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第10.5話 みんな大好き?ヴァスティナ帝国
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それから一時間後。
「じっとしていろ」
「はい・・・・・、いてて・・・・・」
あの軍馬は並の馬ではない。その能力は帝国随一であり、大陸中でも五本の指に入る事だろう。
戦闘力は通常の馬を超えており、並の人間では太刀打ちできない。そんな馬相手に、リックは格闘戦で互角の戦いを演じた。
結果は引き分けで終わり、両者ぼろぼろになってしまう。メシアはまず馬の手当をした後、リックを医療室に連れて行った。現在彼女とリックは、馬小屋近くにあった医療室にいて、彼女がリックを手当てしている。
「私の馬相手に互角とはな。あいつは武装した騎士すら軽く殺してしまえるのだぞ」
「あんだけ強ければ可能ですよね・・・・・・。後半は死ぬかと思いましたよ」
切り傷擦り傷だらけの身体に、彼女は丁寧に包帯を巻いていく。勿論、とっても沁みる消毒液も忘れずにである。
何度も実戦を経験した、騎士団長である彼女は、当然のように手当も手馴れている。
「んっ、左手を見せろ」
「えっ?はっ、はい・・・・・」
一通りの手当を済ませた彼女だったが、リックに左手を見せろと言う。彼女に従って手を出すリック。
見ると、彼の左手の人差し指に、小さな切り傷ができていた。
「このぐらい舐めてれば治ります。だから消毒は勘弁してください、滅茶苦茶沁みるので」
「そうだな」
そう言うとメシアは次の瞬間、リックにとっては信じられない驚くべき素晴らしい行動に出る。
何と彼女は、リックの人差し指を自身の口元に運び、躊躇なく咥えたのである。
「めっめっめっ、メシア団長!?」
声が裏返ってしまったリックを気にせず、咥えた指の傷口を舐め続ける。
若干上目遣いで彼を見つめながら、念入りに丁寧に優しく舐めていた。リックはこの時、心の中で大いに歓喜し、「今まで生きてて本当に良かった・・・・・」と感動してしまっていた。
「んっ・・・・、もういいぞ」
(えっ・・・・エロかった・・・・・・・・)
「消毒液が勿体ないからな。私の唾液で我慢しろ」
「我慢なんてとんでもない!!もうこの手一生洗いません!!!」
「傷が悪化するから洗え」
舐められた指を愛おしそうに見つめ、目をキラキラと輝かせているリック。目の前に未だかつてない御馳走を出され、感動してしまっている子供のようだ。「咥えたい、メシア団長の唾液を・・・・・・。でも、それをやったらいよいよ人間として終わりな気がする・・・・・・」と、リックは内心考えているのだが、この心の中の声は、彼女お得意の読心術で筒抜けであった。
(そんなに嬉しいのか。私の唾液が)
もうお分かりかも知れないが、メシアは天然が入っているのだ。
この時のリックの感動の意味など、わかるはずもない。
「まあいい。リック、お前に一つ言いたい事がある」
「はい?何ですか、改まって」
「お前は傷つき過ぎる。もっと自分の身体を大切にしろ」
彼女は今、心から心配している。冗談ではなく、本気だった。
彼が戦いに赴くと、必ず傷だらけで帰って来る。その手に勝利を勝ち取ってだ。業火戦争も、南ローミリア決戦も、リックはその身体を傷つけた。守るべきものを命懸けで守った結果だ。
だが、それが彼女は許せない。
「もしかして、・・・・・怒ってますか?」
「お前の命は一つだ。幾ら陛下を守るためでも、無茶が過ぎる。陛下だけでなく、仲間を救おうとする時もそうだ。私がお前を守れるのにも限界があるのだぞ」
「それは・・・・・」
「言い訳は許さない。私はお前が心配だ」
真剣な表情を浮かべ、鋭い眼差しでリックを見つめる。その眼は、彼が初めて彼女に会い、取り調べを受けた時と同じであった。この鋭い眼差しは、彼女が本気の証だ。
「視線で殺されそうです・・・・・・」
「お前は多くを守っているが、それは同時に、多くに守られている事を意味する。私はお前を守る者の一人だ。お前ならばわかっているはずだ」
「・・・・・以後、気をつけます」
しゅんとして、一気に落ち込むリック。尊敬する彼女に、真剣に怒られては敵わないのだ。
場に流れる沈黙。真面目な雰囲気の、暗い空気。だがしかし・・・・・・。
ぐうううううぐぎゅるるるぅぅぅーーーーー・・・・・・。
沈黙を破ったのは、リックの腹の音であった。
「どうした?」
「結構暴れたので・・・・・・お腹が空きました」
「待っていろ。何か持ってきてやる」
「いいですよ、自分で行き・・・・・・あいたたたっ」
「ここで大人しくしていろ」
怪我のせいでしばらく動けないリックに代わり、彼女が動く。
医療室から出て、食べ物を探しに行くメシア。食堂ならば何かあるだろうと、そこへ向かう。
「じっとしていろ」
「はい・・・・・、いてて・・・・・」
あの軍馬は並の馬ではない。その能力は帝国随一であり、大陸中でも五本の指に入る事だろう。
戦闘力は通常の馬を超えており、並の人間では太刀打ちできない。そんな馬相手に、リックは格闘戦で互角の戦いを演じた。
結果は引き分けで終わり、両者ぼろぼろになってしまう。メシアはまず馬の手当をした後、リックを医療室に連れて行った。現在彼女とリックは、馬小屋近くにあった医療室にいて、彼女がリックを手当てしている。
「私の馬相手に互角とはな。あいつは武装した騎士すら軽く殺してしまえるのだぞ」
「あんだけ強ければ可能ですよね・・・・・・。後半は死ぬかと思いましたよ」
切り傷擦り傷だらけの身体に、彼女は丁寧に包帯を巻いていく。勿論、とっても沁みる消毒液も忘れずにである。
何度も実戦を経験した、騎士団長である彼女は、当然のように手当も手馴れている。
「んっ、左手を見せろ」
「えっ?はっ、はい・・・・・」
一通りの手当を済ませた彼女だったが、リックに左手を見せろと言う。彼女に従って手を出すリック。
見ると、彼の左手の人差し指に、小さな切り傷ができていた。
「このぐらい舐めてれば治ります。だから消毒は勘弁してください、滅茶苦茶沁みるので」
「そうだな」
そう言うとメシアは次の瞬間、リックにとっては信じられない驚くべき素晴らしい行動に出る。
何と彼女は、リックの人差し指を自身の口元に運び、躊躇なく咥えたのである。
「めっめっめっ、メシア団長!?」
声が裏返ってしまったリックを気にせず、咥えた指の傷口を舐め続ける。
若干上目遣いで彼を見つめながら、念入りに丁寧に優しく舐めていた。リックはこの時、心の中で大いに歓喜し、「今まで生きてて本当に良かった・・・・・」と感動してしまっていた。
「んっ・・・・、もういいぞ」
(えっ・・・・エロかった・・・・・・・・)
「消毒液が勿体ないからな。私の唾液で我慢しろ」
「我慢なんてとんでもない!!もうこの手一生洗いません!!!」
「傷が悪化するから洗え」
舐められた指を愛おしそうに見つめ、目をキラキラと輝かせているリック。目の前に未だかつてない御馳走を出され、感動してしまっている子供のようだ。「咥えたい、メシア団長の唾液を・・・・・・。でも、それをやったらいよいよ人間として終わりな気がする・・・・・・」と、リックは内心考えているのだが、この心の中の声は、彼女お得意の読心術で筒抜けであった。
(そんなに嬉しいのか。私の唾液が)
もうお分かりかも知れないが、メシアは天然が入っているのだ。
この時のリックの感動の意味など、わかるはずもない。
「まあいい。リック、お前に一つ言いたい事がある」
「はい?何ですか、改まって」
「お前は傷つき過ぎる。もっと自分の身体を大切にしろ」
彼女は今、心から心配している。冗談ではなく、本気だった。
彼が戦いに赴くと、必ず傷だらけで帰って来る。その手に勝利を勝ち取ってだ。業火戦争も、南ローミリア決戦も、リックはその身体を傷つけた。守るべきものを命懸けで守った結果だ。
だが、それが彼女は許せない。
「もしかして、・・・・・怒ってますか?」
「お前の命は一つだ。幾ら陛下を守るためでも、無茶が過ぎる。陛下だけでなく、仲間を救おうとする時もそうだ。私がお前を守れるのにも限界があるのだぞ」
「それは・・・・・」
「言い訳は許さない。私はお前が心配だ」
真剣な表情を浮かべ、鋭い眼差しでリックを見つめる。その眼は、彼が初めて彼女に会い、取り調べを受けた時と同じであった。この鋭い眼差しは、彼女が本気の証だ。
「視線で殺されそうです・・・・・・」
「お前は多くを守っているが、それは同時に、多くに守られている事を意味する。私はお前を守る者の一人だ。お前ならばわかっているはずだ」
「・・・・・以後、気をつけます」
しゅんとして、一気に落ち込むリック。尊敬する彼女に、真剣に怒られては敵わないのだ。
場に流れる沈黙。真面目な雰囲気の、暗い空気。だがしかし・・・・・・。
ぐうううううぐぎゅるるるぅぅぅーーーーー・・・・・・。
沈黙を破ったのは、リックの腹の音であった。
「どうした?」
「結構暴れたので・・・・・・お腹が空きました」
「待っていろ。何か持ってきてやる」
「いいですよ、自分で行き・・・・・・あいたたたっ」
「ここで大人しくしていろ」
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