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3年生1学期
4月11日(火)晴れ 後輩との日常・岸元日葵の場合その15
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程よい陽気が続くガッツポーズの日。
新年度も文芸部は火曜と金曜が活動日になるけど、来週までは説明会を開催するために毎日部室を開いておくことになっている。
僕は副部長ではなくなったので、日葵さんと桐山くんが考えた指示を受けながら、放課後の勧誘や説明会で少し話すのが主な役割だ。
そんな今日の僕の配置は部室で3年生の先輩として話す予定……だったけど……
「来ないなぁ……」
現部長の日葵さんは思わずそう呟いてしまう。
説明会の開始予定時間はとっくに過ぎているので、勧誘組が誰も捕まえられなければ、今日は誰も来ない可能性が高い。
「副部長。しりとりしましょう」
「いや、僕はもう副部長じゃないから」
「あ。すみませんつい。でしたらなんと呼んだらいいですか」
「姫宮さんは去年の2個上の先輩方はどう呼んでたの?」
「普通にさん付けだったような気がすると言ってしまうくらいにはあまり絡んでいません」
「そ、そうか。それなら……」
「なに楽しそうに雑談しとんじゃー!」
別に楽しんでいるつもりはなかったけど、日葵さんに怒られてしまう。
……なぜか僕だけが起こられた気分だ。
「まったく……産賀センパイがそんな感じだと来る人も来なくなりますよ」
「めちゃめちゃ理不尽なこと言われてる。でも、来ない日もあるからしょうがないよ。昨日は3人来たんだから」
「でも、昨日の3人はちょっと寄ってみたって感じしません?」
「まぁ、そう言われると……そうかも」
「冷やかし厳禁って張り紙描こうか」
「いや、青蘭。それだと余計に寄り付かなくなっちゃうから……」
そう言いながら日葵さんは落ち着きなくうろうろし始める。
部長として熱意があるのはいいことだと思うけど、何だか今日は様子がおかしい気もする。
「元副部長ちょっと」
すると、姫宮さんが手招きしながら小声で呼んでくる。
「そ、そうきたか。とりあえず呼び方は後回しにして話を聞こう」
「日葵はああ見えて責任感のある女なので入部者がいなかった場合は切腹も辞さない可能性があります」
「後半はともかく……なるほど。それでちょっと焦り気味なのか」
「日葵はああ見えて推しの配信者に関すること以外は冷静に見えているのでこのままだと新入部員がいない危機感を感じているとも」
「僕がどう見えてると思ってるのか知らないけど……わかった」
ここは先輩として僕が安心できるような言葉をかけてあげよう。
こういう時は……なんで言えばいいのだろう。
待っていれば来るは無責任だし、日葵さんは頑張っていると言うのはなんか違うし……
「ただいまー! 2名様ご案内でーす!」
そんなことを考えていると、桐山くんがそんな台詞を言いながら帰還する。
その後ろには新入生の女子が2人いた。
「き、桐山!? 勧誘できたの!?」
「おう。デカい声出して正解だったぜ。この感じだとまだ説明始まってないな?」
「そ、そう! 2人とも今から説明するけど、時間は大丈夫だよね?」
日葵さんの質問に2人は頷くと、僕や姫宮さんも案内に加わって説明会が始まった。
「――やるじゃん、桐山。見直したよ」
「いや、それ元から評価低い前提じゃん」
「素直に褒めたんだから受け取りなよ、このこのー」
「わ、わかったよ。あっ、姫宮さん! 一応言っておくけど、女子2人だったのはたまたまで決してやましい気持ちは……」
「元副部長。本当に元副部長になったみたいですね」
姫宮さんがどういう意図で言ったのかはわからないけど、僕はポジティブな意味で頷いた。
新入生が入部するかどうかは別として、新部長と副部長はいいスタートを切れているようだ。
新年度も文芸部は火曜と金曜が活動日になるけど、来週までは説明会を開催するために毎日部室を開いておくことになっている。
僕は副部長ではなくなったので、日葵さんと桐山くんが考えた指示を受けながら、放課後の勧誘や説明会で少し話すのが主な役割だ。
そんな今日の僕の配置は部室で3年生の先輩として話す予定……だったけど……
「来ないなぁ……」
現部長の日葵さんは思わずそう呟いてしまう。
説明会の開始予定時間はとっくに過ぎているので、勧誘組が誰も捕まえられなければ、今日は誰も来ない可能性が高い。
「副部長。しりとりしましょう」
「いや、僕はもう副部長じゃないから」
「あ。すみませんつい。でしたらなんと呼んだらいいですか」
「姫宮さんは去年の2個上の先輩方はどう呼んでたの?」
「普通にさん付けだったような気がすると言ってしまうくらいにはあまり絡んでいません」
「そ、そうか。それなら……」
「なに楽しそうに雑談しとんじゃー!」
別に楽しんでいるつもりはなかったけど、日葵さんに怒られてしまう。
……なぜか僕だけが起こられた気分だ。
「まったく……産賀センパイがそんな感じだと来る人も来なくなりますよ」
「めちゃめちゃ理不尽なこと言われてる。でも、来ない日もあるからしょうがないよ。昨日は3人来たんだから」
「でも、昨日の3人はちょっと寄ってみたって感じしません?」
「まぁ、そう言われると……そうかも」
「冷やかし厳禁って張り紙描こうか」
「いや、青蘭。それだと余計に寄り付かなくなっちゃうから……」
そう言いながら日葵さんは落ち着きなくうろうろし始める。
部長として熱意があるのはいいことだと思うけど、何だか今日は様子がおかしい気もする。
「元副部長ちょっと」
すると、姫宮さんが手招きしながら小声で呼んでくる。
「そ、そうきたか。とりあえず呼び方は後回しにして話を聞こう」
「日葵はああ見えて責任感のある女なので入部者がいなかった場合は切腹も辞さない可能性があります」
「後半はともかく……なるほど。それでちょっと焦り気味なのか」
「日葵はああ見えて推しの配信者に関すること以外は冷静に見えているのでこのままだと新入部員がいない危機感を感じているとも」
「僕がどう見えてると思ってるのか知らないけど……わかった」
ここは先輩として僕が安心できるような言葉をかけてあげよう。
こういう時は……なんで言えばいいのだろう。
待っていれば来るは無責任だし、日葵さんは頑張っていると言うのはなんか違うし……
「ただいまー! 2名様ご案内でーす!」
そんなことを考えていると、桐山くんがそんな台詞を言いながら帰還する。
その後ろには新入生の女子が2人いた。
「き、桐山!? 勧誘できたの!?」
「おう。デカい声出して正解だったぜ。この感じだとまだ説明始まってないな?」
「そ、そう! 2人とも今から説明するけど、時間は大丈夫だよね?」
日葵さんの質問に2人は頷くと、僕や姫宮さんも案内に加わって説明会が始まった。
「――やるじゃん、桐山。見直したよ」
「いや、それ元から評価低い前提じゃん」
「素直に褒めたんだから受け取りなよ、このこのー」
「わ、わかったよ。あっ、姫宮さん! 一応言っておくけど、女子2人だったのはたまたまで決してやましい気持ちは……」
「元副部長。本当に元副部長になったみたいですね」
姫宮さんがどういう意図で言ったのかはわからないけど、僕はポジティブな意味で頷いた。
新入生が入部するかどうかは別として、新部長と副部長はいいスタートを切れているようだ。
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