贖罪の救世主

水野アヤト

文字の大きさ
上 下
580 / 841
第三十四話 勇者召喚 後編

しおりを挟む
 次の日。櫂斗、悠紀、真夜、華夜の四人を待っていたのは、正式に彼らに勇者の称号を与えるための、ホーリスローネ城での授与式であった。
 城の謁見の間で、玉座に座る国王オーウェン。称号を与えるためこの場に集まった、グラーフ教の大司教と、勇者連合団長。称号を与える最高責任者達が集まり、彼ら四人の若き少年少女達は、文官や軍人達に見届けられながら、勇者の称号を授与された。これで彼らは、王国も、教会も、勇者連合も認めた、正式な勇者となったのである。
 「ホーリスローネ王国、異世界より勇者召喚を成功させる」。この報は、すぐに王国国内から外の世界へ、瞬く間に広められていった。異世界から秘宝によって選ばれた、その四人こそ、ローミリア大陸に平和をもたらす。彼ら四人が、勇者の称号を得るまでに至る話は、大陸全土を駆け巡り、人々を大いに驚愕させたのである。
 この結果を受け、一番満足していたのは王子アリオンであった。だが彼は、自分が得た力の本当の重みを、まだ理解していない。
 選ばれし勇者の存在は、この国に苛酷な戦争をもたらす。
 その事に気付いていたのは、アリオンと四人以外の、この場に集まった全員であった。





 授与式を終えた櫂斗達は、アリオンと共に城内を歩いていた。正式に勇者と認められたため、これからグラーフ教会と勇者連合本部に向かい、挨拶や説明を受けるためである。

「これで俺達も、みんなに認められた勇者ってわけか」
「嬉しいのはわかるけど、あんまりはしゃがないでよ。私達が恥ずかしくなるから」
「いいじゃんかよ。せっかく勇者になったんだぜ?これで俺達も、ラノベやアニメの主人公決定だろ」

 憧れ、そして念願が叶い、櫂斗は勇者になった。元の世界では決してあり得なかった存在に、彼はなったのである。はしゃいでしまうのも無理はなく、興奮を抑え切れないのも当然だ。
 これは彼にとって、退屈だった現実が一変し、非現実の世界で新たな人生を得たに等しい、まさに奇跡であった。彼にとってこの世界は、楽園とも呼べる憧れたファンタジーの世界。その世界の人間となり、偉大な力を手に入れ、選ばれた勇者になった。まるで、物語の主人公そのものである。
 そう、櫂斗はこの世界を楽しみ始めていた。元の世界よりもずっと面白い、退屈とは無縁な素晴らしい世界。今の彼は、この世界が気に入っている。帰ろうと思う気持ちは微塵もない。

「櫂斗。自分がこの先どうなっちゃうか、本当にわかってる・・・・?」
「わかってるって。勇者として、この世界を脅かす悪と戦うって事だろ?」
「そうじゃなく、私が言いたいのは————————」
「何にも心配いらないって!俺達にはこの秘宝があるじゃんか。どんな敵が来たって恐いもんなしだ!」

 今の櫂斗には、何を言っても無駄だろう。そう考えた悠紀は、それ以上言葉を続けなかった。
 わかっているようで、本当は何もわかっていない。彼女が不安に思っているのは、そこではないのだ。この世界を脅かす悪とは、魔物だけではない。王子アリオンの目的通りに、自分達が戦いの道具とされてしまった時、彼の目の前にいる敵は・・・・・・。

(わかってるの、櫂斗・・・・・。このままだと私達、人殺しさせられるのよ・・・・・・?)
 
 悠紀の胸の内は、今の櫂斗には届かない。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

神の盤上〜異世界漫遊〜

バン
ファンタジー
異世界へ飛ばされた主人公は、なぜこうなったのかも分からぬまま毎日を必死に生きていた。 同じく異世界へと飛ばされた同級生達が地球に帰る方法を模索している中で主人公は違う道を選択した。 この異世界で生きていくという道を。 なぜそのような選択を選んだのか、なぜ同級生達と一緒に歩まなかったのか。 そして何が彼を変えてしまったのか。 これは一人の人間が今を生きる意味を見出し、運命と戦いながら生きていく物語である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

異世界金融 〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件

暮伊豆
ファンタジー
日々の生活に疲れ果てた若干カスな小学校教師が突然事故で死亡。 転生手続きを経て、生まれ変わった場所はローランド王国の辺境の街。剣と魔法を中心に発展しつつある異世界だった。 働きたくない一心で金貸し向きの魔法を手に入れた主人公。 「夢はのんびり利子生活」 だが、そんなものは当然許される筈はなく、楽をしようと思えば思う程、ありがちなトラブルに巻き込まれることも。 そんな中、今まで無縁と思っていた家族の愛情や友情に恵まれる日々。 そして努力、新しい人生設計。 これは、優秀な家系に生まれた凡人が成長することをテーマとした物語。 「成り上がり」「無双」そして「ハーレム」その日が来るまで。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...