653 / 841
第四十一話 代価
9
しおりを挟む
救出された真夜と華夜は、帝国国防軍兵士に保護されたまま、陣地内の救護用天幕に運び込まれた。
天幕内で真夜はアングハルトから、ボーゼアス義勇軍陣地で男達に暴行された際の手当てを受け、今は救護用のベットの上に座っている。隣のベットには、気絶したまま運び込まれた華夜が寝かされていた。
「落ち着きましたか?」
手当てを受け終わり、腰を下ろしたベッドの上で俯く真夜に、手当てを行なったアングハルトが話しかけた。
声をかけられた事で顔を上げて真夜は、自分を見つめるアングハルトと目が合った。彼女は無表情だったが、見つめるその瞳は自分の身を心配してくれていると感じ、真夜は小さく頷いて答えた。
その反応を見て安心した彼女は、勇者に対して見せる軍人としての表情を和らげ、真夜に向けて少し微笑む。だが彼女は、真夜の頬に当てられている、塗り薬で貼り付けられた布を見て表情を曇らせた。
「頬の痕、残らないといいですが⋯⋯⋯⋯」
布が貼られている真夜の頬は、男達に暴行された怪我の一つである。殴られて腫れてしまった頬に、そのまま痕が残ってしまわないかと、アングハルトは心配しているのだ。
「⋯⋯⋯⋯顔の怪我なんて、どうでもいい」
「どうでもよくはありません。せっかくの綺麗な顔なのに」
「こんな顔だったから⋯⋯⋯⋯。男を喜ばせるこんな身体をしていたから、あんな目に遭った⋯⋯⋯⋯!」
真夜の脳裏に蘇る、敵陣地で男達に身動きを封じられ、為す術もなく陵辱されかけた記憶。しかもその光景は、妹である華夜にも見られてしまっていた。
誰にも見られたくなかった姿。今すぐにでも忘れ去りたい記憶。それなのに、真夜の心と体には、消える事のない傷として残り続けている。あの時の味わった恐怖を思い出すと、アングハルトの励ましの言葉ですら怒りを覚えてしまう。
「みんなにも、あなたにだってわからない。あの恐さは、誰にも⋯⋯⋯⋯!」
腰を下ろしたベッドの上で膝を抱え、体が覚えてしまった恐怖に震える真夜。そこにはいつもの毅然とした姿はなく、膝を抱えて震える今の彼女の姿は、恐い存在に怯える幼い少女のようであった。
「私にはわかります、あなたの気持ちが」
静かにそう答えたアングハルトの言葉に、「そんなはずない」と声を上げようとした真夜が顔を上げる。口を開きかけた真夜の瞳に映ったのは、目の前にいるアングハルトが自身の軍服に手をかけ、何も言わず突然服を脱ぎ出し始めた光景だった。
驚いた真夜が固まってしまった間も、彼女は黙々と軍服を脱ぎ捨てていき、軍服の下に着ていたシャツも脱いでしまう。最後に残った下着すらも躊躇なく脱ぎ、一糸纏わぬ上半身を真夜の前に晒して見せる。
アングハルトの裸を目にした真夜は、一瞬で言葉を失った。
兵士となるべく鍛えられた男顔負けの肉体。女性にも関わらず、腹筋は綺麗に割れており、鍛えた身体のお陰で肩幅は広く、両腕には力強い筋肉が宿っている。それでも、女としての部分はしっかり残っており、胸は整った形をしていて真夜よりも大きかった。
だが驚くべきは、鍛え抜かれた彼女の肉体美ではなく、身体中に刻まれた無数の傷痕だった。
傷痕はどれも新しいものではなく、傷口は塞がったものの、痕として残ってしまったものばかりである。切り傷や刺し傷、それに火傷の痕まで、彼女の身体には様々な傷痕が刻まれてしまっていた。
戦場で戦ったために負った負傷の数々に見えるが、それにしては傷だらけ過ぎる。見るも痛々しい彼女の身体に驚愕していた真夜だったが、次の瞬間アングハルトが振り返り、自分に向けて背中を見せた事で、思わず声にならない悲鳴を上げてしまう。
「っ!?」
「これが、あなたの気持ちがわかる理由です」
前も傷だらけであったが、背中にはもっと多くの無残な傷痕が残っていた。
戦いの最中で負った切り傷や刺し傷などではない。誰かに鞭か何かで徹底的に打ち付けられた、酷い傷痕の数々。見ているこっちが痛みを覚えてしまう程の、目を背けたくなる姿だった。
「あなたと同じように、私も敵に捕まった過去があります」
「⋯⋯⋯⋯!」
「一度目は野盗に、二度目はジエーデル国軍に。どちらも、男達が私の体を玩具にするのに変わりはなかった」
かつてアングハルトは、自身が口にした通り戦場で敵に捕らえられ、酷い拷問を受けた経験がある。身体中に刻まれた彼女の傷は、戦場で負ったものばかりではなく、その時の拷問で受けた傷も沢山あった。特に彼女の背中は、二回の拷問で受けた暴行によるものである。
「痛みと恐怖で泣き叫ぼうと関係ない。寧ろ、泣いて苦しむ私の様に益々喜んで、陵辱と拷問を続けた。背中の傷痕は、二度の拷問で受けた鞭の痕です」
詳しく語られなくても察しは付く。その時の男達が彼女に何をしたのか、彼女がどんな地獄を味わったのか、何もかも想像できてしまう。
今日自分が味わった痛みや恐怖など、彼女が経験した地獄に比べれば⋯⋯⋯⋯。そう思うと、自分は運が良かったと考える半分、あの時華夜が助けてくれていなければ、彼女と同じ目に遭っていたかもしれないと、真夜は戦慄した。
「あの時の恐怖が忘れられなくて、極度に男を怖がるようになってしまった私は、男に少し触れられただけでも怯えてしまう。今のあなたと同じように⋯⋯⋯⋯」
この天幕に連れて来られた時も、真夜は男の兵士に怯え、彼らに誘導される事も治療を受ける事も拒んでしまった。そこで、彼女の気持ちを理解していたアングハルトは、黙って真夜の手を引いてここまで連れて来て、彼女の手当ても行なったのである。真夜の気持ちを考え、彼女達以外は人払いもされていた。
アングハルトは知っている。獣《けだもの》と変わらない飢えた男達の手によって、為す術もなく己の身体を蹂躙される感覚。無理やり犯された時に見てしまった、下衆な笑みを浮かべて迫る男達の顔は、忘れられない恐怖として残り続ける。
違うと頭では分かっていても、他の男達も下衆共と同じに見えてしまう。だから男という存在に怯えてしまう。そんな真夜を理解する事が出来るのは、同じ経験をしたアングハルトだけだった。
「私を傷物にして、汚《けが》して、犯すだけでは飽き足らず、心に消えない傷を残していった。この傷は永遠に消えません」
「⋯⋯⋯⋯そんな人が、どうしてまだ戦場に?」
無意識に思ってしまった事を呟いた真夜の言葉で、背中を向けていたアングハルトが振り返る。
真夜からしてみれば、そこまでの地獄を二度も味わっても尚、彼女が未だに軍人を続けられるのか理解できなかった。再び戦場に立てば、また敵に捕らえられて拷問や陵辱を受けるかもしれない。それなのに彼女は、地獄を恐れず軍服を身に纏っている。
不思議に思っている真夜の顔を見た彼女は、優しく微笑みながら答えて見せた。
「私を二度も地獄から救い出してくれた、大切な人の役に立ちたいからです」
そう答えた彼女の脳裏に、自分を地獄から救い出してくれた最愛の人との、初めての出会いが蘇る。あの時彼から感じた優しさが、温もりが、絶望していた彼女に光を与えた。その光があったから、彼女はこうして微笑む事が出来る。
「私には戦う事しかできない。だから、あの方の役に立てる場はここだけなんです」
「強い人ですね、あなたは⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「男が恐くて仕方ないのに、そんな想いだけで前を向けるなんて⋯⋯⋯⋯。私には真似できない」
アングハルトは真夜以上の地獄を味わった。なのに彼女は自分とは違って、膝を抱えて震え続ける事はなく、心に刻まれた深い傷と共に前を向いてる。
彼女の様には絶対になれない。今の真夜には、アングハルトの存在が眩し過ぎた。
「戦うんです、あなたも」
「戦う⋯⋯⋯⋯?」
「心に負った傷も、忘れられぬ恐怖も、全てあなたを苦しめる敵です。自分自身の心と戦い続け、この苦しみをお互いに打ち払いましょう」
アングハルトは真夜の傍に腰かけ、震える彼女の手を取った。
お互いの目と目が合い、強い意志を秘めたアングハルトの瞳が、閉じられた真夜の心を動かしていく。
「⋯⋯⋯⋯私も、あなたと同じように戦えますか?」
「もちろんです。あなたは自分で考えるより、ずっと強い女性だと私は思います」
アングハルトは気付いている。真夜は詳しく語っていないが、捕まった二人の内、男達に襲われたのは真夜だけだったと⋯⋯⋯⋯。
気付いた理由は簡単だった。破かれた衣服と、暴行を受けた痕がある真夜と違い、華夜は無傷と言っていい状態であったからだ。華夜が襲われなかったのにはいくつもの理由があるが、真夜が彼女を守ろうと必死だった結果でもある。
男達に襲われながらも華夜を守ろうとした彼女が、弱い女性なはずがない。だからこそアングハルトは、彼女を強い女性と称して励ました。
「絶望なんて似合わない。あなたならきっと戦える」
優しく、そして温かいアングハルトの言葉が、堪えていた真夜の感情を溢れさせる。悲しみや苦しみ、そして彼女に励まされて得た喜びが、溢れ出して止まらなくなる。
堪えていた感情を制御できなくなった真夜が、悲しみと苦しみと喜びで溢れ出た涙を流す。これまでの人生で、一日にこれだけ泣いた事はない。我慢できず、涙を溢れさせながら大声で泣いてしまってもいる。人前でこんな姿を見せるのも、彼女は初めてだった。
堪え切れずに泣き始めた真夜は、傍に寄り添っていたアングハルトに抱き付くと、彼女の胸の中で泣き続けた。幼子の様に泣いてしまっている真夜に、アングハルトは何も言わずに自分の体を貸した。
互いの苦しみを理解し合える二人だけの時間が、真夜の涙と共に優しく流れていった⋯⋯⋯⋯。
天幕内で真夜はアングハルトから、ボーゼアス義勇軍陣地で男達に暴行された際の手当てを受け、今は救護用のベットの上に座っている。隣のベットには、気絶したまま運び込まれた華夜が寝かされていた。
「落ち着きましたか?」
手当てを受け終わり、腰を下ろしたベッドの上で俯く真夜に、手当てを行なったアングハルトが話しかけた。
声をかけられた事で顔を上げて真夜は、自分を見つめるアングハルトと目が合った。彼女は無表情だったが、見つめるその瞳は自分の身を心配してくれていると感じ、真夜は小さく頷いて答えた。
その反応を見て安心した彼女は、勇者に対して見せる軍人としての表情を和らげ、真夜に向けて少し微笑む。だが彼女は、真夜の頬に当てられている、塗り薬で貼り付けられた布を見て表情を曇らせた。
「頬の痕、残らないといいですが⋯⋯⋯⋯」
布が貼られている真夜の頬は、男達に暴行された怪我の一つである。殴られて腫れてしまった頬に、そのまま痕が残ってしまわないかと、アングハルトは心配しているのだ。
「⋯⋯⋯⋯顔の怪我なんて、どうでもいい」
「どうでもよくはありません。せっかくの綺麗な顔なのに」
「こんな顔だったから⋯⋯⋯⋯。男を喜ばせるこんな身体をしていたから、あんな目に遭った⋯⋯⋯⋯!」
真夜の脳裏に蘇る、敵陣地で男達に身動きを封じられ、為す術もなく陵辱されかけた記憶。しかもその光景は、妹である華夜にも見られてしまっていた。
誰にも見られたくなかった姿。今すぐにでも忘れ去りたい記憶。それなのに、真夜の心と体には、消える事のない傷として残り続けている。あの時の味わった恐怖を思い出すと、アングハルトの励ましの言葉ですら怒りを覚えてしまう。
「みんなにも、あなたにだってわからない。あの恐さは、誰にも⋯⋯⋯⋯!」
腰を下ろしたベッドの上で膝を抱え、体が覚えてしまった恐怖に震える真夜。そこにはいつもの毅然とした姿はなく、膝を抱えて震える今の彼女の姿は、恐い存在に怯える幼い少女のようであった。
「私にはわかります、あなたの気持ちが」
静かにそう答えたアングハルトの言葉に、「そんなはずない」と声を上げようとした真夜が顔を上げる。口を開きかけた真夜の瞳に映ったのは、目の前にいるアングハルトが自身の軍服に手をかけ、何も言わず突然服を脱ぎ出し始めた光景だった。
驚いた真夜が固まってしまった間も、彼女は黙々と軍服を脱ぎ捨てていき、軍服の下に着ていたシャツも脱いでしまう。最後に残った下着すらも躊躇なく脱ぎ、一糸纏わぬ上半身を真夜の前に晒して見せる。
アングハルトの裸を目にした真夜は、一瞬で言葉を失った。
兵士となるべく鍛えられた男顔負けの肉体。女性にも関わらず、腹筋は綺麗に割れており、鍛えた身体のお陰で肩幅は広く、両腕には力強い筋肉が宿っている。それでも、女としての部分はしっかり残っており、胸は整った形をしていて真夜よりも大きかった。
だが驚くべきは、鍛え抜かれた彼女の肉体美ではなく、身体中に刻まれた無数の傷痕だった。
傷痕はどれも新しいものではなく、傷口は塞がったものの、痕として残ってしまったものばかりである。切り傷や刺し傷、それに火傷の痕まで、彼女の身体には様々な傷痕が刻まれてしまっていた。
戦場で戦ったために負った負傷の数々に見えるが、それにしては傷だらけ過ぎる。見るも痛々しい彼女の身体に驚愕していた真夜だったが、次の瞬間アングハルトが振り返り、自分に向けて背中を見せた事で、思わず声にならない悲鳴を上げてしまう。
「っ!?」
「これが、あなたの気持ちがわかる理由です」
前も傷だらけであったが、背中にはもっと多くの無残な傷痕が残っていた。
戦いの最中で負った切り傷や刺し傷などではない。誰かに鞭か何かで徹底的に打ち付けられた、酷い傷痕の数々。見ているこっちが痛みを覚えてしまう程の、目を背けたくなる姿だった。
「あなたと同じように、私も敵に捕まった過去があります」
「⋯⋯⋯⋯!」
「一度目は野盗に、二度目はジエーデル国軍に。どちらも、男達が私の体を玩具にするのに変わりはなかった」
かつてアングハルトは、自身が口にした通り戦場で敵に捕らえられ、酷い拷問を受けた経験がある。身体中に刻まれた彼女の傷は、戦場で負ったものばかりではなく、その時の拷問で受けた傷も沢山あった。特に彼女の背中は、二回の拷問で受けた暴行によるものである。
「痛みと恐怖で泣き叫ぼうと関係ない。寧ろ、泣いて苦しむ私の様に益々喜んで、陵辱と拷問を続けた。背中の傷痕は、二度の拷問で受けた鞭の痕です」
詳しく語られなくても察しは付く。その時の男達が彼女に何をしたのか、彼女がどんな地獄を味わったのか、何もかも想像できてしまう。
今日自分が味わった痛みや恐怖など、彼女が経験した地獄に比べれば⋯⋯⋯⋯。そう思うと、自分は運が良かったと考える半分、あの時華夜が助けてくれていなければ、彼女と同じ目に遭っていたかもしれないと、真夜は戦慄した。
「あの時の恐怖が忘れられなくて、極度に男を怖がるようになってしまった私は、男に少し触れられただけでも怯えてしまう。今のあなたと同じように⋯⋯⋯⋯」
この天幕に連れて来られた時も、真夜は男の兵士に怯え、彼らに誘導される事も治療を受ける事も拒んでしまった。そこで、彼女の気持ちを理解していたアングハルトは、黙って真夜の手を引いてここまで連れて来て、彼女の手当ても行なったのである。真夜の気持ちを考え、彼女達以外は人払いもされていた。
アングハルトは知っている。獣《けだもの》と変わらない飢えた男達の手によって、為す術もなく己の身体を蹂躙される感覚。無理やり犯された時に見てしまった、下衆な笑みを浮かべて迫る男達の顔は、忘れられない恐怖として残り続ける。
違うと頭では分かっていても、他の男達も下衆共と同じに見えてしまう。だから男という存在に怯えてしまう。そんな真夜を理解する事が出来るのは、同じ経験をしたアングハルトだけだった。
「私を傷物にして、汚《けが》して、犯すだけでは飽き足らず、心に消えない傷を残していった。この傷は永遠に消えません」
「⋯⋯⋯⋯そんな人が、どうしてまだ戦場に?」
無意識に思ってしまった事を呟いた真夜の言葉で、背中を向けていたアングハルトが振り返る。
真夜からしてみれば、そこまでの地獄を二度も味わっても尚、彼女が未だに軍人を続けられるのか理解できなかった。再び戦場に立てば、また敵に捕らえられて拷問や陵辱を受けるかもしれない。それなのに彼女は、地獄を恐れず軍服を身に纏っている。
不思議に思っている真夜の顔を見た彼女は、優しく微笑みながら答えて見せた。
「私を二度も地獄から救い出してくれた、大切な人の役に立ちたいからです」
そう答えた彼女の脳裏に、自分を地獄から救い出してくれた最愛の人との、初めての出会いが蘇る。あの時彼から感じた優しさが、温もりが、絶望していた彼女に光を与えた。その光があったから、彼女はこうして微笑む事が出来る。
「私には戦う事しかできない。だから、あの方の役に立てる場はここだけなんです」
「強い人ですね、あなたは⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「男が恐くて仕方ないのに、そんな想いだけで前を向けるなんて⋯⋯⋯⋯。私には真似できない」
アングハルトは真夜以上の地獄を味わった。なのに彼女は自分とは違って、膝を抱えて震え続ける事はなく、心に刻まれた深い傷と共に前を向いてる。
彼女の様には絶対になれない。今の真夜には、アングハルトの存在が眩し過ぎた。
「戦うんです、あなたも」
「戦う⋯⋯⋯⋯?」
「心に負った傷も、忘れられぬ恐怖も、全てあなたを苦しめる敵です。自分自身の心と戦い続け、この苦しみをお互いに打ち払いましょう」
アングハルトは真夜の傍に腰かけ、震える彼女の手を取った。
お互いの目と目が合い、強い意志を秘めたアングハルトの瞳が、閉じられた真夜の心を動かしていく。
「⋯⋯⋯⋯私も、あなたと同じように戦えますか?」
「もちろんです。あなたは自分で考えるより、ずっと強い女性だと私は思います」
アングハルトは気付いている。真夜は詳しく語っていないが、捕まった二人の内、男達に襲われたのは真夜だけだったと⋯⋯⋯⋯。
気付いた理由は簡単だった。破かれた衣服と、暴行を受けた痕がある真夜と違い、華夜は無傷と言っていい状態であったからだ。華夜が襲われなかったのにはいくつもの理由があるが、真夜が彼女を守ろうと必死だった結果でもある。
男達に襲われながらも華夜を守ろうとした彼女が、弱い女性なはずがない。だからこそアングハルトは、彼女を強い女性と称して励ました。
「絶望なんて似合わない。あなたならきっと戦える」
優しく、そして温かいアングハルトの言葉が、堪えていた真夜の感情を溢れさせる。悲しみや苦しみ、そして彼女に励まされて得た喜びが、溢れ出して止まらなくなる。
堪えていた感情を制御できなくなった真夜が、悲しみと苦しみと喜びで溢れ出た涙を流す。これまでの人生で、一日にこれだけ泣いた事はない。我慢できず、涙を溢れさせながら大声で泣いてしまってもいる。人前でこんな姿を見せるのも、彼女は初めてだった。
堪え切れずに泣き始めた真夜は、傍に寄り添っていたアングハルトに抱き付くと、彼女の胸の中で泣き続けた。幼子の様に泣いてしまっている真夜に、アングハルトは何も言わずに自分の体を貸した。
互いの苦しみを理解し合える二人だけの時間が、真夜の涙と共に優しく流れていった⋯⋯⋯⋯。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
神の盤上〜異世界漫遊〜
バン
ファンタジー
異世界へ飛ばされた主人公は、なぜこうなったのかも分からぬまま毎日を必死に生きていた。
同じく異世界へと飛ばされた同級生達が地球に帰る方法を模索している中で主人公は違う道を選択した。
この異世界で生きていくという道を。
なぜそのような選択を選んだのか、なぜ同級生達と一緒に歩まなかったのか。
そして何が彼を変えてしまったのか。
これは一人の人間が今を生きる意味を見出し、運命と戦いながら生きていく物語である。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる