贖罪の救世主

水野アヤト

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第一話 初陣

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 夜が明けた。
 終わることのないと思えた戦いは、ようやく終わり、残ったのは焼け野原と、数えきれない屍の山だった。
 木々の焼けた煤の臭いと、死臭が混ざり合って、戦場は酷い臭いであり、その中でただ一人、立ち尽くしている男がいた。朝日が照らしだすその男は、腕や足に多くの切り傷をつくり、着ていた服はぼろぼろで、体中に誰のかもわからない返り血を、大量に浴びていた。

(ケントさん、ガリバロさん、モーリスさん・・・・・。ガレスさんも、死んだのか・・・・)

 アレクセイを殺した後も戦い続け、夜が明ける直前で、王子の戦死を知った残存オーデル軍は、それぞれが散り散りとなって逃げだした。それは撤退と言えるものではない、無法なものであった。
 多大な犠牲を払ったヴァスティナ軍は、辛くも勝利を収める形となり、帝国存亡の危機は去った。
 ヴァスティナ兵たちは誰もがその勝利に歓喜したが、激戦であったために、誰もがその場に倒れ込むように、腰を落とした。皆が体力と精神の限界を超えていたのだ。
 だが、男のいるその戦場の後は死体しかなく、他の戦場がどうなっているのかなど、全くわからなかった。
 わかっているのは、ただ一人だけが、ここで生き残ったということだけだ。

「俺一人だけか・・・・・・・」

 たった一つの武器であった、短剣の刃は折れてしまっている。この短剣と素手で、どれほどの人間を殺したのかはわからない。だがここで、誰よりも人を殺していた自覚があった。その証拠に、全身は返り血で染められている。

「リック」

 リックと呼ばれて、すぐに反応できなかった。何故なら男の名は、長門宗一郎なのだから。
 振り向く宗一の目に映ったのは、全身の防具が戦場の汚れに塗れても尚、凛として立つ褐色肌の銀髪騎士メシアだった。返り血や火災で汚れているその体には、一切傷がなく、まだ戦えると言わんばかりの、凛々しい姿がそこにあった。その後ろには、宗一をここまで運んできた、彼女の大型馬の姿がある。
 彼女の愛馬はあの戦いを生き残り、ここまで彼女を連れてきたのだった。

「メシア・・・・団・・・長・・・・」

 既に何もかも限界であった宗一は、張りつめた糸が切れたように、突然その場で気を失い倒れ始める。倒れ込む宗一を優しく受け止め、胸元で抱擁するメシア。疲れ切って気を失った頭を撫でながら、戦場では軍神そのものだった彼女が、今は慈愛に満ちた女神のように微笑む。

「よくやったリック・・・・・・。今は休むといい・・・・・・」

 耳元でそう囁く彼女の声は、彼に届かなかった。彼は優しい温もりに包まれ、深い眠りに落ちていく。
 後に、業火戦争と言われ語り継がれる戦争は、たったの一晩で終結した。
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