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第七話 侵略者
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ヴァスティナ帝国を建国した、二人の英雄。
初代ヴァスティナ王と王妃が、この国を大きくし、ローミリア大陸南に、強大な帝国ありと言われる程の、先進国家へと成長させた。現在は小国であるが、二人が国を動かしていた時は、今の何倍も広い領土を持ち、軍事力も今以上であった。
それが今では、南の一小国に過ぎない。理由は、帝国の衰退原因にある。
建国当初は、この地域に元々いた貴族たちと良好な関係にあり、英雄二人の力もあって、信じられない急成長を遂げた。しかし、初代ヴァスティナ王と王妃は、歳が五十を超える前に、病でこの世を去る。
二人の間には一人の息子がおり、その彼が次期国王となった。親であった二人と比べると、二代目ヴァスティナ王は、力ある王ではなく、人徳のある王として国を治める。そして、国家のこれ以上の成長は、他の大国を刺激すると考えた二代目ヴァスティナ王。彼は貴族たちと話し合い、国家の成長を止めた。
この判断は正しく、帝国を危険視していた大国は、これで、ヴァスティナ帝国は将来の敵国にならないと判断し、以来この国が、侵略の危機に直面する事はなかったのである。
国家の成長を止め、これから国内の、農業改革に乗り出そうとした矢先、彼もまた、病でこの世を去る。元々彼は体が弱く、王の責任は荷が重すぎたのだ。
二代目までは、真に帝国の事を考え行動し、この国の繁栄と平和を願っていた。だが、三代目のヴァスティナ王は、自分の事しか考えない人物であった。
二代目は優しい性格であったため、一人息子に対し、とても甘かった。甘やかされて育ってきた三代目の王は、基本的に我儘な子供であった。二代目が早死にしてしまい、王としての責任を、しっかりと教えられる事がなかったのである。そのため、三代目ヴァスティナ王は、自分勝手な王として振る舞い、酒と女に湯水のように金を使い、帝国の財を食い尽くしていった。
この王に貴族たちは猛反発。王と貴族たちは対立し、以降友好関係が築かれる事はなくなった。この三代目以降の王たちも、王としては最低の者たちで、徐々に帝国は衰退していったのである。
衰退が止まったのは、現女王ユリーシアの父親である、キメルネス・ヴァスティナが王となった時である。
財政が危機的状況となっていた当時、キメルネスは政治の立て直しを図った。彼の奔走により、危機的状況を脱しはしたが、相変わらず貴族との関係は回復せず、帝国に、かつての力を取り戻す事は叶わなかった。
特に、貴族たちは世代が変わり、反帝国の考えを持つ者が増えた状態だった。三代目以降の王の振る舞いが、現在までの、貴族たちとの対立を作り出してしまったのである。
毎日政務に明け暮れ、帝国を何とか立て直してきたが、この王もまた、事故によって亡くなってしまう。志半ばでの不幸な死。多くの民が、キメルネス王の死を嘆いた。
王が早くに亡くなり、国と民が次の王を必要としたが、この時王となる権利を持っていたのは、当時まだ十歳にも満たなかった、少女ユリーシアである。王の死で、ユリーシアは帝国のために、王となる決意を固める。彼女は父親の死からすぐに、国と民のため、ヴァスティナ帝国初の女王となった。
キメルネスの志を継ぎ、帝国を立て直す事に、彼女も奔走する。貴族との関係は改善出来なかったが、財政難を解消し、政治も正した。ヴァスティナに対する国民の信頼も取り戻し、彼女は国を救ったのである。
国を救うために彼女は、周辺諸国に自国の領地を与え、友好関係を築きながら資金を得た。宝物庫にあった帝国の宝も売り払い、財政立て直しの資金に充てる。さらに、キメルネスも行なっていたが、前々から予算のかかっていた、自国の軍備を出来るだけ縮小。そして、軍の縮小だけでなく、帝国内で徹底的な倹約を進めた。
給料や食費、女王自身の生活に至るまで、とにかく節約して消費を抑える。税率を上げず、財政の見直しと倹約で立て直す。彼女は一切の贅沢を捨てたのだ。
女王となったその日から、彼女は自由を捨て、国と民のために全力を尽くしてきた。生活は質素倹約を自ら率先して行ない、贅沢を禁じる。食生活では、高級食材などを一切口にせず、国民が食べているものと、同じものを食した。嗜好品も購入する事なく、趣味に金を使う事もない。
そんな彼女に、城中の者たちが胸を痛めた。まだ幼い身でありながら、自分自身に厳しく生きる。彼女だけに、そんな生活をさせてはならないと、他の者たちも倹約を徹底した。国民たちも、女王の生活の事を知り、彼女を帝国の新たな王と認める。
この時から、女王ユリーシアを中心に、帝国は一つになった。
もう政治は乱れない。王が自分勝手に振る舞う事もなく、国民の心が、王から離れていく事もない。かつての力は失われ、小国と変わらない国家となってしまったが、女王ユリーシアの力によって、ヴァスティナは安定を取り戻した。
そんなヴァスティナ帝国は、リックの登場で変わってしまった。彼の進める軍備増強計画。それは、とても予算のかかる計画である。リックの計画を成功させるため、女王は税を上げざる負えない。
税率を上げれば、当然国民の反感を買ってしまう。しかし、帝国国民は税率の上昇に、文句一つ言わなかった。
女王は国民に愛され、ほとんどの国民は、彼女の力になりたいと願っている。さらに、二度の王国との戦いで、軍備の増強が必要不可欠だと知った国民は、税の上昇は、寧ろ必要だと考えたのだ。
女王への信頼と、将来的脅威の可能性によって、軍備に多くの予算をまわす事が出来た。これも全て、女王ユリーシアのおかげである。彼女が帝国を立て直し、国民の信頼を勝ち得たからこそ、帝国軍の今があるのだ。
初代ヴァスティナ王と王妃が、この国を大きくし、ローミリア大陸南に、強大な帝国ありと言われる程の、先進国家へと成長させた。現在は小国であるが、二人が国を動かしていた時は、今の何倍も広い領土を持ち、軍事力も今以上であった。
それが今では、南の一小国に過ぎない。理由は、帝国の衰退原因にある。
建国当初は、この地域に元々いた貴族たちと良好な関係にあり、英雄二人の力もあって、信じられない急成長を遂げた。しかし、初代ヴァスティナ王と王妃は、歳が五十を超える前に、病でこの世を去る。
二人の間には一人の息子がおり、その彼が次期国王となった。親であった二人と比べると、二代目ヴァスティナ王は、力ある王ではなく、人徳のある王として国を治める。そして、国家のこれ以上の成長は、他の大国を刺激すると考えた二代目ヴァスティナ王。彼は貴族たちと話し合い、国家の成長を止めた。
この判断は正しく、帝国を危険視していた大国は、これで、ヴァスティナ帝国は将来の敵国にならないと判断し、以来この国が、侵略の危機に直面する事はなかったのである。
国家の成長を止め、これから国内の、農業改革に乗り出そうとした矢先、彼もまた、病でこの世を去る。元々彼は体が弱く、王の責任は荷が重すぎたのだ。
二代目までは、真に帝国の事を考え行動し、この国の繁栄と平和を願っていた。だが、三代目のヴァスティナ王は、自分の事しか考えない人物であった。
二代目は優しい性格であったため、一人息子に対し、とても甘かった。甘やかされて育ってきた三代目の王は、基本的に我儘な子供であった。二代目が早死にしてしまい、王としての責任を、しっかりと教えられる事がなかったのである。そのため、三代目ヴァスティナ王は、自分勝手な王として振る舞い、酒と女に湯水のように金を使い、帝国の財を食い尽くしていった。
この王に貴族たちは猛反発。王と貴族たちは対立し、以降友好関係が築かれる事はなくなった。この三代目以降の王たちも、王としては最低の者たちで、徐々に帝国は衰退していったのである。
衰退が止まったのは、現女王ユリーシアの父親である、キメルネス・ヴァスティナが王となった時である。
財政が危機的状況となっていた当時、キメルネスは政治の立て直しを図った。彼の奔走により、危機的状況を脱しはしたが、相変わらず貴族との関係は回復せず、帝国に、かつての力を取り戻す事は叶わなかった。
特に、貴族たちは世代が変わり、反帝国の考えを持つ者が増えた状態だった。三代目以降の王の振る舞いが、現在までの、貴族たちとの対立を作り出してしまったのである。
毎日政務に明け暮れ、帝国を何とか立て直してきたが、この王もまた、事故によって亡くなってしまう。志半ばでの不幸な死。多くの民が、キメルネス王の死を嘆いた。
王が早くに亡くなり、国と民が次の王を必要としたが、この時王となる権利を持っていたのは、当時まだ十歳にも満たなかった、少女ユリーシアである。王の死で、ユリーシアは帝国のために、王となる決意を固める。彼女は父親の死からすぐに、国と民のため、ヴァスティナ帝国初の女王となった。
キメルネスの志を継ぎ、帝国を立て直す事に、彼女も奔走する。貴族との関係は改善出来なかったが、財政難を解消し、政治も正した。ヴァスティナに対する国民の信頼も取り戻し、彼女は国を救ったのである。
国を救うために彼女は、周辺諸国に自国の領地を与え、友好関係を築きながら資金を得た。宝物庫にあった帝国の宝も売り払い、財政立て直しの資金に充てる。さらに、キメルネスも行なっていたが、前々から予算のかかっていた、自国の軍備を出来るだけ縮小。そして、軍の縮小だけでなく、帝国内で徹底的な倹約を進めた。
給料や食費、女王自身の生活に至るまで、とにかく節約して消費を抑える。税率を上げず、財政の見直しと倹約で立て直す。彼女は一切の贅沢を捨てたのだ。
女王となったその日から、彼女は自由を捨て、国と民のために全力を尽くしてきた。生活は質素倹約を自ら率先して行ない、贅沢を禁じる。食生活では、高級食材などを一切口にせず、国民が食べているものと、同じものを食した。嗜好品も購入する事なく、趣味に金を使う事もない。
そんな彼女に、城中の者たちが胸を痛めた。まだ幼い身でありながら、自分自身に厳しく生きる。彼女だけに、そんな生活をさせてはならないと、他の者たちも倹約を徹底した。国民たちも、女王の生活の事を知り、彼女を帝国の新たな王と認める。
この時から、女王ユリーシアを中心に、帝国は一つになった。
もう政治は乱れない。王が自分勝手に振る舞う事もなく、国民の心が、王から離れていく事もない。かつての力は失われ、小国と変わらない国家となってしまったが、女王ユリーシアの力によって、ヴァスティナは安定を取り戻した。
そんなヴァスティナ帝国は、リックの登場で変わってしまった。彼の進める軍備増強計画。それは、とても予算のかかる計画である。リックの計画を成功させるため、女王は税を上げざる負えない。
税率を上げれば、当然国民の反感を買ってしまう。しかし、帝国国民は税率の上昇に、文句一つ言わなかった。
女王は国民に愛され、ほとんどの国民は、彼女の力になりたいと願っている。さらに、二度の王国との戦いで、軍備の増強が必要不可欠だと知った国民は、税の上昇は、寧ろ必要だと考えたのだ。
女王への信頼と、将来的脅威の可能性によって、軍備に多くの予算をまわす事が出来た。これも全て、女王ユリーシアのおかげである。彼女が帝国を立て直し、国民の信頼を勝ち得たからこそ、帝国軍の今があるのだ。
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