ゲレンデの魔法は解除不可能?!

望月ひなり

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春雷3

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「警察に届けださなくて本当にいいの?」
「うん。あんなことされたのは許せないことだけど、私が気がつかなくてあんな行動とらせちゃったのかなって思うと、警察はいいかなって。」
お互いに抱きしめあって内緒話をするように小声で話す。
「そう決めたのならいいよ。僕は千歳の味方だから。」
「ひーちゃんありがとう。」
抱き合う体勢から少し動き、僕の目をみて礼を言う千歳に僕はたまらず唇を重ねようとしたら、二人の腹から盛大な空腹を訴える音が静かなリビングに響いた。

「...ぶふっ。ご飯食べようか。時間も時間だから、コンビニ弁当になるけど。」
僕が身体を離し、ソファから立ち上がると、腰に巻いたタオルの一部が山形やまなりになっている所がある。
「ノーブラ・ノーパンの千歳を抱きしめていたからね。生理現象だから気にしないで。
冷めちゃったけど、ココアでも飲んで待ってて。すぐ帰ってくるから。」
寝室のある方へと歩いて行った。それから服を着て戻ってきて、食べたいものや飲みたいものを千歳に聞いて買い物へと向かった。


 さっきまで頭の中がぐちゃぐちゃだった。なぜ、どうして―――。この言葉ばかりがぐるぐる回っていた。それが、国重さんの言葉でぽーんとどこかに飛んでいってしまった。

 【結婚を前提にいっしょに住もう】

あのときは嬉しかったけど、落ち着いて思い出すとどうしようと焦る。千歳には秘密がある。しかも、その秘密はまだ国重さんに告白していない。
―――ああ、でも嬉しかった。
ばたばたとソファの上で悶えて仰向けに寝転がる。天井には、暗め設定になっている照明が自分の手と足を照らす。そこには、国重さんの手によって手当てされた箇所が見えた。
 両手首には湿布と湿布を抑えるネット。そして、足先には絆創膏やガーゼで覆っているところがある。
無我夢中だったときは痛みなんて感じなかったけど、今は違う。じくじくとした痛みを訴えている。
あんなことがあったのに空腹を訴える自分の身体は前向きだ。こういうときにこそ、きっと前向きでいないといけないのだろう、と思う。


 それから、ビニール袋を三つも持って啓が帰ってきた。

「こんなにいっぱい買ってきたんですか?」
「え?このくらい普通じゃない?明日の分とか、お菓子とか買うとこうなるし。」
がさがさと袋の中から、お弁当、サンドイッチ、おにぎり、惣菜パンにサラダ。500mlのペットボトル四本に2ℓのペットボトル二本。箱に入ったアイスや単品のアイスも出てくる。そして、最後に紙袋に入ったものを渡された。
「今の千歳に必要なもの。」

開けてみたら、下着とキャミソールだった。
「僕のボクサーパンツを貸してもいいけど、サイズは僕のが大きいから、意味ないかなって。それに、洗ってあるとは言え嫌かなとも思って。それと、化粧落としだけど、どれがいいか分からなかったから、シートタイプのものにしちゃった。」

国重さんのスウェットの下に、バスタオルを巻きつけてあるが、すっかり忘れていたそれらの事。
下着を身につけるため洗面室に行こうとしたところ国重さんに呼び止められた。

「まってまって、食べる用意しておくから、どれがいいか選んで。」
お弁当とサラダと紅茶の飲み物を選んで、国重さんにお願いする。その時に足が痛くないかと聞かれたが、歩けないほどではない。「大丈夫」と答えると「無理しないようにね」と廊下へ続くドアをあけてくれた。

 買ってもらった下着と、ノーブラだと心許無いから、キャミソールも身につけた。そして、着てきたスウェットをまた身につけて化粧落としシートで化粧を落とすべく洗面室の鏡にかかっていたままのタオルをとった。
そこには、化粧がほとんど落ち少し青白い顔の千歳がいた。泣きすぎて腫れた瞼と赤い鼻。きちんと化粧を落としていないから、マスカラの繊維が顔のところどころにくっ付いている。我ながら酷い顔だと自嘲の笑みを浮かべて、鏡に向き合い、シートで顔を拭き始めた。


 身支度を整えてリビングに戻り、国重さんと遅い夕食を摂って、国重さんは千歳を抱きしめながら眠った。


「千歳、ちーとーせー、ちーちゃん、そろそろ起きないと、襲うぞー?」
「んー...。いまなんじぃ~?」
「そうだねー、僕としてはもう少し太ももを見ていたいんだけど、そろそろ九時だよ。」
するりと撫でられる感触にくすぐったさを感じ、もぞもぞと布団に潜る。
もう少し寝ていたい。だって昨日は寝不足だったし、色々あって....いろいろ...イロイロ...。

「急時って言いました?!」
ばさっと布団を跳ね飛ばし起き上がると、足元の方に国重さんが座ってにやにやと見ていた。
「残念。もう少し起きるのが遅かったら、太もも舐められたのに。」
国重さんの言葉に身体を布団で隠す。
「冗談だよ。会社に休むための電話をして。昨日、今日で顔をあわせにくい上に足の怪我と手首の痕はちょっとまずいでしょ。」
「そ...ですね。そうします。」
 国重さんはそっと寝室のドアを閉めて出て行った。
 千歳はベッド脇に置いてある携帯端末をとり、部署に電話をかける。
 部長は千歳の休みについて快諾してくれた。そして社寮を出る手続きも話したら、すぐやってくれるという。理解があってとてもいい部長なのだけど、出る理由や、次住む場所はどこだとか、悪気は無いけど、察してくれないところが玉にきずだ。千歳は通勤に便利なところを見つけたと言って逃れたけど、社寮を出ることを早々に部署の皆に知られるな。と溜息をついて、国重さんがいるであろうリビングに向かった。


 リビングでは、国重さんが昨日買ってきた惣菜パンにコーヒーで朝食を摂っているところだった。
 千歳の姿を見るなり、千歳に紅茶を淹れてくれる。
「休み、大丈夫だった?」
「はい。しかも、有給扱いにしてくれるそうです。そういうとこは結構ゆるいのでありがたいです。」
紅茶を国重さんから貰って、おにぎり、サンドイッチ、惣菜パンをそれぞれテーブルに置かれたので、千歳はサンドイッチを貰うことにした。

 そういえば、国重さんの勤めている会社は始業が遅いが、九時過ぎで国重さんが家にいることはない。
「ひーちゃん、今日お仕事は?」
「ん?有給消化をしようと思ってね。今日は大事な会議や仕事がちょうどないからいいかなって。
それでね、朝ごはん食べた後、千歳の部屋に行こうと思ってる。」
「えっ?」
「いつでも部屋を渡せるように、千歳の物を今日運んじゃおうと昨日考えたんだ。
女性専用だから、僕は階段上までは行けないから、千歳に大変な思いさせちゃうけどね...。」
「.....。」
「あれ、だめだった?」
国重さんがそこまで考えていることに驚いた。千歳を休ませるだけだと思っていたから。ただ、秘密のことを国重さんに打ち明ける千歳の心の準備が出来てない。
「だめじゃないです。ひーちゃん、ありがとう。」
「千歳は甘いね。僕が早くいっしょに住みたいだけかも知れないのに。」
そんなことを言ってる国重さんの耳の先がちょっぴり赤くなってるので照れ隠しなのはバレバレだ。

 朝食後、手首の湿布と足の絆創膏等を取り替えて貰った。
自分でやるって言っても国重さんは譲らず、軽くひと悶着あったが、最終的に上手く丸め込まれた千歳の負けだった。


 途中、ホームセンターに寄って国重さんが何かを買ってきた。
千歳の格好は昨日、国重さんに着せられたものだったので外に出ることは出来ない。聞いても「秘密の道具」としか教えてくれないので諦めた。


 やがて、見慣れた風景になって社寮前についた。
上着ポケットに入れていた社員カードと暗証番号で階段の門を開けると、国重さんはホームセンターで買ったものをあけ始めた。
 それは大きいブルーシートだった。そして、ブルーシートを階段の幅に合わせて折ると片方を千歳に持たせる。
「はい。持って上にのぼってね。そのまま、部屋にある千歳の物をここから滑らせるといいよ。
あっ! 壊れ物とすはやめてね」
「ひーちゃん、頭いいですね!これなら階段の上り下りしなくていいですものね!」
「伊達に千歳より六年早く生まれてる訳じゃないからね。ほら、行って。僕はここで受け取って車に積むから。」


 自分の部屋に入って、荷物をまとめる前に千歳は、自分の服に着替えた。それから、クローゼットに畳んでしまっておいた実家からの引越しに使ったダンボールを組み立て、日用品、服、雑貨、そして国重さんに言っていないモノを入れ、ブルーシートの滑り台に流していく。家具は備え付けだったのは幸いした。あとは、ベッドに使っていた布団一式のみ。車に積めるのか国重さんに聞こうと、階段まで出るとそこには、国重さんと対峙する小泉の姿があった。
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