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第三十六話 衝撃、ウエディング大作戦
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「ゴリオン。汝はこの女を妻とし、生涯を懸けて愛する事を誓いますか?」
「誓うんだな」
「ユン・シャオ。汝はこの男を夫とし、生涯を懸けて愛する事を誓いますか?」
「はい、誓います」
無事予定通りの時間に、二人の結婚式は執り行われた。
謁見の間には、ゴリオンとユンの結婚を見届け祝うべく、大勢の人間が駆けつけていた。ゴリオンと付き合いの長いリック達や、彼の部下達、それに兵士やメイド、調理場のおばちゃんまでもが、彼のために集まったのである。さらに、ユンの結婚を祝うため、孤児院から子供達も集まっている。皆一様に、特注の礼服に身を包んだゴリオンと、宝石のような美しさを放つ、純白のドレスを身に纏ったユンに、その眼を奪われていた。
式はエミリオの信仰のもと、女王であるアンジェリカも見届けながら、順調に執り行われていた。そんな中、二人の愛の誓いを見届けていた一同の中で、ヘルベルトがある事に気が付く。
「そいやぁ、あいつらの結婚指輪って誰か用意してたか?」
瞬間、その言葉を聞いていたリック達が、一瞬で凍り付いた。
彼らは大切なものの存在を忘れてしまっていた。結婚指輪とは、結ばれた男女の永遠の愛の証。それはローミリア大陸全土共通の話である。例外はない。
普通の指輪であれば、用意はそれほど難しくないだろう。ここで何とか時間を稼ぎ、指輪を間に合わせる事も可能かもしれない。だが、それは不可能なのである。ユンはともかく、一体どうやって、ゴリオン用の指輪を今から用意すればいいのだろう。巨体である彼の指にぴったり入る指輪など、特注しなければ用意できるはずがない。
(おっさん!!なんでそれ今思い出すんやぼけ!)
(ほんと使えねぇ奴だな!これだからロリコンは嫌なんだ!!)
(ヘルベルト殿、何故それを今気付いてしまうのですか⋯⋯⋯⋯)
(絶望的ですわ⋯⋯⋯。普段からお酒ばっかり飲んでるから、きっと頭をやられてるんですわね)
(流石のオレも、言葉が出てこねぇ⋯⋯⋯)
(おじさん、サイテー⋯⋯⋯⋯)
(お前なんて仲間じゃない⋯⋯⋯)
(好き勝手言い過ぎだろおい!!お前らだって忘れてたじゃねぇか!!)
(ヘルベルト、お前減給)
(なんでだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!)
結婚式の途中であるため、目で会話した一同。
絶望的な状況の中、希望の言葉を口にするのは、やはり彼女であった。
「問題ない、既に用意はできている」
そう言ったのは、ヴィヴィアンヌであった。彼女の言う通り、見ると二人の手元には、ユンのための小さな指輪と、ゴリオンのための大きな指輪があった。
「指輪の手配も万全だ。式の時間までに特注で作らせておいた」
実は、全員が気付かない内に、二人の指輪の手配を済ませていたのである。改めて、ヴィヴィアンヌの用意周到さを目にしつつ、彼女の完璧超人さに驚く一同。「よくまあ、あんな特注品を作らせて間に合わせる事ができたな」と、皆がそんな顔をして彼女を見ていた。その顔と視線を察した彼女が、更に言葉を続ける。
「特注で作らせるのも、それを間に合わせるのも簡単だった。金を積めば大抵のことは何とかなる」
「金を積んだってお前、あれに一体いくら使ったんだ?」
「閣下が好きにやっていいと仰っていたので、これだけ払わさせて頂きました」
そう言った彼女は懐から一枚の紙を取り出し、それをリックへと手渡した。折り畳まれたその紙を開くと、紙には文字と数字が書かれていた。その紙の正体は、指輪の代金が書かれた領収書である。
「!!!!」
そこには、彼の想像を超えた、とんでもない額が記されていた。彼はすぐさま懐に手をやり、自分の財布を取り出して中身を確認する。
「あっ、そうでしたわ参謀長。式の準備にかかった費用の領収書、今渡しておきますの」
「!?」
今度は、分厚い束の領収書がミュセイラから手渡される。大量の物資を特急で用意しただけあり、合計額はこれまた凄まじい事になっていた。
「好きにやっていいって言ったけど!責任は俺が取るって言ったけど!限度ってもんがあるだろ!?」
「まさか参謀長、全額自分で支払うつもりでしたの?」
「そっ、そりゃあこれでも参謀長だし⋯⋯⋯。ゴリオンのために、ちょっとかっこつけてみたくて⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯っで、どうするんですの参謀長?指輪の代金も含めたこの額、払えるんですの?」
詰め寄るミュセイラと、憐みの視線を送る一同。しかし、彼の答えは最初から決まっている。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯みんな頼む、お金を貸してくれ」
皆同時に、彼の切なる願いを聞かなかった事にし、視線を花婿と花嫁へと戻す。
深い溜息を吐き、がくりと肩を落としたリックに構うことなく、結婚式は無事進行していった。
「では、グラーフの女神ジャンヌ・ダルクに祈りを捧げ、永遠の愛を誓う口付けを⋯⋯⋯」
「オラ、守りたいんだな。ユンも子供たちも、みんなオラが守るんだな」
「そんな優しい貴方だから、ずっと傍にいたい。貴方に出会うことができて、本当によかった⋯⋯⋯」
「愛してるんだな、ユン」
「はい、ゴリオン様」
「誓うんだな」
「ユン・シャオ。汝はこの男を夫とし、生涯を懸けて愛する事を誓いますか?」
「はい、誓います」
無事予定通りの時間に、二人の結婚式は執り行われた。
謁見の間には、ゴリオンとユンの結婚を見届け祝うべく、大勢の人間が駆けつけていた。ゴリオンと付き合いの長いリック達や、彼の部下達、それに兵士やメイド、調理場のおばちゃんまでもが、彼のために集まったのである。さらに、ユンの結婚を祝うため、孤児院から子供達も集まっている。皆一様に、特注の礼服に身を包んだゴリオンと、宝石のような美しさを放つ、純白のドレスを身に纏ったユンに、その眼を奪われていた。
式はエミリオの信仰のもと、女王であるアンジェリカも見届けながら、順調に執り行われていた。そんな中、二人の愛の誓いを見届けていた一同の中で、ヘルベルトがある事に気が付く。
「そいやぁ、あいつらの結婚指輪って誰か用意してたか?」
瞬間、その言葉を聞いていたリック達が、一瞬で凍り付いた。
彼らは大切なものの存在を忘れてしまっていた。結婚指輪とは、結ばれた男女の永遠の愛の証。それはローミリア大陸全土共通の話である。例外はない。
普通の指輪であれば、用意はそれほど難しくないだろう。ここで何とか時間を稼ぎ、指輪を間に合わせる事も可能かもしれない。だが、それは不可能なのである。ユンはともかく、一体どうやって、ゴリオン用の指輪を今から用意すればいいのだろう。巨体である彼の指にぴったり入る指輪など、特注しなければ用意できるはずがない。
(おっさん!!なんでそれ今思い出すんやぼけ!)
(ほんと使えねぇ奴だな!これだからロリコンは嫌なんだ!!)
(ヘルベルト殿、何故それを今気付いてしまうのですか⋯⋯⋯⋯)
(絶望的ですわ⋯⋯⋯。普段からお酒ばっかり飲んでるから、きっと頭をやられてるんですわね)
(流石のオレも、言葉が出てこねぇ⋯⋯⋯)
(おじさん、サイテー⋯⋯⋯⋯)
(お前なんて仲間じゃない⋯⋯⋯)
(好き勝手言い過ぎだろおい!!お前らだって忘れてたじゃねぇか!!)
(ヘルベルト、お前減給)
(なんでだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!)
結婚式の途中であるため、目で会話した一同。
絶望的な状況の中、希望の言葉を口にするのは、やはり彼女であった。
「問題ない、既に用意はできている」
そう言ったのは、ヴィヴィアンヌであった。彼女の言う通り、見ると二人の手元には、ユンのための小さな指輪と、ゴリオンのための大きな指輪があった。
「指輪の手配も万全だ。式の時間までに特注で作らせておいた」
実は、全員が気付かない内に、二人の指輪の手配を済ませていたのである。改めて、ヴィヴィアンヌの用意周到さを目にしつつ、彼女の完璧超人さに驚く一同。「よくまあ、あんな特注品を作らせて間に合わせる事ができたな」と、皆がそんな顔をして彼女を見ていた。その顔と視線を察した彼女が、更に言葉を続ける。
「特注で作らせるのも、それを間に合わせるのも簡単だった。金を積めば大抵のことは何とかなる」
「金を積んだってお前、あれに一体いくら使ったんだ?」
「閣下が好きにやっていいと仰っていたので、これだけ払わさせて頂きました」
そう言った彼女は懐から一枚の紙を取り出し、それをリックへと手渡した。折り畳まれたその紙を開くと、紙には文字と数字が書かれていた。その紙の正体は、指輪の代金が書かれた領収書である。
「!!!!」
そこには、彼の想像を超えた、とんでもない額が記されていた。彼はすぐさま懐に手をやり、自分の財布を取り出して中身を確認する。
「あっ、そうでしたわ参謀長。式の準備にかかった費用の領収書、今渡しておきますの」
「!?」
今度は、分厚い束の領収書がミュセイラから手渡される。大量の物資を特急で用意しただけあり、合計額はこれまた凄まじい事になっていた。
「好きにやっていいって言ったけど!責任は俺が取るって言ったけど!限度ってもんがあるだろ!?」
「まさか参謀長、全額自分で支払うつもりでしたの?」
「そっ、そりゃあこれでも参謀長だし⋯⋯⋯。ゴリオンのために、ちょっとかっこつけてみたくて⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯っで、どうするんですの参謀長?指輪の代金も含めたこの額、払えるんですの?」
詰め寄るミュセイラと、憐みの視線を送る一同。しかし、彼の答えは最初から決まっている。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯みんな頼む、お金を貸してくれ」
皆同時に、彼の切なる願いを聞かなかった事にし、視線を花婿と花嫁へと戻す。
深い溜息を吐き、がくりと肩を落としたリックに構うことなく、結婚式は無事進行していった。
「では、グラーフの女神ジャンヌ・ダルクに祈りを捧げ、永遠の愛を誓う口付けを⋯⋯⋯」
「オラ、守りたいんだな。ユンも子供たちも、みんなオラが守るんだな」
「そんな優しい貴方だから、ずっと傍にいたい。貴方に出会うことができて、本当によかった⋯⋯⋯」
「愛してるんだな、ユン」
「はい、ゴリオン様」
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