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第三十四話 勇者召喚 後編
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第三十四話 勇者召喚 後編
剣と魔法の世界ローミリア大陸。その大陸の南に存在する小さな国チャルコ国では、今現在最上級警戒態勢が敷かれていた。警戒態勢の理由は、長旅に出ていたチャルコ国王妃の帰還である。
「そんでねアー君、秘宝に選ばれたっていうその四人は、初っ端から火龍と戦う羽目になったわけ。王様達、明らかに試練を乗り越えさせる気なんてないのよ」
「そっ、そうなのか・・・・・」
「なに?久々に私が帰って来て面白い土産話持ってきたって言うのに、アー君嬉しくないの?」
「いっ、いやいやいや!そっ、そんな事はないぞ!!其方の帰りは嬉しく思っておる!」
チャルコ国の象徴として聳え立つ、チャルコ城。テーブルと椅子が用意された城のテラスで、お茶と会話を楽しんでいる茶色がかった長髪の女性と、その女性の存在に震え上がる者達が、恐怖のお茶会を開いていた。
「シルフィもアニッシュ君も、私が帰って来たって言うのに、あんまり嬉しそうじゃないわね」
「そっ、そんな事ありません。私もお父様同様に、お母様の帰りを嬉しく思っています」
「ぼっ、僕も同じ気持ちです」
お茶会の主役であり、この場の絶対的支配者として君臨し、皆から恐れられているこの女性こそ、チャルコ国王妃パトリシア・スレイドルフ。そんな彼女の尻に敷かれる男こそ、国王アグネス・スレイドルフである。そしてこの場には、パトリシアの娘であり、この国の姫でもあるシルフィ・スレイドルフと、見習い騎士の少年アニッシュ・ヘリオースの姿もあった。
「シルフィ、アー君と私を呼ぶ時はパパとママでしょ?」
「それは・・・・・、子供ぽくって恥ずかし-------」
「あん?」
「ごめんなさい・・・・・、パパ、ママ」
パトリシアにアー君と呼ばれているのは、国王アグネスの事である。パトリシアは娘のシルフィに対し、自分達の事をパパとママと呼ばせている。その理由は、パトリシア自身が堅苦しいのを嫌うからだ。そんな彼女の前では、チャルコ国の小さな暴君であるシルフィも、借りてきた猫のように大人しかった。
王妃パトリシアは、南ローミリアでは有名な美女であり、大胆かつ豪胆で活発な王妃としても有名である。彼女は助けを求める声や、困っている人々を放っておけない性格であるため、国内外で何かあれば、すぐに城を飛び出してしまう。そのため、普段城にいる事が稀なのだ。
今回も、国外で困っている大勢の人々がいるという話を聞き、颯爽と馬に跨り旅立ってしまったのである。無事に問題を片付け、こうして城に帰って来たのは、実に一年半振りであった。
久しぶりの王妃の帰還に、夫であるアグネスも、娘であるシルフィも、もっと喜びを露わにしてもいいはずなのだが、二人にとってパトリシアは絶対王者であり、恐怖の象徴なのである。帰って来たこと自体は嬉しいのだが、怒らせると非常に怖いため、どうしても緊張してしまうのだ。
「ところでアー君さあ。私が居ない間に、エステランとこの馬鹿王子とシルフィを結婚させようとしたらしいわね?」
「!!」
「シルフィの気持ち考えなかったの?この子がアニッシュ君を好きなの知ってんでしょうが。どういうつもりだったわけ?」
「それは・・・・、あの時は仕方なく・・・・・」
「言い訳却下。後でお説教だから」
「はい・・・・・・」
このように、チャルコ国の治める国王アグネスが、全く逆らえないのである。言動などを含め、見た目は乱暴な暴君であるパトリシアだが、これでも自分の娘の幸せを考え、こうして怒っているのだ。
「それからシルフィ。政略結婚なんて大変な状況になってるなら、すぐに私に相談の手紙寄越しなさいよ。なんで黙ってたの?」
「それは・・・・・、ママを心配させたくなくて・・・・・」
「子供のくせに、親に変な気を遣うんじゃないっての。あんたも後でお説教」
「はい・・・・・・」
普段ならば少女とは思えない大人振りを発揮し、乱暴な言動が目立つシルフィも、パトリシアを前にしては子供に戻ってしまう。普段のシルフィの姿は、母親であるパトリシアの血を受け継ぐが故なのだ。
「私が目を離すとこれなんだから。ほんと、アニッシュ君のおかげで助かったわ」
「そんな、僕はなにもしてません・・・・・」
「アニッシュ君の活躍は聞いたわよ。シルフィのために、そしてチャルコのために戦ってくれたんですってね。チャルコ国王妃としてだけじゃなく、シルフィの母親として、御礼を言わせて」
パトリシアは見習い騎士であるアニッシュを気に入っており、シルフィが望むのならば、二人が結ばれるのをよしと考えてもいる。故に、彼が自分の大切な娘のために、命を懸けて戦ってくれたという事実が、どうしようもなく嬉しかったのだ。
「でもアニッシュ君、今度無茶したら私怒るからね?シルフィを心配させるような事したら、君のお母さんに変わって私が怒るから」
「はっ、はい・・・・・」
「まあでも、こんな誠実で逞しく育ってくれたわけだし、シルフィを安心して任せられるかな。アニッシュ君が私を義母《ママ》って呼ぶ日も近そうね」
「王妃様!流石にそれは・・・・・」
「なによ?私を義母《ママ》って呼ぶの嫌なの?」
「言いたい事があるのはそこではなく・・・・!ああでも、そこについても言いたい事が・・・・!」
母親を亡くしているアニッシュにとって、パトリシアは母親代わりのような存在であり、彼が抱き続けるシルフィに対しての気持ちを知る、良き理解者でもある。故に彼もまた、パトリシアには全く頭が上がらないのである。
帰ってきて早々、その圧倒的な絶対王者っぷりを発揮した、チャルコ国王妃パトリシア。
そんな彼女が、先ほどまで皆に語って聞かせていた話は、今現在大陸全土で話題となっている、ホーリスローネ王国に現れたという、異世界からの勇者についての話であった。
「それより、旅先で私が聞いてきた勇者の話の続き。みんな聞きたいわよね?」
三人共、その話には興味があるのだが、彼女にそう問われると、聞かなければならない強制力を感じざる負えない。実際強制なので、聞かないという選択肢はないが・・・・・・。
ともかく三人は、パトリシアの機嫌を損なわぬよう、引き続き勇者の話に耳を傾ける事にした。三人の聞く準備が出来た事を確認し、彼女は旅先で聞いてきた噂話を思い出しながら、再び語り出した。
「それでね、火龍と四人の戦いがどうなったかって言うと-------」
剣と魔法の世界ローミリア大陸。その大陸の南に存在する小さな国チャルコ国では、今現在最上級警戒態勢が敷かれていた。警戒態勢の理由は、長旅に出ていたチャルコ国王妃の帰還である。
「そんでねアー君、秘宝に選ばれたっていうその四人は、初っ端から火龍と戦う羽目になったわけ。王様達、明らかに試練を乗り越えさせる気なんてないのよ」
「そっ、そうなのか・・・・・」
「なに?久々に私が帰って来て面白い土産話持ってきたって言うのに、アー君嬉しくないの?」
「いっ、いやいやいや!そっ、そんな事はないぞ!!其方の帰りは嬉しく思っておる!」
チャルコ国の象徴として聳え立つ、チャルコ城。テーブルと椅子が用意された城のテラスで、お茶と会話を楽しんでいる茶色がかった長髪の女性と、その女性の存在に震え上がる者達が、恐怖のお茶会を開いていた。
「シルフィもアニッシュ君も、私が帰って来たって言うのに、あんまり嬉しそうじゃないわね」
「そっ、そんな事ありません。私もお父様同様に、お母様の帰りを嬉しく思っています」
「ぼっ、僕も同じ気持ちです」
お茶会の主役であり、この場の絶対的支配者として君臨し、皆から恐れられているこの女性こそ、チャルコ国王妃パトリシア・スレイドルフ。そんな彼女の尻に敷かれる男こそ、国王アグネス・スレイドルフである。そしてこの場には、パトリシアの娘であり、この国の姫でもあるシルフィ・スレイドルフと、見習い騎士の少年アニッシュ・ヘリオースの姿もあった。
「シルフィ、アー君と私を呼ぶ時はパパとママでしょ?」
「それは・・・・・、子供ぽくって恥ずかし-------」
「あん?」
「ごめんなさい・・・・・、パパ、ママ」
パトリシアにアー君と呼ばれているのは、国王アグネスの事である。パトリシアは娘のシルフィに対し、自分達の事をパパとママと呼ばせている。その理由は、パトリシア自身が堅苦しいのを嫌うからだ。そんな彼女の前では、チャルコ国の小さな暴君であるシルフィも、借りてきた猫のように大人しかった。
王妃パトリシアは、南ローミリアでは有名な美女であり、大胆かつ豪胆で活発な王妃としても有名である。彼女は助けを求める声や、困っている人々を放っておけない性格であるため、国内外で何かあれば、すぐに城を飛び出してしまう。そのため、普段城にいる事が稀なのだ。
今回も、国外で困っている大勢の人々がいるという話を聞き、颯爽と馬に跨り旅立ってしまったのである。無事に問題を片付け、こうして城に帰って来たのは、実に一年半振りであった。
久しぶりの王妃の帰還に、夫であるアグネスも、娘であるシルフィも、もっと喜びを露わにしてもいいはずなのだが、二人にとってパトリシアは絶対王者であり、恐怖の象徴なのである。帰って来たこと自体は嬉しいのだが、怒らせると非常に怖いため、どうしても緊張してしまうのだ。
「ところでアー君さあ。私が居ない間に、エステランとこの馬鹿王子とシルフィを結婚させようとしたらしいわね?」
「!!」
「シルフィの気持ち考えなかったの?この子がアニッシュ君を好きなの知ってんでしょうが。どういうつもりだったわけ?」
「それは・・・・、あの時は仕方なく・・・・・」
「言い訳却下。後でお説教だから」
「はい・・・・・・」
このように、チャルコ国の治める国王アグネスが、全く逆らえないのである。言動などを含め、見た目は乱暴な暴君であるパトリシアだが、これでも自分の娘の幸せを考え、こうして怒っているのだ。
「それからシルフィ。政略結婚なんて大変な状況になってるなら、すぐに私に相談の手紙寄越しなさいよ。なんで黙ってたの?」
「それは・・・・・、ママを心配させたくなくて・・・・・」
「子供のくせに、親に変な気を遣うんじゃないっての。あんたも後でお説教」
「はい・・・・・・」
普段ならば少女とは思えない大人振りを発揮し、乱暴な言動が目立つシルフィも、パトリシアを前にしては子供に戻ってしまう。普段のシルフィの姿は、母親であるパトリシアの血を受け継ぐが故なのだ。
「私が目を離すとこれなんだから。ほんと、アニッシュ君のおかげで助かったわ」
「そんな、僕はなにもしてません・・・・・」
「アニッシュ君の活躍は聞いたわよ。シルフィのために、そしてチャルコのために戦ってくれたんですってね。チャルコ国王妃としてだけじゃなく、シルフィの母親として、御礼を言わせて」
パトリシアは見習い騎士であるアニッシュを気に入っており、シルフィが望むのならば、二人が結ばれるのをよしと考えてもいる。故に、彼が自分の大切な娘のために、命を懸けて戦ってくれたという事実が、どうしようもなく嬉しかったのだ。
「でもアニッシュ君、今度無茶したら私怒るからね?シルフィを心配させるような事したら、君のお母さんに変わって私が怒るから」
「はっ、はい・・・・・」
「まあでも、こんな誠実で逞しく育ってくれたわけだし、シルフィを安心して任せられるかな。アニッシュ君が私を義母《ママ》って呼ぶ日も近そうね」
「王妃様!流石にそれは・・・・・」
「なによ?私を義母《ママ》って呼ぶの嫌なの?」
「言いたい事があるのはそこではなく・・・・!ああでも、そこについても言いたい事が・・・・!」
母親を亡くしているアニッシュにとって、パトリシアは母親代わりのような存在であり、彼が抱き続けるシルフィに対しての気持ちを知る、良き理解者でもある。故に彼もまた、パトリシアには全く頭が上がらないのである。
帰ってきて早々、その圧倒的な絶対王者っぷりを発揮した、チャルコ国王妃パトリシア。
そんな彼女が、先ほどまで皆に語って聞かせていた話は、今現在大陸全土で話題となっている、ホーリスローネ王国に現れたという、異世界からの勇者についての話であった。
「それより、旅先で私が聞いてきた勇者の話の続き。みんな聞きたいわよね?」
三人共、その話には興味があるのだが、彼女にそう問われると、聞かなければならない強制力を感じざる負えない。実際強制なので、聞かないという選択肢はないが・・・・・・。
ともかく三人は、パトリシアの機嫌を損なわぬよう、引き続き勇者の話に耳を傾ける事にした。三人の聞く準備が出来た事を確認し、彼女は旅先で聞いてきた噂話を思い出しながら、再び語り出した。
「それでね、火龍と四人の戦いがどうなったかって言うと-------」
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