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第二十九話 アーレンツ攻防戦
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「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
思わず耳を塞いでしまう程の、騒音のような雄叫びを上げながら、彼は馬と共に戦場を駆ける。アーレンツ軍の中を単騎で駆け続けるライガは、馬の突進力を活かして突き進む。ライガはこのまま、敵軍の中を突破して、アーレンツ国内へと突貫するつもりなのだ。
アーレンツ兵の剣や槍が、彼の突撃を阻もうと襲い掛かるが、ライガはそれらを拳と蹴りで弾き、突撃を続ける。彼の突撃を止めるには、ゴリオン隊並みの防御力が必要だろう。今やライガは、帝国軍の特攻隊長と呼べる程の存在であり、敵軍を搔き乱すには打ってつけの戦力なのである。
「だっ、誰かあいつを止めろ!」
「無茶言うな!剣も槍も効かないんだぞ!!」
「奴に構うな!こっちの連携を崩すのが奴の狙いだ!」
「どうせ単騎の突撃だ!放っておけ!」
ライガ相手に苦戦していては、部隊の連携が乱されるだけだ。どうせ単騎の突撃なのだから、このまま突破させ、後方から向かっている増援に任せてしまえばいい。そう判断した各部隊の指揮官は、ライガへの攻撃を中止させ、道を開いた。勿論、ライガの後に続こうとしている帝国軍部隊は、突破を許さない。ライガが通った後は道を閉ざし、帝国軍を迎撃したのである。
「どうしたああああああああああっ!!オレを止められる奴はいないのかああああああああああっ!!」
ライガが挑発を叫ぶが、アーレンツ兵は誰一人として反応せず、彼の道を開いていくばかりであった。ならばそれもいいと、ライガはただ前だけを見て、馬を走らせる。ライガの眼前には、アーレンツ兵が左右に分かれて出来た、アーレンツへと続く道がある。この先にどんな敵が待っていようと、ライガによるたった一人の進撃は止まらない。
「!!」
妨害を受ける事のなかったライガは、アーレンツ軍の最後尾にいた部隊も抜き去り、見事突破を果たした。彼の眼前には、もう敵の姿は一人もなく、敵軍は自分の真後ろだけとなっていた。そして、まだ距離はあるものの、国を鋼鉄の防護壁で覆う、アーレンツの鋼鉄防護壁が、彼の眼に映ったのである。
「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ライガさらに馬を加速させ、目指すべき地、アーレンツへと急ぐ。この先にはまた、アーレンツ軍の増援が待ち構えているはずだが、彼にとってはそんな事、恐ろしくもない事であった。
大切な仲間が、自分達の助けを待っている。ならば、一刻も早く助け出す。それこそ、己が目指す正義なのだと、ライガは信じているのだ。
「行かせないよ。サイクロンッ!」
「!?」
単騎で突撃を続けていたライガだが、突然声が聞こえたかと思えば、それは突然彼を襲った。
彼の跨る馬が走り続ける地面を、強い風が吹いていく。風はまるで意志を持つかのように、馬の周りを囲むように吹き、次の瞬間には、ライガの体と馬が宙を舞ったのである。小さな竜巻のような風が出来上がり、ライガと馬を空へ向かって押し上げていく。そして、ライガと馬が二十メートル位の高さまで到達すると、竜巻は一瞬で消え去り、そして・・・・・・。
「うわああああああああああああああああっ!?!?!?」
如何に特攻隊長と言えど、如何に帝国随一の突撃力を持っていようと、重力には逆らえない。ライガは馬と共に押し上げられた高さから落下し、何が起きたのか理解できぬまま、驚きの叫び声と共に地面に激突した。恐ろしい事に、頭から落ちたのである・・・・・・。
「ほんとうるさいわね。最前線に一番乗りしようと思ったら、とんだ珍獣と遭遇しちゃったわ」
突然の声の主は、一人の少女であった。しかし、ライガの前にも後ろにも、少女などいなかったはずだった。それもそのはずである。何故ならこの少女は今、空の上にいるのだ。
装飾の施された黒いドレスと、背中には黒いマント。そして印象的なのは、頭に被っている黒い尖がり帽子である。そんな格好の少女が、箒に座り、宙に浮いているのである。
「ちょっと高く落とし過ぎちゃったかな~・・・・・。もしかして死んじゃ-------」
「なっ、何が起こったんだああああああああああああっ!?」
空からライガが落ちていく様子を見て、転落現場に浮遊したまま近付いた少女は、彼の生死を確認しようとしたが、そんなものは必要なかった。やはり騒音レベルの叫び声を上げ、地面から起き上がったライガは、前後左右を見渡した後、自分の正面斜め上にいる少女に気付く。
少女はライガの大声に驚き、思わず耳を両手で塞いでいた。戦士の直感で、先程の攻撃がこの少女によるものであると理解したライガは、拳を構えて戦闘態勢に入る。
「君・・・・、その大声どうにかならないの?鼓膜破れちゃうかと思った」
「今のは風の魔法だな!俺を攻撃してくるって事は、アーレンツの奴らの仲間だな!?」
「う~ん、仲間ってわけじゃないんだけどな~・・・・。アーレンツ軍にいる友達のために、少しだけ力貸そうと思っただけだし」
「っていうか、何だその恰好!?それにお前、何で空を飛べるんだ!?一体何者なんだよ!?」
「知りたい?やっぱり知りたいよね!?」
アーレンツ兵士には見えない不思議な恰好のこの少女は、言動も含めて兵士とは思えなかった。
宙に浮いている少女は、ライガの問いを受けて、何故か満面の笑みを浮かべた。待ってましたと言わんばかりに、彼女はご機嫌な様子で空を飛びまわったかと思えば、ライガの前に戻ってきて、箒に乗ったまま静止した。
「ローミリアの愛と美を守る、美少女魔法使い!魔法少女ノエル、ただいま参上!!」
突如ライガを襲ったこの少女は、自らを魔法少女ノエルと名乗った。
そう、彼女は名乗ったのである。魔女のような恰好をして、魔女のように箒で空を飛び、自らを魔法少女であると・・・・・・・。
「・・・・・・・おい」
「なに?私の美少女っぷりに見惚れちゃった?」
「魔法少女って・・・・・・・なんだ?新しい魔法兵部隊の名前か?」
「!!」
魔法少女とは何かを知らず、困惑した表情を浮かべるライガと、彼女的には予想外だった問いを受けて、がくりと肩を落とす魔法少女ノエル。
アーレンツ軍側として参戦した、謎の魔法少女。確かに彼女は、魔法少女と呼べる恰好をして、魔法少女のように自在に空を飛びまわり、魔法少女のように魔法を使って見せた。自らをノエルと名乗ったこの少女は、魔法少女に求められる要求値を、全て満たしていると言えるかもしれない。
だがしかし、どうしてこんな戦場に魔法少女なのか。ここは、魔法少女などが現れていい戦場ではない。場違いにも程がある。
「そっかー・・・・・、君は魔法少女を知らないんだね・・・・・・」
「なんかごめんな。オレ、あんまりものを知らなくてよ」
「いいのいいの・・・・・。新手の魔法兵部隊って、よく勘違いされるから・・・・・」
落ち込んでいたノエルだったが、いつもの事だと考え、気持ちを切り替える。戦闘態勢に入ったノエルは、ライガから少し距離を取り、彼が跳躍しても届かないであろう高さまで上昇した。
「落ち込んだって仕方ないわ。ここでいっぱい活躍して、魔法少女ノエルの名を広めなくちゃ!」
「オレと戦う気か!?オレは女と戦うつもりはないぞ!」
「私が女だからって甘く見てるの?これを見ても同じ事言えるかしら!?」
戦闘態勢に入ったノエルは、どこからともなく魔法の杖っぽいものを取り出し、それを前にかざす。取り出した杖で彼女が円を描くと、彼女の前に風が集まり、その風は形を成していく。
「ブラストッ!!」
彼女がそう叫ぶと、形を成した風がライガ目掛けて放たれた。形を成した風の塊は、真っ直ぐライガへと向かっていく。回避は間に合わない。
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
これはノエルの風属性魔法に他ならない。魔法の力で彼女が自在に操る風は、ライガを吹き飛ばすべく放たれ、見事彼に直撃し、その体を後方へと吹き飛ばして見せた。宙を舞ったライガの体は四十メートル以上後ろに吹き飛ばされ、受け身も取れないまま地面に叩きつけられる。恐るべき事に、人間が暴風に吹き飛ばされるのと同じ光景が、人の手によって作り出されたのである。
「驚いた?これが魔法少女ノエルの風魔法よ。私、こう見えて結構強いんだから」
地面に叩きつけられた衝撃で気絶してしまったのか、ライガの体は倒れたまま動かない。
魔法少女ノエルは余裕を持っていた。先ほどの攻撃で、かなりの高さから落下させたにもかかわらず、ほとんど無傷で立ち上がったライガの頑丈さには驚かされたものの、この戦いにおいての彼女の優位性は動かない。頑丈なだけで大した相手ではないと、そう思っていたのである。
「起き上がらないみたいだし、気絶しちゃったかな?まあ、私が相手じゃしかた--------」
「まだだああああああああああああっ!!!」
魔法少女ノエルの風属性魔法は強力である。しかし、この男にはそんな事、些細な問題でしかない。いや、問題とすら考えていない。
気絶したと思われていたライガだったが、彼はやはり雄叫びと共に立ち上がった。決して折れない不屈の闘志。その姿に、ノエルは驚愕を隠せなかった。
ライガ・イカルガはただ頑丈なだけの男ではない。無駄に頑丈で、無駄に五月蠅い、決して消えぬ不屈の闘志を燃やし続ける、自称正義の味方なのだ。この男を倒すには、この程度ではまだ足りない。
「凄い風魔法だな!驚いたぜ!!」
「げっ、元気過ぎ・・・・・。見てるこっちが疲れちゃう」
「オレの邪魔をするなら仕方ないぜ!オレはお前を倒す!!」
相手が少女であるために、最初は戦うのを躊躇ったライガではあったが、ここは戦場であり、相手はアーレンツ軍に味方する存在なのである。ここで彼女と戦わなければ、今度は帝国軍の仲間達に危険が及ぶ。それを阻止するためには、ここで戦うしかない。
覚悟を決めたライガは駆け出し、全速力で突撃を開始した。相手が魔法を使おうと、空を飛んでいようと、彼には関係ない。魔法少女ノエルを敵と定め、倒すために突撃するだけである。
「そんなに死にたいの?だったら、今度は手加減しないんだから!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「まずは、そのうるさい口を閉じて貰うわよ!ウインドッ!」
ノエルは風属性魔法を発動し、ライガに向けて突風を放った。砂埃を舞い上がらせる程の風が、正面から彼にぶつかる。突風によってライガの足は止まり、風の力によって、そこから先へ一歩も動けなくなった。
ノエルの風属性魔法はやはり強力である。風に飛ばされぬよう、重心を落とし、足腰に力を入れて、何とかその場所に踏んばっているライガであったが、突撃は停止し、彼女に近付く事ができない。
「ぐっ!!」
「お次はこれ。アーレンツ軍から貰っといてよかったわ」
箒に乗る彼女は、懐からオイルライターと、導火線付きアーレンツ軍製の爆弾を取り出した。彼女はライターに火を灯すと、導火線に火を付け、それを投げた。爆弾は魔法の力で発生した風に乗り、導火線を燃やしながらライガへと向かっていく。
「!!」
「ばいばーい♪♪」
身動きの出来なかったライガに向かっていった爆弾は、ライガの前で爆発した。その威力はかなりのものであり、爆発した場所からは爆炎が上がる。魔法を操り風を止めたノエルは、爆風を見つめながら勝利を確信していた。
人間一人を軽く殺せる破壊力を持った爆弾である。今度こそ確実に彼を仕留めたと、彼女がそう思うのも仕方がない。
爆炎が晴れていき、ノエルはライガの生死を確認するため、宙に浮いたまま少しずつ近付いていく。余裕の笑みを浮かべていた彼女だったが、煙の中に映し出された影を見て、その笑みは驚愕の表情へと変わった。
「確か君は、ローミリアの愛と美を守ると、そう言った・・・・・・」
「冗談でしょ・・・、あの爆発でも生きてるの・・・・・?」
影は声を発し、晴れていく煙からその姿を現していく。そこにいたのは、ノエルが相手をしていたライガの姿ではなかった。
黒と黄色を基調とした鎧を全身に身に纏い、煙の晴れた場所に立つ一人の人物。ライガに代わり、突然姿を現したその人物に、驚愕を隠せなかったノエルではあったが、その人物の正体を直ぐに察し、再び戦闘態勢に入る。
「ならば君は、私と同じく正義を守る存在なのだろう。私達は敵同士ではないし、争う必要もない」
「正義・・・・・?いやいや、私は正義の味方じゃなくてまほ-------」
「だが!君が味方するアーレンツに正義はない!君がアーレンツに加担し私の前に立ち塞がると言うならば、私の信じる正義のために戦おう!!」
全身に鎧を纏う、正体不明の仮面の戦士。ローミリアの正義と平和を守るために戦い続ける、正義の変身特撮ヒーロー。その名は・・・・・・。
「ローミリアの正義と平和を守る、改造人間!仮面ライガー、参上!!」
「変身特撮ヒーロー」対「魔法少女」。
子供達の憧れる二大キャラクターによる夢の戦いの幕は、今切って落とされた。
思わず耳を塞いでしまう程の、騒音のような雄叫びを上げながら、彼は馬と共に戦場を駆ける。アーレンツ軍の中を単騎で駆け続けるライガは、馬の突進力を活かして突き進む。ライガはこのまま、敵軍の中を突破して、アーレンツ国内へと突貫するつもりなのだ。
アーレンツ兵の剣や槍が、彼の突撃を阻もうと襲い掛かるが、ライガはそれらを拳と蹴りで弾き、突撃を続ける。彼の突撃を止めるには、ゴリオン隊並みの防御力が必要だろう。今やライガは、帝国軍の特攻隊長と呼べる程の存在であり、敵軍を搔き乱すには打ってつけの戦力なのである。
「だっ、誰かあいつを止めろ!」
「無茶言うな!剣も槍も効かないんだぞ!!」
「奴に構うな!こっちの連携を崩すのが奴の狙いだ!」
「どうせ単騎の突撃だ!放っておけ!」
ライガ相手に苦戦していては、部隊の連携が乱されるだけだ。どうせ単騎の突撃なのだから、このまま突破させ、後方から向かっている増援に任せてしまえばいい。そう判断した各部隊の指揮官は、ライガへの攻撃を中止させ、道を開いた。勿論、ライガの後に続こうとしている帝国軍部隊は、突破を許さない。ライガが通った後は道を閉ざし、帝国軍を迎撃したのである。
「どうしたああああああああああっ!!オレを止められる奴はいないのかああああああああああっ!!」
ライガが挑発を叫ぶが、アーレンツ兵は誰一人として反応せず、彼の道を開いていくばかりであった。ならばそれもいいと、ライガはただ前だけを見て、馬を走らせる。ライガの眼前には、アーレンツ兵が左右に分かれて出来た、アーレンツへと続く道がある。この先にどんな敵が待っていようと、ライガによるたった一人の進撃は止まらない。
「!!」
妨害を受ける事のなかったライガは、アーレンツ軍の最後尾にいた部隊も抜き去り、見事突破を果たした。彼の眼前には、もう敵の姿は一人もなく、敵軍は自分の真後ろだけとなっていた。そして、まだ距離はあるものの、国を鋼鉄の防護壁で覆う、アーレンツの鋼鉄防護壁が、彼の眼に映ったのである。
「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ライガさらに馬を加速させ、目指すべき地、アーレンツへと急ぐ。この先にはまた、アーレンツ軍の増援が待ち構えているはずだが、彼にとってはそんな事、恐ろしくもない事であった。
大切な仲間が、自分達の助けを待っている。ならば、一刻も早く助け出す。それこそ、己が目指す正義なのだと、ライガは信じているのだ。
「行かせないよ。サイクロンッ!」
「!?」
単騎で突撃を続けていたライガだが、突然声が聞こえたかと思えば、それは突然彼を襲った。
彼の跨る馬が走り続ける地面を、強い風が吹いていく。風はまるで意志を持つかのように、馬の周りを囲むように吹き、次の瞬間には、ライガの体と馬が宙を舞ったのである。小さな竜巻のような風が出来上がり、ライガと馬を空へ向かって押し上げていく。そして、ライガと馬が二十メートル位の高さまで到達すると、竜巻は一瞬で消え去り、そして・・・・・・。
「うわああああああああああああああああっ!?!?!?」
如何に特攻隊長と言えど、如何に帝国随一の突撃力を持っていようと、重力には逆らえない。ライガは馬と共に押し上げられた高さから落下し、何が起きたのか理解できぬまま、驚きの叫び声と共に地面に激突した。恐ろしい事に、頭から落ちたのである・・・・・・。
「ほんとうるさいわね。最前線に一番乗りしようと思ったら、とんだ珍獣と遭遇しちゃったわ」
突然の声の主は、一人の少女であった。しかし、ライガの前にも後ろにも、少女などいなかったはずだった。それもそのはずである。何故ならこの少女は今、空の上にいるのだ。
装飾の施された黒いドレスと、背中には黒いマント。そして印象的なのは、頭に被っている黒い尖がり帽子である。そんな格好の少女が、箒に座り、宙に浮いているのである。
「ちょっと高く落とし過ぎちゃったかな~・・・・・。もしかして死んじゃ-------」
「なっ、何が起こったんだああああああああああああっ!?」
空からライガが落ちていく様子を見て、転落現場に浮遊したまま近付いた少女は、彼の生死を確認しようとしたが、そんなものは必要なかった。やはり騒音レベルの叫び声を上げ、地面から起き上がったライガは、前後左右を見渡した後、自分の正面斜め上にいる少女に気付く。
少女はライガの大声に驚き、思わず耳を両手で塞いでいた。戦士の直感で、先程の攻撃がこの少女によるものであると理解したライガは、拳を構えて戦闘態勢に入る。
「君・・・・、その大声どうにかならないの?鼓膜破れちゃうかと思った」
「今のは風の魔法だな!俺を攻撃してくるって事は、アーレンツの奴らの仲間だな!?」
「う~ん、仲間ってわけじゃないんだけどな~・・・・。アーレンツ軍にいる友達のために、少しだけ力貸そうと思っただけだし」
「っていうか、何だその恰好!?それにお前、何で空を飛べるんだ!?一体何者なんだよ!?」
「知りたい?やっぱり知りたいよね!?」
アーレンツ兵士には見えない不思議な恰好のこの少女は、言動も含めて兵士とは思えなかった。
宙に浮いている少女は、ライガの問いを受けて、何故か満面の笑みを浮かべた。待ってましたと言わんばかりに、彼女はご機嫌な様子で空を飛びまわったかと思えば、ライガの前に戻ってきて、箒に乗ったまま静止した。
「ローミリアの愛と美を守る、美少女魔法使い!魔法少女ノエル、ただいま参上!!」
突如ライガを襲ったこの少女は、自らを魔法少女ノエルと名乗った。
そう、彼女は名乗ったのである。魔女のような恰好をして、魔女のように箒で空を飛び、自らを魔法少女であると・・・・・・・。
「・・・・・・・おい」
「なに?私の美少女っぷりに見惚れちゃった?」
「魔法少女って・・・・・・・なんだ?新しい魔法兵部隊の名前か?」
「!!」
魔法少女とは何かを知らず、困惑した表情を浮かべるライガと、彼女的には予想外だった問いを受けて、がくりと肩を落とす魔法少女ノエル。
アーレンツ軍側として参戦した、謎の魔法少女。確かに彼女は、魔法少女と呼べる恰好をして、魔法少女のように自在に空を飛びまわり、魔法少女のように魔法を使って見せた。自らをノエルと名乗ったこの少女は、魔法少女に求められる要求値を、全て満たしていると言えるかもしれない。
だがしかし、どうしてこんな戦場に魔法少女なのか。ここは、魔法少女などが現れていい戦場ではない。場違いにも程がある。
「そっかー・・・・・、君は魔法少女を知らないんだね・・・・・・」
「なんかごめんな。オレ、あんまりものを知らなくてよ」
「いいのいいの・・・・・。新手の魔法兵部隊って、よく勘違いされるから・・・・・」
落ち込んでいたノエルだったが、いつもの事だと考え、気持ちを切り替える。戦闘態勢に入ったノエルは、ライガから少し距離を取り、彼が跳躍しても届かないであろう高さまで上昇した。
「落ち込んだって仕方ないわ。ここでいっぱい活躍して、魔法少女ノエルの名を広めなくちゃ!」
「オレと戦う気か!?オレは女と戦うつもりはないぞ!」
「私が女だからって甘く見てるの?これを見ても同じ事言えるかしら!?」
戦闘態勢に入ったノエルは、どこからともなく魔法の杖っぽいものを取り出し、それを前にかざす。取り出した杖で彼女が円を描くと、彼女の前に風が集まり、その風は形を成していく。
「ブラストッ!!」
彼女がそう叫ぶと、形を成した風がライガ目掛けて放たれた。形を成した風の塊は、真っ直ぐライガへと向かっていく。回避は間に合わない。
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
これはノエルの風属性魔法に他ならない。魔法の力で彼女が自在に操る風は、ライガを吹き飛ばすべく放たれ、見事彼に直撃し、その体を後方へと吹き飛ばして見せた。宙を舞ったライガの体は四十メートル以上後ろに吹き飛ばされ、受け身も取れないまま地面に叩きつけられる。恐るべき事に、人間が暴風に吹き飛ばされるのと同じ光景が、人の手によって作り出されたのである。
「驚いた?これが魔法少女ノエルの風魔法よ。私、こう見えて結構強いんだから」
地面に叩きつけられた衝撃で気絶してしまったのか、ライガの体は倒れたまま動かない。
魔法少女ノエルは余裕を持っていた。先ほどの攻撃で、かなりの高さから落下させたにもかかわらず、ほとんど無傷で立ち上がったライガの頑丈さには驚かされたものの、この戦いにおいての彼女の優位性は動かない。頑丈なだけで大した相手ではないと、そう思っていたのである。
「起き上がらないみたいだし、気絶しちゃったかな?まあ、私が相手じゃしかた--------」
「まだだああああああああああああっ!!!」
魔法少女ノエルの風属性魔法は強力である。しかし、この男にはそんな事、些細な問題でしかない。いや、問題とすら考えていない。
気絶したと思われていたライガだったが、彼はやはり雄叫びと共に立ち上がった。決して折れない不屈の闘志。その姿に、ノエルは驚愕を隠せなかった。
ライガ・イカルガはただ頑丈なだけの男ではない。無駄に頑丈で、無駄に五月蠅い、決して消えぬ不屈の闘志を燃やし続ける、自称正義の味方なのだ。この男を倒すには、この程度ではまだ足りない。
「凄い風魔法だな!驚いたぜ!!」
「げっ、元気過ぎ・・・・・。見てるこっちが疲れちゃう」
「オレの邪魔をするなら仕方ないぜ!オレはお前を倒す!!」
相手が少女であるために、最初は戦うのを躊躇ったライガではあったが、ここは戦場であり、相手はアーレンツ軍に味方する存在なのである。ここで彼女と戦わなければ、今度は帝国軍の仲間達に危険が及ぶ。それを阻止するためには、ここで戦うしかない。
覚悟を決めたライガは駆け出し、全速力で突撃を開始した。相手が魔法を使おうと、空を飛んでいようと、彼には関係ない。魔法少女ノエルを敵と定め、倒すために突撃するだけである。
「そんなに死にたいの?だったら、今度は手加減しないんだから!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「まずは、そのうるさい口を閉じて貰うわよ!ウインドッ!」
ノエルは風属性魔法を発動し、ライガに向けて突風を放った。砂埃を舞い上がらせる程の風が、正面から彼にぶつかる。突風によってライガの足は止まり、風の力によって、そこから先へ一歩も動けなくなった。
ノエルの風属性魔法はやはり強力である。風に飛ばされぬよう、重心を落とし、足腰に力を入れて、何とかその場所に踏んばっているライガであったが、突撃は停止し、彼女に近付く事ができない。
「ぐっ!!」
「お次はこれ。アーレンツ軍から貰っといてよかったわ」
箒に乗る彼女は、懐からオイルライターと、導火線付きアーレンツ軍製の爆弾を取り出した。彼女はライターに火を灯すと、導火線に火を付け、それを投げた。爆弾は魔法の力で発生した風に乗り、導火線を燃やしながらライガへと向かっていく。
「!!」
「ばいばーい♪♪」
身動きの出来なかったライガに向かっていった爆弾は、ライガの前で爆発した。その威力はかなりのものであり、爆発した場所からは爆炎が上がる。魔法を操り風を止めたノエルは、爆風を見つめながら勝利を確信していた。
人間一人を軽く殺せる破壊力を持った爆弾である。今度こそ確実に彼を仕留めたと、彼女がそう思うのも仕方がない。
爆炎が晴れていき、ノエルはライガの生死を確認するため、宙に浮いたまま少しずつ近付いていく。余裕の笑みを浮かべていた彼女だったが、煙の中に映し出された影を見て、その笑みは驚愕の表情へと変わった。
「確か君は、ローミリアの愛と美を守ると、そう言った・・・・・・」
「冗談でしょ・・・、あの爆発でも生きてるの・・・・・?」
影は声を発し、晴れていく煙からその姿を現していく。そこにいたのは、ノエルが相手をしていたライガの姿ではなかった。
黒と黄色を基調とした鎧を全身に身に纏い、煙の晴れた場所に立つ一人の人物。ライガに代わり、突然姿を現したその人物に、驚愕を隠せなかったノエルではあったが、その人物の正体を直ぐに察し、再び戦闘態勢に入る。
「ならば君は、私と同じく正義を守る存在なのだろう。私達は敵同士ではないし、争う必要もない」
「正義・・・・・?いやいや、私は正義の味方じゃなくてまほ-------」
「だが!君が味方するアーレンツに正義はない!君がアーレンツに加担し私の前に立ち塞がると言うならば、私の信じる正義のために戦おう!!」
全身に鎧を纏う、正体不明の仮面の戦士。ローミリアの正義と平和を守るために戦い続ける、正義の変身特撮ヒーロー。その名は・・・・・・。
「ローミリアの正義と平和を守る、改造人間!仮面ライガー、参上!!」
「変身特撮ヒーロー」対「魔法少女」。
子供達の憧れる二大キャラクターによる夢の戦いの幕は、今切って落とされた。
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