贖罪の救世主

水野アヤト

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第三話 集う力

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「ぐっ・・・・・・」

 傷が痛む。薄暗いこの地下倉庫に入れられ、何日経った?
 奴らは突然やって来た。見たこともない規模の野盗集団は、私たちの守るラムサスの街を、瞬く間に蹂躙し、共に戦った私の仲間たちは、全員殺された。
 街の人々。逆らった者は即座に殺され、女性は暴行され犯された。老人も殺され、子供は人質に取られてしまい、生き残った街の者たちが、野盗に逆らうことはできない。
 野盗の中には、親の目の前で子供を殺す下衆な奴もいた。状況は最悪で、この世の地獄だ。

(私も・・・・・死ぬのか・・・・・・)

 街を守るために剣を取って戦ったが、数に押され、しかも人質を取られたために、私は野盗に捕えられてしまった。仲間たちは殺されたが、私は命を奪われることはなかった。
 理由は簡単だ。私が女であったからだ。
 捕まった私は、この地下倉庫に連れて来られ、十人以上の男たちに犯されて、処女を散らされた。
 乱暴にされ、暴行され、悲鳴を上げても、誰の助けも来ない。何時間も犯されて、私は気を失ってしまった。
 少しの時間が経った後、水をかけられ、無理やり覚醒させられ、気が付くと抵抗できないよう、縄で腕を縛られていた。
 奴らは私を侵すだけでは飽き足らず、私に様々な拷問を行なった。いや、何も吐かせることはないから、拷問とは呼べない。鞭を撃たれ、水責めをされ、奴らは酒を飲みながら、苦しむ私を見て楽しんでいた。
 数多くの拷問をされ、何回死にたいと考えたことだろう。

(もうすぐ・・・・・私も・・・・)

 肉体も精神も限界だ。早くこの苦しみから解放されたい。もう限界だ。
 私の目の前には奴らがいる。奴らは私を見て、次はどんな拷問をするか相談しているのだ。だが、そろそろ奴らも私に飽きてきている。殺されるのは時間の問題だ。
 拷問の傷が体中で痛む。まるで、体が燃えるようだ。

「へへっ、次の拷問が決まったぜ」
「くそ・・・・・・」
「またいい悲鳴を聞かせてもらうぜ。もっとも、今度の拷問は死んじまうだろうがよぉ。なにか言いてぇことはあるか?」
「・・・・・くたばれ」

 そうだ。こんな奴らに殺されてなるものか。
 私はまだ死にたくない。こんな奴らにだけは、死んでも殺されたくない。

「その威勢がいつまでもつかな。こりゃあ楽しめそうだぜ」
「くっ・・・・・・」

 最早叫ぶ力も残っていない。もうすぐ私は死ぬのだ。
 いっそ死ぬなら、こいつらだけでも道連れにしたい。だが、足掻く力は残っていない。
 諦めるしかない。それが私の・・・・・・。

「なっ、なんだ!?」

 この地下倉庫に、外の騒がしさが聞こえてきた。外からは悲鳴と絶叫が聞こえ、目の前の野盗たちが、何事かと慌て始めた。 私にも、何が起こっているのかわからない。

「なにやってんだ、蛆虫共」

 男が現れた。地下倉庫には、小窓から差し込む光しか、明かりはない。暗くて顔がよくわからない。

「てめぇ、なに--------」
「ばぁーん」

 現れた男は、手に持った鉄製の何かを使った。指で何かを引いた瞬間、聞いたこともない音ともに、野盗の頭が木端微塵に吹き飛んだ。何が起こったというのか?

「まだ蛆虫がいるな。駆除してやるから前に出ろ」
「なっ!?こいつまほ-------」
「魔法じゃないんだよ」

 たぶん武器だ。謎の武器から何かが放たれて、聞いたことのない音と同時に、野盗たちの命を奪っていく。
 一人、また一人と野盗は殺され、瞬く間に地下倉庫にいた者は、全員死んだ。私を残して・・・・・・。

「流石シャランドラの作ったリボルバーだ。人間の頭がいい感じに吹っ飛ぶ」
「・・・・・だ・・・誰だ?」
「もう大丈夫だ。今縄を解く」

 男は、私を縛っていた縄を、短剣で斬った。着ていた上着を私に着せ、動けない私を抱きかかえる。
 私を抱きかかえながら、男は地下倉庫を後にして、地上を目指す。
 地上に出ると、街は戦場と化していた。見たことのない軍隊が、街を蹂躙した野盗たちを、逆に蹂躙している。野盗たちを、凶悪な笑い顔を浮かべている兵士たちが殺しまわり、戦場は野盗たちの悲鳴で、地獄に変わっていた。信じられない。
 この街に、ようやく助けが現れたというのか?

「レイナ、クリス」
「歯ごたえがないぜ。俺に向かってきたのはもう片付いちまった」
「こちらも同じです」

 槍を持つ少女と、剣を持つ青年。二人の後ろには、数えきれない野盗の死体。

「エミリオ、状況は?」
「問題ないよ。鉄血部隊を中心に、野盗を街の外に追いやっている。このままいけば、外に待機している騎士団が、予定通り残党狩りをしてくれる」
「わかった。ところで、ゴリオンはどこにいる?」
「彼ならあそこさ」

 長髪で、眼鏡をかけた男が指差す先には、見たこともない大きさの、巨大な人影が立っていた。
 巨大さに臆すことなく向かって行った野盗を、片手で易々と掴み上げ、勢いよく投げ飛ばす。投げ飛ばされた野盗は、民家に叩きつけられ、血を吐いて絶命した。

「あいつも問題なしか」
「野盗たちからすれば、彼は巨大な魔物みたいなものさ。丸腰でも心配ない」
「確かに」

 抱きかかえていた私を地に立たせ、自分の体へと抱き寄せて、私を支えるこの男。
 男に従うこの者たち。一体何者だ?

「リリカ、シャランドラ。近くにいるか?」
「どうしたんやその人。めっさ怪我しとるで」
「酷い怪我だね。拷問されたのかい?」
「たぶんそうだ。彼女を頼む」

 そう言って男は私を、現れた二人に託す。一人は眼鏡をかけた少女で、もう一人は長い金色の髪をした、美しい女性。戦場に似つかわしくない二人だ。

「任せてくれや!うちが開発した、この超強力速攻--------」
「却下」
「なんでや!?うちの発明品が信じられんのかいな!」
「普通で頼む。普通の手当てでいいから」

 不服そうな表情の眼鏡少女。一体何を私に使う気だったというのか。
 よくわからないが、恐ろしい。

「さてと、レイナとクリスは俺に付いてこい。仕上げにかかるぞ」
「はい」
「了解だぜ」

 私を助け、戦場へと向かって行こうとする男の背中。呼び止めずにはいられない。
 最後の力を振り絞って、声を出す。

「あなたは・・・・・何者・・・・・」

 吐き出した小さな声。戦場の音にかき消されそうなその声は、男の耳へと届いたようだ。
 男は振り向き、私と目が合う。日の光に照らされ、地下でわからなかった男の顔が、今ははっきりと見える。

「俺はヴァスティナ帝国軍参謀長のリックだ。俺たちは、ラムサスの街の救援に来た」
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