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3年生1学期
5月31日(水)晴れ 伊月茉奈との日常その16
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5月最終日の世界禁煙デー。
タバコの煙は苦手だけど、幸いにも僕の周りにはタバコを吸う大人がいないので、助かっている。
そんな今日も昼休みはいつメンの4人で昼ご飯を食べようとしていた。
「あっ、産賀さん。お疲れ様です」
「ああ、伊月さん」
すると、食べる前のトイレから帰ってきたタイミングで伊月さんと遭遇する。
3年の廊下は少し緊張するのか、珍しくそわそわしていた。
「松永に用事? 呼んでこようか?」
「えっと……用事ではあるんですけど、呼ばなくてもいいというか……」
「うん?」
「じ、実はその……お弁当を作ってきたんです」
そう言われて伊月さんの手元を見ると、確かにお弁当箱の包みを持っていた。
「それならせっかくだし、手渡しした方がいいんじゃない?」
「……じ、実はですね。今……ちょっと冷戦中で」
「ええっ!? け、喧嘩したってこと!?」
「け、喧嘩というよりは、わたしが一方的に言ってしまったというか……詳しくは話せないんですけど、ちょっと気まずい空気というか……」
昨日の部活の時は伊月さんからそんな空気は感じなかったけど、今見るとかなり落ち込んでいた。
本田くんに聞かれた時は喧嘩しないと言っていたけど……やはり伊月さんから怒りを向けられることはあるようだ。
「なるほど。それで仲直りのためにってことか」
「はい。でも、冷静に考えたらいきなり持ってきても今日の分のお昼はもう確保していそうだし、ちゃんと話さないのは逃げてると思われるかもしれないと考えだしてしまって……」
「僕はいいと思うけどなぁ。松永なら喜んで食べると思う」
「それはそうなんですけど……」
伊月さんはなかなか決心が付かずに考え始めてしまう。
どんな感じで松永に言ってしまったのかわからないけど、ここは僕がひと肌脱いで――
「りょーちゃん、何突っ立ってんの? おっ、茉奈ちゃんじゃん」
「あ……」
しかし、僕が行動を起こす前に松永が廊下まで出てくる。
「どしたの? 部活の相談か何か?」
「え、えっと……」
「……松永。その、あれだ。あれ」
「おん? どれ?」
「なんか……あったんだろう、直近で」
「……あったっけ?」
何となく伝われと思って言ってみたけど、松永はきょとんとした顔になる。
「……この前、ちょっと言い過ぎちゃったから」
「それっていつの話?」
「……4日前の」
「うーん? そんなに何か言われたっけなぁ?」
「ほ、本当に覚えてないの?」
「いや、茉奈ちゃんに怒られるの半分くらいはご褒美と思ってる節があるから」
「な、なに言ってるの!?」
「だってさぁ。茉奈ちゃんはカリカリする感じは出してるけど、怒り慣れてないからちょっと可愛さもあるっていうかー 怒る理由も8割方、嫉妬心っていうかー」
「あー!!! うるさい! 浩太くんのバカ!」
「おお、これこれ。りょーちゃんもあんま見たことないでしょ?」
「あ、ああ……」
「もういい! 変に心配したわたしがバカだった! はい、これ!」
「なに? お弁当? ありがとー」
「知らない!」
伊月さんは勢いそのまま3年の廊下から去って行った。
「松永、本当に何か言われた覚えがないのか?」
「まぁ、全くと言えば嘘になるけど、あんま気にしてないよ。まぁ、茉奈ちゃんは弁当を作るくらいには気にしてたみたいだけど」
「でも、あれじゃ余計に怒らせたのでは」
「そんなことはないんだな、これが。さっきのはツンデレってやつだから」
「そうなのか……松永言うならそうなんだろうな」
「巻き込んですまんな、りょーちゃん。お詫びに今日の俺の弁当は半分食べていいぜ」
「それは伊月さんの分を食べるからだろう」
「当たり前でしょ。できれば一緒に食べたかったなー」
その後、伊月さんから長文の謝罪LINEが僕に送られて来たけど、松永との一件は解決したと書いてあった。
つまりはさっきの松永の対応は問題なかったということだ。
一番いいのは喧嘩しないことんだろうけど、松永のように全然気にしないスタンスで元の関係に戻れるのは結構凄いなぁと素直に思った。
タバコの煙は苦手だけど、幸いにも僕の周りにはタバコを吸う大人がいないので、助かっている。
そんな今日も昼休みはいつメンの4人で昼ご飯を食べようとしていた。
「あっ、産賀さん。お疲れ様です」
「ああ、伊月さん」
すると、食べる前のトイレから帰ってきたタイミングで伊月さんと遭遇する。
3年の廊下は少し緊張するのか、珍しくそわそわしていた。
「松永に用事? 呼んでこようか?」
「えっと……用事ではあるんですけど、呼ばなくてもいいというか……」
「うん?」
「じ、実はその……お弁当を作ってきたんです」
そう言われて伊月さんの手元を見ると、確かにお弁当箱の包みを持っていた。
「それならせっかくだし、手渡しした方がいいんじゃない?」
「……じ、実はですね。今……ちょっと冷戦中で」
「ええっ!? け、喧嘩したってこと!?」
「け、喧嘩というよりは、わたしが一方的に言ってしまったというか……詳しくは話せないんですけど、ちょっと気まずい空気というか……」
昨日の部活の時は伊月さんからそんな空気は感じなかったけど、今見るとかなり落ち込んでいた。
本田くんに聞かれた時は喧嘩しないと言っていたけど……やはり伊月さんから怒りを向けられることはあるようだ。
「なるほど。それで仲直りのためにってことか」
「はい。でも、冷静に考えたらいきなり持ってきても今日の分のお昼はもう確保していそうだし、ちゃんと話さないのは逃げてると思われるかもしれないと考えだしてしまって……」
「僕はいいと思うけどなぁ。松永なら喜んで食べると思う」
「それはそうなんですけど……」
伊月さんはなかなか決心が付かずに考え始めてしまう。
どんな感じで松永に言ってしまったのかわからないけど、ここは僕がひと肌脱いで――
「りょーちゃん、何突っ立ってんの? おっ、茉奈ちゃんじゃん」
「あ……」
しかし、僕が行動を起こす前に松永が廊下まで出てくる。
「どしたの? 部活の相談か何か?」
「え、えっと……」
「……松永。その、あれだ。あれ」
「おん? どれ?」
「なんか……あったんだろう、直近で」
「……あったっけ?」
何となく伝われと思って言ってみたけど、松永はきょとんとした顔になる。
「……この前、ちょっと言い過ぎちゃったから」
「それっていつの話?」
「……4日前の」
「うーん? そんなに何か言われたっけなぁ?」
「ほ、本当に覚えてないの?」
「いや、茉奈ちゃんに怒られるの半分くらいはご褒美と思ってる節があるから」
「な、なに言ってるの!?」
「だってさぁ。茉奈ちゃんはカリカリする感じは出してるけど、怒り慣れてないからちょっと可愛さもあるっていうかー 怒る理由も8割方、嫉妬心っていうかー」
「あー!!! うるさい! 浩太くんのバカ!」
「おお、これこれ。りょーちゃんもあんま見たことないでしょ?」
「あ、ああ……」
「もういい! 変に心配したわたしがバカだった! はい、これ!」
「なに? お弁当? ありがとー」
「知らない!」
伊月さんは勢いそのまま3年の廊下から去って行った。
「松永、本当に何か言われた覚えがないのか?」
「まぁ、全くと言えば嘘になるけど、あんま気にしてないよ。まぁ、茉奈ちゃんは弁当を作るくらいには気にしてたみたいだけど」
「でも、あれじゃ余計に怒らせたのでは」
「そんなことはないんだな、これが。さっきのはツンデレってやつだから」
「そうなのか……松永言うならそうなんだろうな」
「巻き込んですまんな、りょーちゃん。お詫びに今日の俺の弁当は半分食べていいぜ」
「それは伊月さんの分を食べるからだろう」
「当たり前でしょ。できれば一緒に食べたかったなー」
その後、伊月さんから長文の謝罪LINEが僕に送られて来たけど、松永との一件は解決したと書いてあった。
つまりはさっきの松永の対応は問題なかったということだ。
一番いいのは喧嘩しないことんだろうけど、松永のように全然気にしないスタンスで元の関係に戻れるのは結構凄いなぁと素直に思った。
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