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3年生2学期

9月24日(日)晴れ 明莉との日常その102

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 ひんやりとした朝から始まった畳の日。
 金曜の作品提出前でしっかり時間が取れるのは今日だけなので、今日中の完成を目指して作業に没頭した。
 最後だから特別気合を入れたわけじゃないけど、この創作作業も今回で一区切りになるから、なるべく後悔しないような仕上がりにしたい。

「いやぁ、作家先生お疲れ様です。甘いものでも食べますか?」

 そんな中、休憩がてら居間に行くと、明莉がお菓子をつまみながら絡んでくる。

「ありがとう。でも、その呼び方は何」

「なんとなく? 一度は言ってみたい呼び方的な」

「まぁ、わからなくはないかも」

「それで無事完成しそうなの?」

「おおよそ出来上がったからあとは全体を見直して、誤字脱字とか、細かい部分の修正とかやるくらいかな」

「へ~」

 これまで文芸部の創作活動についてはそれほど質問されることはなかったけど、今日の明莉はやけに興味ありげに聞いてきた。
 これが最後だと知っているからか、それとも単に暇だったのか。

「あかりなんて最近は現国以外で文章書いてない気がするよ」

「僕も普段はそうだよ。というか、お話になるほど長い文章を書く方が珍しいんじゃないか?」

「でも、ネット上には色んな長文が毎日のように流れてるくない?」

「確かに……そう考えると、明莉も友達との会話でそれなりの文章量になるんじゃない?」

「いやぁ、スタンプで答えることも多いから。何ならスタンプだけで会話することもある」

「それって成立するの……?」

「りょうちゃん、それはスタンプ全然使ってない証拠だよ。今のスタンプでない言葉を探す方が難しいんだから」

 そう言われてしまうと、本当にスタンプを使いこなしていないので何も言えなかった。
 松永や本田くんあたりは時折織り交ぜてくるし、路ちゃんとの会話でも出てくるけど、僕は大抵文字だけ済ませている。

「……なんか今回のシーンの会話が本当に合っているか不安になってきた」

「な、なんで?」

「だって、一応現代の話なのに、僕は現代人じゃないかもしれないから……」

「それは不安になり過ぎだって。りょうちゃんの話に極端なギャルとか、インフルエンサ―とかが登場しなければ大丈夫じゃない?」

「そ、そうか。それなら良かった」

「なるほど。今回のりょうちゃんの作品は硬派な感じか……」

「そこだけで予想されても困るけど、あんまりコメディな感じではないかな」

「まぁ、お話と現実は似て非なるものだろうし、気楽に書いてよ、作家先生」

 作家先生にその立場から言える存在はなんなのだと思いつつも、考え方としては正しいので僕は素直に感謝を述べた。
 結局は提出前の木曜にもう一度見返して、ちょっと変えようだなんて思ってしまうのだろうけど、一度書いた結論は大きく揺るぐことはない。
 だから、多少は駄目なところがあっても完成を目指そうと思った。
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