贖罪の救世主

水野アヤト

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第二話 狂犬の戦士たち

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 男風呂浴場。ここには一人しか入っていない。
 男風呂と女風呂の間には、壁が一つ隔たっているだけであり、先程のクリスののぞきが失敗したことも、聞こえてきた声と音で察することができていた。

(勇気ある正面突破だったようだが、やはりリリカ相手ではそう容易くはいかないか)

 男風呂でクリスの様子を見守っていた宗一は、彼の失敗により、自身も動き出そうとしていた。
 クリスが正面から堂々と攻め込んだのに対して、確実に失敗すると考えていた宗一。失敗するとわかっていたのは、リリカの存在故である。敵の襲撃があるとわかっていた彼女が、迎撃の用意をしないとは考えられなかったためだ。
 そのことは、クリスもわかっていたのかも知れないが、策があると理解していても、敢えて金髪青年は正面突破を選び、そして儚くも散っていった。
 だが宗一は、確実性を求めている。正面がまず不可能ならば、十中八九ここは、男風呂からののぞきしかないと考えているのだ。当然それに対しての策を、リリカが用意していないと思ってはいない。
 問題は、如何に上手く策を看破し、二人に気付かれることなく、目的を達成するかだ。
 湯船に浸かりながら、隔てている一枚の壁を観察する。壁は木製であり、先程の音がしっかりと聞こえたのを考えると、厚さは薄いだろう。しかしのぞける程の隙間があるわけではなく、穴が開いているわけでもない。
 となれば、二人に気づかれないよう壁に穴を開け、そこから桃源郷を拝むよりない。

(何か使えそうなものは・・・・・・)

 浴場には特に使えそうなものは見当たらない。小型電動ドリルでもあれば、今すぐにでも穴を開けられるのだが、当然そんなものは存在しないため、せめて鉄製の工具のようなものでもあればと考えている。
 のぞきに罪悪感がないと言えば嘘になってしまう。だがしかし、このファンタジー世界には、のぞきを裁く法律も警察も恐らく存在しない。言ってしまえば、何をやっても裁かれることはないのだ。
 ならば、この自由が許される世界で、今まで禁止されてできなかったことをするのは、自然なことであり、のぞきをしても捕まることがないのなら、リスクは皆無となる。
 のぞきがばれてしまえば、女性陣にどんな印象を持たれてしまうかは、容易に想像できる。このリスクはあるが、ばれなければ無問題なのだ。であれば、ここで勝負にでない理由はない。
 想定されていたクリスと違い、自分はそれほど警戒されていないだろうと考えていた宗一は、とりあえず使えそうなものを探そうと、浴場から一時撤退するために、出口へと向かう。

「ふう。久しぶりのお風呂は気持ちがいいよ。そうだろう、レイナ?」
「私も湯船に浸かるのは久しぶりになります。これもリック様とレイナ様のお陰です」

 女性陣二人の声が壁越しから聞こえ始めた。何かを話しているのは、先程から聞こえはしていたが、突然男風呂にもはっきりと聞こえる音量で、二人は話し始めたのだ。
 会話が気になった宗一が、出口へと向かう歩みを止める。
 「リック様とレイナ様のお陰って、そこの自称美人はなにもしてないぞ」とつっこみたい宗一であった。全てにおいて金を出したのは、誰でもない宗一なのだから。

「こんなに気持ちがいいとご機嫌になってしまうよ。クリスのように、私の機嫌を損なわせる者がこれ以上現れなければ、お風呂上りに膝枕と耳かきを誰かにやってあげてもいい」

 耳の錯覚だろうか。今とんでもない発言があったような・・・・・・。

「誰にやってあげようか。そこののぞきは無しとして、レイナは可愛いからやってあげよう」
「なっ!?わっ、私は可愛くなどありません!?」
「そういう反応が可愛いのさ。・・・・・・よし、レイナの後はリックにもやってあげよう」

 男、長門宗一郎。新たな桃源郷を見つけたり・・・・・・・。

(だから下衆だって言われるんだよな・・・・・・)
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