贖罪の救世主

水野アヤト

文字の大きさ
上 下
497 / 841
第二十九話 アーレンツ攻防戦

しおりを挟む
「撃ちまくるんや!何もかも吹き飛ばしてやるんや!!」

 アーレンツの正面防護壁から離れた地点に展開している、ヴァスティナ帝国軍。帝国軍の陣地が構築されたこの場所に、彼女の姿はあった。
 眼鏡をかけた少女が一人、自分よりも年上であろう男達に、次々と命令を飛ばしていく。この少女は、この場で誰よりも大きな権限を与えられており、兵士達に命令を下す事の出来る、帝国軍の幹部の一人である。
 彼女の名はシャランドラ。帝国軍兵器開発の最高責任者であり、今現在アーレンツを攻撃中である、大陸初の移動式遠距離攻撃兵器の生みの親である。

「アーレンツの奴らに容赦はいらんで!全員まとめて皆殺しにしたるんや!!」

 彼女の眼に映るのは、慌しく動きまわる兵士達と、彼女指揮下の技術者達。そして、彼女が完成させた、大陸史上初の発明品である。
 その兵器は、巨大な火砲を備えた、鋼鉄の乗り物であった。火砲も含めると、その全長は十メートルを超えている。鉄で覆われた車体は、鉄製の履帯を備えており、これによって無限軌道と呼ばれる移動が可能である。
 備え付けられている砲は、榴弾砲と呼ばれる兵器であり、遠距離からの砲撃を可能としている。今現在アーレンツの街を攻撃しているのは、この榴弾砲であり、放たれた榴弾が街に着弾し、その爆風効果と破片で被害を拡大させているのだ。
 この兵器は、ヴァスティナ帝国とジエーデル国が戦った、「南ローミリア決戦」時に使用された試作榴弾砲を完成させ、その戦争後に同じく完成させた、魔法動力機関内蔵の車体と合体させた、「自走砲」と呼ばれる帝国軍の新兵器である。

「シャランドラ殿!!弾着観測班の報告で、敵国の被害甚大!砲撃地点からは複数の黒煙が上がっているとの事です!!」
「よっしゃ!うちらの第一の仕事は敵施設の完全破壊や!この調子でどんどん砲撃加えるで!!」
「アーレンツの奴ら、今頃泡食ってますね。奴らは自走砲の存在を知らないはずですから」
「開発とかも極秘で進めとったんやから、知っとるわけないで。アーレンツ自慢の鋼鉄防護壁だかなんだか知らんけど、この自走砲がある限り、勝つのはうちらや」

 現在、アーレンツに苛烈な砲撃を行なっている自走砲の数は、二十両である。ジエーデルから密かに受け取っていた鉱物資源を全て使い、彼女達はこの兵器を完成させるだけでなく、量産まで行ったのである。たった一両だけでも、この戦場では、存在するだけで戦局を左右する兵器と言えるのだが、それが二十両も存在するのだ。街中の建物を軽く破壊できる強力な榴弾砲が、二十基も存在するとあっては、敵からしたら堪ったものではないだろう。
 帝国一の発明家シャランドラが、この日のために昼夜問わず作業し続け、やっとの思いで完成させたこの自走砲。彼女の夢の結晶である「魔法動力機関」は、機関内部で魔力を増幅させ、それを動力源として機械を動かす、画期的な発明品である。その発明品を、履帯を備えた鋼鉄製の車体に内蔵し、車体に乗り込んだ操縦者が、この鉄車を動かす事によって、重く巨大な榴弾砲を、簡単に戦場へ運ぶ事を可能にした。
 シャランドラが心血を注いで完成させた自走砲は、彼女の夢が詰まった発明品である。そして今、この発明品は、沸き上がる彼女の怒りと殺意を纏い、彼女達の敵を皆殺しにするべく、その砲口を空へと向け、弾頭を放ち続ける。

「ええで、ええで!連中の悲鳴が聞こえてきそうや!!」
 
 自走砲の発明者シャランドラは、この一方的な敵地への攻撃を、非常に楽しんでいる。邪悪な笑みを浮かべ、自分の生み出した兵器達を見る彼女の眼には、見た人間を恐怖させるほどの、憎しみの炎が燃え上がっていた。
 彼女にとって自分の発明品は、自分の子供同然。愛おしくて仕方のない、愛してやまない存在。そんな彼女の子供達は今、彼女が激しい憎悪を燃やす敵国を、その恐るべき力で蹂躙しようとしている。生みの親として、それが彼女は嬉しくて仕方がないのだ。
 今の彼女は、アーレンツの人間を人と見ていない。見るだけで腹が立つ、害虫くらいの存在としか考えてはいない。だからこそ、彼女は敵国の街を平気で攻撃できる。軍人も市民も関係なく、皆平等に殺す事しか、彼女は考えていない。

「うちの可愛い自走砲達!うちらからリックを奪った、あの国の全部をぶっ壊すまで撃ち続けるんやで!!」
 
 自走砲の弾が討ち尽くされた時、果たしてどれだけの人間を殺す事ができたのか?それを知る事が、今の彼女の楽しみの一つであった。
 帝国一の発明家にして、悪魔の兵器の生みの親シャランドラ。彼女が存在する限り、死人は増え続ける。彼女の存在こそ、この戦争を地獄へと変える狂気なのである・・・・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

会うたびに、貴方が嫌いになる【R15版】

猫子猫
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

二度目の結婚は、白いままでは

有沢真尋
恋愛
 望まぬ結婚を強いられ、はるか年上の男性に嫁いだシルヴィアナ。  未亡人になってからは、これ幸いとばかりに隠遁生活を送っていたが、思いがけない縁談が舞い込む。  どうせ碌でもない相手に違いないと諦めて向かった先で待っていたのは、十歳も年下の青年で「ずっとあなたが好きだった」と熱烈に告白をしてきた。 「十年の結婚生活を送っていても、子どもができなかった私でも?」  それが実は白い結婚だったと告げられぬまま、シルヴィアナは青年を試すようなことを言ってしまう。 ※妊娠・出産に関わる表現があります。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま 【他サイトにも公開あり】

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...