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第十三話 救世主
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しおりを挟む第十三話 救世主
任務は順調にいっていた。五分ほど前までは。
へスカル国境線に集結したジエーデルの軍団。その偵察のために、彼ら、元傭兵のロベルトとその仲間たちは、集結したこの軍団の中に潜入した。
夜の闇に紛れ、軍団が構築した陣地内に、ジエーデル軍の装備を身に付けて潜入し、この軍団の規模と目的を調査していた。潜入は上手くいき、ロベルトたちは手分けして軍団の内部を調査していたが、問題が発生してしまったのである。
仲間の一人が失敗した。簡単に言えば、ジエーデル兵の一人に気付かれたのである。気付かれたおかげで、侵入者の存在が軍団の中で叫ばれてしまった。
そこからは早かった。潜入調査を直ちに中断し、仲間たちはそれぞれ脱出にかかったのである。作戦が失敗した場合は、各自が独自の判断で撤退し、合流地点に集結する手筈となっている。脱出に動くと同時に、仲間たちは構築された陣地内に火を放つ。火災の混乱に紛れ、脱出してしまうという考えだ。
燃える陣地内で敵と戦い、何人もの敵兵を斬り伏せた、偵察部隊の隊長ロベルトは、仲間たちと同じように脱出に取りかかっている。
(この情報、何とか参謀長に届けなければ!)
作戦が失敗する直前、ロベルトは情報を入手できた。集結したジエーデル軍の規模と戦略目的について。敵指揮官とその部下たちの会話を、どうにか盗み聞く事が出来たのである。
この情報は、急ぎ帝国に知らせなければならない。今回のジエーデル軍の動きには、背後に彼らの存在がある。そしてジエーデル軍の作戦は、帝国の仲間たちを危険に晒してしまう。
早く知らせなければ、きっと取り返しのつかない事になる。焦るロベルトの、剣を握る手に力が入る。
「くらえっ!!」
目の前に現れたジエーデル兵を、また一人斬り伏せた。やはり、自分には剣の方が性に合っていると、兵士を斬り伏せながら思うロベルト。
帝国軍参謀長に「新しい玩具だ」と言われ、ロベルトたちは銃火器を渡された。彼らは訓練し、渡された装備をすぐにものにして見せた。ロベルト自身、銃火器の殺傷能力の高さと、その遠距離攻撃の強力さに、何度も感嘆したのだが、やはり彼は、使い慣れた武器が手に馴染むと感じる。
剣を振り、自慢の格闘術と剣で、目の前に立ちはだかる兵士を何人も殺す。彼の格闘術は独特で、様々な格闘術を独自にアレンジした、彼のオリジナルだ。今まで様々な戦いを経験し、様々な相手と戦った時に知った、多くの格闘の技術を盗んで得たものである。
この格闘術は、彼が数え切れない程の戦いを経験してきた、歴戦の兵士の証。現在ロベルトは、敵軍陣地内で窮地に立たされている。だが彼は、この程度の窮地は今まで何度も経験し、今日まで生き残って来た。
この程度で臆する様な男ではない。寧ろこの窮地を、彼は楽しんでさえいる。
(陣地内の奥に入り過ぎたか。脱出するのは難しいな)
気持ちが高揚し、口元がつり上がる。命の危険にあるこの状況に、兵士の血が騒いで仕方がないのだ。
しかし、遊んでばかりもいられない。この情報を持ち帰り、偵察任務を完遂しなければならないと、己のプライドが訴えている。
だが現状は、脱出を許して貰えそうにはない。火災が大きくなっている陣地内で、ジエーデル兵は次々と彼の前に立ち塞がるのだ。
仲間たちは無事に脱出出来たのだろうかと、彼の脳裏に仲間たちの姿が映った、その時である。
「ぐわっ!?」
「うわあああああっ!?」
聞き覚えのある声。それは仲間たちの悲鳴であった。放っては置けないと、仲間たちを救出するため、慌てて悲鳴の聞こえた方へ走り出す。
走った先で目に映った光景は、仲間たちの屍と、ジエーデル軍の兵士たち数人。そして、ジエーデル軍の装備を身に付けていない、一人の男の姿だった。
「くっ、カラミティルナ隊か!」
ジエーデル軍特殊魔法精鋭部隊、カラミティルナ隊。先の戦争でもこの部隊は、帝国軍の前に現れた。ロベルトは直接戦った事はないが、特殊魔法を操る厄介な敵であると、話では聞いている。
ジエーデル軍の装備を身に付けていない、兵士には見えない男。恐らくこの男は、カラミティルナ隊の一人だと予想したのである。
特殊魔法を使うカラミティルナ隊の一人でなければ、今まで数々の戦場を生き抜いてきた仲間たちが、そう簡単に殺されるわけがないと彼は考えた。実際、彼の考えは当たっている。
彼の仲間たちは。この男によって討ち取られた。殺された十二人の仲間の屍を見て、ロベルトの闘志が燃え上がる。「お前たちの仇は俺が取る」と、心に誓う。
「どんな魔法を使うか知らないが、相手にとって不足はないぞ!」
生きては帰れない。彼の歴戦の勘が訴える。
相手は自分の仲間たち十二人を殺し、全くの無傷でいるような相手だ。どんな特殊魔法を操るのかは不明だが、実力があるのは間違いない。距離を詰めての格闘戦ならば、相手を倒すのに自信がある。問題は、距離を詰めさせてくれるかどうかだ。
これが、自分の最後の戦場になるだろう。ならば、この命尽きるまで存分に楽しんでやろう。
あの男に付き従ったおかげで、最高の戦場で己の力を振るう事が出来た。後悔はない。戦友たちと同様に、戦いこそが生き甲斐だった自分の最後が、敵軍陣地内での絶望的状況。
あまりの嬉しさに、笑い声を上げてしまう。
(さらばだ参謀長。さらばだ我が戦友よ。俺は先に地獄に行かせてもらうぞ!)
剣を片手に、燃え盛る陣地内を駆ける。戦友を殺した相手へと、己の命を懸けて戦いを挑む。
「うおおおおおおっ!!」
圧倒的な気迫。恐怖を覚えるジエーデル兵。正面から迎え撃とうとしている、カラミティルナ隊の男。
命を懸けた一人の兵士が、最後の戦いに挑む。
任務は順調にいっていた。五分ほど前までは。
へスカル国境線に集結したジエーデルの軍団。その偵察のために、彼ら、元傭兵のロベルトとその仲間たちは、集結したこの軍団の中に潜入した。
夜の闇に紛れ、軍団が構築した陣地内に、ジエーデル軍の装備を身に付けて潜入し、この軍団の規模と目的を調査していた。潜入は上手くいき、ロベルトたちは手分けして軍団の内部を調査していたが、問題が発生してしまったのである。
仲間の一人が失敗した。簡単に言えば、ジエーデル兵の一人に気付かれたのである。気付かれたおかげで、侵入者の存在が軍団の中で叫ばれてしまった。
そこからは早かった。潜入調査を直ちに中断し、仲間たちはそれぞれ脱出にかかったのである。作戦が失敗した場合は、各自が独自の判断で撤退し、合流地点に集結する手筈となっている。脱出に動くと同時に、仲間たちは構築された陣地内に火を放つ。火災の混乱に紛れ、脱出してしまうという考えだ。
燃える陣地内で敵と戦い、何人もの敵兵を斬り伏せた、偵察部隊の隊長ロベルトは、仲間たちと同じように脱出に取りかかっている。
(この情報、何とか参謀長に届けなければ!)
作戦が失敗する直前、ロベルトは情報を入手できた。集結したジエーデル軍の規模と戦略目的について。敵指揮官とその部下たちの会話を、どうにか盗み聞く事が出来たのである。
この情報は、急ぎ帝国に知らせなければならない。今回のジエーデル軍の動きには、背後に彼らの存在がある。そしてジエーデル軍の作戦は、帝国の仲間たちを危険に晒してしまう。
早く知らせなければ、きっと取り返しのつかない事になる。焦るロベルトの、剣を握る手に力が入る。
「くらえっ!!」
目の前に現れたジエーデル兵を、また一人斬り伏せた。やはり、自分には剣の方が性に合っていると、兵士を斬り伏せながら思うロベルト。
帝国軍参謀長に「新しい玩具だ」と言われ、ロベルトたちは銃火器を渡された。彼らは訓練し、渡された装備をすぐにものにして見せた。ロベルト自身、銃火器の殺傷能力の高さと、その遠距離攻撃の強力さに、何度も感嘆したのだが、やはり彼は、使い慣れた武器が手に馴染むと感じる。
剣を振り、自慢の格闘術と剣で、目の前に立ちはだかる兵士を何人も殺す。彼の格闘術は独特で、様々な格闘術を独自にアレンジした、彼のオリジナルだ。今まで様々な戦いを経験し、様々な相手と戦った時に知った、多くの格闘の技術を盗んで得たものである。
この格闘術は、彼が数え切れない程の戦いを経験してきた、歴戦の兵士の証。現在ロベルトは、敵軍陣地内で窮地に立たされている。だが彼は、この程度の窮地は今まで何度も経験し、今日まで生き残って来た。
この程度で臆する様な男ではない。寧ろこの窮地を、彼は楽しんでさえいる。
(陣地内の奥に入り過ぎたか。脱出するのは難しいな)
気持ちが高揚し、口元がつり上がる。命の危険にあるこの状況に、兵士の血が騒いで仕方がないのだ。
しかし、遊んでばかりもいられない。この情報を持ち帰り、偵察任務を完遂しなければならないと、己のプライドが訴えている。
だが現状は、脱出を許して貰えそうにはない。火災が大きくなっている陣地内で、ジエーデル兵は次々と彼の前に立ち塞がるのだ。
仲間たちは無事に脱出出来たのだろうかと、彼の脳裏に仲間たちの姿が映った、その時である。
「ぐわっ!?」
「うわあああああっ!?」
聞き覚えのある声。それは仲間たちの悲鳴であった。放っては置けないと、仲間たちを救出するため、慌てて悲鳴の聞こえた方へ走り出す。
走った先で目に映った光景は、仲間たちの屍と、ジエーデル軍の兵士たち数人。そして、ジエーデル軍の装備を身に付けていない、一人の男の姿だった。
「くっ、カラミティルナ隊か!」
ジエーデル軍特殊魔法精鋭部隊、カラミティルナ隊。先の戦争でもこの部隊は、帝国軍の前に現れた。ロベルトは直接戦った事はないが、特殊魔法を操る厄介な敵であると、話では聞いている。
ジエーデル軍の装備を身に付けていない、兵士には見えない男。恐らくこの男は、カラミティルナ隊の一人だと予想したのである。
特殊魔法を使うカラミティルナ隊の一人でなければ、今まで数々の戦場を生き抜いてきた仲間たちが、そう簡単に殺されるわけがないと彼は考えた。実際、彼の考えは当たっている。
彼の仲間たちは。この男によって討ち取られた。殺された十二人の仲間の屍を見て、ロベルトの闘志が燃え上がる。「お前たちの仇は俺が取る」と、心に誓う。
「どんな魔法を使うか知らないが、相手にとって不足はないぞ!」
生きては帰れない。彼の歴戦の勘が訴える。
相手は自分の仲間たち十二人を殺し、全くの無傷でいるような相手だ。どんな特殊魔法を操るのかは不明だが、実力があるのは間違いない。距離を詰めての格闘戦ならば、相手を倒すのに自信がある。問題は、距離を詰めさせてくれるかどうかだ。
これが、自分の最後の戦場になるだろう。ならば、この命尽きるまで存分に楽しんでやろう。
あの男に付き従ったおかげで、最高の戦場で己の力を振るう事が出来た。後悔はない。戦友たちと同様に、戦いこそが生き甲斐だった自分の最後が、敵軍陣地内での絶望的状況。
あまりの嬉しさに、笑い声を上げてしまう。
(さらばだ参謀長。さらばだ我が戦友よ。俺は先に地獄に行かせてもらうぞ!)
剣を片手に、燃え盛る陣地内を駆ける。戦友を殺した相手へと、己の命を懸けて戦いを挑む。
「うおおおおおおっ!!」
圧倒的な気迫。恐怖を覚えるジエーデル兵。正面から迎え撃とうとしている、カラミティルナ隊の男。
命を懸けた一人の兵士が、最後の戦いに挑む。
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