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第二十九話 アーレンツ攻防戦
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国家保安情報局本部にて、上層部の緊急会議が行なわれている、その頃。この地に現れた帝国軍迎撃に、自慢の新兵器を実戦に投入するべく、情報局の研究施設に姿を現した男がいた。
「どれくらいかかる?」
「試験段階だったものは全て最終調整にかけておりまして、あと半日は必要かと」
「遅すぎる。一時間で済ませろ」
「しかし、指示調整にはどうしても時間が------」
「多少命令を聞かなくとも、戦闘ができれば十分だ。それとも貴様、俺の命令が聞けないと抜かすつもりか?」
「いっ、いえ・・・・・。作業を急がせます」
国家保安情報局研究施設の地下に、彼の姿はあった。薄暗い研究施設の中、彼の視線は、目の前にある鏡張りの部屋の中へと向けられている。彼の傍には四人の部下と、白衣を着た、この施設の研究所長の姿があった。
彼の見据える先には、実験台に置かれた兵器達と、白衣を着た研究者達の姿がある。研究者達は、台の上に置かれているその兵器達の体に、様々な薬品を注射していた。
「ふん、帝国の奴らが大人しく待っていればいいがな」
新兵器の最終調整が終わるのを待ち焦がれている、情報局所属のこの人物の名は、ルドルフ・グリュンタール。「暴豹」という異名を持つ、情報局大佐にして、情報局強硬派の主要人物である。
(帝国との戦いには間に合いそうだが、その後は・・・・・・)
情報局上層部は、ルドルフがこの兵器の準備を急がせている、その本当の理由をわかっていない。この兵器は帝国軍迎撃に使用する予定でもあり、万が一他国の侵攻があった場合の備えでもある。ルドルフが特に警戒しているのは、この機に乗じる可能性が一番高い、ジエーデル国の存在だった。
(帝国の奴らは防護壁の正面に展開している。どうせ奴らは囮だ。本命は恐らく・・・・・)
アーレンツに現れた帝国軍の存在を、ルドルフは囮であると考えている。主力を結集したとはいえ、帝国軍はアーレンツ軍を下回る戦力を、全て正面に展開した。帝国軍は、全戦力を囮とした作戦を展開している可能性がある。そうルドルフは読んでいた。
軍事力の差を考えれば、帝国側が圧倒的不利である事実は揺るがない。それは帝国側も理解しているはずである。お互いの軍が平野でぶつかり合うのであれば、練度の差で勝機を見出す事もできるが、アーレンツ側は鉄壁の壁を利用しての迎撃態勢を整えている。無策で突っ込めば、返り討ちに遭うのは明白だ。
ならば、何かしらの策がある可能性は非常に高い。帝国の国力を考えれば、別動隊による奇襲は考えにくい。他に考えられる可能性は、他国との連携なのである。
この短期間で、他国と協力関係を築き、自国の主力を囮として使い、他国の軍隊に奇襲攻撃を行なわせる。それが帝国軍の狙いではないかと、ルドルフは警戒しているのだ。そしてもし、その他国の軍隊というのが、ジエーデル国の軍隊であるのならば、圧倒的有利にあるアーレンツは一変して、危機的状況に陥ってしまう。
(ジエーデルが現れるのであれば、こいつが必要になる。試作品でどこまでやれるか、今から楽しみだ)
ルドルフは今、気を抜けば表に出してしまいそうなほどの、湧き上がる興奮を覚えていた。この新兵器は彼にとって、自分の権力をより強固なものとするための、軍事面での切り札なのである。その切り札が、これから本格的な実戦に投入され、その威力を披露する事になるのだ。興奮を覚えるのは無理もない。
(ゼロリアス帝国が研究している、人造魔人。奴らの技術がどこまで使えるか、この俺が見定めてやろう)
ルドルフの眼に映る、最終調整中の兵器達。それは、ゼロリアス帝国から手に入れた研究資料を基に製造した、「人造魔人」と呼ばれる兵器である。
魔人と呼ばれる、魔物を超えた伝説の存在。大陸最強の軍事力を保有する国家ゼロリアス帝国が、兵器として研究を進めている人造魔人。人間を超え、魔物すら超えた、生物の頂点に君臨する存在が魔人であり、最強の生物兵器を作り上げる事こそが、ゼロリアス帝国の「人造魔人研究」の目的である。
情報局の研究者達は、ゼロリアスから入手した少ない研究資料で、何とか実戦に投入可能なものを作り上げた。薬物を使用した人体実験を繰り返し、人間に魔物を移植する事に成功した実験体が今、ルドルフの目の前で最後の調整が行なわれていく。
「アーレンツに立ち向かってくる奴らに地獄を見せるには、丁度いい玩具だ」
そう言って、冷酷な笑みを浮かべたルドルフもまた、勝利を確信していた。だが彼は、アーレンツに忍び寄る、真の敵と言えるジエーデルの足音を、聞き逃す事はない。
勝利のために全ての敵を喰い荒らすべく、「暴豹」は研ぎ上げた己の牙を輝かせていた。
「どれくらいかかる?」
「試験段階だったものは全て最終調整にかけておりまして、あと半日は必要かと」
「遅すぎる。一時間で済ませろ」
「しかし、指示調整にはどうしても時間が------」
「多少命令を聞かなくとも、戦闘ができれば十分だ。それとも貴様、俺の命令が聞けないと抜かすつもりか?」
「いっ、いえ・・・・・。作業を急がせます」
国家保安情報局研究施設の地下に、彼の姿はあった。薄暗い研究施設の中、彼の視線は、目の前にある鏡張りの部屋の中へと向けられている。彼の傍には四人の部下と、白衣を着た、この施設の研究所長の姿があった。
彼の見据える先には、実験台に置かれた兵器達と、白衣を着た研究者達の姿がある。研究者達は、台の上に置かれているその兵器達の体に、様々な薬品を注射していた。
「ふん、帝国の奴らが大人しく待っていればいいがな」
新兵器の最終調整が終わるのを待ち焦がれている、情報局所属のこの人物の名は、ルドルフ・グリュンタール。「暴豹」という異名を持つ、情報局大佐にして、情報局強硬派の主要人物である。
(帝国との戦いには間に合いそうだが、その後は・・・・・・)
情報局上層部は、ルドルフがこの兵器の準備を急がせている、その本当の理由をわかっていない。この兵器は帝国軍迎撃に使用する予定でもあり、万が一他国の侵攻があった場合の備えでもある。ルドルフが特に警戒しているのは、この機に乗じる可能性が一番高い、ジエーデル国の存在だった。
(帝国の奴らは防護壁の正面に展開している。どうせ奴らは囮だ。本命は恐らく・・・・・)
アーレンツに現れた帝国軍の存在を、ルドルフは囮であると考えている。主力を結集したとはいえ、帝国軍はアーレンツ軍を下回る戦力を、全て正面に展開した。帝国軍は、全戦力を囮とした作戦を展開している可能性がある。そうルドルフは読んでいた。
軍事力の差を考えれば、帝国側が圧倒的不利である事実は揺るがない。それは帝国側も理解しているはずである。お互いの軍が平野でぶつかり合うのであれば、練度の差で勝機を見出す事もできるが、アーレンツ側は鉄壁の壁を利用しての迎撃態勢を整えている。無策で突っ込めば、返り討ちに遭うのは明白だ。
ならば、何かしらの策がある可能性は非常に高い。帝国の国力を考えれば、別動隊による奇襲は考えにくい。他に考えられる可能性は、他国との連携なのである。
この短期間で、他国と協力関係を築き、自国の主力を囮として使い、他国の軍隊に奇襲攻撃を行なわせる。それが帝国軍の狙いではないかと、ルドルフは警戒しているのだ。そしてもし、その他国の軍隊というのが、ジエーデル国の軍隊であるのならば、圧倒的有利にあるアーレンツは一変して、危機的状況に陥ってしまう。
(ジエーデルが現れるのであれば、こいつが必要になる。試作品でどこまでやれるか、今から楽しみだ)
ルドルフは今、気を抜けば表に出してしまいそうなほどの、湧き上がる興奮を覚えていた。この新兵器は彼にとって、自分の権力をより強固なものとするための、軍事面での切り札なのである。その切り札が、これから本格的な実戦に投入され、その威力を披露する事になるのだ。興奮を覚えるのは無理もない。
(ゼロリアス帝国が研究している、人造魔人。奴らの技術がどこまで使えるか、この俺が見定めてやろう)
ルドルフの眼に映る、最終調整中の兵器達。それは、ゼロリアス帝国から手に入れた研究資料を基に製造した、「人造魔人」と呼ばれる兵器である。
魔人と呼ばれる、魔物を超えた伝説の存在。大陸最強の軍事力を保有する国家ゼロリアス帝国が、兵器として研究を進めている人造魔人。人間を超え、魔物すら超えた、生物の頂点に君臨する存在が魔人であり、最強の生物兵器を作り上げる事こそが、ゼロリアス帝国の「人造魔人研究」の目的である。
情報局の研究者達は、ゼロリアスから入手した少ない研究資料で、何とか実戦に投入可能なものを作り上げた。薬物を使用した人体実験を繰り返し、人間に魔物を移植する事に成功した実験体が今、ルドルフの目の前で最後の調整が行なわれていく。
「アーレンツに立ち向かってくる奴らに地獄を見せるには、丁度いい玩具だ」
そう言って、冷酷な笑みを浮かべたルドルフもまた、勝利を確信していた。だが彼は、アーレンツに忍び寄る、真の敵と言えるジエーデルの足音を、聞き逃す事はない。
勝利のために全ての敵を喰い荒らすべく、「暴豹」は研ぎ上げた己の牙を輝かせていた。
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