上 下
738 / 942
3年生1学期

4月11日(火)晴れ 後輩との日常・岸元日葵の場合その15

しおりを挟む
 程よい陽気が続くガッツポーズの日。
 新年度も文芸部は火曜と金曜が活動日になるけど、来週までは説明会を開催するために毎日部室を開いておくことになっている。
 僕は副部長ではなくなったので、日葵さんと桐山くんが考えた指示を受けながら、放課後の勧誘や説明会で少し話すのが主な役割だ。
 
そんな今日の僕の配置は部室で3年生の先輩として話す予定……だったけど……

「来ないなぁ……」

 現部長の日葵さんは思わずそう呟いてしまう。
 説明会の開始予定時間はとっくに過ぎているので、勧誘組が誰も捕まえられなければ、今日は誰も来ない可能性が高い。

「副部長。しりとりしましょう」

「いや、僕はもう副部長じゃないから」

「あ。すみませんつい。でしたらなんと呼んだらいいですか」

「姫宮さんは去年の2個上の先輩方はどう呼んでたの?」

「普通にさん付けだったような気がすると言ってしまうくらいにはあまり絡んでいません」

「そ、そうか。それなら……」

「なに楽しそうに雑談しとんじゃー!」

 別に楽しんでいるつもりはなかったけど、日葵さんに怒られてしまう。
 ……なぜか僕だけが起こられた気分だ。

「まったく……産賀センパイがそんな感じだと来る人も来なくなりますよ」

「めちゃめちゃ理不尽なこと言われてる。でも、来ない日もあるからしょうがないよ。昨日は3人来たんだから」

「でも、昨日の3人はちょっと寄ってみたって感じしません?」

「まぁ、そう言われると……そうかも」

「冷やかし厳禁って張り紙描こうか」

「いや、青蘭。それだと余計に寄り付かなくなっちゃうから……」

 そう言いながら日葵さんは落ち着きなくうろうろし始める。
 部長として熱意があるのはいいことだと思うけど、何だか今日は様子がおかしい気もする。

「元副部長ちょっと」

 すると、姫宮さんが手招きしながら小声で呼んでくる。

「そ、そうきたか。とりあえず呼び方は後回しにして話を聞こう」

「日葵はああ見えて責任感のある女なので入部者がいなかった場合は切腹も辞さない可能性があります」

「後半はともかく……なるほど。それでちょっと焦り気味なのか」

「日葵はああ見えて推しの配信者に関すること以外は冷静に見えているのでこのままだと新入部員がいない危機感を感じているとも」

「僕がどう見えてると思ってるのか知らないけど……わかった」

 ここは先輩として僕が安心できるような言葉をかけてあげよう。
 こういう時は……なんで言えばいいのだろう。
 待っていれば来るは無責任だし、日葵さんは頑張っていると言うのはなんか違うし……

「ただいまー! 2名様ご案内でーす!」

 そんなことを考えていると、桐山くんがそんな台詞を言いながら帰還する。
 その後ろには新入生の女子が2人いた。

「き、桐山!? 勧誘できたの!?」

「おう。デカい声出して正解だったぜ。この感じだとまだ説明始まってないな?」

「そ、そう! 2人とも今から説明するけど、時間は大丈夫だよね?」

 日葵さんの質問に2人は頷くと、僕や姫宮さんも案内に加わって説明会が始まった。

「――やるじゃん、桐山。見直したよ」

「いや、それ元から評価低い前提じゃん」

「素直に褒めたんだから受け取りなよ、このこのー」

「わ、わかったよ。あっ、姫宮さん! 一応言っておくけど、女子2人だったのはたまたまで決してやましい気持ちは……」

「元副部長。本当に元副部長になったみたいですね」

 姫宮さんがどういう意図で言ったのかはわからないけど、僕はポジティブな意味で頷いた。
 新入生が入部するかどうかは別として、新部長と副部長はいいスタートを切れているようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...