43 / 841
第二話 狂犬の戦士たち
11
しおりを挟む
男風呂浴場。ここには一人しか入っていない。
男風呂と女風呂の間には、壁が一つ隔たっているだけであり、先程のクリスののぞきが失敗したことも、聞こえてきた声と音で察することができていた。
(勇気ある正面突破だったようだが、やはりリリカ相手ではそう容易くはいかないか)
男風呂でクリスの様子を見守っていた宗一は、彼の失敗により、自身も動き出そうとしていた。
クリスが正面から堂々と攻め込んだのに対して、確実に失敗すると考えていた宗一。失敗するとわかっていたのは、リリカの存在故である。敵の襲撃があるとわかっていた彼女が、迎撃の用意をしないとは考えられなかったためだ。
そのことは、クリスもわかっていたのかも知れないが、策があると理解していても、敢えて金髪青年は正面突破を選び、そして儚くも散っていった。
だが宗一は、確実性を求めている。正面がまず不可能ならば、十中八九ここは、男風呂からののぞきしかないと考えているのだ。当然それに対しての策を、リリカが用意していないと思ってはいない。
問題は、如何に上手く策を看破し、二人に気付かれることなく、目的を達成するかだ。
湯船に浸かりながら、隔てている一枚の壁を観察する。壁は木製であり、先程の音がしっかりと聞こえたのを考えると、厚さは薄いだろう。しかしのぞける程の隙間があるわけではなく、穴が開いているわけでもない。
となれば、二人に気づかれないよう壁に穴を開け、そこから桃源郷を拝むよりない。
(何か使えそうなものは・・・・・・)
浴場には特に使えそうなものは見当たらない。小型電動ドリルでもあれば、今すぐにでも穴を開けられるのだが、当然そんなものは存在しないため、せめて鉄製の工具のようなものでもあればと考えている。
のぞきに罪悪感がないと言えば嘘になってしまう。だがしかし、このファンタジー世界には、のぞきを裁く法律も警察も恐らく存在しない。言ってしまえば、何をやっても裁かれることはないのだ。
ならば、この自由が許される世界で、今まで禁止されてできなかったことをするのは、自然なことであり、のぞきをしても捕まることがないのなら、リスクは皆無となる。
のぞきがばれてしまえば、女性陣にどんな印象を持たれてしまうかは、容易に想像できる。このリスクはあるが、ばれなければ無問題なのだ。であれば、ここで勝負にでない理由はない。
想定されていたクリスと違い、自分はそれほど警戒されていないだろうと考えていた宗一は、とりあえず使えそうなものを探そうと、浴場から一時撤退するために、出口へと向かう。
「ふう。久しぶりのお風呂は気持ちがいいよ。そうだろう、レイナ?」
「私も湯船に浸かるのは久しぶりになります。これもリック様とレイナ様のお陰です」
女性陣二人の声が壁越しから聞こえ始めた。何かを話しているのは、先程から聞こえはしていたが、突然男風呂にもはっきりと聞こえる音量で、二人は話し始めたのだ。
会話が気になった宗一が、出口へと向かう歩みを止める。
「リック様とレイナ様のお陰って、そこの自称美人はなにもしてないぞ」とつっこみたい宗一であった。全てにおいて金を出したのは、誰でもない宗一なのだから。
「こんなに気持ちがいいとご機嫌になってしまうよ。クリスのように、私の機嫌を損なわせる者がこれ以上現れなければ、お風呂上りに膝枕と耳かきを誰かにやってあげてもいい」
耳の錯覚だろうか。今とんでもない発言があったような・・・・・・。
「誰にやってあげようか。そこののぞきは無しとして、レイナは可愛いからやってあげよう」
「なっ!?わっ、私は可愛くなどありません!?」
「そういう反応が可愛いのさ。・・・・・・よし、レイナの後はリックにもやってあげよう」
男、長門宗一郎。新たな桃源郷を見つけたり・・・・・・・。
(だから下衆だって言われるんだよな・・・・・・)
男風呂と女風呂の間には、壁が一つ隔たっているだけであり、先程のクリスののぞきが失敗したことも、聞こえてきた声と音で察することができていた。
(勇気ある正面突破だったようだが、やはりリリカ相手ではそう容易くはいかないか)
男風呂でクリスの様子を見守っていた宗一は、彼の失敗により、自身も動き出そうとしていた。
クリスが正面から堂々と攻め込んだのに対して、確実に失敗すると考えていた宗一。失敗するとわかっていたのは、リリカの存在故である。敵の襲撃があるとわかっていた彼女が、迎撃の用意をしないとは考えられなかったためだ。
そのことは、クリスもわかっていたのかも知れないが、策があると理解していても、敢えて金髪青年は正面突破を選び、そして儚くも散っていった。
だが宗一は、確実性を求めている。正面がまず不可能ならば、十中八九ここは、男風呂からののぞきしかないと考えているのだ。当然それに対しての策を、リリカが用意していないと思ってはいない。
問題は、如何に上手く策を看破し、二人に気付かれることなく、目的を達成するかだ。
湯船に浸かりながら、隔てている一枚の壁を観察する。壁は木製であり、先程の音がしっかりと聞こえたのを考えると、厚さは薄いだろう。しかしのぞける程の隙間があるわけではなく、穴が開いているわけでもない。
となれば、二人に気づかれないよう壁に穴を開け、そこから桃源郷を拝むよりない。
(何か使えそうなものは・・・・・・)
浴場には特に使えそうなものは見当たらない。小型電動ドリルでもあれば、今すぐにでも穴を開けられるのだが、当然そんなものは存在しないため、せめて鉄製の工具のようなものでもあればと考えている。
のぞきに罪悪感がないと言えば嘘になってしまう。だがしかし、このファンタジー世界には、のぞきを裁く法律も警察も恐らく存在しない。言ってしまえば、何をやっても裁かれることはないのだ。
ならば、この自由が許される世界で、今まで禁止されてできなかったことをするのは、自然なことであり、のぞきをしても捕まることがないのなら、リスクは皆無となる。
のぞきがばれてしまえば、女性陣にどんな印象を持たれてしまうかは、容易に想像できる。このリスクはあるが、ばれなければ無問題なのだ。であれば、ここで勝負にでない理由はない。
想定されていたクリスと違い、自分はそれほど警戒されていないだろうと考えていた宗一は、とりあえず使えそうなものを探そうと、浴場から一時撤退するために、出口へと向かう。
「ふう。久しぶりのお風呂は気持ちがいいよ。そうだろう、レイナ?」
「私も湯船に浸かるのは久しぶりになります。これもリック様とレイナ様のお陰です」
女性陣二人の声が壁越しから聞こえ始めた。何かを話しているのは、先程から聞こえはしていたが、突然男風呂にもはっきりと聞こえる音量で、二人は話し始めたのだ。
会話が気になった宗一が、出口へと向かう歩みを止める。
「リック様とレイナ様のお陰って、そこの自称美人はなにもしてないぞ」とつっこみたい宗一であった。全てにおいて金を出したのは、誰でもない宗一なのだから。
「こんなに気持ちがいいとご機嫌になってしまうよ。クリスのように、私の機嫌を損なわせる者がこれ以上現れなければ、お風呂上りに膝枕と耳かきを誰かにやってあげてもいい」
耳の錯覚だろうか。今とんでもない発言があったような・・・・・・。
「誰にやってあげようか。そこののぞきは無しとして、レイナは可愛いからやってあげよう」
「なっ!?わっ、私は可愛くなどありません!?」
「そういう反応が可愛いのさ。・・・・・・よし、レイナの後はリックにもやってあげよう」
男、長門宗一郎。新たな桃源郷を見つけたり・・・・・・・。
(だから下衆だって言われるんだよな・・・・・・)
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
会うたびに、貴方が嫌いになる【R15版】
猫子猫
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
二度目の結婚は、白いままでは
有沢真尋
恋愛
望まぬ結婚を強いられ、はるか年上の男性に嫁いだシルヴィアナ。
未亡人になってからは、これ幸いとばかりに隠遁生活を送っていたが、思いがけない縁談が舞い込む。
どうせ碌でもない相手に違いないと諦めて向かった先で待っていたのは、十歳も年下の青年で「ずっとあなたが好きだった」と熱烈に告白をしてきた。
「十年の結婚生活を送っていても、子どもができなかった私でも?」
それが実は白い結婚だったと告げられぬまま、シルヴィアナは青年を試すようなことを言ってしまう。
※妊娠・出産に関わる表現があります。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
【他サイトにも公開あり】
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる