やしているのだ。

 一人一人が殺しに特化した優秀な兵士で、強く危険な相手なのは間違いない。それなのに、彼らに最も狙われているヴィヴィアンヌ本人は、自分の部下に眼で合図を送り、部下全員の武器を下ろさせた。精鋭二十人相手に、彼女はたった一人で戦いを挑もうというのだ。
 何の冗談かと、第四部隊の者達だけでなくハンスも驚きを隠せない。余裕があるのか、嘗めているだけなのか、一つだけ確かな事は、益々彼らの怒りは燃え上がっているという事だ。
 ヴィヴィアンヌの行動を、彼らは挑発のつもりなのだろうと考えた。実際、彼らの怒りが更に焚き付けられている為、挑発は成功している。だが彼女自身は、挑発の為にこんな行動を取ったわけではなかった。

「⋯⋯⋯⋯⋯ところで、私の同志を傷付けたのは貴様達だな?」

 瞬間、この場の全員を一瞬凍り付かせる程の殺気が放たれた。殺気を出したのは、不敵な笑みを消し去って憎悪に顔を歪めるヴィヴィアンヌだった。
 彼女の言う同志というのはレイナの事だ。レイナは勇者救出作戦の折、ボーゼアス義勇軍側の放った追撃部隊との戦いで負傷した。ヴィヴィアンヌはレイナから襲ってきた相手の特徴を聞き、その正体が第四部隊の彼らだと見抜いていたのである。
 レイナを傷付けた彼らを、ヴィヴィアンヌは絶対に許さないと誓っていた。ましてそれが、自分の古巣にいた者達であったのだから、彼女の怒りは決して静まる事はない。この怒りが静まるのは、第四部隊の彼らを全員この手で処刑した時だけだ。

「住処を追いやられて尚生き残った害虫共め。私の同志に傷を負わせた罪、その命で贖え」

 猛烈な殺意を抱くヴィヴィアンヌが言い終えた瞬間、復讐に燃える第四部隊は一斉に仕掛けた。彼女相手に隙を窺っていた彼らも、ここまで言われては我慢の限界だったのである。
 第四部隊全員が一斉に仕掛け、急速に間合いを詰めてくる。彼らに向かってヴィヴィアンヌは、両手の拳銃を瞬時に構えて発砲を始めた。装填された弾丸を、自慢の早撃ちで全弾撃ち尽くし、向かってきた精鋭二十人の内の三人を射殺した。
 三人は撃ち殺されたが、残りの者達は銃撃を回避しながら接近する。中には、撃たれた仲間の身体を盾にする者もいた。目的の為に手段を選ばぬ敵に対し、ヴィヴィアンヌは弾切れとなった両手の拳銃を、一旦ホルスターへと瞬時に収める。代わりに彼女は、腰の後ろに装備していた二本のナイフを抜いた。
 ヴィヴィアンヌ自慢の得物である、二本のククリナイフ。綺麗に研がれた刃は、向かってくる彼らの姿を映し出す。その刃に映し出されている相手こそが、彼女が血祭りに挙げようとしている獲物の姿だ。
 そう、彼らは全員獲物なのである。情報局の精鋭であった彼らも、情報局最強の番犬と恐れられた彼女からすれば虫けらも同然なのだ。

「死ね、番犬」
「死ぬのは貴様らだ、間抜け」

 ヴィヴィアンヌとの距離を詰め、一人が真正面からナイフ片手に襲い掛かる。それを彼女は、矢のような速さでククリナイフを操り、ナイフを持つ相手の腕ごと斬り落とした。
 そこからは一瞬の出来事だった。刃渡りの大きい二本のククリナイフを、神速の速さで自在に操って見せた彼女は、一瞬の内に目の前の相手の四肢を切断し、最後に相手の首を斬り飛ばした。
 精鋭の一人を瞬時に肉塊へと変えたナイフが、次の獲物を求めるかのように切っ先を輝かせる。ヴィヴィアンヌは肉塊となった相手の身体を力強く蹴り飛ばし、後続から迫る相手に直撃させて体勢を崩させた。

 そこからの彼女の動きは、とても人間業とは思えない領域だった。
 残りは十六人。向かってくる敵全員に、彼女は一人で逆に襲い掛かる。まずは、体制を崩させた相手に急接近して、隙だらけの状態になった相手の首を斬り落とす。そのまま彼女は敵集団に突っ込んで、自分の周りにいる全ての相手に刃を振るった。
 ヴィヴィアンヌが目にも止まらぬ斬撃を振るうと、相手の鮮血が、腕が、脚が、首が飛んでいく。特別製の為に切れ味が段違いな得物を操り、相手の胴体を真っ二つにもしていた。凄惨な光景を創り上げていく中、彼女は一滴の返り血を浴びる事なく、次々と精鋭部隊を肉塊へと変えていく。
 一分も経たぬ間に、第四部隊の兵は最後の一人となってしまった。その一人もヴィヴィアンヌに一瞬で距離を詰められ、抵抗してナイフを振るうもあっさり躱され、腹を裂かれてその場に膝をついた。腸を地面にぶちまけ、止まらない出血で意識が薄れていく。苦しみながらやっと呼吸をする最後の一人は、目の前に立つヴィヴィアンヌを見上げ、恐怖に顔を歪めて震えながら口を開いた。

「ばっ、化け物が⋯⋯⋯⋯!」
「違うな。貴様達が弱過ぎるだけだ」

 最後の一人に向かって刃を振るい、その首を一閃のもとに斬り落とす。頭を失った最後の一人は、力を失って地面に倒れ伏した。
 たった一分の間に、元情報局の精鋭二十人は容易く瞬殺された。今やヴァスティナ帝国最強の兵士であるヴィヴィアンヌに、彼ら程度では力不足だったのである。一対二十の人数差も、彼女を苦戦させるハンデにもならなかった。

 護衛を秒殺されたハンスには、もう自らを守る術はない。例え武器を持って戦いを挑んだとしても、彼女相手に勝てない事はよく分かっている。周囲も親衛隊の兵に囲まれ、何処にも逃げ場はなかった。
 「こんなところで終わるのか」と、ハンスの脳裏に希望を失った言葉が浮かぶ。オズワルドから託された最後の希望が、何も成し遂げられず終わってしまう。ここで終わってしまっては、オズワルド達の犠牲が全て無駄となる。

「安心しろハンス・シュトライプ。貴様を殺しはしない」
「なに⋯⋯⋯⋯!?」
「我々の目的は、貴様がジエーデル軍警察に命を狙われる理由だ。それを話せばジエーデルから貴様を守ってやってもいい」

 ヴィヴィアンヌの狙いは、オズワルドから託された希望。それは、ハンスが祖国ジエーデルを追われる身となった理由だ。彼女の狙いは、ジエーデル国と戦うための準備に必要な、必殺の切り札を回収する事だった。

 ハンスの正体を調べ上げ、彼がジエーデルに狙われている事を知ったヴィヴィアンヌは、彼の国にとって不都合な何かを彼が持っていると考えた。そこで彼女は、極秘の作戦を計画したのである。
 グラーフ同盟軍との決戦でボーゼアス義勇軍が敗北を悟った時、オズワルドやハンス達は次の戦いの為に脱出を図るだろう。脱出しようとする彼らを、極秘裏に行動する親衛隊が待ち伏せて捕らえる。それが、この戦いに参加したヴァスティナ帝国の真の目的だった。
 予想通り、ボーゼアス義勇軍の重要人物の内、参謀のハンスがこうして脱出の為に現れた。ヴィヴィアンヌが最も狙いを定めていた、確実に対ジエーデル戦に使える情報を掴んでいる男。可能ならオズワルドも捕らえたいところだが、この男さえいれば上出来である。
 
「⋯⋯⋯⋯⋯何の話か分からないな」
「素直に話さないならそれもいい。話さなかった事を死ぬまで後悔させてやる」
「仮に知っていたとしても、私の持つ情報がお前達の欲しがっているものとは限らない」
「欲しいのは、アーレンツから飛び立った鴉の情報だ」
「!!」

 ヴィヴィアンヌの言葉を受け、ハンスはヴァスティナ帝国の狙いを理解した。
 そこまで知っているならば、隠したところで意味はない。彼女が欲しがっているものは、情報というより裏付けなのである。ジエーデル国に対する切り札となる情報の、決定的な証拠を求めているのだ。
 確かにハンスは、ヴィヴィアンヌが知る情報の答えを持っている。それをジエーデル国のレジスタンスに渡し、再起を図ろうとしていたのだ。

「その反応を見るに、やはり貴様は鴉の情報を掴んだからこそ狙われているのか」
「⋯⋯⋯⋯情報局の保管庫は軍警察が全て燃やしたと聞いた。どうしてお前がそれを知っている」
「以前の私は、例の作戦を立案したというファルケンバイン准将の直属だった。その権限を利用して、個人的興味から色々と調べていただけだ」
「どうやら、情報局の番犬の異名は伊達ではないらしい。だからといって―――――――」

 ハンスの言葉を遮ったのは、彼の胸の中心を背中から刺し貫いた刃だった。何が起こったのか理解できず、火傷の様な痛みを感じたハンスが自分の胸元に視線を落とし、口から血を吐いて膝を付く。
 彼の胸を貫いた刃の正体は、一本の槍だった。その槍は、ローミリアでは滅多に目にする事のない偃月刀である。そして、ハンスの背中に突き刺さった偃月刀は、何者かが彼の背後に接近して突き刺したものではなく、周囲を取り囲む親衛隊員の間を抜けてきたものだ。
 ヴィヴィアンヌも、親衛隊の全兵士も、これが別勢力の攻撃であると瞬時に理解した。全員が一斉に戦闘態勢に入り、偃月刀が飛んできた方へと身体を向ける。

「紅蓮式投槍術、飛槍」

 そこにいたのは、ヴィヴィアンヌ達から離れた場所で、槍を投擲したと思われる体勢で立つ一人の女だった。女は紅い髪をショートで整え、肩まで出した服とショートパンツという、薄着で身軽そうな格好をしている。防具の類などは一切身に着けず、武器は投擲した偃月刀だけの様だった。
 女の狙いは間違いなく、情報を持っているハンスだ。ハンスが話してしまう前に始末するため、女は急遽偃月刀を投げたに違いない。そう判断したヴィヴィアンヌは、急いでハンスのもとへと駆け出した。
 口封じのための戦力が一人だけなどあり得ない。まだハンスに息がある以上、止めの一撃を加えるために、まだ仕掛けてくる相手がいるはずなのだ。
 そう直感した彼女の予測通り、突然親衛隊の頭上を飛び越えて現れた一頭の白馬が、地面に倒れようとしているハンスに向かっていく。

「ふふっ、察しがいい女の子ね」

 馬に跨っていたのも、また女だった。女は白馬の上で、親衛隊の中で一番反応が長けているヴィヴィアンヌに関心を示している。
 白馬から飛び降りて、腰に差している剣を抜き放つ、長い金髪と白い素肌の美しい女性。背は高く、身に纏う衣服が男物の白い騎士制服であるため、男装の麗人という言葉が似合う。その麗人が、ハンスに止めを刺そうと神速の剣突きを放った。

「小賢しい!」
「!」
 
 ハンスを貫こうとした刃は、寸前でヴィヴィアンヌのナイフに阻まれた。間一髪のところで、ヴィヴィアンヌの刃が止めの一撃を防いだのである。
 互いの刃がぶつかり合い、女は狙いをハンスではなくヴィヴィアンヌへと向けた。得物の剣を巧みに操り、ナイフの刃を弾いて神速の連続突きを放つ。弾丸の様な速さの突きがヴィヴィアンヌを襲うが、常人を遥かに超える反射神経を持つ彼女は、全ての攻撃に反応して躱して見せた。
 反撃を仕掛けたヴィヴィアンヌが、二本のククリナイフを振るって襲い掛かる。対して女は、速さには速さで返す彼女の斬撃を、剣を操って容易くいなしていく。

「あら? この子、聞いてたよりずっと危ない」

 ヴィヴィアンヌの攻撃を軽く躱して見せていながら、女は微笑む顔を引き攣らせていた。たったこれだけ手合わせしただけで、ヴィヴィアンヌの力量と危険差を直感で読み取ったのだ。
 女の危機を察し、偃月刀を投げたもう一人の女が動く。女は武器を持っていなかったが、銃を構えて発砲する寸前の親衛隊員に向かって、自分の右手を翳して魔法を発動させた。女は右手から青白く光る炎を生み出すと、青い炎による火炎放射を行なった。
 反応できた者はぎりぎり躱せたが、数人が回避に遅れて青い炎に呑み込まれる。炎に巻かれた者達は、皮膚を焼く熱と痛みに絶叫しながら息絶えていった。
 青い炎による攻撃で道を切り開き、女はハンスのもとまで一気に距離を詰めて、彼の身体に刺した自らの得物を引き抜いた。今度こそ息の根を止めるべく、彼女が偃月刀を振り下ろそうとした刹那、一瞬で距離を詰めたヴィヴィアンヌの斬撃が彼女を襲う。
 ハンスへと振り下ろそうとした刃は、ヴィヴィアンヌの操るナイフの刃を防ぐのに使い、互いの刃がぶつかり合って火花を散らす。そこへ麗人も加勢とばかりに現れて、剣を振るって技を放つ。

「避けられるかしら!」
「!!」

 剣を操る女は、ヴィヴィアンヌ向かって舞い踊るように剣を振るった。演武を披露するかのような、流れる動きで正確に斬撃が放つ。美しい舞と共に繰り出される、恐ろしく速い流れる剣捌き。相手の腕や脚、胸や首など、全身に向かって刃が振るわれていく。
 たった一人、たった一本の剣を相手にしているはずなのに、無数の敵、無数の剣が自分に襲い掛かってきていると錯覚する。そんな錯覚を覚える程の速さで、剣はヴィヴィアンヌを切り刻もうとしていた。避け切れないと直感した彼女は、二本のナイフで剣をいなしつつ攻撃を躱す。だが直感した通り、急所は全て守る事ができたものの、彼女の腕や脚、胸や肩を斬撃が掠っていった。

「調子に乗るな!」

 軍服を切り裂かれ、掠り傷ができて出血しながらも、ヴィヴィアンヌは未だ健在である。一瞬女の剣よりも速くナイフを振るい、刃を弾いて無理やり技を中断させ、もう片方のナイフをお返しとばかりに横一閃に振るう。
 間一髪斬撃に反応できた女は、身体を後ろに反らして何とか斬撃を躱すと、追撃を恐れて後方に跳躍する。体勢を立て直そうと後退した女のもとに、得物を取り戻した偃月刀使いの女も合流した。
 両者が得物を構え睨み合う中、偃月刀使いの女がヴィヴィアンヌを見て、愉しそうに舌なめずりして不敵に笑う。

「ねぇ、どうする? 本気でやっちゃう?」
「止めた方がいいわ。私達かあの子、確実にどちらかが死ぬもの」
「あたしとあんたで互角⋯⋯⋯⋯⋯、って事もないか。幾ら本気じゃなかったって言っても、あんたのアレを初見で喰らって掠りで済むなんて、ほんとに人間?」
「少なくとも魔人ではないみたいよ。稀に見る美少女だもの」
「ねぇちょっと、稀に見るってなにさ! いつも横に誰もが羨む超絶美少女がいるじゃないのよ」
「あら、ごめんなさい。貴女が自分を世界一の超絶美少女だと思い込んでいる病院通いのイタイ子だって事を忘れていたわ」
「そんな理由で通院してないっての! 誤解を生む発言止めてよね!」

 どうも偃月刀使いの方は精神面で残念な子ではないらしいが、病院通いは事実のようである。
 そんな話は今はどうでもよく、冗談を言い合いながらも一切の隙を見せない二人に、ヴィヴィアンヌは一層の警戒を見せていた。
 一人は偃月刀を得物とした、青い炎の魔法を操る槍使い。もう一人は剣を得物とし、磨き抜かれた強力な剣術を操る剣士。この二人がまだ本気を出しておらず、技を隠し持っているのは間違いないだろう。
 まだ少ししか刃を交えていないが、ヴィヴィアンヌには直ぐ分かった。彼女達の実力は、元情報局の精鋭などとは比べ物にもならない、非常に危険な相手であると⋯⋯⋯⋯。

「中途半端な仕事になってしまうけれど、そろそろ御暇しましょうか。お金より命の方が大事だもの」
「はいはい、わかりましたよー。それで、逃げ道作るのはあたしの役目なわけ?」
「お願い♡」
「偶にはあんたがやってよね! まあ、やってあげるけどさ!」

 剣士の女が両手を合わせて可愛くお願いすると、槍士の女は少し怒りながらも頼みを聞き、再び青い炎を生み出して見せる。
 ヴィヴィアンヌや周囲の親衛隊員に炎を放ち、自分達の周りにも炎を撒いて平原を青く燃やしていく。炎で牽制し、ヴィヴィアンヌ達を自分達に近付かせないようにしているのだ。それだけではなく、周囲を取り囲んでいた親衛隊に向かって炎を放ち、包囲の抜け道まで作っていた。
 青い炎が平原で燃え上がりながら広がり、ヴィヴィアンヌ達は彼女達に近付けないでいる。彼女達を守る青い炎の壁を、剣士が乗って来た白馬が颯爽と現れ、炎を飛び越え彼女達のもとに駆け付けた。

「またね、ヴァスティナの番犬さん」
「ばっいばーい♪」

 白馬に跨った二人の女は、恐れる事なく青い炎の中を白馬で突っ切っていった。やがて、魔法の発動が解かれたのか、燃えていた青い炎が何事もなかったようにして消え去ると、彼女達の姿は平原から消えてしまっていた。

「逃げたか⋯⋯⋯⋯⋯」

 ヴィヴィアンヌを恐れて逃げたのか、それとも無用な戦いを避けただけなのかは分からない。しかし、想定を超えた強敵と、こんなところで死闘を繰り広げずに済んだのは事実である。指揮官として毅然に振舞うヴィヴィアンヌだが、内心では戦わずに済んで良かったと安堵していた。
 あの二人を倒す事が親衛隊の目的ではない。ここに来た目的は、ボーゼアス義勇軍参謀ハンスを捕らえる事なのだ。死闘など繰り広げて、無駄な時間をかけている場合ではない。ヴィヴィアンヌやあの二人以外にも、ハンスを狙う勢力がいる可能性は十分あるのだ。

「よくも私の邪魔してくれたな⋯⋯⋯⋯」

 静かに怒りを湧き上がらせるヴィヴィアンヌが、持っているククリナイフを鞘に収めながら、何とか守り抜いたハンスのもとに歩を進める。
 だがハンスは、最早虫の息だった。刺し貫かれた胸から出血は止まらず、地面を自身の鮮血で真っ赤に染め上げている。仰向けに倒れる彼の顔の傍まで来たヴィヴィアンヌは、息も絶え絶えな彼の容態を確認した。

「ハンス・シュトライプ。残念だが、既に手の施しようがない」
「はぁ⋯⋯⋯⋯はぁ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 死の宣告をヴィヴィアンヌから聞かされたハンスも、苦しそうに呼吸を続けながら、自分の死を既に悟っていた。手当てをしても助からない事は、彼が自身が誰よりもよく分かっている。ヴィヴィアンヌが宣告する前から、ハンスは自らの死を受け入れていた。
 
「ここで貴様が死ねば、グラーフ教やジエーデルに反抗する機会は永久に失われる。再起を図った脱出は無駄だったようだな」

 オズワルドの希望だったハンスは、もうすぐこの場所で命を失う。避けられぬ己の死を、ハンス自身もヴィヴィアンヌも抗う術を持たない。
 彼女の言う通りハンスの死は、大陸を支配する存在への反抗の機会を失う事を意味する。しかし、身動きできない程の致命傷を負った今の彼には、託された希望を次へと繋ぐ手段はない。最初は激痛を感じていたが、今は段々痛みも感覚も失われてきている。今の彼がどうにか動かせるのは、自分の口と瞳だけだった。

「貴様達が望んだ反抗は、我々が引き継いでやってもいいぞ」
「⋯⋯⋯⋯⋯!」

 絶望の淵に立たされ、意識が少しずつぼやけていく中、確実に死へと向かうハンスを驚愕させた、一筋の希望をもたらすヴィヴィアンヌの言葉。倒れる彼の傍で片膝を付いた彼女が、自分の部下に聞こえない声量で、囁くように言葉を続ける。

「私の求める情報を話せば、貴様達の戦いはここで終わりはしない。望む未来はまだ貴様の手中にある」
「未来⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」
「同盟軍解散後、我がヴァスティナ帝国の相手は仇敵ジエーデル国だ。グラーフ教会があるホーリスローネ王国も、いずれは我が帝国の支配下となる」
「そんなことが⋯⋯⋯、できる⋯⋯⋯⋯はずがない⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「我らが英雄リクトビア・フローレンス将軍閣下と、帝国が誇る鋼鉄の兵器群があれば、大陸全土の武力統一は夢物語ではなくなる。我が軍の力、その眼で貴様も思い知ったはずだ」

 ボーゼアス義勇軍では力不足だった。しかし、圧倒的な戦力で戦場を蹂躙したヴァスティナ帝国ならば、確かにジエーデルにもホーリスローネにも対抗できる。対抗できるどころか、大軍を一気に殲滅できるあの火力さえあれば、短期間の内に攻め滅ぼす事も夢ではない。
 死を迎える寸前のハンスにとって、これは最後の反抗の機会であり、魅力的な提案と言えるものでもあった。彼女が自分を利用したいだけと分かっていても、とても無視できない話だ。
 
 自分の死を無駄には出来ないハンスに残された手段は、この恐ろしき番犬の提案を受け入れる事だけだ。利用されると分かっていて、彼女に手を貸さなかったとして、一体何が残る。後に残るのは、役目を果たせず無駄死にした男の屍だけだ。
 ならばいっその事、彼女に利用されてしまうしかない。少なくとも彼女達がジエーデルと、混沌の支配者たるグラーフ教の女神を倒してくれさえすれば、大陸に平和が訪れるかもしれないのだから⋯⋯⋯⋯。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯わかった。私の知っていることを⋯⋯⋯⋯⋯、全て⋯⋯⋯⋯教える⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「安心して話せ。貴様達の無念は、我々の手で必ずや晴らす」

 死の瞬間が迫る中、ハンスは最後の力を振り絞り、ヴィヴィアンヌだけに聞こえる声で、自分の持つ全ての情報を語った。掠れた弱々しい声だったが、彼が残そうとしている最後の希望を、彼女は一言一句聞き逃さなかった。
 
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ジエーデルを倒す切り札、確かに受け取った」
「これで⋯⋯⋯、祖国を奪った⋯⋯⋯⋯⋯独裁者を⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「わかっている。総統バルザックを討つのは、勇気ある貴様の刃だ」

 話を聞き終えたヴィヴィアンヌだけが、最後を迎えるハンスの唯一の理解者だ。
 軍人となって祖国に忠を尽くし、偉大な祖国の為に戦ってきたにもかかわらず、偶然秘密を知ってしまったが為に、忠を尽くし続けた祖国に命を狙われた。
 祖国が放った猟犬達から逃れる日々は、死の恐怖に怯え続ける毎日だった。それでも彼は生きる事を諦めず、絶望の闇から祖国を解放するために、この瞬間まで生き残ったのである。それがどれ程の苦難であったか、今理解できるのは彼女だけだ。
 故に軍人としてヴィヴィアンヌは、死する敵であった者へと敬意を払う。最後まで希望を捨てずに戦った、彼の勇気と覚悟を称えた。

「貴様の役目は終わった。ゆっくり休むといい」
「まっ、まだだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「なに?」
「もう一つだけ⋯⋯⋯⋯⋯、伝えたい⋯⋯ことが⋯⋯⋯⋯ある⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 求めていた情報は全て聞けた。ハンスが握っていたジエーデルの情報を聞き終え、この場を去ろうとしたヴィヴィアンヌを彼が呼び止める。もう喋る体力が残っていないというのに、命の残滓《ざんし》を燃やして必死に口を開いた。

「グラーフ⋯⋯⋯教会には⋯⋯⋯⋯⋯⋯、女神が⋯⋯いる⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」
「女神だと? 空想の産物が本当に実在するというのか?」
「御伽話じゃ⋯⋯⋯⋯ない⋯⋯⋯⋯⋯。永遠を生きる⋯⋯⋯奴こそ⋯⋯⋯⋯が⋯⋯⋯⋯、ローミリアの、真の⋯⋯⋯敵だ⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」
「馬鹿な、永遠の存在だと? そんなものは在り得ない」
「使った魔導具は⋯⋯⋯⋯、全て⋯⋯⋯⋯女神のものだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。奴の⋯⋯⋯力は⋯⋯⋯⋯⋯⋯、人智を超えている⋯⋯⋯⋯!」

 最初は嘘かとも思ったが、ハンスの目を見たヴィヴィアンヌは、彼の言葉が偽りではないと判断する。何より、祖国と大陸の平和の為に戦い、命燃え尽きようとしている男が、最後に偽りを残して死ぬとは思えかったのだ。

「たっ、頼む⋯⋯⋯! ローミリアを⋯⋯⋯⋯、女神の手から⋯⋯⋯⋯救って⋯⋯⋯⋯く⋯⋯⋯れ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 それが最後の言葉となって、ハンスは息を引き取った。ジエーデル国の兵士として国を追われ、ボーゼアス教の一員となり、グラーフ同盟軍と激戦を繰り広げた優秀な参謀は、己の役目を終えたのである。

「グラーフ教の女神か⋯⋯⋯⋯⋯」

 ハンスの言葉を信じたヴィヴィアンヌは、グラーフ教の伝説に現れる女神の話を思い出していた。この世界にローミリア大陸を創り、グラーフ教を創りし、伝説の女神ジャンヌ・ダルク。ローミリアと宗教を創った女神が、一体どうして真の敵だというのか、ハンスはそれを告げずにこの世を去ってしまった。
 だがこれで、ボーゼアス教の真の狙いが、グラーフ教の女神ジャンヌ打倒にあった事は分かった。情報源だった彼自身は失われたが、十分過ぎる成果は得たと言える。それでも彼女は、現れた二人の襲撃者の手によって、貴重な生き証人が失われた事に責任を感じていた。

(あの二人は連中が放った暗殺者だろう。これだけの情報を持っていながら、この男は用済みだっという事か)

 ハンスを殺した二人の襲撃者。あの二人の正体は分からなくとも、彼女達の背後にいる存在は察しがついている。
 この戦争に協力した、大いなる野心を持つ存在。それがボーゼアス教に力を与え、この戦争を激化させたのだ。ハンスはその存在に用済みと判断され、口封じのために消されてしまったのである。

(この借りは必ず返してやる。だが今は、あれをどうにかしなければ⋯⋯⋯⋯⋯)

 親衛隊が行なった極秘の作戦は、何とか目的を達する事ができた。しかし、グラーフ同盟軍とボーゼアス教による戦いはまだ終わっていない。
 今や同盟軍は、教祖オズワルドが起動した魔導具の怪物相手に、総力を尽くしている。ボーゼアス教の切り札が勝つか、それとも同盟軍の切り札は勝利を得るのか、戦いは最終局面を迎えているのだ。
 ヴィヴィアンヌが視線を向けた先には、同盟軍と激戦を繰り広げる巨大な化け物の姿がある。今頃は帝国国防軍が銃火器と機甲戦力を駆使し、怪物の足止めを行なっているはずだ。今から急行して間に合うかどうか分からないが、命懸けで戦う友軍の為、何より親衛隊の務めを果たす為にも、再び戦地へと向かわなければならない。

(閣下、どうか御無事で⋯⋯⋯⋯⋯。間違っても無茶はなさらないで)

 脳裏に浮かぶ、大切でかけがえのない男の微笑み。どんな犠牲を払ってでも、この手を再び赤く染め上げる事になって守りたい、自分の命よりも大切な存在。
 必要な任務のためとはいえ、こんな状況下で彼の傍を離れてしまった。自分の代わりに頼もしき同志が守っているとはいえ、傍にいないとどうしても不安になってしまう。少し目を離すと、直ぐに危険な行動に出るから尚更だ。

 部下にハンスや仲間の死体を回収させ、乗ってきた車輌に乗り込み、ヴィヴィアンヌ達は急いでこの場を後にした。休む間もなく彼女達が向かうのは勿論、激戦続く最前線である。
 因みに、自分の大切な存在が黙って勝手に最前線に行ってしまった事を、彼女はまだ知らない。
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