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第32.5話 俺のヴァスティナ帝国がこんなにイカれてるわけがない
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3.宰相リリカの華麗なる一日
ヴァスティナ帝国宰相リリカの朝は早くも遅くもない。偶に遅い時もあるが、今日はそうではなかった。
寝室のベッドで目を覚ました、長い金色の髪を持つ裸の美女。彼女は寝る時、服を着たまま寝ないのである。白く美しい肌と豊満な胸。その裸体はまさに、ナイスバディと呼ぶに相応しい。彼女の事を、絶世の美女と謳う者は大勢いるのだが、そう謳ってしまうのは仕方がないだろう。実際彼女は、世の男達が絶対放っておけない、伝説級の美女だ。
「んっ・・・・・・もう朝か・・・・・・」
ベッドから体を起こし、窓から差し込む日の光で、今日の天気を知る。天気がいい、気持ちのいい朝。今日は外でお茶会を開こうかなどと考えながら、彼女はベッドから起きようとする。
すると、寝室の扉が開き、メイド服姿の一人の女性が入室してきた。
「・・・・・既に起きていらっしゃいましたか。おはようございます、リリカ様」
「ふふっ・・・・・、今日は君が当番だったね。おはよう、メイド長」
宰相リリカの朝は、必ずメイドが一人やってくる。彼女を眠りから起こし、着替えなどを手伝い、朝食へと案内するためだ。
彼女の寝室にやってくるメイドは当番制のため、日によって変わる。今日はメイド長ウルスラの日だ。リリカよりも年上で、帝国メイド部隊の最高指揮官である、帝国女王最後の砦。メイド仕事も戦闘も完ぺきにこなしてしまう、稀にみる完璧超人である。
「今日の朝食は何かな?」
「本日はパンとスープ、オムレツとサラダに加えまして、デザートは各種フルーツの盛り合わせとなっております。お飲み物はいかがいたしますか?」
「昨日は珈琲だったからね、今日は紅茶を貰おうか」
「エステラン国産の最高級茶葉をご用意してあります。是非、ご堪能下さい」
天気のいい朝。優雅な朝食。そのお陰か、寝起きとは思えないくらい彼女の機嫌はとてもいい。
そう・・・・・、こうして機嫌がいい日こそ、魅惑の美貌を持つ彼女の本性が姿を現す。
「ところでメイド長。先日、面白いパジャマを手に入れたそうじゃないか」
「!」
何事にも動じない、表情鉄仮面の真面目メイド長であるウルスラが、ぎくりと肩を震わせた。その反応が面白くて、ご機嫌な様子のまま彼女は言葉を続ける。
「希少な魔物チュパカブラをデザインして作られた、チュパカブラパジャマ。服屋の店主が独創性を追求して作っては見たものの、その独特のデザイン故に誰も買わなかったという一品。ふふっ、パジャマ収集家の血が騒いだかい?」
「どうしてそれを・・・・・・」
「私の情報網を甘く見ない事だ。変装までして買いに行ったようだけど、そんなパジャマを買うのは帝国で君だけさ。誰だって気付く」
「やはり、貴女に隠し事は出来ませんね・・・・・・」
ウルスラ的には秘密だが、多くの人間が知っている彼女の趣味。それは、可愛いパジャマの収集である。秘密にしている理由は恥ずかしいからだ。彼女は、自分が可愛いと思ったパジャマは何でも集め、就寝時にはそれを着て鏡の前に立つ。集めるだけでなく、人が着た状態のそのパジャマの可愛さを、鏡で見て楽しむのである。
ちなみに、チュパカブラパジャマは既にお楽しみ済みだ。
「恥ずかしい趣味ではないだろうに。もう皆知っているのだし、秘密にしておく必要はない」
「・・・・・・私はもう四十を超えています。歳に似合わない趣味なので、あまり知られたくはありません」
「と言うわりには、歳に似合わなさそうなパジャマをいっぱい持っているね。兎パジャマとか亀パジャマとか、最近アルマジロパジャマなんてものも購入したそうだね」
「それは!内密にラフレシアに買いに行かせたもの!どうしてリリカ様がそれを!?」
「もちろん、そのラフレシアから聞き出したのさ。あの子の欲しがりそうな本を餌にしたら、色々と喋ってくれたよ」
「なるほど・・・・・。裏切り者には制裁が必要ですね」
この数時間後、城内を死に物狂いで逃げ回るラフレシアと、そんな彼女を鬼の形相で追いかけるウルスラの姿が目撃される。城内にはラフレシアの悲鳴が響き渡り、メイド長を裏切ればどんな目に遭うか、メイド部隊全員が改めて思い知る事となる。
機嫌のいいリリカは、朝からその本性を現した。笑みを浮かべてウルスラを見つめる、絶世の美女。彼女は他人の弱みを握り、相手を揶揄って愉悦を得る趣味がある。帝国では誰も逆らえない、妖艶なる美女なのだ。
「ふふふっ・・・・・、朝からメイド長のいい顔が見れた。慌てたメイド長の姿は貴重だね」
「ごほんっ・・・・。リリカ様、この事はどうか秘密にして頂きたい」
「それはメイド長の誠意次第さ。私の興味をそそる話でも持っているなら、秘密にしてもいいよ」
「・・・・・・・・では、陛下が私に隠れ、密かに紅茶を淹れる練習をされているという話はいかがでしょうか?」
「面白そうだね。朝食の時にたっぷり聞かせて貰うよ」
これが、ヴァスティナ帝国宰相リリカの朝である。
この国を裏で支配していると言われている、帝国最凶の女性。彼女の一日は、こうして始まった。
ヴァスティナ帝国宰相リリカの朝は早くも遅くもない。偶に遅い時もあるが、今日はそうではなかった。
寝室のベッドで目を覚ました、長い金色の髪を持つ裸の美女。彼女は寝る時、服を着たまま寝ないのである。白く美しい肌と豊満な胸。その裸体はまさに、ナイスバディと呼ぶに相応しい。彼女の事を、絶世の美女と謳う者は大勢いるのだが、そう謳ってしまうのは仕方がないだろう。実際彼女は、世の男達が絶対放っておけない、伝説級の美女だ。
「んっ・・・・・・もう朝か・・・・・・」
ベッドから体を起こし、窓から差し込む日の光で、今日の天気を知る。天気がいい、気持ちのいい朝。今日は外でお茶会を開こうかなどと考えながら、彼女はベッドから起きようとする。
すると、寝室の扉が開き、メイド服姿の一人の女性が入室してきた。
「・・・・・既に起きていらっしゃいましたか。おはようございます、リリカ様」
「ふふっ・・・・・、今日は君が当番だったね。おはよう、メイド長」
宰相リリカの朝は、必ずメイドが一人やってくる。彼女を眠りから起こし、着替えなどを手伝い、朝食へと案内するためだ。
彼女の寝室にやってくるメイドは当番制のため、日によって変わる。今日はメイド長ウルスラの日だ。リリカよりも年上で、帝国メイド部隊の最高指揮官である、帝国女王最後の砦。メイド仕事も戦闘も完ぺきにこなしてしまう、稀にみる完璧超人である。
「今日の朝食は何かな?」
「本日はパンとスープ、オムレツとサラダに加えまして、デザートは各種フルーツの盛り合わせとなっております。お飲み物はいかがいたしますか?」
「昨日は珈琲だったからね、今日は紅茶を貰おうか」
「エステラン国産の最高級茶葉をご用意してあります。是非、ご堪能下さい」
天気のいい朝。優雅な朝食。そのお陰か、寝起きとは思えないくらい彼女の機嫌はとてもいい。
そう・・・・・、こうして機嫌がいい日こそ、魅惑の美貌を持つ彼女の本性が姿を現す。
「ところでメイド長。先日、面白いパジャマを手に入れたそうじゃないか」
「!」
何事にも動じない、表情鉄仮面の真面目メイド長であるウルスラが、ぎくりと肩を震わせた。その反応が面白くて、ご機嫌な様子のまま彼女は言葉を続ける。
「希少な魔物チュパカブラをデザインして作られた、チュパカブラパジャマ。服屋の店主が独創性を追求して作っては見たものの、その独特のデザイン故に誰も買わなかったという一品。ふふっ、パジャマ収集家の血が騒いだかい?」
「どうしてそれを・・・・・・」
「私の情報網を甘く見ない事だ。変装までして買いに行ったようだけど、そんなパジャマを買うのは帝国で君だけさ。誰だって気付く」
「やはり、貴女に隠し事は出来ませんね・・・・・・」
ウルスラ的には秘密だが、多くの人間が知っている彼女の趣味。それは、可愛いパジャマの収集である。秘密にしている理由は恥ずかしいからだ。彼女は、自分が可愛いと思ったパジャマは何でも集め、就寝時にはそれを着て鏡の前に立つ。集めるだけでなく、人が着た状態のそのパジャマの可愛さを、鏡で見て楽しむのである。
ちなみに、チュパカブラパジャマは既にお楽しみ済みだ。
「恥ずかしい趣味ではないだろうに。もう皆知っているのだし、秘密にしておく必要はない」
「・・・・・・私はもう四十を超えています。歳に似合わない趣味なので、あまり知られたくはありません」
「と言うわりには、歳に似合わなさそうなパジャマをいっぱい持っているね。兎パジャマとか亀パジャマとか、最近アルマジロパジャマなんてものも購入したそうだね」
「それは!内密にラフレシアに買いに行かせたもの!どうしてリリカ様がそれを!?」
「もちろん、そのラフレシアから聞き出したのさ。あの子の欲しがりそうな本を餌にしたら、色々と喋ってくれたよ」
「なるほど・・・・・。裏切り者には制裁が必要ですね」
この数時間後、城内を死に物狂いで逃げ回るラフレシアと、そんな彼女を鬼の形相で追いかけるウルスラの姿が目撃される。城内にはラフレシアの悲鳴が響き渡り、メイド長を裏切ればどんな目に遭うか、メイド部隊全員が改めて思い知る事となる。
機嫌のいいリリカは、朝からその本性を現した。笑みを浮かべてウルスラを見つめる、絶世の美女。彼女は他人の弱みを握り、相手を揶揄って愉悦を得る趣味がある。帝国では誰も逆らえない、妖艶なる美女なのだ。
「ふふふっ・・・・・、朝からメイド長のいい顔が見れた。慌てたメイド長の姿は貴重だね」
「ごほんっ・・・・。リリカ様、この事はどうか秘密にして頂きたい」
「それはメイド長の誠意次第さ。私の興味をそそる話でも持っているなら、秘密にしてもいいよ」
「・・・・・・・・では、陛下が私に隠れ、密かに紅茶を淹れる練習をされているという話はいかがでしょうか?」
「面白そうだね。朝食の時にたっぷり聞かせて貰うよ」
これが、ヴァスティナ帝国宰相リリカの朝である。
この国を裏で支配していると言われている、帝国最凶の女性。彼女の一日は、こうして始まった。
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