贖罪の救世主

水野アヤト

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第十四話 贖罪

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 密かに動き出した帝国軍。憎しみに満ちた戦いが、この国の領土内で起こっている。

(今頃、リックは作戦通りに事を進めている。粛清は始まったんだね)

 参謀長執務室。部屋の窓から夜空を眺めるが、月は見えない。夜雲に隠されているからだ。
 
(知りたくない真実など、あの月のように隠してしまえばいい・・・・・)

 彼、エミリオ・メンフィスは思う。
 教える必要があると感じた。だからこそ、真実をリックへと告げた。
 だが、隠す事が出来るのならば、告げる必要はなかったかもしれない。自分が内密に動き、処理してしまえば、彼が苦しむ事もなければ、全ての罪を背負う必要もない。
 
(あの時私が、もっと先の事を考えていれば・・・・・・)

 まだエミリオが、リックの軍師になったばかりの頃。エミリオは彼に、帝国貴族の将来的脅威を話した。あの時リックはすぐに排除を考え、エミリオはその考えに反対した。
 利用するつもりだったのだ。他国に帝国の情報を流す貴族たちに、偽情報を流させるなどの利用を考えていた。そのための仕込みは、ほぼ出来上がっていた。
 敵であるとしても、帝国をまとめる者たちには変わりない。無理にでも排除しようとすれば、国民の反感を買う可能性もあるし、軍と参謀長の支持を失うかもしれない。それを理解しているからこそ、逆に彼らを利用しようとしていたのだ。裏で利用してしまえば、排除などしなくともこちらの利になり、支持を失う事もない。
 しかし結果的に、エミリオのこの判断は最悪の結果を招いてしまった。
 帝国女王と騎士団長は亡くなり、多くの力ある戦士たちを、戦場で散らせてしまった。リックの心は壊れ、深い悲しみに暮れて、絶望の底へと突き落とされた。
 未然に防ぐ事は出来たはずだ。彼の言う通りにしていれば、こうはならなかった。
 今更後悔しても遅いのだ。そうとわかっていても、後悔はある。だから今、エミリオはこの部屋で指揮を執っている。
 南ローミリアの一国、我らがヴァスティナ帝国を生まれ変わらせるための、大粛清の指揮を。
 女王殺しの中心人物を一か所に集め、絶望を味合わせてから殺す。リック考案の作戦行動とほぼ同時に、エミリオ指揮で各部隊は動き出した。

(私はこの先、二度と君を悲しませない。そして、この罪は必ず償うよ・・・・・)

 粛清は始まっている。
 皆がそれぞれの思いを胸に、憎むべき者たちを討つ。
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