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3年生1学期
7月11日(火)晴れ 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その18
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蒸し暑さが一段階厳しくなったように感じた真珠記念日。
本日も文芸部の活動が滞りなく始まって、昨日とは違うはきはきした日葵さんの姿を見られた。
しかし、我が文芸部には(個人的なことを)含めて解決しなければならない問題がある。
その1つは……
「はぁ……今日も姫宮さんはかわいいなぁ」
絶賛副部長を頑張っている桐山くんである。
いや、副部長の職務については何も言うことはないけれど、日葵さんからの好意については今のところ桐山くんはまるで気付いている風ではない。
かといって、姫宮さんに対するスタンスも今のように基本はとろけているだけで、何か進展がありそうな状況でもない。
人の恋路をとやかく言うつもりはないけれど、日葵さんに聞かされてしまったからには多少僕も動くしかない。
「桐山くん……最近、何かこう……日常の中で変化を感じたりしない?」
「なんすか急に。心理テストっすか?」
「まぁ、そんなところ」
「うーん……最近は暑いからかわかんないんすけど、無性にキムチが食べたくなって、キムチブームがきてるっすね」
「へー 確かにコンビニとかも辛い商品が増えてたな」
「いや、俺的にはキムチは辛みより旨味って感じっすね。辛さで言うならもっと刺激が強くてもいいっす」
「おお。じゃあ、CMで見るピリ辛チキンとかは? あれ結構辛い印象あるよ」
「それでも足りないくらいっすね。さすがに罰ゲームで使われているような激辛カップ焼きそばとかは無理っすけど」
桐山くんと辛いモノトークに花を咲かせて僕は満足……しては駄目だった。
この感じだと本当に日葵さんの目線には気付ていないのかもしれない。
まぁ、鈍感というよりは姫宮さんに対して盲目になっている方が正しいか。
「それで、今ので何がわかるんすか?」
「あー……ごめん。キムチに対する回答はないかも……」
「そうなんすか? 食べ物とかで判定しても良さそうっすけど……あっ、そういえば」
「なに?」
「この前、テスト終わりに姫宮さんのこと見かけたんすけど、なんと……ぶとうジュースを持ってたんですよ!」
「…………」
「いやぁ、なんか姫宮さんって紅茶とか飲んでるイメージだったんすけど、意外とジュース好きだったりするんすかねぇ」
「ど、どうだろうね……」
桐山くんは姫宮さんの新しい一面を知れて嬉しそうだけど、そのジュースをおごったのは僕だから何とも言えない気持ちになる。
「……ただ、俺もそろそろだと思うんすよ」
「な、なにが?」
「産賀先輩が2年生で路子先輩と付き合い始めたなら、俺も2年生で動き始めなきゃいけないってことっす。というか、とっくに動いてないと駄目っすよね」
「な、なるほど。でもまぁ、それほど急がないでいいというか……僕も色々あってそこに辿り着いたというか……」
「おお! そんなドラマチックな感じだったんすか!?」
「……ともかく、桐山くんは焦らずやっていけばいいと思うよ」
日葵さん的には状況を進めて欲しかったのかもしれないけど、自分のことを思い返したら桐山くんを急かすわけにはいかなかった。
何回も割り切れたとは言っているけど、やっぱり失恋したという事実は揺るがないし、僕のようなタイプな心の片隅にそれを残している。
けれども、今のところは桐山くんと日葵さんが同時に幸せになれるかは全くわからなかった。
本日も文芸部の活動が滞りなく始まって、昨日とは違うはきはきした日葵さんの姿を見られた。
しかし、我が文芸部には(個人的なことを)含めて解決しなければならない問題がある。
その1つは……
「はぁ……今日も姫宮さんはかわいいなぁ」
絶賛副部長を頑張っている桐山くんである。
いや、副部長の職務については何も言うことはないけれど、日葵さんからの好意については今のところ桐山くんはまるで気付いている風ではない。
かといって、姫宮さんに対するスタンスも今のように基本はとろけているだけで、何か進展がありそうな状況でもない。
人の恋路をとやかく言うつもりはないけれど、日葵さんに聞かされてしまったからには多少僕も動くしかない。
「桐山くん……最近、何かこう……日常の中で変化を感じたりしない?」
「なんすか急に。心理テストっすか?」
「まぁ、そんなところ」
「うーん……最近は暑いからかわかんないんすけど、無性にキムチが食べたくなって、キムチブームがきてるっすね」
「へー 確かにコンビニとかも辛い商品が増えてたな」
「いや、俺的にはキムチは辛みより旨味って感じっすね。辛さで言うならもっと刺激が強くてもいいっす」
「おお。じゃあ、CMで見るピリ辛チキンとかは? あれ結構辛い印象あるよ」
「それでも足りないくらいっすね。さすがに罰ゲームで使われているような激辛カップ焼きそばとかは無理っすけど」
桐山くんと辛いモノトークに花を咲かせて僕は満足……しては駄目だった。
この感じだと本当に日葵さんの目線には気付ていないのかもしれない。
まぁ、鈍感というよりは姫宮さんに対して盲目になっている方が正しいか。
「それで、今ので何がわかるんすか?」
「あー……ごめん。キムチに対する回答はないかも……」
「そうなんすか? 食べ物とかで判定しても良さそうっすけど……あっ、そういえば」
「なに?」
「この前、テスト終わりに姫宮さんのこと見かけたんすけど、なんと……ぶとうジュースを持ってたんですよ!」
「…………」
「いやぁ、なんか姫宮さんって紅茶とか飲んでるイメージだったんすけど、意外とジュース好きだったりするんすかねぇ」
「ど、どうだろうね……」
桐山くんは姫宮さんの新しい一面を知れて嬉しそうだけど、そのジュースをおごったのは僕だから何とも言えない気持ちになる。
「……ただ、俺もそろそろだと思うんすよ」
「な、なにが?」
「産賀先輩が2年生で路子先輩と付き合い始めたなら、俺も2年生で動き始めなきゃいけないってことっす。というか、とっくに動いてないと駄目っすよね」
「な、なるほど。でもまぁ、それほど急がないでいいというか……僕も色々あってそこに辿り着いたというか……」
「おお! そんなドラマチックな感じだったんすか!?」
「……ともかく、桐山くんは焦らずやっていけばいいと思うよ」
日葵さん的には状況を進めて欲しかったのかもしれないけど、自分のことを思い返したら桐山くんを急かすわけにはいかなかった。
何回も割り切れたとは言っているけど、やっぱり失恋したという事実は揺るがないし、僕のようなタイプな心の片隅にそれを残している。
けれども、今のところは桐山くんと日葵さんが同時に幸せになれるかは全くわからなかった。
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