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第二章
序の口 災禍
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【エディンベル】に点在するとある砦。
その砦は、他国や魔物の侵攻を防ぐ役割を担っており、そこに駐在する兵士も精錬された人物が多数集まっている。
幾度となく自国の侵略を防いだ実績を誇る鉄壁の要塞。
──しかし、その偉業は脆くも打ち砕かれた。
元々強固でさらに耐久強度増加の魔法も施されて築かれた外壁は瓦礫の山と化し、数多の敵を葬ってきた自慢の大型弓弩と魔大砲の連隊も悉く破壊し尽くされ、精鋭兵達の善戦も虚しく、誰一人として生き残る者はいなかったのである……。
その廃墟となった土地に堂々と佇むは三体の《魔鬼》。この燦々たる状況を作った張本人達だ。
「───ふんっ!! こんなものか…噂ってのはあてにならんものだ!」
そう豪語するは、筋骨隆々の大柄な《鬼》
「でも結構面白かったではないか! 彼奴らの絡繰、まるで花火みたいだったぞっ! 昼間の空でも眩く輝いていたし、壊すには惜しい事をしたなぁ」
無邪気な子供を思わせる小柄な《鬼》が感情豊かに兵器の賞賛を述べる。
「そうさな…ならば、適当に此処の人間を捕まえて造らせておけばいい。そのくらいの利用価値はあるだろう」
細身で長身の《鬼》が静かに諭す。
「あんな珍妙な絡繰なんぞ無用だ。そんなくだらん物に拘る必要も無い」
「えー。子分が扱うなら十分な代物だよ」
「それが何だ? この俺の拳の前では何の意味も成さん!!」
「はぁぁ…どうしてそう自分の力自慢になってしまうのだ覇砂羅?」
覇砂羅と呼ばれた《鬼》が鼻息を荒くして己の拳同士をぶつけ合わせ、周囲に衝撃波を放つ。砂塵と瓦礫の欠片が吹き荒れた。
「黙れ、叢雲。貴様のひょろっちい身体なんぞ、いつでも一捻り出来るのだぞ?」
「ほぅ……? そうですか…」
叢雲の長髪が逆立ち、彼の周囲に大小様々な水泡が顕れると浮遊して停滞する。
お互いは睨み合い、既に一触即発の状況である──が、
「はいはい、その辺で終いにしよう──頭領が見てるよ?」
「………ちっ!!」
先に構えを解いた覇砂羅。続いて叢雲も、自身を囲っていた水泡を小気味良く弾かせて戦う意志が無いことを示す。
「つい頭に血が昇ってしまったか…止めていただき感謝する時童子」
二人の闘気が沈静化していく様子を感じた時童子が二人の間に入り、それぞれの片手を掴むと、二人よりも体格が小さいとは思えない膂力で強引に握手を交わさせる。
予想外だった彼の行動に面食らった二人は、困惑の表情を浮かべながら時童子に抵抗するものの、毎度の如くビクともしない。
「二人共最近退屈だったからって身内同士で争うのは良くないぞー? また頭領からお叱りされちゃうぞー?」
「うるせぇっ!! それともういいだろ、離せっ!!」
ようやく解放された覇砂羅は掴まれた手を見ると、小さな手跡がくっきり残っていた。それは叢雲も同様で、彼の場合は痛みを紛らわせるかのように手を軽く振っている。
「……さて、私は一旦頭領に報告に戻る。二人はどうする?」
「俺はこの先の国を奪って来る」
「なら僕も行くー」
「来んなっ!! お前と二人だけだなんて冗談じゃねぇ!!」
「えー。つれないなー」
「国取りは頭領の指示に無いが……まぁさして問題は無かろう。では」
そう言って彼の身体が陽炎の如く揺らぐとその姿が瞬く間に消えていった──。
「………おう。さっさと消えろ」
「ちぇ、覇砂羅の唐変木ー」
「あんっ!!?」
即座に殴りに掛かるが彼もまた叢雲同様、消えていった──それも、可愛らしい“あっかんべー”を添えながらである。
拳が空を切り、一人残った《鬼》は苛立ちのあまり天に向かって咆哮を上げた。
大気は盛大に震え、再び衝撃波が周囲に放たれ、数多の瓦礫や残骸が吹き飛んでいく。
「あんの餓鬼やぁ……いずれかっ喰らってやる…!!!」
怒りを顔を歪ませながら進む道を見つめる。
この先に、獲物となる【国】がある。そこの物資や資源、食糧などを強奪するために彼は遠路遥々足を運んだ。
同時に──この異界の地で、未だ見ぬ《強敵》に遭うためでもある。彼は、血と闘争に飢えているのだ
「さぁてぇぇ、行くとするかっ…!!」
憂さ晴らし、破壊、愉悦──飢え続ける本能を満たすべく《魔鬼》は侵攻を再開した──。
その砦は、他国や魔物の侵攻を防ぐ役割を担っており、そこに駐在する兵士も精錬された人物が多数集まっている。
幾度となく自国の侵略を防いだ実績を誇る鉄壁の要塞。
──しかし、その偉業は脆くも打ち砕かれた。
元々強固でさらに耐久強度増加の魔法も施されて築かれた外壁は瓦礫の山と化し、数多の敵を葬ってきた自慢の大型弓弩と魔大砲の連隊も悉く破壊し尽くされ、精鋭兵達の善戦も虚しく、誰一人として生き残る者はいなかったのである……。
その廃墟となった土地に堂々と佇むは三体の《魔鬼》。この燦々たる状況を作った張本人達だ。
「───ふんっ!! こんなものか…噂ってのはあてにならんものだ!」
そう豪語するは、筋骨隆々の大柄な《鬼》
「でも結構面白かったではないか! 彼奴らの絡繰、まるで花火みたいだったぞっ! 昼間の空でも眩く輝いていたし、壊すには惜しい事をしたなぁ」
無邪気な子供を思わせる小柄な《鬼》が感情豊かに兵器の賞賛を述べる。
「そうさな…ならば、適当に此処の人間を捕まえて造らせておけばいい。そのくらいの利用価値はあるだろう」
細身で長身の《鬼》が静かに諭す。
「あんな珍妙な絡繰なんぞ無用だ。そんなくだらん物に拘る必要も無い」
「えー。子分が扱うなら十分な代物だよ」
「それが何だ? この俺の拳の前では何の意味も成さん!!」
「はぁぁ…どうしてそう自分の力自慢になってしまうのだ覇砂羅?」
覇砂羅と呼ばれた《鬼》が鼻息を荒くして己の拳同士をぶつけ合わせ、周囲に衝撃波を放つ。砂塵と瓦礫の欠片が吹き荒れた。
「黙れ、叢雲。貴様のひょろっちい身体なんぞ、いつでも一捻り出来るのだぞ?」
「ほぅ……? そうですか…」
叢雲の長髪が逆立ち、彼の周囲に大小様々な水泡が顕れると浮遊して停滞する。
お互いは睨み合い、既に一触即発の状況である──が、
「はいはい、その辺で終いにしよう──頭領が見てるよ?」
「………ちっ!!」
先に構えを解いた覇砂羅。続いて叢雲も、自身を囲っていた水泡を小気味良く弾かせて戦う意志が無いことを示す。
「つい頭に血が昇ってしまったか…止めていただき感謝する時童子」
二人の闘気が沈静化していく様子を感じた時童子が二人の間に入り、それぞれの片手を掴むと、二人よりも体格が小さいとは思えない膂力で強引に握手を交わさせる。
予想外だった彼の行動に面食らった二人は、困惑の表情を浮かべながら時童子に抵抗するものの、毎度の如くビクともしない。
「二人共最近退屈だったからって身内同士で争うのは良くないぞー? また頭領からお叱りされちゃうぞー?」
「うるせぇっ!! それともういいだろ、離せっ!!」
ようやく解放された覇砂羅は掴まれた手を見ると、小さな手跡がくっきり残っていた。それは叢雲も同様で、彼の場合は痛みを紛らわせるかのように手を軽く振っている。
「……さて、私は一旦頭領に報告に戻る。二人はどうする?」
「俺はこの先の国を奪って来る」
「なら僕も行くー」
「来んなっ!! お前と二人だけだなんて冗談じゃねぇ!!」
「えー。つれないなー」
「国取りは頭領の指示に無いが……まぁさして問題は無かろう。では」
そう言って彼の身体が陽炎の如く揺らぐとその姿が瞬く間に消えていった──。
「………おう。さっさと消えろ」
「ちぇ、覇砂羅の唐変木ー」
「あんっ!!?」
即座に殴りに掛かるが彼もまた叢雲同様、消えていった──それも、可愛らしい“あっかんべー”を添えながらである。
拳が空を切り、一人残った《鬼》は苛立ちのあまり天に向かって咆哮を上げた。
大気は盛大に震え、再び衝撃波が周囲に放たれ、数多の瓦礫や残骸が吹き飛んでいく。
「あんの餓鬼やぁ……いずれかっ喰らってやる…!!!」
怒りを顔を歪ませながら進む道を見つめる。
この先に、獲物となる【国】がある。そこの物資や資源、食糧などを強奪するために彼は遠路遥々足を運んだ。
同時に──この異界の地で、未だ見ぬ《強敵》に遭うためでもある。彼は、血と闘争に飢えているのだ
「さぁてぇぇ、行くとするかっ…!!」
憂さ晴らし、破壊、愉悦──飢え続ける本能を満たすべく《魔鬼》は侵攻を再開した──。
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