上 下
806 / 942
3年生1学期

6月18日(日)晴れ 清水夢愛と産賀良助その5

しおりを挟む
 快晴の空が広がった父の日。
 今年も昨日の父さんの誕生日と合わせて父の日を祝うことになり、昼食はハンバーグステーキ系のレストランへ行った。
 毎度のことながら明莉の意見を反映しているけど、主役がそうしたいのなら周りは文句を言えない。

「おお、良助じゃないか」

 そんなレストランに到着した直後に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
 振り返るとそこには清水先輩と……そのご両親がいた。

「あっ、清水さんだ。お久しぶりでーす。あれ? もしかしなくても私とは母の日以来ですか?」

「おお、確かに。それで父の日に会うなんてすごい偶然だ」

「これは何か運命的なものを感じますよ」

「こら、明莉。清水先輩の家族も待ってるから」

「えー りょう……お兄ちゃんもちょっとくらい話せばいいのにー」

 明莉はそう言うけど、僕は軽く会釈してその場を離れた。
 そうしたのは清水先輩とご両親との時間を邪魔したくなかったのもあるけど……初めてご両親を見て少し緊張したのもあった。
 清水先輩とご両親は前に少しだけ見かけたことはあったけど、まともに対面したのはこの日が初めてだったと思う。
 その時も同じ感想を書いたかもしれないけど……清水先輩と比べて真面目な印象がある両親だ。

「良助……さっきのは文芸部の先輩かい?」

「えっと……まぁ、うん」

「そうか。じゃあ、いつもお世話になってると挨拶すれば……」

「い、いいから。本日の主役はゆったり構えていて」

 父さんからの問いかけに僕は思わず嘘を付いてしまう。
 清水先輩は母さんとは会っているけど、父さんは少し耳に挟んだことがある程度だろう。
 そこから清水先輩のことを説明するとたぶんややこしくなる。

「お父さん、お誕生日おめでとうー プレゼント&ケーキは帰ってからのお楽しみとして、今日はガンガンお肉食べちゃおー!」

「おー!」

 進行は明莉に任せながら父さんを祝う昼食は和やかに進んでいった。
 なんやかんや本格的なハンバーグを食べるのは久しぶりだったので、誕生日と父の日には感謝しかない。

「良助」

「うわぁ!? 清水先輩!?」

「す、すまん。でも、ちょっといいか?」

 しかし、ちょうど食べ終わったタイミングで清水先輩がわざわざ僕らがいる席までやって来る。

「ど、どうしたんですか?」

「いい機会だから良助を紹介しようと思って。すみません、ちょっと良助くんを借りてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

「おい、明莉……」

「なんだかわからないけど、行ってあげたらいいんじゃないか?」

 明莉だけじゃなく父さんにまでそう言われてしまったので、僕は席を立って清水先輩について行く。
 ただ、清水先輩が僕のことをどう紹介するかさっぱりわからないし、それに合わせていきなり話せる内容も思い浮かびそうにない。

「お待たせ、お父さん、お母さん。この人が……産賀良助くん。高校時代に色々お世話になった」

「ど、どうも。僕の方も清水先輩には大変お世話になり……」

「…………」

「…………」

 僕の言葉に対して清水先輩のご両親は少しきょとんとした表情で見てくる。
 なんで急にこの子を紹介したの……とか、そんな感じが伝わってきた。

「うん? どうしたの2人とも……」

「い、いえ。話には聞いていたけど、本当に年下の男の子だったのね」

「そこを疑ってたの?」

「僕は疑ってはいなかったが……こう、面と向かって紹介されると、どうしたらいいものか……その。キミは夢愛のことをどう思っているんだい?」

「え、ええっ!?」

「お父さん。だから、違うんだって。良助……くんは普通に後輩の友達。今は彼女もいるんだから」

「まぁ、そうだったの? それならどうして――」

「ああ、ストップ。今日はここまで。それじゃ、もう一回戻るまで待ってて」

 僕が口を挟む間もなく、清水先輩は僕をご両親から引き離していく。

「……すまん、良助。私は普通に紹介したかったんだが、変な感じになって」

「い、いえ。というか、僕のこと話してたんですね」

「それはもちろん。2人ときちんと話せるようになったきっかけを与えてくれた人だって。ただ、聞いてる時はどこかふんわりとした反応で……まさか存在すら疑っていたとは」

「あはは……」

「まぁでも、一度見てくれたら私も満足だ。本当にすまんな、良助。父の日の貴重な時間を」

「いえいえ……僕も清水先輩とご両親がしっかり話せてるところを見られて良かったです」

「そうか。それじゃあ、また今度」

 それから産賀家の席に戻ると、色々と根掘り葉掘り聞かれてしまった。
 清水先輩とご両親の仲が良好なのは良かったと思うし、清水家内での誤解が解けたのは本当に良かった。

「良助……結構、罪な男だったりするの?」

「違うから!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。 ほんのりと百合の香るお話です。 ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。 イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。 ★Kindle情報★ 1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H ★第1話『アイス』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE ★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI ★Chit-Chat!1★ https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

処理中です...