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第二十九話 アーレンツ攻防戦
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「ゴリオン、今日も大活躍だったんだって?流石、俺が見込んだ帝国最強の盾だな」
「オラだけの活躍じゃないだよ。みんなが頑張ってくれたんだな」
「でも、いつも通りお前が前に出て皆を守ったからこそ、最小限の被害で勝てたんだ。もっと誇っていいんだぞ?」
これは彼の記憶の一つである。まだヴァスティナ帝国が現在のような体制ではなく、軍事力も小さかった時の、一年前の記憶。
記憶の主の名はゴリオン。この記憶は、帝国軍が南ローミリア内の治安維持活動の一環で、盗賊などの勢力討伐に力を入れていた時の日々の、ほんの一部分である。
「オラ・・・・・、本当に役に立っただか?」
「もちろん!ゴリオンがいるだけで頼もしいし、敵を蹴散らしてくれるし、力も強くて鉄壁だし、役に立ってるに決まってるだろ」
ゴリオンの活躍を褒め、彼に笑顔を向ける男がいる。
その男の名はリック。ゴリオンを帝国軍の一員として、彼の主となった男だ。
「なんだか・・・・・信じられないだよ・・・・・」
「どうして?」
「オラ、今まで褒められたことなんてないんだな。だってオラ、愚図でのろまで頭も悪いんだな・・・・」
ゴリオンは元オーデル王国の兵士であった。そこでゴリオンは、オーデル王国軍の兵士達に馬鹿にされ、無能と罵られ、お前は使えないと言われ追い出された過去を持つ。
彼は今まで、褒め称えられる事も尊敬される事もなく、他者に馬鹿にされて生きてきた。リックと出会うまで、今のように褒められた事など一度もない。故に戸惑ってしまうのである。
「・・・・・あのなゴリオン、俺はお前を誇りに思ってる」
「そっ、そうなんだか?」
「誰にだって苦手な事はあるし、能力で劣る事もある。でもお前は、それを補って余りあるほどの力を持ってるじゃないか」
「でもオラ、力しか取り柄ないんだな・・・・・」
「それでいいんだよ。力持ちの男はモテるんだぞ?俺が女だったら絶対惚れてる」
ゴリオンの気持ちを察して、リックは微笑みながらそう答える。今までの扱われ方と違う今の環境に、彼が不安を抱いているのをよく理解しているからだ。
「おっ、オラなんかに惚れるだか・・・・・・?」
「力持ちの筋肉タイプはモテるんだから、もっと自分に自信を持てよ。まあ、そういう謙虚なところはゴリオンのいいところだけど」
「でもオラは・・・・・・」
「でもじゃない。今まで他の奴らがお前にどんな酷い事言ったかは知らないけど、俺はゴリオンの事大好きだし、最高の仲間だと思ってる。だ・か・ら!」
そう言って、リックはゴリオンの瞳を真っ直ぐ見つめた。ゴリオンから見た彼の眼は、嘘偽りを感じさせない、澄んだ瞳であった。それはゴリオンにとって、この世で初めて見た、綺麗な瞳だったのである。
「お前は、ここにいていいんだ」
「!!」
誰かに好かれた事はなかった。誰かに必要とされた事もなかった。そんな自分に、目の前の男は微笑みを浮かべ、ここにいていいと言ってくれる。そんな事を言ってくれた人間に、彼は今まで会った事もない。
居場所をくれた。存在する価値をくれた。そして、仲間だと言って愛してくれる。今までゴリオンが望んでも手に入れられなかったものを、リックは全て与えてくれたのだ。
「ここがお前の居場所。お前の役目は、俺にとってもお前にとっても大切な仲間達を守る事だ。それが、帝国軍最強の盾、ゴリオンっていう男だ」
「リック・・・・・・」
「当然だけど、ゴリオンがピンチになった時は俺達がお前を助ける。絶対に見捨てたりしないから安心しろ」
この時ゴリオンは、生まれて初めて、心の底から守りたいと思える大切な存在を見つけた。
それは、一国の軍隊の全てを率い、愛する者達のために己を傷付け戦う、純粋で不器用で愛おしい存在であった。彼にとってそれは、己の命の全てを懸けてでも守りたいと思える、かけがえのない存在であったのである。
「オラ、約束するんだな」
「んっ?」
彼は新たな決意を胸に抱き、リックに向かって誓いを立てた。
「何があっても、オラはリックを守って見せるんだな!」
「オラだけの活躍じゃないだよ。みんなが頑張ってくれたんだな」
「でも、いつも通りお前が前に出て皆を守ったからこそ、最小限の被害で勝てたんだ。もっと誇っていいんだぞ?」
これは彼の記憶の一つである。まだヴァスティナ帝国が現在のような体制ではなく、軍事力も小さかった時の、一年前の記憶。
記憶の主の名はゴリオン。この記憶は、帝国軍が南ローミリア内の治安維持活動の一環で、盗賊などの勢力討伐に力を入れていた時の日々の、ほんの一部分である。
「オラ・・・・・、本当に役に立っただか?」
「もちろん!ゴリオンがいるだけで頼もしいし、敵を蹴散らしてくれるし、力も強くて鉄壁だし、役に立ってるに決まってるだろ」
ゴリオンの活躍を褒め、彼に笑顔を向ける男がいる。
その男の名はリック。ゴリオンを帝国軍の一員として、彼の主となった男だ。
「なんだか・・・・・信じられないだよ・・・・・」
「どうして?」
「オラ、今まで褒められたことなんてないんだな。だってオラ、愚図でのろまで頭も悪いんだな・・・・」
ゴリオンは元オーデル王国の兵士であった。そこでゴリオンは、オーデル王国軍の兵士達に馬鹿にされ、無能と罵られ、お前は使えないと言われ追い出された過去を持つ。
彼は今まで、褒め称えられる事も尊敬される事もなく、他者に馬鹿にされて生きてきた。リックと出会うまで、今のように褒められた事など一度もない。故に戸惑ってしまうのである。
「・・・・・あのなゴリオン、俺はお前を誇りに思ってる」
「そっ、そうなんだか?」
「誰にだって苦手な事はあるし、能力で劣る事もある。でもお前は、それを補って余りあるほどの力を持ってるじゃないか」
「でもオラ、力しか取り柄ないんだな・・・・・」
「それでいいんだよ。力持ちの男はモテるんだぞ?俺が女だったら絶対惚れてる」
ゴリオンの気持ちを察して、リックは微笑みながらそう答える。今までの扱われ方と違う今の環境に、彼が不安を抱いているのをよく理解しているからだ。
「おっ、オラなんかに惚れるだか・・・・・・?」
「力持ちの筋肉タイプはモテるんだから、もっと自分に自信を持てよ。まあ、そういう謙虚なところはゴリオンのいいところだけど」
「でもオラは・・・・・・」
「でもじゃない。今まで他の奴らがお前にどんな酷い事言ったかは知らないけど、俺はゴリオンの事大好きだし、最高の仲間だと思ってる。だ・か・ら!」
そう言って、リックはゴリオンの瞳を真っ直ぐ見つめた。ゴリオンから見た彼の眼は、嘘偽りを感じさせない、澄んだ瞳であった。それはゴリオンにとって、この世で初めて見た、綺麗な瞳だったのである。
「お前は、ここにいていいんだ」
「!!」
誰かに好かれた事はなかった。誰かに必要とされた事もなかった。そんな自分に、目の前の男は微笑みを浮かべ、ここにいていいと言ってくれる。そんな事を言ってくれた人間に、彼は今まで会った事もない。
居場所をくれた。存在する価値をくれた。そして、仲間だと言って愛してくれる。今までゴリオンが望んでも手に入れられなかったものを、リックは全て与えてくれたのだ。
「ここがお前の居場所。お前の役目は、俺にとってもお前にとっても大切な仲間達を守る事だ。それが、帝国軍最強の盾、ゴリオンっていう男だ」
「リック・・・・・・」
「当然だけど、ゴリオンがピンチになった時は俺達がお前を助ける。絶対に見捨てたりしないから安心しろ」
この時ゴリオンは、生まれて初めて、心の底から守りたいと思える大切な存在を見つけた。
それは、一国の軍隊の全てを率い、愛する者達のために己を傷付け戦う、純粋で不器用で愛おしい存在であった。彼にとってそれは、己の命の全てを懸けてでも守りたいと思える、かけがえのない存在であったのである。
「オラ、約束するんだな」
「んっ?」
彼は新たな決意を胸に抱き、リックに向かって誓いを立てた。
「何があっても、オラはリックを守って見せるんだな!」
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