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12.国王の愛人

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「…もしかして陛下の側妃様でいらっしゃいますか」

ん…?そくひ?って何…

「えーっと、そくひって…」

「陛下からお聞きしていないでしょうか」

「ええ」

「そうでしたか。それは大変、失礼致しました。では、私から簡単にご説明致しますね。陛下と王妃殿下は長年、お子に恵まれず、陛下は王位の後継ぎに大変頭を抱えて…
バンッッ「えーーーーっ?!!カルセドって奥さんいたの?!」

瑠璃は衝撃過ぎて、扉を勢い良く開けた。
そこには、白黒のメイド服を着た40代くらいの女性が目を見開いていた。この女の人が今、自分と話していたアナに違いない。

「?!!えーっと…あの…」

アナは瑠璃の格好に驚きを隠せなかった。瑠璃の髪は濡れており、素肌にタオルを巻いただけの格好であるため、風呂上がりであることは分かる。ただ、オニキスでの貴族の入浴は使用人が行うことが普通であるため、使用人なしで一人で入浴することは大変珍しいものであった。
瑠璃は、アナがそんなことで驚いているとはつゆ知らず、ただ自分の格好があまりに非常識で、しかも初対面の相手にさらされている、この状況をなんとかしのごうと焦りに焦る。
その挙句、

「と、とにかく、中に入って!」

「きゃあっ!!!」

瑠璃はアナの腕を強引に引っ張って、部屋に入れた。アナを応接間のソファに座らせた。アナは瑠璃の突然の行動に戸惑いを隠せない。

「あの…」

「あぁっ…すみません!!私は瑠璃と言います。それで、カルセドって奥さんいるんですか?!!後継ぎってどういうこと?!」

瑠璃はアナの隣にぴったりくっついて座り、前のめりになる。見た感じ、おっとりしているアナは瑠璃の食い付きっぷりにしばらく驚いていたが、自分よりも瑠璃の方が慌てていることに徐々に落ち着きを取り戻す。

「はじめまして、瑠璃様。私は陛下専属のメイド、アナと申します。では早速、丁寧にご説明致しますね。
陛下は15年前にご結婚されているのですが、未だお子に恵まれず、直系の後継者がおりません。本来であれば、王妃殿下とのお子が望ましいのですが、王位の後継問題は国家存亡にも関わります。そこで側妃様…そうですね…王妃殿下に代わりお子をお産みになる女性をお召しになられたこともありましたが、それでもお子に恵まれませんでした。ここ数年は王妃殿下との交流もほとんどなく、側妃様も召されていなかったので、正直、瑠璃様のお姿を拝見して驚いてしまいました。陛下がご自身のお部屋に側妃様をお連れすることは滅多にありません。陛下は余程、瑠璃様のことを気に入っていらっしゃるのですね」

瑠璃は黙ってアナの話を聞いていた。カルセドがどうして初対面の瑠璃を妻にすると言ったのか、無理矢理抱いたのか、だんだん理解出来た。つまり、自分の後継ぎが欲しいからなのね。カルセドには既に奥さんがいることには驚いたが、そういうことならしょうがない。カルセドもカルセドで大変なんだと、瑠璃はカルセドが眠る寝室の方を少し憐れみ顔で見つめる。

じゃあ待って。私…カルセドと子作りしなきゃいけないの?あの誘拐男と?!いやいやいやいや、おかしいでしょ。好きな人の子どもなら何も問題ないのよ。私は、好きでもない相手としかも人の夫と子作りなんてしたくない。
でも、逆に考えれば、後継ぎさえ残せれば良いのよね、そしたら私を解放してくれるかも…

瑠璃は顎に人差し指を当てながら考える。

「解放…?」

アナは首を傾げながら、瑠璃の方を向く。
しまった…口に出てた…

「いえ、何でもないわ。ただ、私なんかで良いのかなって…奥さんもいるんでしょ、なんか悪いなって…あはは…」

瑠璃は平生を装いながら、なんとか言い訳をした。解放って、私がここから逃げ出したいって言ってるようなものだ。それも国で1番偉い国王から…
瑠璃は、自分がここにいる経緯についてアナには黙っておくことにした。

「瑠璃様は陛下がお嫌いなのですか?」

「えっ?!いや…そういうわけでは…」

「でしたら、心配ありません!確かに王妃殿下はいらっしゃいますが、政略結婚ですし、愛情なるものはないかと思われます。それよりも、陛下は瑠璃様をとても寵愛されていると思います」

そんなはっきりと…
言って大丈夫なの?
王妃様に怒られないのかな…

「なんで?私、まだカルセドに会ったばかりだし、あなたとも今、会ったばっかりじゃない」

「私は、陛下の幼い頃からお仕えしておりますが、陛下がこの塔に移られてから女性をご自身のお部屋にお連れしたことはございません。使用人さえも陛下の私室に直接出向くことはあまりございませんので。また、夕方以降は私含め使用人は下がっておりますので、瑠璃様の前で睡眠を取られているということは、瑠璃様には相当、気を許されているのだと私は思います」

「そ、そうなの…かな」

いまいち、腑に落ちないが、長年カルセドを見てきたアナが言うのだから、本当のことなのだろう。でもなぁ…

「ふぁ~何の話をしている」

突然、寝室の扉が開く。カルセドが起きてきたのだ。

「陛下、おはようございます。急ぎの伝言とお召し物を回収に参りました。それより陛下、瑠璃様に何も説明されていなかったのですか?!」

アナの詰め寄りにカルセドはビクッとする。

「あっ、あぁ」

「はぁ、全く。何も説明しないんじゃ、瑠璃様がお困りになるでしょう!それに、瑠璃様の服も」

「うっ…それは悪いことをした…済まない…」

カルセドは申し訳なさそうな表情だが、アナは容赦無い。まるで、カルセドがアナの尻に敷かれているような…あれ、王様とメイドだよね、なんだか立場逆転してない?

「私にではなく、瑠璃様に謝って下さい」

「瑠璃、済まなかった…」

カルセドは瑠璃の元に近づいて、ひざまずき、頭を下げた。

「えっ?!いや、まぁ…いいわ。アナさんから大体のことは聞いたから。それより、もう風邪は良いの?」

「すっかり治った。お前のお陰だ。ありがとう」

カルセドは瑠璃に微笑みながら、瑠璃の髪を優しくとく。そして、瑠璃は、カルセドの美顔に見つめられ、思わず目を逸らす。

「別に…大したことしてない…」

「ん、瑠璃、なんでバスタオルなんだ?髪も濡れている」

「お風呂に入ってたのよ。それで、下着と服がほしいって思った時に、ちょうどアナさんが来たから、頼んだの」

「そうだったんだな。じゃあ、アナ、瑠璃のサイズに合う下町用の服を持ってきてくれるか」 

「承知しました」

「何で下町なの?お城にあるでしょ、たくさん服が」

「あぁ、それは…」

「陛下はそれでご自身で瑠璃様のお召し物をお選びになりたいのですよ!」

「おい!下町にはたくさん種類がある。お前も自分で選びたいだろ。城には王妃の分はあるが、それほど種類はない」

「そうなのね」

下町かぁ。下町をぶらぶらして、気分転換するのも良いかもしれない。瑠璃はここに来て初めてワクワクしてきた。

「で、急ぎの伝言とは何だ」

「治水工事でトラブルがあり、急遽予算の変更を検討して頂きたいとのこと」

「分かった。明日、現場へ向かおう。で、今日は何もないよな」

「ございません。安心して、瑠璃様とのデートを楽しんでいらして下さい」

「えっ!?何?デートって」

「お前、デートを知らないのか?仲睦まじい男女が…「それは知ってるけど!でも、私はあんたに」

誘拐されて…
ダメ、これは言っていけないやつだ。
今は、側妃だったっけ。
なんか側妃って言葉、難しいのよね。
国王の愛人で良くない?
響きはあんまり良くないけど。
だって、奥さんいるのよ?!
倫理的にダメでしょ。
でも、今は演じるしかないのよ。
たかがデートだ。大丈夫。ただ、カルセドと街中を歩くだけでしょ。
別に大したことではない。

「デートね。好きな服、買っていいのよね」

瑠璃は国王の愛人らしく、凛々しく言い放つ。

「もちろんだ。俺が買う」

カルセドは瑠璃を優しく抱き締めた。

「んもう、いきなり抱かないで」

瑠璃はカルセドの胸板を押すが、なかなか離れてくれない。

「済まない。あまりにお前が可愛いから…それに身体も冷えてるじゃないか」

「何よ…それ」

確かに人肌は温かい。カルセドのことは嫌いだが、なぜだか抱き締められると安心するのだ。その安心感は両親に似ている気がした。

「では陛下、瑠璃様、失礼致します。お召し物の回収は後程」

アナは、2人の空気を読んだのか、一礼をすると部屋から出て行った。アナが下町の服を持って戻るまで、瑠璃はカルセドに抱き締められ続けた。カルセドが瑠璃の前でアナにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。


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