8 / 12
出会い
3. タイミング
しおりを挟む「では、これでよろしくお願いします」
タブレットとパソコンをかばんにしまい、会議室を出た。
僕は現在、在宅SEとして働いている。一応、企業には所属しているが、オフィスはない。主に、依頼企業の会議室を使ったり、社内会議やプレゼン、イベントなどはオンラインが基本だ。どうしても集まらなければならない時は、フリーのオフィススペースを借りる。SEは、メールによる企業の依頼で企業内のシステム構築やWeb広告の作製を行う。在宅のため、決まった勤務時間はない。
外に出向く仕事では、帰りに仕事先の近くのバーや居酒屋を探しては、大概ハイボールを頼む。
未だ、名も知らない彼女…
黒いモヤモヤが覆う。
だが…
自宅に戻ると、仕事の依頼メールが一件届いていた。
ウェイブリット社。
広告代理店で、社風も良く、結果も出していると最近有名になり出しているベンチャー企業だ。
Web作製の依頼だった。
最近、やっと仕事も型にハマって慣れてきた所だ。これまでは、仕事だけに奔走してきたが、今は無理のない程度に調整している。だが、この依頼は引き受けようと思った。将来的に見込みのありそうな若い企業ということもあるが、今回は違う。
そこに彼女がいるのだ…
"依頼の件、引き受けます"
迷わず返信するとスマホをベッドに投げやった。ベッドにドサッと仰向けになると、天井に向かって手を伸ばす。
「みっちゃん…待ってて…僕が君を奪うから…」
僕はその手をきつくきつく握り締めた。
─────────────────
ガチャッ
「あっ、お帰り」
自宅に戻ると、弘樹は既に帰って来ていた。
久しぶりに家でちゃんと顔を合わせる。
「弘樹」
「弘樹、春香ちゃんと昨日、営業だった?」
「そうだったけど、どうかした?」
「そうだよね~。ううん、何でもない」
やはり、昨日見かけたことは言えなかった。
やっぱり見間違え?でも、どこか腑に落ちない。
「久しぶりに休みどっか行く?」
「そうだね…いいね!ここ1年、どこにも行ってないよね」
そう言って、私はスマホでお出かけスポットを検索をする。
すると、急に後ろから抱きすくめられた。
顔を首の付け根に埋められ、毛先がくすぐったい。
「美琴…今日一緒なの久しぶりだし…しよっか」
いつもは落ち着いている弘樹が今日は何だか焦っている気がした。
「どうしたの?弘樹から珍しい…」
顎に手を添えられ、顔が近づく。
「そうか?…なんかそういう気分ていうか…」
そして唇が重なる…
「美琴…」
「…んん…ふぁ…ん」
だんだん息が荒くなる。ソファに押し倒され、ワイシャツのボタンを一つ一つ外される。
淡いピンクのキャミソールとブラが露わになる。
角ばった手が膨らみに優しく触れる。
ホックを外そうとした時、
プルルルルプルルルルプルルルル
「あっごめん、仕事かも」
「うん、出て」
弘樹は気まずい顔で、私の上からどいた。
スマホを耳に当てる。
「はい、松枝です、はい……はい…了解です。明日向かいます。それで……」
私は乱れたシャツを着直した。胸元を隠すように前開きのシャツの両側を手で留める。
弘樹の方を向くとちょうど電話が終わったみたいだ。弘樹は神妙な顔つきだった。
「ごめん、美琴!明日、急に仕事入った。出かけるのはまた今度な」
「そっか…じゃあ、仕方ないね、また今度ね」
仕方ない、また今度…か
最近、何度も何度も使う言葉だ。
仕事が忙しいのはお互い様だ。
弘樹のせいではない。
でも、また、弘樹とゆっくり話せる時間がなくなった。
このままでいいのだろうか…
この1年で弘樹の心がだんだん私から離れている気がする。そう思うのは私だけ?
「明日早いから、もう寝るな」
「うん」
弘樹は私のおでこにそっとキスを落としてくれた。
「続きはまた今度」
そう言って寝室へ向かって行った。
私はシャツを握り締めたまま、心のどこかに空いている小さな穴を見て見ぬふりするしかなかった……
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる