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2年生春休み
4月4日(火)晴れのち曇り 清水夢愛との春散歩Ⅱその2
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春休み12日目の火曜日。
この日は珍しく昼過ぎに清水先輩に呼ばれて散歩に出かける。
大学の入学式は2日前の日曜に行われているため、もう大学は始まったものと思っていたけど、来週の月曜までは諸々の準備期間になっているらしい。
「今日は午前中に健康診断をやってきた。身長はちょっと伸びたが……体重もちょっとう増えていた」
「た、体重はわざわざ言わなくても……」
「いや、今年の春休みはあまり歩けていないから致し方ないと思っている。まぁ、両方増えたといっても微々たるものだが」
「それじゃあ、午後からは自由な時間だったってことですか」
「そういうことだ」
清水先輩はそう言うけれど、僕としてはその時間で大学の人と交流しなくて良いのだろうか、と余計な心配をしてしまう。
いや、清水先輩は自由な方がいいと言っていたので、進んでグループに入ろうとしないのはわかっている。
それでもちょっとくらい話せる相手がいた方が過ごしやすいのは確かだ。
「そういえば、うちの高校から同じ大学に行った人ってどれくらいいるんですか?」
「……さぁ? 先生方は何か言っていたような気がするが、全然覚えてない」
「そ、そうですか……」
「少なくとも茶道部と文芸部にはいないな。でも、一応地元の大学だし、受験している人は多いはずだ」
「その中で知り合いは……」
「うーん……私が話していた範囲だといないな」
そうなると、清水先輩は大学で本当に一人になってしまう可能性がある。
たぶん、これから研修旅行があるから、そこで知り合いができればいいけど……桜庭先輩に任された手前、何も言わないわけにはいかない。
そう思っていたけど……
「あっ、思い出した。今日、中学が同じだったらしい男子から声をかけられた」
「えっ? らしい……とは?」
「いや、私が覚えてないだけ。一個上の先輩で、偶然見かけたから今度お茶でもと――」
「それナンパです! 適当なこと言って誘おうとしてるやつ!」
「……あー、そういうことか」
「それでなんて返したんですか!?」
「もちろん、よく知らないし、面倒くさいから行かないと言って断った」
「ほっ……」
「そうしたら、なぜか引き下がらずにちょっとくらい話してもいいじゃないかと言われて――」
「断ってください!」
「いや、そのまま無視して帰ったよ」
清水先輩は焦っている僕をきょとんとした顔で見てくる。
長らく忘れていたけど、清水先輩は黙っていれば美人だから、何も知らない人が声をかける可能性が大学だと高まってしまうのか。
「……よく回避してくれました」
「えっ? 私、褒められてる?」
「今後もそういう手口で誘われる可能性があるから気を付けてください」
「と思ったら、注意された。私はそんなに尻が軽そうに見られているのか」
「そういうわけじゃないんですけど、ちょっと引っかかりそうな危うさがあるというか……」
「大丈夫。今日も良助と会うのを優先するつもりだったから」
「…………」
「うん? どうかしたか?」
……なんというか。久しぶりに清水先輩のこの感じを浴びせられると、妙な気分になってくる。
無論、今はそれ以上に何か思うことはないけど……優先された事実は少し嬉しかった。
「清水先輩……研修旅行とかで是が非でも話やすい女子を見つけてください。別に友達まで行かなくてもいいので」
「わ、わかった。なんか小織にも同じようなこと言われた気がする」
そんなこんなで、僕が色々しているうちに、清水先輩の大学生活は始まっていた。
桜庭先輩に代わる大学での強い味方が出現して欲しいけど……それまでは僕も少し気にしておこう。
この日は珍しく昼過ぎに清水先輩に呼ばれて散歩に出かける。
大学の入学式は2日前の日曜に行われているため、もう大学は始まったものと思っていたけど、来週の月曜までは諸々の準備期間になっているらしい。
「今日は午前中に健康診断をやってきた。身長はちょっと伸びたが……体重もちょっとう増えていた」
「た、体重はわざわざ言わなくても……」
「いや、今年の春休みはあまり歩けていないから致し方ないと思っている。まぁ、両方増えたといっても微々たるものだが」
「それじゃあ、午後からは自由な時間だったってことですか」
「そういうことだ」
清水先輩はそう言うけれど、僕としてはその時間で大学の人と交流しなくて良いのだろうか、と余計な心配をしてしまう。
いや、清水先輩は自由な方がいいと言っていたので、進んでグループに入ろうとしないのはわかっている。
それでもちょっとくらい話せる相手がいた方が過ごしやすいのは確かだ。
「そういえば、うちの高校から同じ大学に行った人ってどれくらいいるんですか?」
「……さぁ? 先生方は何か言っていたような気がするが、全然覚えてない」
「そ、そうですか……」
「少なくとも茶道部と文芸部にはいないな。でも、一応地元の大学だし、受験している人は多いはずだ」
「その中で知り合いは……」
「うーん……私が話していた範囲だといないな」
そうなると、清水先輩は大学で本当に一人になってしまう可能性がある。
たぶん、これから研修旅行があるから、そこで知り合いができればいいけど……桜庭先輩に任された手前、何も言わないわけにはいかない。
そう思っていたけど……
「あっ、思い出した。今日、中学が同じだったらしい男子から声をかけられた」
「えっ? らしい……とは?」
「いや、私が覚えてないだけ。一個上の先輩で、偶然見かけたから今度お茶でもと――」
「それナンパです! 適当なこと言って誘おうとしてるやつ!」
「……あー、そういうことか」
「それでなんて返したんですか!?」
「もちろん、よく知らないし、面倒くさいから行かないと言って断った」
「ほっ……」
「そうしたら、なぜか引き下がらずにちょっとくらい話してもいいじゃないかと言われて――」
「断ってください!」
「いや、そのまま無視して帰ったよ」
清水先輩は焦っている僕をきょとんとした顔で見てくる。
長らく忘れていたけど、清水先輩は黙っていれば美人だから、何も知らない人が声をかける可能性が大学だと高まってしまうのか。
「……よく回避してくれました」
「えっ? 私、褒められてる?」
「今後もそういう手口で誘われる可能性があるから気を付けてください」
「と思ったら、注意された。私はそんなに尻が軽そうに見られているのか」
「そういうわけじゃないんですけど、ちょっと引っかかりそうな危うさがあるというか……」
「大丈夫。今日も良助と会うのを優先するつもりだったから」
「…………」
「うん? どうかしたか?」
……なんというか。久しぶりに清水先輩のこの感じを浴びせられると、妙な気分になってくる。
無論、今はそれ以上に何か思うことはないけど……優先された事実は少し嬉しかった。
「清水先輩……研修旅行とかで是が非でも話やすい女子を見つけてください。別に友達まで行かなくてもいいので」
「わ、わかった。なんか小織にも同じようなこと言われた気がする」
そんなこんなで、僕が色々しているうちに、清水先輩の大学生活は始まっていた。
桜庭先輩に代わる大学での強い味方が出現して欲しいけど……それまでは僕も少し気にしておこう。
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