鉄の心

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鉄の心

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その1

人間達の歴史を見て考えれば、かなり長く進んだ時代。
いつの頃だっただろう。遠い宇宙の彼方にやってきた一粒の隕石は大気圏で燃え尽きず
この地に落ちた。その石は未知のウイルスを連れ、そいつらは人々を蝕んだ。
研究をして対抗する薬を開発する余裕も与えられなかったと記録されていた。
その魔の手は人間ばかりでなく、数多いる生命も蝕み命を奪ってきた。
この地球の総人口数は一桁にも達しないほど死滅した、
仮にそうでなくても、人類以外の生命体はすでに死滅したので一桁未満になる運命は
避けることはできないだろう。
僕が作られたと思われる年にはもう人間は二人か三人にいかないくらいの数になっていた
かもしれない。
残っていたのはウイルスの影響を受けない僕たち機械生命体(人工知能を持つロボット)
しかいなかった。
はっきりと意思を持って動いてると意識した時には人類はいなかったと僕は思う。
人類含む全ての生命体が滅びた後は残った機械生命体は、その人類に変わって新たな社会を
この星で作ると多くは考えると思うが、簡単に進むことはなかった。
かつて人類の一部がガイア仮説という理論を大昔に唱えていたという歴史がある。
地球が一個の生命体だという論だけど、ただの星を生物と考えるのは、無理があると
機械の自分は思ったが、仮にもしそうであってもウイルスの影響がないと言えるかは別だった。
一目でわかる土壌の汚染や朽ちていく森林を見てそれはこの星に影響がないわけがなかった。
人類の文明が発展してから100年経ったがそれでも有り余った地球の寿命は、隕石のウイルス
によって奪われ我々が生まれる前の人間達は、余命一年と予測した。
その人類達はなんとか機械でその星の生命維持を行っていたが彼が死滅した後、僕たち機械が
その役目を担った。
だからと言って、人間の作ったものごときでこの遥かに大きい星の命を保てるかというと。
無駄な足掻きにしかならず、半年が経った。ある程度諦めた僕ら機械生命体は火星に向けて
飛び立つための船を作った。
もうすでに絶滅した知的生命体である人類は我々機械に制作道具や設備を残してくれた。
僕らはそれを使い、火星まで飛び立つ船を作るだけだった。
火星についてやることはまずはエネルギー源の確保である。
それらがあると分かれば、住む場所を作り、指導者を決める。
その星で我々の新たなる社会を作る計画をこの死にゆく地球で考えていた。
そういう卓上計画を練るのは上層部の機械達で、僕らは船の外装部や機関部を作る
作業をするだけだった。
そして僕、九六型はメインのエンジン部を作る作業用として制作をする日々を送っていた。
地球の寿命のカウントダウンは一日、そして一日と過ぎていき僕らはそれに合わせるために
ピッチをあげて作り続けた。
もしも地球が滅びればどうなるかは僕らは分かってない、人間なら放り込まれると、
窒息の苦しみを与えられず沸騰して爆散する宇宙空間では機械は生き延びれるだろうが。
どこにも足をつける場所がなければ、一生浮遊し続ける余生を送ることになるだろうと考える。
その恐怖は全ての機械達にはあったので、だからみんなは真剣になってると思う。
僕はただエンジンの機関を一つ一つ作り、決して故障がないよう確認は欠かさなかった。
休日はなかったものの数分の休憩があり、その時間だけが僕ら作業型がくつろげる時だった
一回めの休憩の際は朽ちた街並みを眺めているだけ。
これは僕の日課であった、人間達の暮らしを思い浮かべるのが楽しみにしていたし、もはや
ルーティーンのように毎日行っていた、ある時だった久しぶりに同僚が僕に話しかけてきた。
「また街を見てるのかい九六型」
「あ、うん毎日の日課みたいなもんで好きでやっているんだ」
「人間達の残したゲーム機があるのに、よく飽きないもんだな。」
この辺一体はまだ人間が生きていた頃は、小さなありのように人間たちが
方は仕事で、もう片方は遊びに行くためにせっせと動いていた。
今見れば、日々と汚れに塗れた廃墟や瓦礫しかなかった。
僕はそれを眺めて、休憩時間を過ごしていた。
「他のやつと比べればお前は変わったやつだよ、まあその他の連中も見た目が同じだけで、中身はアレな奴らだけどな。」
と同僚は笑う、僕もちょっとだけ笑った。
僕ら作業用は、見た目が同じの汎用型であったが、僕らに意思や感情を持てるような機能を
搭載させたので、機によって雰囲気が違うんだ、人間はそれを人工知能と呼んでいたが。
その言葉は僕は嫌いだ、これは僕らの心だから。
「ところで123型は人間と一緒にいた記憶ってあったっけ?」
と僕は彼に聞いてみた。
「あー、そうだなー、もう随分昔の話だったっけ?、あの時も俺はこんな風に宇宙へ飛び立つ
船を作る作業はしていたな」
「人間っていいやつなのかい?」
「それは100%は言えないな悪いやつもいるさ」
と123型は首を振って答えた、そして僕はこういった。
「僕にはそれを判断できるほどの記憶はないんだ…、一体どうして記憶がないのか
それ自体も記憶から抜けているんだ、覚えているのは人間は滅んだってことだけ」
空気が少し曇ってきたところ123型は笑いながらいった。
「そんな辛気臭いこと言うなよ!、過去は過去だよ、俺たちはこれから火星へ行き
新たな生活をするんだ、そこで楽しい人生を作ればいいんだよ!」
底抜けに明るい彼の言葉に少しだけ安心をし振り向いて僕は、
「そうだね、いつまでも昔のことを考えるのもよくない、未来の方が大事だね。」
それから123型は、火星についた後の生活を考えていた、
大きなビルを建てる仕事に就きたいとか、最高の機能を取り入れてグレードアップしたいとか。
そんな話をして仕事へ戻った。
仕事場では僕らと同じ作業用が船の外部を組み立てたり、燃料等の生活用品を運んだりしてた。
後ろでは監督機の檄が飛んできた、このあたりは他の役割の機械生命体もいた。
警備をする先頭型や、会議室というコンクリの廃墟には上層部である知能型が、
飛び立ってからの計画などを練っていた。僕らの全ての日課は労働が大半だった。
僕は働くのが好きかというとそうでないが、しなければ宇宙の藻屑になるだろうし、
生き残るためにそれをしてると僕は思う。
労働時間が終われば、全作業用は洗浄されて燃料補給そして休息につく。
その間は交代で戦闘用は周りの警備をしている、生物がいなくなったのにする必要があるか
というと必要はあった、盗賊になった機械生命体たちが襲ってくることもあるからだ。
こうやって安心して寝られるのもこの戦闘型がいるからだ。
そうでなければ僕らは破壊され、燃料を奪われていただろうし
この安心を噛み締めて今日は寝た。
その深夜だった、会議室で夜遅くまで知能型は他の機械たちの労働計画を練っていた
「明日の計画はこの通りです、すでに火星移住のための船は概ね完成まで行けます。」
「どうやら、地球滅亡までは間に合いそうだ」
知能型のリーダー機は安心して言った。
「我々の燃料と船の燃料は火星までは持ちますし、しかし一つだけ問題があります。」
「なんだ?」
「人員に少し不安があり、今いる機械生命体は作業型が3000名
戦闘型が50名、そして我々知能型は7名、船の総積載数は10000tはいきません」
と知能型の一人は言った。周りの知能型もガヤガヤと話していた。
リーダー機はただ黙って様子を見ていた。
「会議長どうしましょう…もしかしたら数名を地球へ残すことになります」
「しかし、一度飛び立てば火星まで半年かけて行かなければならない、
往復は不可能だ」
「我々は非情な決断をしなければならないって事か…」
卓上の計画や作戦を練るために作られた彼らでも頭を抱えて悩む事態になった。
すると一人が会議長に申しだてた。
「会議長、一度このことを彼らに話してみてはどうでしょうか?」
「おい、何を言ってるんだ!!;、そんなことをしたら混乱になるだろう!!」
「いや、しかし!」
この一言で会議の議論は激しくなり、お互いの意見を言い合うだけになった
すると会議長はその様子をおさめる為に一言言った。
「確かに、このまま黙っているのもよくない事だ、事態を伝えることはしょう、もしも
それで解決がなければ私が代わりになろう」
「会議長‼︎」と周りは止めるように言った。
現在この集団のまとめる役が会議長であるこの頭脳型である、彼を抜いてしまえば、
火星に飛び立った後にまとめる役がいなくなるから、周りが止めるのも必死である。
周りの頭脳型達は彼を説得して、明日の朝、このことを伝えることにした
会議はここで終了をし、次の朝となった。
一部の戦闘型を除く全ての機は一箇所に集められた。
作業型の機械達は一体なんの話があるのだろうとザワザワしていた。
「なんだろう一体…」
「もしかして地球の滅亡が明日になったとか」
「やめろよ、縁起でもねえ」
という話が飛び交っていた時に頭脳型たちが目の前に現れた。そして会議長が一言言った。
「諸君に伝える、船の完成は後少しとなる、地球滅亡までは間に合うだろう」
僕たちはおおーっと喜びの声を上げた。
「やっと完成か…」
「次は火星に向けて飛び立つことか」
「やっと今までの苦労が報われる…」
しかしそう言った言葉をかき消してしまうように会議長は続けて言った。
「しかしそれと同時に苦しい決断がある、これは諸君らで考えて答えを出してほしい、
この船の定員が限られている、最小限に抑えても一人は残ることになるだろう。」
その言葉で僕たちは凍りついた、一人はここで地球の滅亡を共にするからだ。
「よく君たちと話し合ってくれ、場合によっては私が残ることにする」
それには賛成はすることもなかった、他にリーダーになれる頭脳型はいなかったし
かといってリーダーの席が空白になればこの集団はバラバラになる、
僕たちはそれを恐れていた。
「…誰が一体これに手を挙げる?」
「俺はいやだぜ」
「私もやだよ…だからと言ってリーダーを置いていくのか?」
ヒソヒソと頭脳型たちに聞こえないような声で話し合った、しかしほとんどは
明確な答えは出せずただ黙るしかなかった。
「答えは出ないそうだ…仕方ない私が…」
という前に僕は一つの答えを出した。
「会議長、僕が残ります!、僕は他に地球への脱出方法を探してみせます!」
その一言に周りは驚いただろう、自ら犠牲になるということに正気を疑うくらいだから。
「…君が残るのか…」
「はい、僕が残れば他の者達は助かる、それなら悔いはないです」
「…すまない…そしてありがとう…」
会議長は心の中では申し訳なく思うだろう、しかし自分から決断した者には
最大限の感謝は忘れないお方だった、その人望の厚さがあるから僕はどうしても
生きてほしいと願い手を挙げたと思う。
その後は再び作業へ戻り僕らは火星へ目指す船を作った、同僚達は僕に心配の声をかけたが
大丈夫だ、僕には希望がある、きっと人間が残した何かがあると思うから。
その作業から二日後に船は完成した。
まず最初に燃料などを積み、その後に作業型を載せて、そして戦闘型、
頭脳型と順に乗っていった、最後に僕がここで残り船が飛び立つのを見送った。
空を飛んだ船は、少しずつ小さくなり完全に見えなくなったところで僕は残してくれた
燃料をカバンに詰めてこの地球のどこかにある脱出方法を探しに周ることにした。
鉄でできた機械である僕に肉体的な過労はないと思うし、心も鉄のごとく強くかたい。
だから前向きにできたんだと自分を誇る。
地球の寿命は後わずか、それまでに方法を探す、そのために僕は足を進めた。その2

みんなを乗せた船が火星へ旅たって1時間はたった。
地球脱出の方法が何かという根拠がないまま僕はこの大陸を周る決意をし
鉄の足を動かし、燃料の入った鞄を前へ後ろへ時計の振り子のように振って
歩き続けた。
ひび割れたアスファルトの道路を辿って、生命の呼吸もない朽ちた町から
町へと行きただひたすら歩くだけだった。
「…どこにもないな…せめて飛行機ぐらいはあってほしい」
独り言を言ってただ進むだけ、それでも何もない、あるのはウイルスの影響で死んだ木々と
微生物すらいない汚れた湖だった。
しばらく歩いてからさらに2時間はたっただろう、目の前に朽ちた大きな建物が見えてきた。
かつては白かっただろうが塵や劣化で灰色になった壁と朽ちてひび割れたガラスでできた
建物だった。
「…かつて何かの研究所だったんだろうか… ?」
そろそろ疲れも日も暮れてきたし、何かあるだろうとその建物に入ってみた。
中は外見通り荒れ放題で、外の砂が地面を包んでいた。
砂をジャリジャリと踏んで進んだ、かつて人間がいた時に機械生命体もいただろう
だから燃料は残ってると思い、あちこちの部屋を調べたけど、出てきたのはコップや
衣類、そして難しい書類ばかりだった。
「めぼしいものは残っていないらしい…」
この研究室の廊下はしにあった仮眠室で今日は休むことにした。
ベットもシーツもあの時から残っていたのか、だいぶ汚れていた、以前働いていたキャンプ
の寝具は手入れされていたので、それが恋しく思った。
「贅沢は言えないあればよかったと思えばいい」
すぐにゴロンと寝転んだがやはりガタが来ているのか、軋む音がする。
しばらく時間がたても寝につけず、考え事ばかりが頭をよぎる。
地球を出る方法があるのか、このままこの星と共に消え去るのか、
不安なことが頭の中を回った。
しかし僕はそれと戦い、打ち勝たなければならない、希望は決して枯らしてはならない
いつかここを出て、火星で新たな人生を送る、僕の生きる目的は今はこれだけだった。
それから3時間たっただろう、ジャリっと足音がどこかでした。
その音に目が覚めて起き上がり仮眠室の部屋を出たが廊下には何もいなかった。
「確かに足音はした、生物であることはない、同じ機械生命体がいるのだろう」
火星へ向けて船を作る計画は僕らだけではなかった、ユーラシアやヨーロッパ、
アフリカでも計画をしていたと聞いたことがある。
それらはほぼ同時に飛び立ったかもしれないだから意思を持って動くものは
もうほとんどいないと決まっている。
だがしかし何かしらの理由でここへ残されたものはいる。
今した足音でそれは確実に決まった、僕はその音の主を探しに言った。
すでに深夜となり、あたりは闇に包まれていたので、元々踏み場の悪い床は
さらに歩きずらかった。エネルギーはかなり使うがやむおえず目を暗視モードに
切り替えて歩いた。
まだいっていない研究所の奥の扉は少し開いており、僕はそれを開けて奥へ行った。
その研究所の中心部だろうか、天井も高く広い部屋にみたこともない機械が一人で
動いていた。
近づいてそれはなんなのか調べようとした時に、
「誰だ!」という声が後ろから聞こえた。
「何目的でこの研究所に入った?、返答次第で破壊する」
後ろを振る向くことはできなくても背中に銃が突きつけれているのはわかった。
下手な返答をすれば命に関わるので僕はこう答えた。
「勝手に入って申し訳ない、ここで一晩休むためにここへきました。」
そしたらすんなりと銃を下ろして
「動いてもいい」と答えた。
その言葉に従いすぐに彼の方へ向いた、体格は僕と一緒だが多分彼は戦闘型の機械生命体で
あるのは間違いない。
「君はなぜここにいるのだ?、船には乗らなかったのか?」
と彼は聞いてきた。
「訳がありここで残り、地球への脱出方法を探しています」
「…今までここの研究所にきたのは燃料目的の盗賊だったが、まともなやつと会えたのは君でさ最初だろう…、いいだろ少しなら休んでもいい」
僕は少し安心した、もしも正直に燃料を探しにきたといえば命は危なかっただろう。
答えたことは半分は本当のことだが、残りは嘘っぱちだ、生きる時には嘘も必要だ。
「ではまた明日、私は任務があるから…」
「任務?、一体何をするのですか?。」
と僕は尋ねた、すると彼は。
「地球の生命維持装置の防衛の任務だ」と答えた。
僕は彼の正気を疑った、すでに寿命がつきかかっている星の生命を維持する機械を
防衛すると言ってる、多分人間がいた頃からそういう仕事に携わっていたのだろうが、
人間が絶滅した後でもそれをやり続けるなんて意味があるのかとはっきり言える。
でもそれを正直に口に出さず僕はこう言った。
「この部屋にあるあの機械は、そのための機械なのですか?」
「そうだ」
「…地球は蘇ると思ってるのですか」
「きっとないだろうし、死にゆくことはわかっている」
わかっていて今もやり続けていることに、君はバカなのか?って言いたくなるくらいだった
彼がきっとここに残ったのは無駄な任務をやり続けるためだとはっきり理解した。
そのバカさに呆れる感情もあるが、しかし同時に疑問もあった。
「ならどうしてその任務というのをやり続けているのですか?」
と彼に尋ねた、すると彼は。
「かつて生きていた人間たちは一つの任務としてこの研究所の防衛を私に任せた。
あの隕石が降ってきた日から、人間たちは隕石のウイルスの研究をし続けたが、
優秀な科学者たちは次々に死に行き、薬を作れるものはいなくなった。」
「知ってます、その後にウイルスが地球を蝕んでいるのがわかり。人間政府は
地球の生命維持を行うことにしたと」
これだけを聞けばもはや人間たちは無駄な足掻きをしていたのがわかるけど、
彼らなりにどうにかしようと必死だったのかもしれない。
そして彼は続けてこう話した。
「この生命維持装置を作っていた人間の中に私を作った者がいる、
彼は、私にこの装置を守る任務を与えてくれた、その任務を与えてから彼はウイルスによって
亡くなった。」
鉄でできた顔は表情を作ることが出来ないが、彼が生みの親の死に悲しんでるのは
はっきりわかった。
「今している任務は地球の復活ではなく、あの人の約束を守る任務だ、私はそれを果たすために
ここに残ることにした、地球と共に滅びるまで続けていく」
そう彼は語った。
ほとんどの機械生命体は地球のことは諦めていただろう、僕もこの星が再び命を取り戻すなんて
あり得ないと思っていた、でも彼は半分はそう思っていた、しかし彼にとって重要なのは
その部分ではない、そうかそうでないかという二極の考えとは違うはっきりとした意思。
僕はそれを感じた。
そんな夜を終えて朝になった、僕は物資的な収穫を得ずこの研究所を後にした。
ここを防衛する彼は手は振らずただ僕がいなくなるのまで見続けて見送ってくれた。
大した言葉は何も交わさなかった、また会えることはないとはっきりわかっていた。
研究所が見えなくなってからは、あたりは砂と瓦礫の殺風景な風景に戻った。
彼とは違うが、僕にもはっきりとした任務がある。
滅びゆく地球を脱出するための方法を探す事、これから待っている新たな社会の中で送る
自分の人生を…。その3

どこまでもどこまでも歩み続けてもあるのは錆びた車や列車。
生命も感じない腐った大地。
黒く濁った海。
生命がいた時代はもうはるか先になったと感じる死にゆく地球を出る方法は
まだ見つけることは出来なかった。
今頃みんなはどこへ居るのだろうか…、月の近くまでは船は進んだろうと思い
僕はただ進み続けた。
燃料はまだ持つだろうが、関節部の軋みを直す潤滑油は切れかかっていた。
僕はひたすらぎぎぎっと腕や足を鳴らして歩いていた。
「油…せめて油があればまだ歩けるのに…」
少し先にあった町には何かないかと廃墟を探索したが、あるのは腐敗した水しかなかった。
それ以外は人間の読んでいた雑誌の朽ちたやつにブローニングという今では
骨董品にしかならない旧式の銃、ケースに入れられた金貨たち。
僕ら機械からしたらこれはガラクタにしか見えないし、今の時代ではなんの価値にもならない
諦めてこの廃墟を出て次の町へ進んだ、命を削るようで生命を維持するためにさらに100キロ
歩いた、再び見えてきた町は今まで見たものより大きかったが朽ちた廃墟で構成されているのは
どこも同じだった。
一粒の希望を持って歩みを進めた。
広場まで続くと思われる大通りの跡を歩きその端にあった店らしき廃墟で
ようやく油を見つけた。
すぐに関節に差し込み注入した、先ほどまでガチガチだった手足は音もなく
スイスイ動くようになった。
「機械屋だったのかなこの店は、もしかしたら燃料も残っているだろう」
奥の部屋へ戸棚などを探ってみたところ、ほんの少しだけだが燃料の入ったボトル
があった。
それらをカバンに詰めて、今日はここで一夜を過ごすことにした。
この廃墟の居住部分である2階へ上がり寝室にカバンを置いて窓から外を眺めた。
あのキャンプからかなり遠くまで歩いただろう、もはや帰路すらわからなくなる程
もう何1000キロ歩いたかもしれない、空は青黒く夕日のある位置は
ほんのりオレンジに染まっていた。
時々晴れた日に空で輝く太陽は、命を感じることがある、
しかし現実的に言えば、あれはただの核の塊でしかないだろう、でも昔の人間は
命を炎と例えることをしていた、知的生命体のもつ豊かな感性がそう思わせているのだろう
それに僕ら機械は共鳴はするものもいれば機械の現実的なデータ論で一蹴するものもいた。
僕のような作業のための汎用型は前者を思っているけどね。
「そろそろ日も落ちた、残りの時間はどうしよっかな」
寝室にはまだ電源が生きているオーディオプレイヤーがあったので、隣にあった
カードチップは全て音楽用のやつだったので、そのチップを挿入して再生した。
流れたのは“ショパン”の“幻想即興曲”その曲は機械が存在しなかった僕らからしたら
原始時代のような時代の人間の作曲家が作った、その時代のピアノ一本で演奏する曲だった。
まるで何かに追われるように走るメロディーが始まり、そして逃げ延びたのか安心した心境を
表したようなメロディーに僕は聞き入った。今の時代でもその原始時代のような太古の時代の曲
が残ることを知った時、本当に美しいものは永久に残り続ける事そして、人間たちはそれを
保存する努力をしたんだと感じた。
他のカードチップは人間時代の曲がたくさんあったけど最初のショパンの方が僕は気に入った。
そろそろ夜はふけていった、明日はこの町の探索を行うために早く寝ることにした。
そして朝、この町に何かあるか探しに歩みを進めた、大通りを辿って大広場にまできたけど
だだっ広い文字通りの広場だけだった、
「ここには何もなさそうだ」と後にすると。
「誰でしょうか?」と何者かに話しかけられた。
その声の主は僕と同じ機械生命体であった、前に出会った戦闘型でなく今度は汎用型の機械
もしかしたら“彼女”もまた何かしらの理由で残った者だろうか。
「私は431型、かつてこの町で人間と共に教会に勤めてました」
「ああ僕は96型、遠くのキャンプで船を作ってた作業型、この星から脱出する方法がないか
探しているんだけど、ここに何かないかい?」
するとこう彼女は答えた。
「残念ながら、ここには地球から出るための船はもうありません、」
「そうか…残念…」
もう船らしい船はないかもしれないと思うと、かなりの不安がやってきた
このままでは地球と一緒に塵になると怖くなってきた。
「どうしました?、少し顔色が悪そうですよ、教会で休みますか?」
その言葉に甘えて僕はこの町の教会までついていった。
その教会という建物も経年の劣化で天井は崩れてそれと言わなければただの瓦礫の山
に見えた。
ゆういつ建物と判断できる部分であるドアを開けて入ってみれば、穴の空いた天井から
朝日が漏れていてほんのり明るかった。
完全に朽ちて残骸になっていた長椅子たちの中に形を保っているものに座って
気持ちを落ち着かせていると彼女は話しかけてきた。
「これまでここへ来る途中は何をされていたのでしょうかお話できますか?」
それに対し僕は。
「かなり長くなりますけどいいですか?」
それにうなずいたので今までのことを話した。
「船が完成したが、僕の番で定員が限界を超えていたので僕は他に方法がないか
この大陸を歩いてきた。」それから研究所の事や、道中の油切れの話などをした。
「それは大変苦労しましたね」
そう彼女は静かにいうと彼女も語り出した。
「かつて人間たちがいた頃、私は機械生命体では珍しい修道士として教会で勤めていました。
機械が発展した時代になっても、人間は悩む人は沢山しました、私は彼らに助言を与えて
少しでも軽くできるようにしてきました」
「?…教会に勤める人って神様がどうとか教えるのが仕事ではないのですか?」
ちょっと笑って彼女は言った。
「よく勘違いするんですよね、機械生命体は神様がどうとか考える事はあまりしないですし
私も最初はそうだと思っていましたお恥ずかし事ですが…」
確かに我々機械は、宗教は持つという事はすごく珍しいのだ、人間たちが信じる神様は
ただの偶像とデータで捉える者が大半だ。
その為か宗教に勤めることに勘違いした考えをするものもいた、僕も今までそうだった。
「宗教は、神様が助けてくれるという考えは大きな間違いで、人々が持ってる悩みや苦しみに
対して、我々神に使えるものが愛を持って助言をして、そして自ら乗り越えられるように手助けするのが本来の宗教のあり方だと考えております」
確かに僕ら機械でも時々悩む事はある、しかしそういった悩みはかつてここにいた
頭脳型たちがデータを算出して答えを出すから、だから悩みはただの判断異常の
ように考えていた。
でも人間は繊細な存在だったのか、それを軽くみたりはしなかった、
それがもとで重い病気になるくらいと聞いたことがある。
だからこそ彼らには、彼女の言う愛というのが必要だった、機械からしたら人間がよくいう
愛は何なのか形でわかっても、出したデータではわからないその言葉は
人間の燃料になるのだと僕は思う。
ふとその事を考えてみて一つ彼女に聞きたいことがあった
「あの一つ、ここへ来る前に持っていた悩みがあるのですが聞いてもらっていいですか?」
「はいいいですよ、では告白してください」
「僕には過去の記憶はありません、人間によって作られた事はわかります、しかし
それがないのでなぜ僕は生み出されていたかわからない、今でも解決はしてません…」
ありのままのことを告白した時彼女は一つこう言った。
「難しい悩みです、しかし一つ言えることはあなたは人間の愛を持って生まれてきたと
思います、今までの話を聞いてみればあなたは他の機械たちと比べて、人間のように
繊細で感情が豊かな方と思います、それは人間にも与えられる愛が注がれていたからです。
その人間の愛を理解すれば答えは見つかるでしょう」
はっきりとした答えだと言えないけど、彼女の言葉はどこか厚くそして芯を深く感じた。
だから僕は何も反論するような返答はないし黙って言葉を記憶しようとした。
ちゃんと覚えたと確信した後で僕は口を開いた。
「ありがとうございます、少し心が楽になりました。」
そろそろここを去ることにしたので、椅子から立ち上がりぺこりと頭を下げて
教会をから外へ出た。
すると彼女は僕を見送ってくれた。
「あなたに幸運があるように願います、どうかお元気で」
手を振る彼女が見えなくなってから、また一人の旅が再開した。
地球滅亡までは一つまた一つと進む、その感覚は肌では感じないがそれは機械の自分のもう一つの寿命のように思った、目的の飛び立つ船はもうこの星にはないだろう。
だけど絶望してはいけないと僕は思う、あの町であった彼女の言葉が勇気をつけてくれただろう
これから先に破滅があったとしても、希望を望まなければならない。
鉄の心を持つ鉄の生命はここで挫ける事はなく進むしかないのだ。その4

すでに燃料と油はそこをついた、空っぽのカバンを手に持ち、この危機をどうにかするために
次の町へ向かった。
「早く物資を見つけなければ、どこかに町はないか?」
時に砂の大地を足を沈めながら足を進め、また時には汚染された池を
ジャバジャバと進んだりした。
それがまずかったのか油や燃料を多く使う状態になることが多くなり今に至るのだ。
錆びついた街灯、汚れとひびに包まれた高速道路、人間の文明の残骸の中を
残りの燃料を気にしながら歩き続けた。
すると目の前に大きな塊が見えてきた、今までやってきた町は小さかったのでこれ以上の
建物はなかった、そのかつてマンションかビルだったコンクリートの残骸で
ここはかなり栄えた町と理解した。
「ここなら燃料は残っているだろう…」
僕は町のガソリンスタンドの中を探索した。やはりそれを扱う店だったこともあって
燃料や潤滑油が店棚に必要以上に残っていた。
「今日は運が良かった、これだけあればもう100キロは歩くことはできる」
鞄に入りきらなかった分は補給として使用し、回復した体力でこの町の探索を
することにした。
住宅地のように小じんまりした簡単な住居は少なく、飲食店の角の張った立方体の
建物が集めっているし、人間たちが暮らし、仕事をする所になる
ビル群は僕を見下ろしていた。
灰色の砂埃はひゅうひゅうとふき、それらを野菜にかける塩のように振りかけた。
僕はその薄汚れた廃墟の中に入り、戸棚や乱雑に積まれたケースなどを漁った
大した物しか出てこなくても、必要なものはすでにあるので大丈夫だが。
何か面白いものがないか見つけたくなった。
前にいた時にあったゲーム機か、オーディオプレイヤー、もしくは人間たちの間で
人気だった漫画がないか探した。
しかし面白いものは何もなかった、今日は泊まりだけで一日終わりそう。
もしもここにつまらない物しかないとわかったらさっさとここを出るまで。
外へ出て、動きそうな車も探してみたが、もう数十年も前から
放置されて故障していた。直せるのは直せるが、工具があるだけで
必要な部品はたぶん全て劣化しているだろう。
「ダメだ、全部使えない、歩いて回ることからは、なかなか抜け出せなさそうだ」
もうそろそろ自力で歩くのに飽きたし、何か移動手段が欲しかったのでこの町の
車屋に入ってみたがさっき言った通り、ただのガラクタになっているのだ。
今日の探索は諦めて休む場所を探してみたら、ふと一軒の家があった。
隣は何かの研究室だろうかそれとくっついて併合した建物だ
だがなぜだろうか、生まれた場所へ戻って安心する鳥のように。
その建物はどこか懐かしく、親のように親しく感じた。
「あの家は、僕はこの家を知っているような気がする…」
磁石のように引っ張られような気持ちでその家へと入っていった。
中の家は随分と朽ちていたが、かつてここで人間たちが暮らしていた生活感は
当時のままであった。
雰囲気でわかる、ここの人間たちは温かい家庭だったって事、そして朽ちた机に
額に入れられた写真があった、科学者だったのだろうか白衣をきた男と女性、
二人の娘らしき少女が写っていた。
その子の隣には汎用型の機械生命体がいた、よく見ると自分とそっくりだった。
「この研究所は作業用の機械を作ってたところだったのだろうか?」
この写真の他にも戸棚にあったアルバムにも自分とよく似た機械と家族が一緒に写った
写真があった。
この研究所で作業業務に携わっていたのだろうと思った、でもまるで家族のように
その科学者家族と一緒にいる様子があった。
「…奥の研究室へ行ってみよう、何かわかるかも」
家から繋がる研究所は、企業のところとは違いこの場所はとても小さな一室に
たくさんの開発機械で埋め尽くされていた。
個人で研究をしていたと僕は考えている、そこから考えられるのは、あの機械は
家族の手伝いだったと思う。
だが僕はあるものを見つけた、一見するとコードが付いているコンピューターらしき
ものだと思うが、これは僕は知っていた。
昔、機械生命体が開発されてそれが発展した時に。
彼らのデータをコントロールする機械があった。
エラーを起こして危害を加えるようにならないために
コードに繋いで異常のなくすプログラミングをするための機械だった。
確か記憶を消去したり、保存したりもできたはず。
「…一度繋いでみよう、もっとここの事が理解できるかも」
そんな好奇心から頭の後ろにあるジャックにコードを繋いで機械を動かしてみた。
最初に頭の中に入ってきたのは、写真にいた研究者の男だった。
「…クロ…クロよ…」
あの機械の名前だっただろう、だが何か懐かしく思う、それと同時に
自分の九六型とそのクロが何か関係があるように感じた。
「私は、〇〇、お前の作った生みの親だよ、これからお前は私の家族として
生きるのだクロよ…」
次に写ったのは彼の娘と遊んでいるビジョンだった。
彼女は僕に笑いながら話しかけている、随分とここへ放置されていた機械だったから
あちこちデータに損傷もあって途切れていた。でも時々はっきりと見えて聞こえる
ところもあった。
「パパ!ママ!みてクロがこんなのを見つけてきたよ!」
とその子は両親に駆け寄るところも見えた、何を見つけたのかはノイズではっきり見えなかった
でも彼女が喜んでいることに嬉しく思っているのははっきりわかった。
すぐにまた大きなノイズが入りそしてまたあの研究者が写った、しかしその顔は
やつれて弱っているように見えた。
「クロ…ゆういつウイルスに侵されていないのはお前たち機械だろう…私にはわかる
もうすぐ人類は終焉を迎えるだろそして…」ここで映像は途切れ次が写った。
「…クロ……わ・た……し…」写っていたのはあの二人の娘であったすでに弱りきり
息を引き取りそうな様子がわかっていた、何かを言おうとしているがそれを言えず
彼女は息を引き取った。
「ごめんね…クロ…私たちの…過ごした記憶を……消さなければならない…」
あの研究者の奥さんだろう、すまないと思う表情は、病気のせいか
すごく弱々しく見えた。
「もう…すでに・人類は…私だけになった…これから
……あなたは……この悲しい…記憶を持って生きる……
よりも新しい人生を送ってほし…い」
記憶を消すプログラミングを振る手で打つ彼女が見え
少しづつ景色が真っ白になる感覚があった、そして最後に
「さよなら…クロ……新しい人生を願うわ…」
そしてノイズが入り映像は終わった。
コードを外して立ち上がり、映像で映っていた裏庭へ向かった。
あの映像のように花や草木はなく、汚れた土だけの荒地になっていた。
多分ここにあの家族が埋まっているのだろう、墓標のない墓を眺めた。
「新しい人生…」
この星の船は機械生命体を乗せて全て飛び立ち、この死にゆく地球で
他の船を探し続けて、二月はたったと思う。
自分の過去の記憶と見られるデータも見つかって、しばらく彼は考えてみた。
あの人が言ってた新しい人生とは何か、きっと人間のような生活のことなのかも
しれない、しかし機械から見れば確実の答えではない。
人の人生はそれぞれ違う、僕ら機械生命体から見ればデータを算出すれば、
いい暮らしはできると思うが、人はそれに従わない、というよりその通りにしても
ならない。
ただ座って自問自答して答えを出そうとしたがうまく出ないで夜になった。
この家のボロボロのソファーで寝ている時に横にある額に入った写真をみて
思った。
自分が作られてから僕と平凡ながら幸福な人生を送ることが夢だったのかもしれない。
しかしその直後に落ちてきた隕石、そして運ばれたウイルスによって願いは打ち砕かれた。
もしも死んだ彼らに代わって、彼らが果たせなかった幸せな生活を送る事ができたなら。
例えこの死にゆく地球ででも。
深く考えながら今日の日は眠りについた。
朝の日浴びて再び彼らが眠る裏庭へ向かった。
「あれからよく考えてみた…、あなたが言ってた新しい人生とは何なのかという事。
はっきり言って答えはありませんが、答えだと思う答えを自分で作ればいいとわかった
だから僕はここで生きます、あなた達ができなかった幸せな暮らしをするために」
といって彼は部屋の片付けをするために家へ戻った。その5

人間史から見て遥か長い時代を歩んだとされる時代。
空から舞い降りた一粒の隕石は、未知のウイルスを地球全体にばら撒き、
人類を滅亡させた。
やがてウイルスは地球をも蝕み、破滅へと進ませた。
残された機械生命体たちは火星へ移住するために船を作り、飛び立った。
その時からいくつかたっただろう。
地球の寿命が尽きるまでもう目と鼻の先になった。
かつて製作者の家族からクロと呼ばれた機械生命体は、最後の時を待つように
ソファーに座っていた。部屋はこの時代とは思えないほど小綺麗に片付けられて。
オーディオプレイヤーとクラシックの保存されたカードチップ達。
外の庭には生みの親達の石の墓。
すべては彼が作り直したもの達だった。
それらに囲まれてクロは最後の時を待つようにただ座っていた。
もう後悔はないだろうほんのわずかだったが、少し人間のような暮らしはできたと
満足をし自らの電源を落とした。







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