贖罪の救世主

水野アヤト

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第二十八話 激動

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「!」

 総統専用の執務室の扉が開かれ、姿を現したのはリリカであった。余裕の笑みを浮かべて、堂々と執務室を後にした彼女に、部屋の前で待機していたセドリックは驚愕した。まさか彼女が、無事にこの部屋から出て来れるとは、思ってもみなかったからである。
 リリカは笑みを浮かべ、セドリックを一瞥し、執務室から離れていく。部屋の中で何があったのか、一刻も早く確認するため、セドリックは慌てて執務室に入っていった。
 執務室を離れ、総統府の通路を歩いていく彼女に、セドリックと同じように部屋の前で待機していた、鉄血部隊部隊長ヘルベルトが後に続く。彼はリリカの護衛のため、セドリックや総統護衛の兵士達と共に、部屋の前で待機していたのである。

「姉御、その顔は上手くいったって事ですかい?」
「ふふふっ・・・・、予想以上に上手くいったよ」

 その言葉を聞いて、ヘルベルトの口元が吊り上がる。彼は邪悪な笑みを浮かべ、その眼をぎらつかせた。
 
「それを聞いて安心しましたぜ。今度はエステランの時よりも大暴れできる」

 実戦経験豊富な戦闘狂達を率い、自分もまた戦いを楽しむこの男には、戦場にいる姿が相応しい。リリカの護衛をするよりも、最前線に出て敵の軍団に突撃し、大暴れする方が性に合っているのである。故に、この後に待つ大きな戦いが、彼は楽しみで仕方ないのだ。

「もう少しの辛抱だよ。それまでは、酒でも飲んで待っているといい」
「いや、隊長を奪い返すまで、酒はやらねぇと決めてる」

 酒好きの彼が、自分達の主を助けるまでは、酒を飲まないと決めている。今回の事件は、彼にとっても衝撃的な事であったのだ。
 護衛に当たっていたのは、帝国軍最強の二人であった。帝国一の狙撃手もいた。その三人が護衛していたというのに、帝国参謀長リクトビアは奪われた。
 今回の相手は、帝国軍として今まで戦ってきた、どんな相手よりも強い。もし戦場で、リクトビアを攫った敵、ヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼと出会ったら、今度こそ死ぬかもしれない。
 だからこそヘルベルトは、今だけは酒を断った。リクトビアを救い出すべく、最強の敵と本気で戦うために。そして何より、勝利した先に待つ、最高の美酒を得るために・・・・・。

「ふふっ、それは良い心がけだ。でもいいのかい?」
「?」
「君の仲間達は我慢できずに酒盛りを始めていたよ。ジエーデル産のビールは最高だと言って」
「あっ、あいつらああああああああっ!?」
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