幽世路のお繚

悠遊

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紅い嘆き

回想 《起源》

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 始めはどうしてそんな事をするのか、幼い知識では分からなかった。
 そして理解出来なかったまま、その小さな命は無残にも毟り取られ、踏みにじられ、儚く散っていく──八神 悠宇やがみ ゆうもそんな犠牲者の一人だった。
 彼は引っ越した先で環境に恵まれず、学校では虐められ、家に帰っても怒れる親の暴力に遭う。
 毎日毎日、それは繰り返された── 数々の不幸と虐待に遭い、彼の安まる場所は無くなっていき、生き地獄を過ごしていく。
 それでも、いつかこんな辛い事が終わる事を願い、夢見て自分を殺してながら生きるも、ある日とうとう怒り狂った親に首を絞められ、視界が黒く染まっていった。
 あの時親──いや、“鬼”の顔は今でも脳裏に強く焼き付いている。

 ナゼ────

 ドウシテ────

 ワカンナイ────

 繰り返し──繰り返し──それは無限に続く──…。

 思考に苦しくなり、彼は瞼を思いっきり開いた。
 ──辺り一面、目に映るものは、漆黒のみ。
 錯覚と思い、瞬きを繰り返すが景色は変わらない。
 右を見て、左を見て、下と上も見るが全て黒。気付いた先は、暗く重い、虚無と静寂の空間だった。
 自分が“動いている”という感覚は不思議とあったが、進んでいるのかさえも分からない状況に戸惑うばかり。

 ────やがて彼は、動くことを止めた。
 
 不安に胸を焦され、涙が止めどもなく溢れ、嗚咽を漏らす。
 そんな時だった。

 可哀想ニ──ドウシタンダイ?

 暖かく優しい声。その声に悠宇には“お兄さん”という印象を持った。
「……わかんない。どうして、こ、ここにいるのか……」

 ソウカ………キミモ此処ニ送ラレテシマッタンダネ……アァ…可哀想ニ──。

「ここ…どこ…?」

 此処ハネェ………“地獄ニ続イテイル路”ダヨ。

 少年は竦み上がって息を飲み込んだ。
 
 デモ大丈夫──僕ガ助ケテアゲル。

「………ほんとに…?」

 アァ……約束スル。

 すると、少年は唐突に暖かさを感じた。全身を抱きしめられているような心地良さに、眠気が押し寄せてくる。

 良イ子ダ……。ソレジャア今度ハ──自分ニ語リ掛ケテミヨウ……

 言われた通りに───自分を思い描いた。

 怖クナクナルオマジナイサ。『弱イ自分ナンカイラナイ』ッテ、言ッテゴラン。

「………弱い自分なんか…いらない……イラナイ」

 呟き程度だったが、これもまた不思議なことに今度は心が軽くなった。先程思い描いた自分の姿は既に消えている。
 どうしてそうなったかなど考えられない程に、意識が朦朧としていた。
 もはや眠っているのかさえも自分では分からないくらいだ。

 良イ子ダ。今度ハ──ッテ、言ッテゴラン。


  『──言っちゃだめだよ!』


 蕩けかかっている意識にが訴えかかってきた。
 しかし──

「…復讐シテ、ヤル……ゼッタイニ、ユルサナイ…ッ!!」


  ※※※※※※※※


 ──言ってしまった…。

 の全身があっという間に黒ずんでいく様を傍観するしか出来なかった。

 ハハハ…コレデマタ一人、仲間ガ増エタ……キミハ、イラナイヨ。バイバイ…。

 そして、悠宇は急な落下感に襲われた。
 急速に離れていく自分を見つめたまま──そうしてやがて見えなくなり────今度は暗雲漂う夜空が目に映った。
 自分が仰向けになって横たわっているという状況を知るのに時間は掛からなかったが、どうしてこんな所にいるのか──そして自分が誰なのか、思い出せない。
 少年は立ち上がり、ふと目に入った電話ボックスに向かった。

 痛い──。
 身体中がじわじわと痛む──。
 
 ─────中に入り、古びた電話機を見上げる。
 入ったはいいものの、特に何かをしたいという気持ちはなく、只々立ち尽くすのみ。
 何気無しにガラスに映った自分を見やり、驚愕した。
 全身痣だらけ。しかも顔は醜いほど腫れ上がってもいる。
 そんな自分を見つめ、流れ出した涙を拭う──それは、血のように紅かった。

『……イタイ…イタイヨォ……ダレカ、タスケテヨォォ……』

 その場に蹲り、少年は延々と泣き続けた。

 永遠ともいえる程に泣き続け、届かぬ救いを少年は嘆き続けた。
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