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第32.5話 俺のヴァスティナ帝国がこんなにイカれてるわけがない
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次の日の早朝。
早朝から誰よりも早く起き、自分の仕事を開始するメイド長ウルスラ。今やメイドは彼女一人であり、女王の身の回りのお世話などは、全て彼女が行なっている。彼女は一人、いつも多忙なのだ。
そんな彼女の前に突然、メイド服を着たミカエラとジェーンは現れた。
「貴女達・・・・・、どうして?」
二人のまさかの登場に、流石のウルスラも驚愕していた。
表情の鉄仮面のこのメイド長の驚く顔が見れただけで、早起きした甲斐があると思った二人。驚くウルスラに向けて、ミカエラが口を開く。
「無理やり連れて来られはしたけど、お風呂に入れたし、美味しい夕食ご馳走になったし、温かいベッドで眠る事もできた。あんたにぼこぼこにされたけど、十分お釣りがくる贅沢だったわ」
「だからさ、私もミカエラも恩返ししなきゃって思ったわけよ。人手足りてないんでしょ?私達、役に立つと思うけど?」
口ではそう言っているが、本当の理由は違う。儚くも美しいあの少女を、放ってはおけなかったのだ。
あの子の傍にいてあげたい。そう思った瞬間、二人は自分の心に突き動かされ、メイド服を身に纏う決意をした。
この先ずっと、このメイド服を着るかはわからない。ただ、もう少しだけ、眩しい微笑みを浮かべる、優しい彼女の傍にいたいのである。
「貴女達・・・・・、本当にいいのですね?」
「言っとくけど、あんたの部隊に入るわけじゃないわよ。あの子のお世話ぐらいだったらやってもいいかなって、そう思っただけなんだから」
「おやおや~?ミカエラちゃん、いい歳してツンデレ?」
「ばっ、馬鹿言わないで!それと、馴れ馴れしくちゃん付けしないでよ!」
二人の言葉に嘘偽りはない。
それを悟ったウルスラは、鋭い眼付きの真剣な表情を和らげ、優しく微笑んだ。
「ありがとう・・・・・」
それは彼女の、心の底からの感謝の言葉。二人にした事を深く反省したウルスラは、聖母のような微笑みと共に、彼女達を迎え入れた。
それから、ミカエラとジェーンの二人は、ヴァスティナ城のメイドとして働くようになった。
初めての挑戦である、城でのメイド仕事。厳しい教官タイプであるウルスラの指導に悪戦苦闘しながらも、日々メイドの仕事を覚え、女王ユリーシアの身の回りの世話に務めた。二人にとってこの日々は、忙しくも楽しく、充実した日々であった。
そして、二人がヴァスティナ城のメイドとなって、一か月の月日が流れた・・・・・。
これは、ミカエラとジェーンにとって、忘れる事の出来ない運命の日。
メイドとして女王ユリーシアの傍で働き、彼女を知り、彼女を心から愛した。いつまでも傍にいてあげたいと、そう願った。この日二人は、血で穢れ切った自分達の残りの人生を、全て彼女に捧げると誓った。
二人は決意し、ウルスラが創設する新部隊の最初のメイドとなった。
女王守護の最後の砦、その名は「フラワー部隊」。ユリーシアを守る強く気高い花々。ウルスラの願いが込められたメイド部隊は、こうして創設された。
そして二人は、生まれ変わるために新しい名前を欲した。ユリーシアに忠誠を誓うためには、血で染め上げられたこの名を捨てなくてはならない。そうしなければ、自分達の存在が彼女を脅かしてしまうからだ。
ユリーシアは二人の願いを聞き入れ、新しい名前を二人に与えた。
「今日から、貴女の名前はリンドウと名付けましょう」
「リンドウ・・・・・・」
それは、誠実という花言葉を持つ、美しい花の名前。
「どうして・・・・・、花の名前を・・・・・・?」
「私は花が好きなんです。名付けるなら、貴女に相応しい花の名をと思ったのですが・・・・・・、お気に召しませんでしたでしょうか・・・・・」
「気に入りました。今日から私はリンドウ。帝国メイドとして、貴女に忠誠を誓います」
「これから宜しく御願いします、リンドウ」
「はい、女王陛下」
氷の人狼ミカエラ・エヴォンスは、この瞬間死んだ。
ユリーシアの前で生涯の忠誠を誓った彼女の名は、リンドウ。帝国メイド部隊、フラワー部隊最初の隊員となった、彼女が生涯忘れない瞬間。
「じゃあ、次は私ね!陛下、私はなんていう花の名前にします?」
「え~と、そうですね・・・・・」
「陛下、こんな奴の名前なんて悩む事ないです。お調子者の戦闘狂だし、おまけに腐ってる」
「酷くない!?それから、腐ってるんじゃなくて発酵してるの!私をそこら辺の腐った女共と一緒にしないで!」
「相変わらず言いたい事がよくわからないんだけど、とりあえず気持ち悪い」
ジェーンもまた、この日新しい名前を手に入れた。
傭兵として生きるのではなく、帝国メイド部隊の一員として生きると決めた、彼女の新しい名は・・・・・。
「腐ってると言えば・・・・・・、大陸にはラフレシアという花があって、腐ったような臭いがすると聞いた事があります」
「陛下!だから私は腐って・・・・・・・・・・・・・、その花なんて言いましたっけ?」
「ラフレシアですが・・・・・、それが何か?」
「・・・・・・響きが気に入りました。今日から私、ラフレシアになります!」
ユリーシアとリンドウが驚愕する中、ジェーン改めラフレシアは、新しい名前を無邪気に喜んでいた。
本人が良いのであればと、ユリーシアはラフレシアという名を彼女に与え、帝国メイド部隊の一員と認めたのである。
「リンドウ、ラフレシア。正式に貴女達を、ヴァスティナ帝国のメイドと認めます。その命尽きるまで、私と共に在りなさい」
「この身に纏うメイド服に誓います。生涯の忠誠を・・・・・」
「私の命は、常にユリーシア陛下と共に・・・・・」
これは、ミカエラとジェーンという存在が、リンドウとラフレシアというメイドに生まれ変わり、新しい生き方を選んだ物語。
その日見たユリーシアの姿も、彼女の言葉も、自分達の誓いも、二人は忘れない・・・・・・。
早朝から誰よりも早く起き、自分の仕事を開始するメイド長ウルスラ。今やメイドは彼女一人であり、女王の身の回りのお世話などは、全て彼女が行なっている。彼女は一人、いつも多忙なのだ。
そんな彼女の前に突然、メイド服を着たミカエラとジェーンは現れた。
「貴女達・・・・・、どうして?」
二人のまさかの登場に、流石のウルスラも驚愕していた。
表情の鉄仮面のこのメイド長の驚く顔が見れただけで、早起きした甲斐があると思った二人。驚くウルスラに向けて、ミカエラが口を開く。
「無理やり連れて来られはしたけど、お風呂に入れたし、美味しい夕食ご馳走になったし、温かいベッドで眠る事もできた。あんたにぼこぼこにされたけど、十分お釣りがくる贅沢だったわ」
「だからさ、私もミカエラも恩返ししなきゃって思ったわけよ。人手足りてないんでしょ?私達、役に立つと思うけど?」
口ではそう言っているが、本当の理由は違う。儚くも美しいあの少女を、放ってはおけなかったのだ。
あの子の傍にいてあげたい。そう思った瞬間、二人は自分の心に突き動かされ、メイド服を身に纏う決意をした。
この先ずっと、このメイド服を着るかはわからない。ただ、もう少しだけ、眩しい微笑みを浮かべる、優しい彼女の傍にいたいのである。
「貴女達・・・・・、本当にいいのですね?」
「言っとくけど、あんたの部隊に入るわけじゃないわよ。あの子のお世話ぐらいだったらやってもいいかなって、そう思っただけなんだから」
「おやおや~?ミカエラちゃん、いい歳してツンデレ?」
「ばっ、馬鹿言わないで!それと、馴れ馴れしくちゃん付けしないでよ!」
二人の言葉に嘘偽りはない。
それを悟ったウルスラは、鋭い眼付きの真剣な表情を和らげ、優しく微笑んだ。
「ありがとう・・・・・」
それは彼女の、心の底からの感謝の言葉。二人にした事を深く反省したウルスラは、聖母のような微笑みと共に、彼女達を迎え入れた。
それから、ミカエラとジェーンの二人は、ヴァスティナ城のメイドとして働くようになった。
初めての挑戦である、城でのメイド仕事。厳しい教官タイプであるウルスラの指導に悪戦苦闘しながらも、日々メイドの仕事を覚え、女王ユリーシアの身の回りの世話に務めた。二人にとってこの日々は、忙しくも楽しく、充実した日々であった。
そして、二人がヴァスティナ城のメイドとなって、一か月の月日が流れた・・・・・。
これは、ミカエラとジェーンにとって、忘れる事の出来ない運命の日。
メイドとして女王ユリーシアの傍で働き、彼女を知り、彼女を心から愛した。いつまでも傍にいてあげたいと、そう願った。この日二人は、血で穢れ切った自分達の残りの人生を、全て彼女に捧げると誓った。
二人は決意し、ウルスラが創設する新部隊の最初のメイドとなった。
女王守護の最後の砦、その名は「フラワー部隊」。ユリーシアを守る強く気高い花々。ウルスラの願いが込められたメイド部隊は、こうして創設された。
そして二人は、生まれ変わるために新しい名前を欲した。ユリーシアに忠誠を誓うためには、血で染め上げられたこの名を捨てなくてはならない。そうしなければ、自分達の存在が彼女を脅かしてしまうからだ。
ユリーシアは二人の願いを聞き入れ、新しい名前を二人に与えた。
「今日から、貴女の名前はリンドウと名付けましょう」
「リンドウ・・・・・・」
それは、誠実という花言葉を持つ、美しい花の名前。
「どうして・・・・・、花の名前を・・・・・・?」
「私は花が好きなんです。名付けるなら、貴女に相応しい花の名をと思ったのですが・・・・・・、お気に召しませんでしたでしょうか・・・・・」
「気に入りました。今日から私はリンドウ。帝国メイドとして、貴女に忠誠を誓います」
「これから宜しく御願いします、リンドウ」
「はい、女王陛下」
氷の人狼ミカエラ・エヴォンスは、この瞬間死んだ。
ユリーシアの前で生涯の忠誠を誓った彼女の名は、リンドウ。帝国メイド部隊、フラワー部隊最初の隊員となった、彼女が生涯忘れない瞬間。
「じゃあ、次は私ね!陛下、私はなんていう花の名前にします?」
「え~と、そうですね・・・・・」
「陛下、こんな奴の名前なんて悩む事ないです。お調子者の戦闘狂だし、おまけに腐ってる」
「酷くない!?それから、腐ってるんじゃなくて発酵してるの!私をそこら辺の腐った女共と一緒にしないで!」
「相変わらず言いたい事がよくわからないんだけど、とりあえず気持ち悪い」
ジェーンもまた、この日新しい名前を手に入れた。
傭兵として生きるのではなく、帝国メイド部隊の一員として生きると決めた、彼女の新しい名は・・・・・。
「腐ってると言えば・・・・・・、大陸にはラフレシアという花があって、腐ったような臭いがすると聞いた事があります」
「陛下!だから私は腐って・・・・・・・・・・・・・、その花なんて言いましたっけ?」
「ラフレシアですが・・・・・、それが何か?」
「・・・・・・響きが気に入りました。今日から私、ラフレシアになります!」
ユリーシアとリンドウが驚愕する中、ジェーン改めラフレシアは、新しい名前を無邪気に喜んでいた。
本人が良いのであればと、ユリーシアはラフレシアという名を彼女に与え、帝国メイド部隊の一員と認めたのである。
「リンドウ、ラフレシア。正式に貴女達を、ヴァスティナ帝国のメイドと認めます。その命尽きるまで、私と共に在りなさい」
「この身に纏うメイド服に誓います。生涯の忠誠を・・・・・」
「私の命は、常にユリーシア陛下と共に・・・・・」
これは、ミカエラとジェーンという存在が、リンドウとラフレシアというメイドに生まれ変わり、新しい生き方を選んだ物語。
その日見たユリーシアの姿も、彼女の言葉も、自分達の誓いも、二人は忘れない・・・・・・。
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