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第三十三話 勇者召喚 前編
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その後四人は謁見の間を後にし、アリオンに案内されて城の庭園に出た。四人に秘宝を渡し、力の解放を試すためである。
軍の演習場までは遠く、近場にある丁度良い場所が城の庭園だった。庭園には軽い運動ができる程の空間があり、ここでアリオンは秘宝の力を試そうと考えていた。
だが・・・・・・。
「よっしゃ!いよいよ勇者の武器が手に入るぞ!!」
「私はなりたくないから、勇者なんて」
「何もかも勝手過ぎる。私も華夜も、従うつもりはないわ」
「こんなところ、もう嫌・・・・・」
当然の事ながら、四人の意志を確認する事なく、何もかも勝手に決められてしまったこの状況を、女性陣は納得していなかった。悠紀も真夜も華夜も、勇者になるつもりなど毛頭ないのである。
謁見の間では拒否できる空気ではなく、何が起こっているのかまだわからなかった事もあって、誰かに文句を言う事も出来なかった。しかし今は、自分達の置かれた状況が読めてきて、段々と落ち着いてきている。王国の人間はこの場にアリオンしかいないため、三人は揃って勇者になる事を拒んだ。
「なんでだよ悠紀!?先輩達も、勇者に選ばれたのが嬉しくないんすか!?」
「嬉しがってるのは櫂斗だけよ。私は早く家に帰りたいの」
「せっかくラノベ主人公みたいな奇跡が起きたんだぜ!?」
「だからなに?まさか櫂斗、この後私達がどうなっちゃうか、本当にわからないの?」
勇者になる気満々なのは、この場で櫂斗だけである。彼からすれば、夢にまで見た奇跡が本当に起きてしまったのだから、仕方がないのかもしれない。だがこれは、小説の中の話でも、アニメや映画の話でもなく、紛れもない現実の異世界転移なのである。それがどんな意味を持つのか、冷静に現実を見ている悠紀と違い、櫂斗は未だわかっていなかった。
悠紀が櫂斗を説得している中、真夜は華夜と手を繋ぎ、アリオンへと詰め寄っていった。彼女達もまた、悠紀と同じように現実を見ているからだ。
「今すぐ私達を元の世界に帰して。さもないと容赦しない」
鋭い眼光でアリオンを睨み付け、怒気を放ちながら口を開いた真夜に、上機嫌であったアリオンは戦慄した。彼からすれば、王国の勇者に選ばれる事は偉大であり、誰もが羨む栄光なのである。その認識は、例え異世界の人間であっても同じであると、そう思っていたのである。故に、御立腹な様子の真夜の態度が、信じなれないくらい意外で、恐ろしかったのだ。
「私も華夜も、あなた達の都合で勇者になるつもりはない。あなた、身勝手で汚いわ」
「そっ、そんな!?僕はただ、秘宝が求めた選ばれし者を召喚しただけで------」
「それが身勝手だとわからないの?最低の王子様ね」
召喚を成功させる事と、王国を救う計画を考える事に集中していたアリオンは、大切な事を全く考えてはいなかった。それは、召喚した者達の意志である。
アリオンもオーウェン達も、四人の意志を確認してはいなかった。勇者になりたいと思っているのは櫂斗だけであり、他の三人は全くそのつもりがないのである。四人全員を勇者にするためには、女性陣三人の意志を変えなくてはならないのだ。
「私達は誰にも従わない。誰の指図も受けない。勇者の代わりは他を探すことね」
「困ります!貴方方以外に、秘宝の勇者になれる者などいないんです!!」
「困るのはこっちよ。華夜をこんなに恐がらせて・・・・・、絶対に許さない」
王国の救済、そして自分の事しか考えていない彼にとって、真夜の言葉は鋭く尖った剣であった。彼女の言葉は全て正論であり、怒るのも当然である。反論などできるはずもないのだが、何とか説得しようとアリオンは口を開く。
「貴方方の意志を確かめず、この世界に導いてしまった事は謝罪します。ですが、どうか王国を救うために、力を貸して頂きたい!」
「さっき言った事が聞こえなかったの?今すぐ、私達を元の世界に帰しなさい」
「元の世界には必ず帰します!!でもどうか、今は御力を貸して下さい!貴方方が勇者にならなければ、この国はいずれ滅んでしまいます!」
「そういうのが身勝手で汚いって言ってるのよ!あなた達の事情に、私と華夜を巻き込まないで!!」
怒気を放っていても冷静であったが、彼の身勝手さに真夜の怒りが爆発してしまう。激怒した彼女はアリオンに激しい怒りをぶつけ、同情を誘う彼の言葉を跳ね除けた。
「いっ、痛いよ、お姉ちゃん・・・・・」
「!!」
怒るあまり手に力が入り、繋いでいた華夜の手を強く握りしめていた事に気付き、すぐに真夜は我に返った。手に込めてしまった力を緩め、真夜はアリオンから視線を移し、慌てて華夜へと向き直る。
「ごめんね華夜・・・・・・」
「ううん、大丈夫だよ・・・・」
「華夜は私が守るから。だから安心して」
自分の置かれた状況と、姉の激怒に怯える彼女を、真夜は安心させようと必死であった。真夜とアリオンの会話を見て、興奮していた櫂斗も流石に黙る。
場に流れた沈黙。それを破ったのは、彼女達が怒らせるとわかっていながら、意を決して言葉を発したアリオンであった。
「元の世界に戻るためには、勇者になる他に道はありません」
「「「「!?」」」」
「僕は貴方方を召喚するために、宝物庫にあったほとんどの魔法石を使ってしまいました。元の世界へ戻るためには、純度の高い大量の魔法石が必要なんです」
その言葉だけで、アリオンが何を言わんとしているのか、四人にはすぐに理解できた。この世界へ彼らを連れてくるための切符は、アリオンの魔法と魔法石であった。その魔法石が無くなった今、帰りの切符はない。
「僕の魔法だけでは、貴方方を元の世界へ帰す事はできません。魔法石がなければ貴方方は、この世界で一生を終える事になるでしょう」
「ええっ!?」
「冗談でしょ!?家に帰れないなんて、そんな・・・・・!」
「ご心配なく。勇者となれば、元の世界へ戻れるたった一つの方法があります」
驚愕する四人に対して、アリオンはさらに言葉を続ける。彼らが元の世界へ戻るための、たった一つの過酷な方法を・・・・・。
「勇者になり、ジエーデル国を倒す事さえできれば、帰るための魔法石が手に入ります」
「倒せばって、そう言われても・・・・・」
「勇者になってその何とかって国を倒したら、どうして魔法石が手に入るのよ!?」
「ジエーデルは多くの国を侵略し、大量の魔法石を自国のものにしています。ジエーデルさえ倒せば、その魔法石を回収できるでしょう」
帰るためには、勇者となってジエーデル国を敵と定め、戦争に勝利するしかない。アリオンが指し示した道は、険しく過酷で、とても残酷な道程であった。
「ねぇ、王子様・・・・・!自分の口にしてる言葉の意味、本当にわかってる!?」
「はい・・・・・」
「元の世界に帰りたいなら、勇者になって戦えって・・・・・、そんなの酷過ぎるわ!!」
今度は悠紀が激怒して、アリオンを睨んだまま詰め寄った。帰れないわけではない。帰るためには、勇者になって戦争に行けと、そう言われたのだ。彼女が怒りを爆発させるのも当然だった。
こうなる事を、彼の父であるオーウェンはわかっていた。謁見の場で彼は、まだアリオンが四人の意志を理解してないと見抜き、敢えて彼一人に四人の事を任せたのである。
この四人を勇者になると決意させない限り、王国の未来をアリオンに任せられない。自らが責任を負う覚悟で、オーウェンは彼に試練を与えたのである。これが試練であると、未だにアリオンは気付いていないが、四人の意志を変えるために、彼は非情に徹した。
「なあ悠紀、ちょっと落ち着けって!」
「櫂斗は黙ってて!なんにもわかってないくせに!」
「だからって、こいつを責めたって仕方ないだろ!」
「わたってるわよそんな事!!じゃあ私のこの気持ちは、一体どこにぶつけろって言うの!?」
怒りに震える悠紀を見て、何とか彼女落ち着かせようとした櫂斗だったが、彼の言葉は彼女をさらに怒らせるだけだった。
残酷な宣告に絶望し、その場にしゃがみ込んだ悠紀は泣き始めてしまった。どうしていいかわからず、その場に立ち尽くす櫂斗。そんな二人を見て、真夜と華夜も俯いてしまう。
このままではいけないと、尚もアリオンは口を開く。何を言っても憎まれるだろうと知りながら、それでも彼は説得を止めなかった。
「勇者となってジエーデルを倒した暁には、元の世界へ帰すだけでなく、恩賞も御用意いたします」
「やっぱり最低の王子様ね。今度は金で釣るつもり?」
「無償で戦って貰おうなどとは思っていません。これは当然の報酬です」
「いくら金を積まれたって、私と華夜はあなたの思い通りにはならないわ」
「一生何不自由なく暮らせるだけの恩賞を御用意いたします。他に僕が御用意できるものなら、何でも差し上げましょう」
「・・・・・!!」
その言葉に大きな反応を示したのは、しゃがみ込んで泣いていた悠紀であった。涙を拭いて立ち上がった彼女は、改めてアリオンを睨み付けながら、彼の発言に対して言葉を発する。
「今・・・・・、一生何不自由なく暮らせるだけの恩賞って、そう言ったわね?」
「はっ、はい・・・・・。それだけの金や財宝を御用意すると約束します」
アリオンの言葉を確認し、口でそう約束させると、彼女は数秒の間瞼を閉じた。やがて彼女は瞼を開き、決意した瞳を見せて言葉を発した。
「秘宝の一つを渡して。王子様の望み通り、勇者になってあげる」
「!!」
勇者になるつもりなど毛頭なかった悠紀が、何かを決意して勇者になると言い出した。恩賞の話を聞いた途端考えを変えた彼女に、この場の誰もが驚愕する中、驚きから我に返ったアリオンが、慌てて四つの玉を差し出す。
力を秘めた四つの秘宝。色は青が好きであるため、彼女は青色の秘宝を手に取った。見た目は大きめのビー玉と変わらないため、手に取った悠紀は、こんなものに本当に力が宿っているのかと、疑いの目を秘宝へと向ける。
そんな彼女に最初に声をかけたのは、鋭い視線を悠紀へと向ける真夜であった。
「早水さん。あなた、お金のために自分の命を危険に晒すつもり?」
「・・・・・・しょうがないんです。きっとこれは、最後のチャンスだから」
「・・・・・!」
ただ金に眼が眩んだというだけなら、彼女を止めるべきだと真夜は考えていた。しかし真夜の予想と違い、悠紀の眼には固い決意が宿っていたのである。口にはできない深い事情があると察し、真夜は説得を諦めるよりなかった。
説得を諦めた真夜はアリオンに近付き、彼が差し出していた秘宝の内、赤色と黒色を手に取っていった。またも驚くアリオンに向けて、二つの秘宝を手に持ちながら、彼女は鋭い視線を彼に向けたまま言葉を放つ。
「勘違いしないで。これは元の世界へ戻るために必要だから、自分達で管理したいだけよ」
勇者になるにしろ、ならないにしろ、この世界で身を守る術は必要である。本当に力が宿っているのか怪しい玉だが、力があるならば持っていた方がいいと、そう判断したのだ。
何より、真夜からすれば、大切な妹である華夜を守る術が必要なのである。身を守るための武器を持っていたいと思うのも、彼女であれば仕方のない話であった。
「最後の一つは俺のだな」
「ええ・・・・。これで貴方も、勇者の試練を受ける事ができます」
そして、残された最後の一つである金色の秘宝は、櫂斗が手に取った。彼にとっては待ちに待った瞬間であり、感動的な瞬間でもあった。瞳を輝かせながら秘宝を見つめる櫂斗は、感極まった心を抑えられずに声を上げた。
「じゃあみんな、早速試そうぜ!秘宝の力って奴をさ!!」
軍の演習場までは遠く、近場にある丁度良い場所が城の庭園だった。庭園には軽い運動ができる程の空間があり、ここでアリオンは秘宝の力を試そうと考えていた。
だが・・・・・・。
「よっしゃ!いよいよ勇者の武器が手に入るぞ!!」
「私はなりたくないから、勇者なんて」
「何もかも勝手過ぎる。私も華夜も、従うつもりはないわ」
「こんなところ、もう嫌・・・・・」
当然の事ながら、四人の意志を確認する事なく、何もかも勝手に決められてしまったこの状況を、女性陣は納得していなかった。悠紀も真夜も華夜も、勇者になるつもりなど毛頭ないのである。
謁見の間では拒否できる空気ではなく、何が起こっているのかまだわからなかった事もあって、誰かに文句を言う事も出来なかった。しかし今は、自分達の置かれた状況が読めてきて、段々と落ち着いてきている。王国の人間はこの場にアリオンしかいないため、三人は揃って勇者になる事を拒んだ。
「なんでだよ悠紀!?先輩達も、勇者に選ばれたのが嬉しくないんすか!?」
「嬉しがってるのは櫂斗だけよ。私は早く家に帰りたいの」
「せっかくラノベ主人公みたいな奇跡が起きたんだぜ!?」
「だからなに?まさか櫂斗、この後私達がどうなっちゃうか、本当にわからないの?」
勇者になる気満々なのは、この場で櫂斗だけである。彼からすれば、夢にまで見た奇跡が本当に起きてしまったのだから、仕方がないのかもしれない。だがこれは、小説の中の話でも、アニメや映画の話でもなく、紛れもない現実の異世界転移なのである。それがどんな意味を持つのか、冷静に現実を見ている悠紀と違い、櫂斗は未だわかっていなかった。
悠紀が櫂斗を説得している中、真夜は華夜と手を繋ぎ、アリオンへと詰め寄っていった。彼女達もまた、悠紀と同じように現実を見ているからだ。
「今すぐ私達を元の世界に帰して。さもないと容赦しない」
鋭い眼光でアリオンを睨み付け、怒気を放ちながら口を開いた真夜に、上機嫌であったアリオンは戦慄した。彼からすれば、王国の勇者に選ばれる事は偉大であり、誰もが羨む栄光なのである。その認識は、例え異世界の人間であっても同じであると、そう思っていたのである。故に、御立腹な様子の真夜の態度が、信じなれないくらい意外で、恐ろしかったのだ。
「私も華夜も、あなた達の都合で勇者になるつもりはない。あなた、身勝手で汚いわ」
「そっ、そんな!?僕はただ、秘宝が求めた選ばれし者を召喚しただけで------」
「それが身勝手だとわからないの?最低の王子様ね」
召喚を成功させる事と、王国を救う計画を考える事に集中していたアリオンは、大切な事を全く考えてはいなかった。それは、召喚した者達の意志である。
アリオンもオーウェン達も、四人の意志を確認してはいなかった。勇者になりたいと思っているのは櫂斗だけであり、他の三人は全くそのつもりがないのである。四人全員を勇者にするためには、女性陣三人の意志を変えなくてはならないのだ。
「私達は誰にも従わない。誰の指図も受けない。勇者の代わりは他を探すことね」
「困ります!貴方方以外に、秘宝の勇者になれる者などいないんです!!」
「困るのはこっちよ。華夜をこんなに恐がらせて・・・・・、絶対に許さない」
王国の救済、そして自分の事しか考えていない彼にとって、真夜の言葉は鋭く尖った剣であった。彼女の言葉は全て正論であり、怒るのも当然である。反論などできるはずもないのだが、何とか説得しようとアリオンは口を開く。
「貴方方の意志を確かめず、この世界に導いてしまった事は謝罪します。ですが、どうか王国を救うために、力を貸して頂きたい!」
「さっき言った事が聞こえなかったの?今すぐ、私達を元の世界に帰しなさい」
「元の世界には必ず帰します!!でもどうか、今は御力を貸して下さい!貴方方が勇者にならなければ、この国はいずれ滅んでしまいます!」
「そういうのが身勝手で汚いって言ってるのよ!あなた達の事情に、私と華夜を巻き込まないで!!」
怒気を放っていても冷静であったが、彼の身勝手さに真夜の怒りが爆発してしまう。激怒した彼女はアリオンに激しい怒りをぶつけ、同情を誘う彼の言葉を跳ね除けた。
「いっ、痛いよ、お姉ちゃん・・・・・」
「!!」
怒るあまり手に力が入り、繋いでいた華夜の手を強く握りしめていた事に気付き、すぐに真夜は我に返った。手に込めてしまった力を緩め、真夜はアリオンから視線を移し、慌てて華夜へと向き直る。
「ごめんね華夜・・・・・・」
「ううん、大丈夫だよ・・・・」
「華夜は私が守るから。だから安心して」
自分の置かれた状況と、姉の激怒に怯える彼女を、真夜は安心させようと必死であった。真夜とアリオンの会話を見て、興奮していた櫂斗も流石に黙る。
場に流れた沈黙。それを破ったのは、彼女達が怒らせるとわかっていながら、意を決して言葉を発したアリオンであった。
「元の世界に戻るためには、勇者になる他に道はありません」
「「「「!?」」」」
「僕は貴方方を召喚するために、宝物庫にあったほとんどの魔法石を使ってしまいました。元の世界へ戻るためには、純度の高い大量の魔法石が必要なんです」
その言葉だけで、アリオンが何を言わんとしているのか、四人にはすぐに理解できた。この世界へ彼らを連れてくるための切符は、アリオンの魔法と魔法石であった。その魔法石が無くなった今、帰りの切符はない。
「僕の魔法だけでは、貴方方を元の世界へ帰す事はできません。魔法石がなければ貴方方は、この世界で一生を終える事になるでしょう」
「ええっ!?」
「冗談でしょ!?家に帰れないなんて、そんな・・・・・!」
「ご心配なく。勇者となれば、元の世界へ戻れるたった一つの方法があります」
驚愕する四人に対して、アリオンはさらに言葉を続ける。彼らが元の世界へ戻るための、たった一つの過酷な方法を・・・・・。
「勇者になり、ジエーデル国を倒す事さえできれば、帰るための魔法石が手に入ります」
「倒せばって、そう言われても・・・・・」
「勇者になってその何とかって国を倒したら、どうして魔法石が手に入るのよ!?」
「ジエーデルは多くの国を侵略し、大量の魔法石を自国のものにしています。ジエーデルさえ倒せば、その魔法石を回収できるでしょう」
帰るためには、勇者となってジエーデル国を敵と定め、戦争に勝利するしかない。アリオンが指し示した道は、険しく過酷で、とても残酷な道程であった。
「ねぇ、王子様・・・・・!自分の口にしてる言葉の意味、本当にわかってる!?」
「はい・・・・・」
「元の世界に帰りたいなら、勇者になって戦えって・・・・・、そんなの酷過ぎるわ!!」
今度は悠紀が激怒して、アリオンを睨んだまま詰め寄った。帰れないわけではない。帰るためには、勇者になって戦争に行けと、そう言われたのだ。彼女が怒りを爆発させるのも当然だった。
こうなる事を、彼の父であるオーウェンはわかっていた。謁見の場で彼は、まだアリオンが四人の意志を理解してないと見抜き、敢えて彼一人に四人の事を任せたのである。
この四人を勇者になると決意させない限り、王国の未来をアリオンに任せられない。自らが責任を負う覚悟で、オーウェンは彼に試練を与えたのである。これが試練であると、未だにアリオンは気付いていないが、四人の意志を変えるために、彼は非情に徹した。
「なあ悠紀、ちょっと落ち着けって!」
「櫂斗は黙ってて!なんにもわかってないくせに!」
「だからって、こいつを責めたって仕方ないだろ!」
「わたってるわよそんな事!!じゃあ私のこの気持ちは、一体どこにぶつけろって言うの!?」
怒りに震える悠紀を見て、何とか彼女落ち着かせようとした櫂斗だったが、彼の言葉は彼女をさらに怒らせるだけだった。
残酷な宣告に絶望し、その場にしゃがみ込んだ悠紀は泣き始めてしまった。どうしていいかわからず、その場に立ち尽くす櫂斗。そんな二人を見て、真夜と華夜も俯いてしまう。
このままではいけないと、尚もアリオンは口を開く。何を言っても憎まれるだろうと知りながら、それでも彼は説得を止めなかった。
「勇者となってジエーデルを倒した暁には、元の世界へ帰すだけでなく、恩賞も御用意いたします」
「やっぱり最低の王子様ね。今度は金で釣るつもり?」
「無償で戦って貰おうなどとは思っていません。これは当然の報酬です」
「いくら金を積まれたって、私と華夜はあなたの思い通りにはならないわ」
「一生何不自由なく暮らせるだけの恩賞を御用意いたします。他に僕が御用意できるものなら、何でも差し上げましょう」
「・・・・・!!」
その言葉に大きな反応を示したのは、しゃがみ込んで泣いていた悠紀であった。涙を拭いて立ち上がった彼女は、改めてアリオンを睨み付けながら、彼の発言に対して言葉を発する。
「今・・・・・、一生何不自由なく暮らせるだけの恩賞って、そう言ったわね?」
「はっ、はい・・・・・。それだけの金や財宝を御用意すると約束します」
アリオンの言葉を確認し、口でそう約束させると、彼女は数秒の間瞼を閉じた。やがて彼女は瞼を開き、決意した瞳を見せて言葉を発した。
「秘宝の一つを渡して。王子様の望み通り、勇者になってあげる」
「!!」
勇者になるつもりなど毛頭なかった悠紀が、何かを決意して勇者になると言い出した。恩賞の話を聞いた途端考えを変えた彼女に、この場の誰もが驚愕する中、驚きから我に返ったアリオンが、慌てて四つの玉を差し出す。
力を秘めた四つの秘宝。色は青が好きであるため、彼女は青色の秘宝を手に取った。見た目は大きめのビー玉と変わらないため、手に取った悠紀は、こんなものに本当に力が宿っているのかと、疑いの目を秘宝へと向ける。
そんな彼女に最初に声をかけたのは、鋭い視線を悠紀へと向ける真夜であった。
「早水さん。あなた、お金のために自分の命を危険に晒すつもり?」
「・・・・・・しょうがないんです。きっとこれは、最後のチャンスだから」
「・・・・・!」
ただ金に眼が眩んだというだけなら、彼女を止めるべきだと真夜は考えていた。しかし真夜の予想と違い、悠紀の眼には固い決意が宿っていたのである。口にはできない深い事情があると察し、真夜は説得を諦めるよりなかった。
説得を諦めた真夜はアリオンに近付き、彼が差し出していた秘宝の内、赤色と黒色を手に取っていった。またも驚くアリオンに向けて、二つの秘宝を手に持ちながら、彼女は鋭い視線を彼に向けたまま言葉を放つ。
「勘違いしないで。これは元の世界へ戻るために必要だから、自分達で管理したいだけよ」
勇者になるにしろ、ならないにしろ、この世界で身を守る術は必要である。本当に力が宿っているのか怪しい玉だが、力があるならば持っていた方がいいと、そう判断したのだ。
何より、真夜からすれば、大切な妹である華夜を守る術が必要なのである。身を守るための武器を持っていたいと思うのも、彼女であれば仕方のない話であった。
「最後の一つは俺のだな」
「ええ・・・・。これで貴方も、勇者の試練を受ける事ができます」
そして、残された最後の一つである金色の秘宝は、櫂斗が手に取った。彼にとっては待ちに待った瞬間であり、感動的な瞬間でもあった。瞳を輝かせながら秘宝を見つめる櫂斗は、感極まった心を抑えられずに声を上げた。
「じゃあみんな、早速試そうぜ!秘宝の力って奴をさ!!」
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