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3年生2学期
9月22日(金)曇り 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その21
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昼間はかなり涼しかったフィットネスの日。
文芸部としては来週の金曜が文化祭用の作品の締切日なので、今日から来週までは仕上げの一週間だ。
今のところ、1年生も提出が間に合う感じなので、他人よりも自分の心配をしておこう。
「産賀さん、ちょっと相談していいっすか? できれば一旦外で」
そう思っていたところに、桐山くんが神妙な表情でそう聞いてくる。
ただ、その相談内容は作品の話ではないと何となくわかっていた。
僕が頷くと2人でトイレに行くフリをして部室を出て行く。
「俺、決めました。今回の文化祭で姫宮さんに告白するって」
「お、おお」
「あれ? 思ったより驚いてない……?」
「いや、毎回似たようなことを聞いている気がして」
「今回は違うっすよ! 本気っす!」
「それよりも桐山くんには副部長として頑張って欲しいというか」
「うっ……そ、そっちを疎かにはしませんから!」
「あとは……段階を踏まずにいきなり告白で大丈夫なのかとか」
「……わかってるんすよ。1年と半年過ごしておきながら、姫宮さんとの距離はあんまり縮まってないって。何なら、姫宮さんは俺にそんな興味ないのも」
「きょ、興味ないは言い過ぎじゃ……」
「じゃあ、少なくとも産賀さんよりは興味持たれてません」
そう言われてしまうと……はっきり否定できないのが辛かった。
何なら姫宮さんは……いや、これは今は言うまい。
「だから、当たって砕けろ的な感じなんすよ」
「そうか……止めても無駄なんだね」
「……いえ、止めてくれるなら考えます」
「どっちなの!?」
「お、俺だって失敗したいわけじゃないんすよ! ただ……このままだと色々中途半端なんすよ。ここを乗り越えないと、次にも進めないし」
「次って……」
「その……最近、日葵といい感じになることが多くて」
その名前が出てきた瞬間、僕は思わず反応しそうになったけど、何とか抑え込んだ。
「エロい意味じゃなくて……気になってるんすよ。でも、姫宮さんへの気持ちを中途半端にするのは良くないじゃないっすか」
「だから……当たって砕ける、なんだ」
「はい……」
日葵さんの味方をするのであれば、僕は桐山くんを後押しして告白させるのが正解なんだと思う。
でも、そのために桐山くんが一度傷付く必要があるのだろうか。
もう少し様子をみるか、あるいは告白しないでも日葵さんとの仲を進めればいいのではないのだろうか。
いつも通り言うだけで終わると思っていたから、真剣な話になってすぐに正しい答えが見つからない。
「すみません。仕上げの時期に時間をかけちゃって……」
「いや、それは大丈夫だけど……桐山くん。もっとギリギリまで考えてみてもいいと思う」
「考えるって……」
「僕も……明確に一度告白してフラれたことがあるんだ」
「えっ!?」
「その後……想像以上に凹んだ。だから、桐山くんがわざわざ砕けに行くのは勧められないよ」
「そう……っすか」
結局、僕はこの件を先延ばしにしてしまった。
桐山くんの態度から見るに、本当は背中を押して欲しかったのかもしれないけど、僕にはそれができなかった。
仕上げの時期に考えさせるようなことをしたのは申し訳ないけど……違う道を探してみて欲しい。
文芸部としては来週の金曜が文化祭用の作品の締切日なので、今日から来週までは仕上げの一週間だ。
今のところ、1年生も提出が間に合う感じなので、他人よりも自分の心配をしておこう。
「産賀さん、ちょっと相談していいっすか? できれば一旦外で」
そう思っていたところに、桐山くんが神妙な表情でそう聞いてくる。
ただ、その相談内容は作品の話ではないと何となくわかっていた。
僕が頷くと2人でトイレに行くフリをして部室を出て行く。
「俺、決めました。今回の文化祭で姫宮さんに告白するって」
「お、おお」
「あれ? 思ったより驚いてない……?」
「いや、毎回似たようなことを聞いている気がして」
「今回は違うっすよ! 本気っす!」
「それよりも桐山くんには副部長として頑張って欲しいというか」
「うっ……そ、そっちを疎かにはしませんから!」
「あとは……段階を踏まずにいきなり告白で大丈夫なのかとか」
「……わかってるんすよ。1年と半年過ごしておきながら、姫宮さんとの距離はあんまり縮まってないって。何なら、姫宮さんは俺にそんな興味ないのも」
「きょ、興味ないは言い過ぎじゃ……」
「じゃあ、少なくとも産賀さんよりは興味持たれてません」
そう言われてしまうと……はっきり否定できないのが辛かった。
何なら姫宮さんは……いや、これは今は言うまい。
「だから、当たって砕けろ的な感じなんすよ」
「そうか……止めても無駄なんだね」
「……いえ、止めてくれるなら考えます」
「どっちなの!?」
「お、俺だって失敗したいわけじゃないんすよ! ただ……このままだと色々中途半端なんすよ。ここを乗り越えないと、次にも進めないし」
「次って……」
「その……最近、日葵といい感じになることが多くて」
その名前が出てきた瞬間、僕は思わず反応しそうになったけど、何とか抑え込んだ。
「エロい意味じゃなくて……気になってるんすよ。でも、姫宮さんへの気持ちを中途半端にするのは良くないじゃないっすか」
「だから……当たって砕ける、なんだ」
「はい……」
日葵さんの味方をするのであれば、僕は桐山くんを後押しして告白させるのが正解なんだと思う。
でも、そのために桐山くんが一度傷付く必要があるのだろうか。
もう少し様子をみるか、あるいは告白しないでも日葵さんとの仲を進めればいいのではないのだろうか。
いつも通り言うだけで終わると思っていたから、真剣な話になってすぐに正しい答えが見つからない。
「すみません。仕上げの時期に時間をかけちゃって……」
「いや、それは大丈夫だけど……桐山くん。もっとギリギリまで考えてみてもいいと思う」
「考えるって……」
「僕も……明確に一度告白してフラれたことがあるんだ」
「えっ!?」
「その後……想像以上に凹んだ。だから、桐山くんがわざわざ砕けに行くのは勧められないよ」
「そう……っすか」
結局、僕はこの件を先延ばしにしてしまった。
桐山くんの態度から見るに、本当は背中を押して欲しかったのかもしれないけど、僕にはそれができなかった。
仕上げの時期に考えさせるようなことをしたのは申し訳ないけど……違う道を探してみて欲しい。
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