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第三十二話 悪夢の終わりと、彼女の望み
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それからさらに二週間後。
「・・・・・・・」
「おい槍女。お前、気は確かなんだろうな?」
「貴様の言いたい事はわかる。この女については、私が責任を持つ」
「馬鹿!いくらこいつが戦う気がなくてもな、こいつはこの前まで敵だった女だぞ!?」
道中何事もなく無事に帰国し、眠り続けたままのリクトビアは、治療のため城へ運び込まれた。
ヴァスティナ帝国。リクトビア達が帰るべき国。彼らにとっては、守るべき美しい国である。
「だからこそ、万が一のために貴様に同行を頼んだ」
「ふざけんな!お前が珍しく頭下げて頼むから、どんなもんかと思って聞いてやったらこれかよ!?」
「それは、初めに頼みの内容を聞かなかった貴様が悪い」
「たちの悪い詐欺か!?二度とお前の頼みは聞かねぇからな!!」
ヴァスティナ城。城の中を口喧嘩しながら歩く二人の男女と、両手に手枷を嵌められた一人の少女。二人は少女を連れ、城内の通路を進み、ある部屋を目指していた。二人が口喧嘩をしている理由は、この無口な少女を連れてその部屋を目指しているからだ。
口喧嘩の真っ最中であるこの二人の名は、レイナ・ミカヅキとクリスティアーノ・レッドフォード。帝国軍では最早名物である、犬猿の仲の二人である。二人の口喧嘩など、帝国の日常風景のようなものだが、今日の喧嘩は、クリスが怒り出すのも無理はない。
「この眼帯女をリックのところに連れていくなんざ、お前どうかしてるぞ!?正気かおい!!」
二人が連れている少女の名は、ヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼ。二人にとっては、先の戦争で絶対に討つと誓った宿敵だった。
帝国まで同行した彼女は、当然の事ながら牢獄に監禁された。敵国の人間であり、猛者であるレイナとクリスを圧倒する程の、危険人物でもある。正直、牢獄に監禁する程度では、何も安心できないだろう。と言っても今の彼女は、気力を失ったままであり、牢獄ではずっと大人しかった。
牢獄のヴィヴィアンヌを監視していたのは、責任を持つと言ったレイナ自身である。牢獄の中でも彼女は沈黙し続け、何も問題は起きなかった。しかし、彼女は今日、一人である決心を固め、自分の監視をしていたレイナに願った。
そんな彼女の願いとは、リクトビアに会わせて欲しいという、無茶な願いだったのである。
「・・・・・・貴様の言う通り、私は正気ではないのかもしれない」
「はあ!?自覚あんのかよ!」
「私だって、貴様やイヴ達と同じようにこの女は許せない。だがこの女は、参謀長を殺さず助けようとした」
「だから何だって言うんだよ!?」
「この女もまた、参謀長に救われた一人だろう。参謀長の身を案じているのならば、その願いを叶えたいと思ってしまった」
帝国の誰もが彼女を敵視し、危険だと訴えている中レイナだけは、ヴィヴィアンヌの味方のようであった。それは彼女が、誰よりも今の彼女を理解できてしまったが故である。理解できたが為に、放ってはおけなかったのだ。
彼女はリクトビアに会いたいと願った。それ以外、何も願わなかった。リクトビアに会わせれば、何かが変わるのかもしれない。そう考えてしまい、レイナはヴィヴィアンヌを牢から出した。万が一の事を考え、クリスには「手伝って欲しい」とだけ言って、頭を下げて頼み、彼女を連れ出すのに同行させたのである。
「お前、こいつが本当に信用できるのか!?リックに会ったら襲い掛かるつもりかもしれないぜ!」
「その時は、私がこの女を殺す」
「ちっ・・・・、面倒な事になりやがったぜ」
レイナもクリスも、ヴィヴィアンヌを警戒してそれぞれの得物を持っている。彼女が少しでも不審な動きを見せれば、即座に殺す態勢でもある。レイナの言葉は本気であった。ヴィヴィアンヌがまたリクトビアを襲うつもりならば、自分が始末をつける。その覚悟はできているのだ。
レイナの眼を見てその覚悟を察したクリスは、諦め半分、呆れ半分といった調子で溜息を吐く。犬猿の仲ではあるが、何だかんだで彼はレイナの良き理解者なのである。
「偶に頑固でうぜぇよな、お前」
「・・・・・・・そうなのか?」
「それは自覚ねぇのかよ!?」
気が付けば、いつもの様な喧嘩を続けながら、二人はヴィヴィアンヌを連れて歩き続けた。帝国軍の名物であり痴態ともいえる光景なのだが、ヴィヴィアンヌがいるのも忘れて、二人はいつもの調子である。
すると、沈黙を続けていた彼女が、二人の喧嘩に対して口を開いた。
「貴様達、仲が良いな」
「「どこがっ!?」」
「・・・・・・・」
「おい槍女。お前、気は確かなんだろうな?」
「貴様の言いたい事はわかる。この女については、私が責任を持つ」
「馬鹿!いくらこいつが戦う気がなくてもな、こいつはこの前まで敵だった女だぞ!?」
道中何事もなく無事に帰国し、眠り続けたままのリクトビアは、治療のため城へ運び込まれた。
ヴァスティナ帝国。リクトビア達が帰るべき国。彼らにとっては、守るべき美しい国である。
「だからこそ、万が一のために貴様に同行を頼んだ」
「ふざけんな!お前が珍しく頭下げて頼むから、どんなもんかと思って聞いてやったらこれかよ!?」
「それは、初めに頼みの内容を聞かなかった貴様が悪い」
「たちの悪い詐欺か!?二度とお前の頼みは聞かねぇからな!!」
ヴァスティナ城。城の中を口喧嘩しながら歩く二人の男女と、両手に手枷を嵌められた一人の少女。二人は少女を連れ、城内の通路を進み、ある部屋を目指していた。二人が口喧嘩をしている理由は、この無口な少女を連れてその部屋を目指しているからだ。
口喧嘩の真っ最中であるこの二人の名は、レイナ・ミカヅキとクリスティアーノ・レッドフォード。帝国軍では最早名物である、犬猿の仲の二人である。二人の口喧嘩など、帝国の日常風景のようなものだが、今日の喧嘩は、クリスが怒り出すのも無理はない。
「この眼帯女をリックのところに連れていくなんざ、お前どうかしてるぞ!?正気かおい!!」
二人が連れている少女の名は、ヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼ。二人にとっては、先の戦争で絶対に討つと誓った宿敵だった。
帝国まで同行した彼女は、当然の事ながら牢獄に監禁された。敵国の人間であり、猛者であるレイナとクリスを圧倒する程の、危険人物でもある。正直、牢獄に監禁する程度では、何も安心できないだろう。と言っても今の彼女は、気力を失ったままであり、牢獄ではずっと大人しかった。
牢獄のヴィヴィアンヌを監視していたのは、責任を持つと言ったレイナ自身である。牢獄の中でも彼女は沈黙し続け、何も問題は起きなかった。しかし、彼女は今日、一人である決心を固め、自分の監視をしていたレイナに願った。
そんな彼女の願いとは、リクトビアに会わせて欲しいという、無茶な願いだったのである。
「・・・・・・貴様の言う通り、私は正気ではないのかもしれない」
「はあ!?自覚あんのかよ!」
「私だって、貴様やイヴ達と同じようにこの女は許せない。だがこの女は、参謀長を殺さず助けようとした」
「だから何だって言うんだよ!?」
「この女もまた、参謀長に救われた一人だろう。参謀長の身を案じているのならば、その願いを叶えたいと思ってしまった」
帝国の誰もが彼女を敵視し、危険だと訴えている中レイナだけは、ヴィヴィアンヌの味方のようであった。それは彼女が、誰よりも今の彼女を理解できてしまったが故である。理解できたが為に、放ってはおけなかったのだ。
彼女はリクトビアに会いたいと願った。それ以外、何も願わなかった。リクトビアに会わせれば、何かが変わるのかもしれない。そう考えてしまい、レイナはヴィヴィアンヌを牢から出した。万が一の事を考え、クリスには「手伝って欲しい」とだけ言って、頭を下げて頼み、彼女を連れ出すのに同行させたのである。
「お前、こいつが本当に信用できるのか!?リックに会ったら襲い掛かるつもりかもしれないぜ!」
「その時は、私がこの女を殺す」
「ちっ・・・・、面倒な事になりやがったぜ」
レイナもクリスも、ヴィヴィアンヌを警戒してそれぞれの得物を持っている。彼女が少しでも不審な動きを見せれば、即座に殺す態勢でもある。レイナの言葉は本気であった。ヴィヴィアンヌがまたリクトビアを襲うつもりならば、自分が始末をつける。その覚悟はできているのだ。
レイナの眼を見てその覚悟を察したクリスは、諦め半分、呆れ半分といった調子で溜息を吐く。犬猿の仲ではあるが、何だかんだで彼はレイナの良き理解者なのである。
「偶に頑固でうぜぇよな、お前」
「・・・・・・・そうなのか?」
「それは自覚ねぇのかよ!?」
気が付けば、いつもの様な喧嘩を続けながら、二人はヴィヴィアンヌを連れて歩き続けた。帝国軍の名物であり痴態ともいえる光景なのだが、ヴィヴィアンヌがいるのも忘れて、二人はいつもの調子である。
すると、沈黙を続けていた彼女が、二人の喧嘩に対して口を開いた。
「貴様達、仲が良いな」
「「どこがっ!?」」
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