贖罪の救世主

水野アヤト

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第三十六話 衝撃、ウエディング大作戦

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 婚姻の儀式は終わり、二人の結婚を祝福する宴が始まった。
 二人を祝うために集まった者達は、城内の宴の間に集まり、盛大な祝杯を挙げた。いくつものテーブルに並べられた、沢山の豪華な料理と酒。兵士もメイドも文官も関係なく、特に式の準備に関わった者達は、酒を片手に料理を次々と口へ運び、浴びる様に酒を飲み進めている。単純に腹を空かせているという理由もあるが、時間までに準備が間に合い、無事に結婚できた事が嬉しかった彼らは、打ち上げ気分でとにかく食べまくって飲みまくりたいのだ。
 宴の間には、プレシア孤児院の子供達の姿もあった。子供達は大人達に交じって、頬張るように次々と料理を口にしている。豪華な結婚式と、これまた豪華な料理の数々で、子供達はどうしようもなく嬉しそうに笑っていた。
 そんな子供達の姿を、式の主役である花婿と花嫁が、微笑ましく見つめている。

「ゴリオン、結婚おめでとう。戦場ではいつも助けられてばかりの私としては、まるで自分の事のように嬉しいよ」
「エミリオ、ありがとうなんだな」
「ちゃんと式が挙げられてよかったぜ!奥さんと幸せになれよ!!」
「ありがとうなんだな、ライガ。オラ、ユンと幸せになるだよ」
「それにしても君の結婚式だというのに、これではいつもの宴と変わらないね」

 花婿と花嫁の専用の席には、永遠の愛を誓ったゴリオンとユンの姿がある。ゴリオンのもとには、彼に改めて祝いの言葉を述べようと、エミリオとライガが集まっていた。
 エミリオが普段の宴と変わらないと述べた理由は、主に鉄血部隊の面々のせいである。結婚式だというのに、まったく遠慮がないのだ。

「酒だ!酒持ってこい!!」
「つまみが足んねぇぞ!なんでもいいから持ってきやがれ!」
「慣れねぇことして疲れちまったぜ。こんな日は酒を飲むに限るな」
「おめぇなに言ってんだ!俺達の酒飲みは年中無休だろうが!」
「がっははははははは!!そいつは違いないぜ!」

 帝国一の飲んだくれ集団は、他人の結婚式でも平常運転である。酒が飲める場所で彼らを止められる者は、誰もいない。

「ごくっ、ごくっ、ごくっ⋯⋯⋯⋯!かあ~っ!!麦酒が体に染み渡るで!」
「飲め飲め宴会担当!!まだまだこんなもんじゃねぇだろう!」
「当たり前じゃ!うちを誰だと思っとるんや!?今日は吐くまで飲んだるわ!!」
「よく言った!!おい誰か!シャランドラに一番強いの渡してやれ!!」
「あ~ん♡シャランドラ様が潰れたらお持ち帰り確定よ~♡」
「ノイチゴ、自重覚えて⋯⋯⋯⋯」

 寧ろ、その飲んだくれ集団に混じって、同じように騒ぐ者もいる。注意しても無駄だとわかっているため、エミリオは呆れて溜め息を吐くだけだった。

「みんな楽しそうだから気にしないんだな。エミリオも楽しんで欲しいだよ」
「君のそういう優しいところが、彼女の心を射止めたんだね」

 花嫁のユン・シャオが彼に惚れた理由は、彼の心の優しさだった。二人がユンのいる方へ視線を移すと、彼女の傍にも人が集まっている。

「ウルスラ様、リリカ様。こんなにも素晴らしいドレス⋯⋯⋯、本当にありがとう御座います」
「ふふっ、良かったじゃないかメイド長。彼女、大満足しているよ」
「急いで作ったので心配でしたが⋯⋯⋯。気に入って頂けて、本当に良かった」
「満足しないわけがありませんわ。だってこのドレスは、メイド長とリリカさんの傑作ですもの。私《わたくし》も結婚する時は、御二人にドレスを作って貰いたいですわ」
 
 ユンのもとに集まっていたのは、彼女のためにドレスを作ったウルスラとリリカ、それにミュセイラであった。念願の豪華で盛大な結婚式が叶い、嬉しさと感動で涙が止まらない彼女は、先程からずっと泣いている。この光景は彼女にとって、夢にまで見た瞬間なのだから、泣いて喜んでしまうのも無理はない。

「私達のために、皆さんには本当にご迷惑をおかけしてしまいました。この御恩は、一生忘れません」
「気にする事はありません。私達は、当然の事をしたまでですから」
 
 そう言ってユンの前に現れたのは、酒が注がれたグラスを持つアングハルトであった。ゴリオンとユンの結婚を心から祝福し、微笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「この場の者達は皆、ゴリオン隊長が幸福になるのが自分事のように嬉しいんです。これまで隊長はその身を犠牲にして、体中傷だらけになりながらも、戦場で敵を恐れる事なく、仲間のために戦ってきました」
「アングハルトさん⋯⋯⋯」
「皆、隊長に救われているからこそ、隊長の幸せを願っています。隊長に幸せを与えてくれるあなたが、私達に恩を感じる必要はありません」

 普段の宴と変わらない状態であっても、集まった全員が、ゴリオンの幸せを願っているのは事実だ。理由は、アングハルトが口にした通りである。皆がそう願うくらい、今まで彼は多くの仲間を救ってきた。今日の結婚式の成功は、彼が救ってきた命のお陰なのである。
 
「アングハルトさんって、恥ずかし気なくかっこいいこと言っちゃえるから凄いですわよね」
「!?」
「そのお陰で、女性兵士達の間で王子様って呼ばれてるそうじゃないか」
「!?!?」
「メイド達の間でも人気です。特に、あのラブレター事件は今も尚を語り継がれる伝説の―――――」
「メイド長⋯⋯⋯!ユンさんの前でその話はやめて下さい!」
「ラブレターの話なら私も知ってます。街でも有名な話で、この国で知らない人はもういないと思います」
「!!!!」

 これまでの戦場での活躍と、他の女性が憧れる程のかっこいい姿と性格。そして、帝国軍では誰もが知っている、あのラブレター事件の件もあり、今やアングハルトはただの女性兵士ではない。帝国一有名な女性兵士で、この国の女性の憧れの存在なのだ。
 まさか自分がそうなっているとは知らず、雷に打たれたような衝撃を受け、その場に立ち尽くしてしまったアングハルト。あまりの恥ずかしさに、顔は苫のように真っ赤に染まり、思考は停止してしまった。
 そんな彼女達に構わず、宴は次の段階へと進んでいく。

「よっしゃ!!じゃあそろそろやったるで!」
「よっ!待ってました!!」
「酔い過ぎてぶっ倒れんじゃねぇぞ!」
「任しとき!!我らがゴリオンとユンっちの結婚を祝って、結婚式版ヴァスティナ帝国一発芸大会の開催や!!」
 
 今回の結婚式で、シャランドラは式を盛り上げる芸の司会進行を担当している。浴びるほど酒を飲み、既に出来上がっている状態ではあるものの、彼女は一発芸大会の開催を宣言した。酔っ払いの男達はともかく、冷静なエミリオやミュセイラ達は、とうとう始まってしまった一発芸大会に不安しか覚えない。

「そんじゃ最初は、誰もがよう知っとる犬猿の仲の二人の出番やで!!」
「ちっ⋯⋯⋯、今回だけは特別だ。おい槍女、出番だぞ!」
「言われなくともわかっている。私の足を引っ張るなよ、破廉恥剣士」

 最初の組は、レイナとクリスの二人であった。レイナは槍を、クリスは剣をそれぞれ握っており、部屋の中心で対峙する。
 
「まさか、お前と演武を披露する日が来るとはな」
「さっさとやっちまうぞ。動き、俺に合わせろよ」
「合わせるのはお前の方だ。いくぞ」

 二人の一発芸と言うか出し物は、自分の武術を活かした剣と槍の演武である。帝国軍最強の二枚看板である二人の演武ともなれば、さぞ美しい演武が見られるのではと、皆の期待も高まるが⋯⋯⋯。

「やるに千ベル」
「俺もやるに千ベル」
「じゃあ俺は二千ベル」
「最近のあいつら、ちょっとばかし仲が良さげだからな⋯⋯⋯。俺はやらないに千ベルだ」
「大穴狙いかよ部隊長。なら俺も、やらないに千だぜ」

 やるのか、やらないのか。その二択で突然賭けを始めてしまった、酔っ払いの男達。何の賭けなのか気になったシャランドラが、ヘルベルトに賭けの内容を聞いてみる。

「おっさん達、なんの賭け始めとるんや?」
「決まってるだろ。あの二人が演武の途中で喧嘩をやるか、やらないかだ」
「なんやそれ。ほんま、ひっどい飲んだくれ共やな」
「ほっとけ。酒と賭けは俺らの生き甲斐みたいなもんだ」
「子供に見せられん駄目な大人達やわ⋯⋯⋯。そんじゃうちは、やるに二千ベル」
「散々言っといてお前も賭けんのかよ!!」
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