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第十五話 野望
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大陸の各地で、様々な野望が燃えている。
このローミリア大陸の今を代表する国家。ゼロリアス帝国、ホーリスローネ王国、ジエーデル国などの国は、この先必ず戦争を経験する事だろう。
ある者は、己の目指す未来のために。またある者は、己の信じる正義のために。戦いという道も視野に入れ、思案している。
いつの日か、この大国同士が衝突する事もあるだろう。激しい戦争になるのは、目に見えている。
「王子、準備が整いました」
「遅い!準備にどれだけ無駄な時間をかけているのだ!!」
「もっ、申し訳ありません・・・・・」
三国以外にも、野望を持つ者たちは多い。この王子もそうだ。
元々彼には野望と呼べる者はなかった。ただ、自分の地位を利用し、好き勝手な人生を送る事が出来れば、それで満足であったのである。しかし去年、ある事件を経験した事により、彼には一つの野望が生まれたのである。
「何という体たらくだ。これでもし負けたら、責任は貴様たちにある事を忘れるな!」
「・・・・・・はっ」
怒鳴られている兵士の一人は、内心の怒りを堪え、王子の横暴に耐えている。周りの兵士たちも、内心の怒りを胸に秘め、そして思う。
「どうしてこんな自分勝手な愚か者の下で、これから命を懸けて戦わなければならないのだ」と。
「奴らには必ず報いを受けて貰う。殺すだけでは足りない、帝国参謀長とあの剣士は生かして私の前に連れて来るのだ。よいな!」
王子の名はメロース。エステラン国の第二王子である。
長い金髪が特徴的な、見た目だけなら美形の青年である。だが、彼の内面はエゴの塊で、御世辞でも好人物と呼びたくない人間だ。
国民からも兵士からも嫌われており、今回の戦いで、メロースが最高指揮官になると皆が知った時は、従軍した兵士のほとんどが、天を仰いで神に祈った。
「どうか、メロースを病にでもして下さい」。重い病にでもかかれば、戦争に行くのは不可能になるので、メロースが最高指揮官になるのは回避できる。そのため、誰もが神に祈ったのである。
それほどまでに、メロースはエステラン国の多くの人間に嫌われ、恨まれてさえいる。もしもここに、赤い糸を解けば恨みの相手を地獄に流せる藁人形でもあれば、誰も彼もが躊躇いなく糸を解くかも知れない。人を呪わば穴二つだとしても、絶対にこいつだけは地獄に流したいと思うだろう。
それもこれも、メロースが今まで行なった、自分勝手で非道な行ないの被害を受けていれば、無理もない話である。
「決して敗北は許さん!臆病風に吹かれて逃げ出す者は処刑する!必ずやあの忌まわしき国を攻め滅ぼし、私の前に奴らを跪かせてやる!!」
憎しみに燃えるメロース。彼はあの時受けた仕打ちを、未だに根に持っているのである。
だが彼は知らない。メロースのあの事件の事が、民たちの間で密かに話され広められて、話を聞いた誰もが好い気味だと思い、中には爆笑する者さえいた事を。
(いっそ帝国が、この馬鹿王子を討ち取ってくれれば・・・・・・)
エステラン王の命令であるから、エステラン軍の兵士たちは仕方なく従軍し、仕方なく戦うのである。正直、全体の士気は最悪だ。
エステラン軍の相手は、南ローミリアの盟主ヴァスティナ帝国である。帝国と戦う事になった切っ掛けは、このメロース王子にある。
メロースは帝国に恨みを持っている。彼は自分の父親であるエステラン王のもとへ赴き、ヴァスティナ帝国討伐を訴えた。帝国は現在、エステランにとって隣国のジエーデル国に次ぐ、敵対関係にある国家である。
メロースは自らの恨みを晴らすため、帝国の危険性を王に説いた。帝国をこのまま野放しにしておけば、いずれはジエーデル国と協力し、エステランへ侵攻を開始するかも知れない。それを防ぐためには、今攻め滅ぼしておかなければならないと、そう説いたのである。
メロースの説いた言葉に間違いはないが、王はこの時期に帝国と戦う事を考えてはいなかった。今の季節は冬であり、ゼロリアス程の過酷な環境ではないにしろ、戦争をするには適さない季節であるからだ。
だが王は、メロースのこの訴えを聞き入れ、彼に兵を与えたのである。これには、王の密かな考えがあるのだが、その事に気付かず、何も知らないメロースは、恨みの相手を滅ぼせると意気込んでいた。
王は自分の息子を、とある計画に利用したのである。
そして、メロースはともかく、従軍した兵たちはこの出兵には何かあると、薄々気が付いていた。
「裁きを下す時は来た。全軍に出陣を命じる!」
不満を抱える兵士たち。士気は最悪で、とても戦いができる状態ではない。この状態で戦えば、勝利の可能性は限りなく低い。
しかも相手は、あのヴァスティナ帝国であるのだ。
「待っていろ、必ずこの手で罰を与えてやるぞ」
王子メロースのやる気に反して、兵士たちの士気の低下は著しい。
それでもエステランの兵士たちは、戦わなければならない。何故なら彼らは、国と王に忠誠を誓った兵士である。それが彼らの義務であり、存在意義なのだ。
このローミリア大陸の今を代表する国家。ゼロリアス帝国、ホーリスローネ王国、ジエーデル国などの国は、この先必ず戦争を経験する事だろう。
ある者は、己の目指す未来のために。またある者は、己の信じる正義のために。戦いという道も視野に入れ、思案している。
いつの日か、この大国同士が衝突する事もあるだろう。激しい戦争になるのは、目に見えている。
「王子、準備が整いました」
「遅い!準備にどれだけ無駄な時間をかけているのだ!!」
「もっ、申し訳ありません・・・・・」
三国以外にも、野望を持つ者たちは多い。この王子もそうだ。
元々彼には野望と呼べる者はなかった。ただ、自分の地位を利用し、好き勝手な人生を送る事が出来れば、それで満足であったのである。しかし去年、ある事件を経験した事により、彼には一つの野望が生まれたのである。
「何という体たらくだ。これでもし負けたら、責任は貴様たちにある事を忘れるな!」
「・・・・・・はっ」
怒鳴られている兵士の一人は、内心の怒りを堪え、王子の横暴に耐えている。周りの兵士たちも、内心の怒りを胸に秘め、そして思う。
「どうしてこんな自分勝手な愚か者の下で、これから命を懸けて戦わなければならないのだ」と。
「奴らには必ず報いを受けて貰う。殺すだけでは足りない、帝国参謀長とあの剣士は生かして私の前に連れて来るのだ。よいな!」
王子の名はメロース。エステラン国の第二王子である。
長い金髪が特徴的な、見た目だけなら美形の青年である。だが、彼の内面はエゴの塊で、御世辞でも好人物と呼びたくない人間だ。
国民からも兵士からも嫌われており、今回の戦いで、メロースが最高指揮官になると皆が知った時は、従軍した兵士のほとんどが、天を仰いで神に祈った。
「どうか、メロースを病にでもして下さい」。重い病にでもかかれば、戦争に行くのは不可能になるので、メロースが最高指揮官になるのは回避できる。そのため、誰もが神に祈ったのである。
それほどまでに、メロースはエステラン国の多くの人間に嫌われ、恨まれてさえいる。もしもここに、赤い糸を解けば恨みの相手を地獄に流せる藁人形でもあれば、誰も彼もが躊躇いなく糸を解くかも知れない。人を呪わば穴二つだとしても、絶対にこいつだけは地獄に流したいと思うだろう。
それもこれも、メロースが今まで行なった、自分勝手で非道な行ないの被害を受けていれば、無理もない話である。
「決して敗北は許さん!臆病風に吹かれて逃げ出す者は処刑する!必ずやあの忌まわしき国を攻め滅ぼし、私の前に奴らを跪かせてやる!!」
憎しみに燃えるメロース。彼はあの時受けた仕打ちを、未だに根に持っているのである。
だが彼は知らない。メロースのあの事件の事が、民たちの間で密かに話され広められて、話を聞いた誰もが好い気味だと思い、中には爆笑する者さえいた事を。
(いっそ帝国が、この馬鹿王子を討ち取ってくれれば・・・・・・)
エステラン王の命令であるから、エステラン軍の兵士たちは仕方なく従軍し、仕方なく戦うのである。正直、全体の士気は最悪だ。
エステラン軍の相手は、南ローミリアの盟主ヴァスティナ帝国である。帝国と戦う事になった切っ掛けは、このメロース王子にある。
メロースは帝国に恨みを持っている。彼は自分の父親であるエステラン王のもとへ赴き、ヴァスティナ帝国討伐を訴えた。帝国は現在、エステランにとって隣国のジエーデル国に次ぐ、敵対関係にある国家である。
メロースは自らの恨みを晴らすため、帝国の危険性を王に説いた。帝国をこのまま野放しにしておけば、いずれはジエーデル国と協力し、エステランへ侵攻を開始するかも知れない。それを防ぐためには、今攻め滅ぼしておかなければならないと、そう説いたのである。
メロースの説いた言葉に間違いはないが、王はこの時期に帝国と戦う事を考えてはいなかった。今の季節は冬であり、ゼロリアス程の過酷な環境ではないにしろ、戦争をするには適さない季節であるからだ。
だが王は、メロースのこの訴えを聞き入れ、彼に兵を与えたのである。これには、王の密かな考えがあるのだが、その事に気付かず、何も知らないメロースは、恨みの相手を滅ぼせると意気込んでいた。
王は自分の息子を、とある計画に利用したのである。
そして、メロースはともかく、従軍した兵たちはこの出兵には何かあると、薄々気が付いていた。
「裁きを下す時は来た。全軍に出陣を命じる!」
不満を抱える兵士たち。士気は最悪で、とても戦いができる状態ではない。この状態で戦えば、勝利の可能性は限りなく低い。
しかも相手は、あのヴァスティナ帝国であるのだ。
「待っていろ、必ずこの手で罰を与えてやるぞ」
王子メロースのやる気に反して、兵士たちの士気の低下は著しい。
それでもエステランの兵士たちは、戦わなければならない。何故なら彼らは、国と王に忠誠を誓った兵士である。それが彼らの義務であり、存在意義なのだ。
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