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墓参りと心中
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翌日、お昼のお弁当販売を終えた後、絢梨は奈子に声をかけた。
「奈子ちゃん、ごめんなんだけど私今からお墓参りに行ってくるから」
「え?今からですか?分かりました」
お盆の集まりの際、親戚たちはみんなで墓参りをするが、まさか全員で行って家を空けるわけにはいかないので絢梨はいつも留守番をしている。しかし絢梨は、毎年祖父に伝えなければならないことがあるのでお盆の前に一人で墓参りをしているのだ。奈子に伝えたのち、絢梨は玄関先で虫よけスプレーを振りまくった。前島家のお墓は自転車で20分ほど行ったところの森の中にある。行く道中にはシャッター街となっている商店街がある。その中でも何軒かは今でも営業していて、そのうちの一つである花屋に立ち寄り仏花と線香を購入する。花は毎年同じ、祖父が好んだユリを多く使ったものだ。
森の入り口に自転車を止め、森の中を進む。最後に50段の階段を昇ると大きな墓地が現れる。その中でも一際大きくて豪華な墓が前島家のものだ。掃除を済ませた後、絢梨はしゃがんで手を合わせる。祖父に報告することは毎年同じだ。
『おじいちゃん。今年もお母さんは帰ってきませんでした。』
そんなこと報告せずとも祖父は分かっているだろう。祖父は実の娘である絢梨の母・杏香の身を心配しながら、その失踪の約4年後に亡くなった。祖父は前島家の婿養子だった。曾祖父母の子どもは祖母の芽依子だけだったため、家を絶やさぬように婿養子として迎えられたのだ。祖母は昔から優しくはあるが気は強い女性だったが、祖父は本当に穏やかで菩薩のような人だった。
杏香の失踪の真相は不明だが、失踪前には絢梨の父・伊崎謙也では無い男性と仲睦まじげに歩いていたという目撃情報もあり、家族の中では駆け落ち後心中したという説が濃厚となっている。でも、当時11歳の少女だった絢梨には受け入れがたい説だった。その時に絢梨と一緒に母が帰ってくるのを待ってくれたのは祖父だった。
絢梨自身も、もう流石に分かっているのだ。10年以上前に失踪した母親から一度も音沙汰がない時点で、現段階で幸せに生きている可能性はほぼ0であるということを。でも、信じて共に待ちながら亡くなった祖父には、毎年報告に来る義務があると絢梨は思っていた。だから分かっていながらも、絢梨はこの母の地元で暮らし続け、帰りを待っているのだ。
だから昨日柑奈が言っていた、祖母が一人でここに住んでいると絢梨を縛るかもしれないという話は、結構というか全く的外れだ。まあまさか、柑奈も他の親族も、絢梨が未だに母親を待ち続けているなんて思いもしないのだろうが。
絢梨はお墓の前でしゃがんだままぼんやりと考え込んでいたが、後ろから突然声をかけられて我に返った。声の主は中学1年生から高校3年生まで同級生だった、地元の老舗和菓子屋の息子・倉田愁一だった。
「奈子ちゃん、ごめんなんだけど私今からお墓参りに行ってくるから」
「え?今からですか?分かりました」
お盆の集まりの際、親戚たちはみんなで墓参りをするが、まさか全員で行って家を空けるわけにはいかないので絢梨はいつも留守番をしている。しかし絢梨は、毎年祖父に伝えなければならないことがあるのでお盆の前に一人で墓参りをしているのだ。奈子に伝えたのち、絢梨は玄関先で虫よけスプレーを振りまくった。前島家のお墓は自転車で20分ほど行ったところの森の中にある。行く道中にはシャッター街となっている商店街がある。その中でも何軒かは今でも営業していて、そのうちの一つである花屋に立ち寄り仏花と線香を購入する。花は毎年同じ、祖父が好んだユリを多く使ったものだ。
森の入り口に自転車を止め、森の中を進む。最後に50段の階段を昇ると大きな墓地が現れる。その中でも一際大きくて豪華な墓が前島家のものだ。掃除を済ませた後、絢梨はしゃがんで手を合わせる。祖父に報告することは毎年同じだ。
『おじいちゃん。今年もお母さんは帰ってきませんでした。』
そんなこと報告せずとも祖父は分かっているだろう。祖父は実の娘である絢梨の母・杏香の身を心配しながら、その失踪の約4年後に亡くなった。祖父は前島家の婿養子だった。曾祖父母の子どもは祖母の芽依子だけだったため、家を絶やさぬように婿養子として迎えられたのだ。祖母は昔から優しくはあるが気は強い女性だったが、祖父は本当に穏やかで菩薩のような人だった。
杏香の失踪の真相は不明だが、失踪前には絢梨の父・伊崎謙也では無い男性と仲睦まじげに歩いていたという目撃情報もあり、家族の中では駆け落ち後心中したという説が濃厚となっている。でも、当時11歳の少女だった絢梨には受け入れがたい説だった。その時に絢梨と一緒に母が帰ってくるのを待ってくれたのは祖父だった。
絢梨自身も、もう流石に分かっているのだ。10年以上前に失踪した母親から一度も音沙汰がない時点で、現段階で幸せに生きている可能性はほぼ0であるということを。でも、信じて共に待ちながら亡くなった祖父には、毎年報告に来る義務があると絢梨は思っていた。だから分かっていながらも、絢梨はこの母の地元で暮らし続け、帰りを待っているのだ。
だから昨日柑奈が言っていた、祖母が一人でここに住んでいると絢梨を縛るかもしれないという話は、結構というか全く的外れだ。まあまさか、柑奈も他の親族も、絢梨が未だに母親を待ち続けているなんて思いもしないのだろうが。
絢梨はお墓の前でしゃがんだままぼんやりと考え込んでいたが、後ろから突然声をかけられて我に返った。声の主は中学1年生から高校3年生まで同級生だった、地元の老舗和菓子屋の息子・倉田愁一だった。
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