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第二十九話 アーレンツ攻防戦
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帝国軍の砲撃開始から、一時間が経過した。
展開中の帝国軍に対して攻撃命令を下されたアーレンツ軍は、防護壁の門を開き、進撃を開始した。元々正面防護壁に配備されていた部隊が先陣を切り、増援の残り五千の戦力は、防護壁に到着次第直ちに出撃する手筈となっている。
アーレンツ軍の目標は、帝国軍陣地より一方的な砲撃を行なっている、帝国軍自走砲部隊の排除である。その前に立ち塞がるのが、帝国軍とエステラン国軍の士気旺盛なる戦力であった。防衛側から一転し攻撃側となったアーレンツ軍を、帝国軍が迎え撃つ形となり、両軍の先陣は激突したのである。
帝国軍の軍師エミリオ・メンフィスとミュセイラ・ヴァルトハイムによる、作戦計画の第一段階。それは、敵軍の指揮命令系統の破壊と、アーレンツ軍の誘引である。
まず、シャランドラ率いる自走砲部隊が、アーレンツ国防軍と国家保安情報局の本部を同時に砲撃する。この砲撃で両本部施設を完全に破壊した後、次は軍と情報局の重要施設を順次砲撃する。こうする事によって、軍と情報局を混乱させるだけでなく、政治総本部も国民も混乱させる事が、この砲撃の目的であった。
そうなれば、砲撃を受けた被害によって、指揮系統を失った軍と情報局に命令を下せるのは、政治総本部だけとなる。突然の砲撃によって、国内は混乱を極めている現状、砲撃に恐怖する国民を安心させる手段は、一刻も早い帝国軍撃破であった。国民の恐怖を取り除くために、政治総本部は軍に命令を下したのである。
これもまた、二人の軍師の作戦通りであった。自走砲部隊が政治総本部を未だに砲撃していないのは、戦争の素人である彼らに軍の出撃を命令させ、アーレンツ軍を防護壁から誘い出すためだったのである。
結果、帝国軍の作戦通りに事は運んだ。いや、自走砲部隊の強力な砲撃により、本部施設だけでなく、軍と情報局の指揮者達の大半を戦死させた結果は、予想以上の戦果であった。
この結果も全て、彼女が帝国軍へともたらした情報のお陰である。かつては、アーレンツ国家保安情報局の局員として生き、今はヴァスティナ帝国メイド部隊の一員として生きる女性、リンドウ。彼女はアーレンツ国内を誰よりもよく知り、どこに軍事施設があって、どこに情報局の施設があるのかも、よく知っていたのである。その情報があったからこそ、シャランドラ率いる自走砲部隊は、敵地への正確な砲撃を行なう事ができた。
リンドウの情報局時代の話は、全てエミリオに伝わっており、今回の作戦計画に大いに役立たれた。軍や情報局の特徴や、政治家や国民の考え方まで、何もかも伝わっていたからこそ、このような作戦が成立したのである。
第一段階が成功した今、作戦は第二段階へと移行する。第二段階は、平野に誘引した敵防衛部隊の撃滅であった。
展開中の帝国軍に対して攻撃命令を下されたアーレンツ軍は、防護壁の門を開き、進撃を開始した。元々正面防護壁に配備されていた部隊が先陣を切り、増援の残り五千の戦力は、防護壁に到着次第直ちに出撃する手筈となっている。
アーレンツ軍の目標は、帝国軍陣地より一方的な砲撃を行なっている、帝国軍自走砲部隊の排除である。その前に立ち塞がるのが、帝国軍とエステラン国軍の士気旺盛なる戦力であった。防衛側から一転し攻撃側となったアーレンツ軍を、帝国軍が迎え撃つ形となり、両軍の先陣は激突したのである。
帝国軍の軍師エミリオ・メンフィスとミュセイラ・ヴァルトハイムによる、作戦計画の第一段階。それは、敵軍の指揮命令系統の破壊と、アーレンツ軍の誘引である。
まず、シャランドラ率いる自走砲部隊が、アーレンツ国防軍と国家保安情報局の本部を同時に砲撃する。この砲撃で両本部施設を完全に破壊した後、次は軍と情報局の重要施設を順次砲撃する。こうする事によって、軍と情報局を混乱させるだけでなく、政治総本部も国民も混乱させる事が、この砲撃の目的であった。
そうなれば、砲撃を受けた被害によって、指揮系統を失った軍と情報局に命令を下せるのは、政治総本部だけとなる。突然の砲撃によって、国内は混乱を極めている現状、砲撃に恐怖する国民を安心させる手段は、一刻も早い帝国軍撃破であった。国民の恐怖を取り除くために、政治総本部は軍に命令を下したのである。
これもまた、二人の軍師の作戦通りであった。自走砲部隊が政治総本部を未だに砲撃していないのは、戦争の素人である彼らに軍の出撃を命令させ、アーレンツ軍を防護壁から誘い出すためだったのである。
結果、帝国軍の作戦通りに事は運んだ。いや、自走砲部隊の強力な砲撃により、本部施設だけでなく、軍と情報局の指揮者達の大半を戦死させた結果は、予想以上の戦果であった。
この結果も全て、彼女が帝国軍へともたらした情報のお陰である。かつては、アーレンツ国家保安情報局の局員として生き、今はヴァスティナ帝国メイド部隊の一員として生きる女性、リンドウ。彼女はアーレンツ国内を誰よりもよく知り、どこに軍事施設があって、どこに情報局の施設があるのかも、よく知っていたのである。その情報があったからこそ、シャランドラ率いる自走砲部隊は、敵地への正確な砲撃を行なう事ができた。
リンドウの情報局時代の話は、全てエミリオに伝わっており、今回の作戦計画に大いに役立たれた。軍や情報局の特徴や、政治家や国民の考え方まで、何もかも伝わっていたからこそ、このような作戦が成立したのである。
第一段階が成功した今、作戦は第二段階へと移行する。第二段階は、平野に誘引した敵防衛部隊の撃滅であった。
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