13 / 16
紅い嘆き
回想 《起源》
しおりを挟む
始めはどうしてそんな事をするのか、幼い知識では分からなかった。
そして理解出来なかったまま、その小さな命は無残にも毟り取られ、踏みにじられ、儚く散っていく──八神 悠宇もそんな犠牲者の一人だった。
彼は引っ越した先で環境に恵まれず、学校では虐められ、家に帰っても怒れる親の暴力に遭う。
毎日毎日、それは繰り返された── 数々の不幸と虐待に遭い、彼の安まる場所は無くなっていき、生き地獄を過ごしていく。
それでも、いつかこんな辛い事が終わる事を願い、夢見て自分を殺してながら生きるも、ある日とうとう怒り狂った親に首を絞められ、視界が黒く染まっていった。
あの時親──いや、“鬼”の顔は今でも脳裏に強く焼き付いている。
ナゼ────
ドウシテ────
ワカンナイ────
繰り返し──繰り返し──それは無限に続く──…。
思考に苦しくなり、彼は瞼を思いっきり開いた。
──辺り一面、目に映るものは、漆黒のみ。
錯覚と思い、瞬きを繰り返すが景色は変わらない。
右を見て、左を見て、下と上も見るが全て黒。気付いた先は、暗く重い、虚無と静寂の空間だった。
自分が“動いている”という感覚は不思議とあったが、進んでいるのかさえも分からない状況に戸惑うばかり。
────やがて彼は、動くことを止めた。
不安に胸を焦され、涙が止めどもなく溢れ、嗚咽を漏らす。
そんな時だった。
可哀想ニ──ドウシタンダイ?
暖かく優しい声。その声に悠宇には“お兄さん”という印象を持った。
「……わかんない。どうして、こ、ここにいるのか……」
ソウカ………キミモ此処ニ送ラレテシマッタンダネ……アァ…可哀想ニ──。
「ここ…どこ…?」
此処ハネェ………“地獄ニ続イテイル路”ダヨ。
少年は竦み上がって息を飲み込んだ。
デモ大丈夫──僕ガ助ケテアゲル。
「………ほんとに…?」
アァ……約束スル。
すると、少年は唐突に暖かさを感じた。全身を抱きしめられているような心地良さに、眠気が押し寄せてくる。
良イ子ダ……。ソレジャア今度ハ──自分ニ語リ掛ケテミヨウ……
言われた通りに───自分を思い描いた。
怖クナクナルオマジナイサ。『弱イ自分ナンカイラナイ』ッテ、言ッテゴラン。
「………弱い自分なんか…いらない……イラナイ」
呟き程度だったが、これもまた不思議なことに今度は心が軽くなった。先程思い描いた自分の姿は既に消えている。
どうしてそうなったかなど考えられない程に、意識が朦朧としていた。
もはや眠っているのかさえも自分では分からないくらいだ。
良イ子ダ。今度ハ──復讐シテヤルッテ、言ッテゴラン。
『──言っちゃだめだよ!』
蕩けかかっている意識に自分の声が訴えかかってきた。
しかし──
「…復讐シテ、ヤル……ゼッタイニ、ユルサナイ…ッ!!」
※※※※※※※※
──言ってしまった…。
目の前にいる自分の全身があっという間に黒ずんでいく様を傍観するしか出来なかった。
ハハハ…コレデマタ一人、仲間ガ増エタ……キミハ、イラナイヨ。バイバイ…。
そして、悠宇は急な落下感に襲われた。
急速に離れていく自分を見つめたまま──そうしてやがて見えなくなり────今度は暗雲漂う夜空が目に映った。
自分が仰向けになって横たわっているという状況を知るのに時間は掛からなかったが、どうしてこんな所にいるのか──そして自分が誰なのか、思い出せない。
少年は立ち上がり、ふと目に入った電話ボックスに向かった。
痛い──。
身体中がじわじわと痛む──。
─────中に入り、古びた電話機を見上げる。
入ったはいいものの、特に何かをしたいという気持ちはなく、只々立ち尽くすのみ。
何気無しにガラスに映った自分を見やり、驚愕した。
全身痣だらけ。しかも顔は醜いほど腫れ上がってもいる。
そんな自分を見つめ、流れ出した涙を拭う──それは、血のように紅かった。
『……イタイ…イタイヨォ……ダレカ、タスケテヨォォ……』
その場に蹲り、少年は延々と泣き続けた。
永遠ともいえる程に泣き続け、届かぬ救いを少年は嘆き続けた。
そして理解出来なかったまま、その小さな命は無残にも毟り取られ、踏みにじられ、儚く散っていく──八神 悠宇もそんな犠牲者の一人だった。
彼は引っ越した先で環境に恵まれず、学校では虐められ、家に帰っても怒れる親の暴力に遭う。
毎日毎日、それは繰り返された── 数々の不幸と虐待に遭い、彼の安まる場所は無くなっていき、生き地獄を過ごしていく。
それでも、いつかこんな辛い事が終わる事を願い、夢見て自分を殺してながら生きるも、ある日とうとう怒り狂った親に首を絞められ、視界が黒く染まっていった。
あの時親──いや、“鬼”の顔は今でも脳裏に強く焼き付いている。
ナゼ────
ドウシテ────
ワカンナイ────
繰り返し──繰り返し──それは無限に続く──…。
思考に苦しくなり、彼は瞼を思いっきり開いた。
──辺り一面、目に映るものは、漆黒のみ。
錯覚と思い、瞬きを繰り返すが景色は変わらない。
右を見て、左を見て、下と上も見るが全て黒。気付いた先は、暗く重い、虚無と静寂の空間だった。
自分が“動いている”という感覚は不思議とあったが、進んでいるのかさえも分からない状況に戸惑うばかり。
────やがて彼は、動くことを止めた。
不安に胸を焦され、涙が止めどもなく溢れ、嗚咽を漏らす。
そんな時だった。
可哀想ニ──ドウシタンダイ?
暖かく優しい声。その声に悠宇には“お兄さん”という印象を持った。
「……わかんない。どうして、こ、ここにいるのか……」
ソウカ………キミモ此処ニ送ラレテシマッタンダネ……アァ…可哀想ニ──。
「ここ…どこ…?」
此処ハネェ………“地獄ニ続イテイル路”ダヨ。
少年は竦み上がって息を飲み込んだ。
デモ大丈夫──僕ガ助ケテアゲル。
「………ほんとに…?」
アァ……約束スル。
すると、少年は唐突に暖かさを感じた。全身を抱きしめられているような心地良さに、眠気が押し寄せてくる。
良イ子ダ……。ソレジャア今度ハ──自分ニ語リ掛ケテミヨウ……
言われた通りに───自分を思い描いた。
怖クナクナルオマジナイサ。『弱イ自分ナンカイラナイ』ッテ、言ッテゴラン。
「………弱い自分なんか…いらない……イラナイ」
呟き程度だったが、これもまた不思議なことに今度は心が軽くなった。先程思い描いた自分の姿は既に消えている。
どうしてそうなったかなど考えられない程に、意識が朦朧としていた。
もはや眠っているのかさえも自分では分からないくらいだ。
良イ子ダ。今度ハ──復讐シテヤルッテ、言ッテゴラン。
『──言っちゃだめだよ!』
蕩けかかっている意識に自分の声が訴えかかってきた。
しかし──
「…復讐シテ、ヤル……ゼッタイニ、ユルサナイ…ッ!!」
※※※※※※※※
──言ってしまった…。
目の前にいる自分の全身があっという間に黒ずんでいく様を傍観するしか出来なかった。
ハハハ…コレデマタ一人、仲間ガ増エタ……キミハ、イラナイヨ。バイバイ…。
そして、悠宇は急な落下感に襲われた。
急速に離れていく自分を見つめたまま──そうしてやがて見えなくなり────今度は暗雲漂う夜空が目に映った。
自分が仰向けになって横たわっているという状況を知るのに時間は掛からなかったが、どうしてこんな所にいるのか──そして自分が誰なのか、思い出せない。
少年は立ち上がり、ふと目に入った電話ボックスに向かった。
痛い──。
身体中がじわじわと痛む──。
─────中に入り、古びた電話機を見上げる。
入ったはいいものの、特に何かをしたいという気持ちはなく、只々立ち尽くすのみ。
何気無しにガラスに映った自分を見やり、驚愕した。
全身痣だらけ。しかも顔は醜いほど腫れ上がってもいる。
そんな自分を見つめ、流れ出した涙を拭う──それは、血のように紅かった。
『……イタイ…イタイヨォ……ダレカ、タスケテヨォォ……』
その場に蹲り、少年は延々と泣き続けた。
永遠ともいえる程に泣き続け、届かぬ救いを少年は嘆き続けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
求不得苦 -ぐふとくく-
こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質
毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る
少女が見せるビジョンを読み取り解読していく
少女の伝えたい想いとは…
追憶の君は花を喰らう
メグロ
キャラ文芸
主人公・木ノ瀬柚樹のクラスに見知らぬ女子生徒が登校する。彼女は転校生ではなく、入学当時から欠席している人だった。彼女の可憐ながらも、何処か影がある雰囲気に柚樹は気になっていた。それと同時期に柚樹が住む街、枝戸市に奇妙な事件が起こり始めるのだった――――。
花を題材にした怪奇ファンタジー作品。
ゲームシナリオで執筆した為、シナリオっぽい文章構成になっている所があります。
また文量が多めです、ご承知ください。
水崎ソラさんとのノベルゲーム化共同制作進行中です。(ゲームやTwitterの方ではHN 雪乃になっています。)
気になる方は公式サイトへどうぞ。 https://mzsksr06.wixsite.com/hanakura
完結済みです。
黎明のヴァンパイア
猫宮乾
キャラ文芸
仏国で対吸血鬼専門の拷問官として育った俺は、『オロール卿』と呼称される、ディフュージョンされている国際手配書『深緋』の吸血鬼を追いかけて日本に来た結果、霊能力の強い子供を欲する日本人女性に精子提供を求められ、借金があるため同意する。なのに――気づいたら溺愛されていた。まだ十三歳なので結婚は出来ないが、将来的には婿になってほしいと望まれながら、餌付けされている。そんな出会いと吸血鬼退治の物語の序幕。
エロゲソムリエの女子高生~私がエロゲ批評宇宙だ~
新浜 星路
キャラ文芸
エロゲ大好き少女佐倉かなたの学園生活と日常。
佐倉 かなた
長女の影響でエロゲを始める。
エロゲ好き、欝げー、ナキゲーが好き。エロゲ通。年間60本を超えるエロゲーをプレイする。
口癖は三次元は惨事。エロゲスレにもいる、ドM
美少女大好き、メガネは地雷といつも口にする、緑髪もやばい、マブラヴ、天いな
橋本 紗耶香
ツンデレ。サヤボウという相性がつく、すぐ手がでてくる。
橋本 遥
ど天然。シャイ
ピュアピュア
高円寺希望
お嬢様
クール
桑畑 英梨
好奇心旺盛、快活、すっとんきょう。口癖は「それ興味あるなぁー」フランク
高校生の小説家、素っ頓狂でたまにかなたからエロゲを借りてそれをもとに作品をかいてしまう、天才
佐倉 ひより
かなたの妹。しっかりもの。彼氏ができそうになるもお姉ちゃんが心配だからできないと断る。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる