上 下
726 / 942
2年生春休み

3月30日(木)晴れ 清水夢愛との春散歩Ⅱ

しおりを挟む
 春休み7日目の木曜日。
 この日は朝から清水先輩と散歩へ行くことになった……もちろん、路ちゃんの了承を得た上で。
 実家から通うことになるので、遠方へ行く新大学生が忙しいこの時期にしては、かなりゆったりと過ごせているらしい。

「あ、そういえば読んだぞ。文芸部が卒業文集に寄稿してたやつ」

「おお。ありがとうございます」

「結構読み応えがあったよ。これって卒業生以外は配ってないのか」

「卒業生や関係者以外は配ってないですね。一応、文芸部と先生方に共有する分はありますけど」

「そうなのか。せっかくなら色んな人に見て貰った方が……と思うのは読んでる側だからか」

「いえ、実際制作したからにはもっとたくさんの人読んで欲しい人もいると思います」

 清水先輩のようにしっかり読んでくれる人ばかりではないのは理解している。
 だから、卒業生向けた冊子への寄稿は、文章を考えた労力に対して相応の感想が返ってこない作業だ。
 まぁ、文芸部としても文章作成の機会になるので、悪いことばかりではないけど。

「その言い方からすると、良助は別にたくさんの人に読んで欲しくないってことか?」

「そ、それはその……」

 自分でも気付かずにそう言っていたので、清水先輩の指摘に僕は焦ってしまう。
 今回の僕の作品は……2年生の後輩が卒業予定の3人先輩について様々な思いを語っていく話になっていた。
 その3人の先輩には少なからず実際にお世話になった先輩方の要素が入っているので……当然ながら清水先輩もモデルの1人となっていた。
 もちろん、作品上は性別や所属する部活などが異なるから自伝小説にはなっていないけど、若干私信っぽさがある話になったと僕は思っていた。

「……そんなわけで先輩方に読んで貰えたら十分かと」

「なるほど……ん? ということは、私や小織みたいな登場人物が出る作品が良助が書いた小説ということだ」

「あれ……? 僕って清水先輩にはペンネーム教えてなかった……ですか?」

「よく覚えてないが、少なくとも私は知らずに読み切ったぞ?」

「……さっき言ったの忘れてください!」

「それは……無理! というか、ペンネーム教えてるつもりなら今教えてくれてもいいんじゃないか?」

「い、嫌です! 完全に知ってる体で話してしまった……」

 森本先輩や水原先輩は部長・副部長の立場だから知っていたけど、いつの間にか先輩は全員知っている認識になっていた。
 清水先輩あたりなら今日みたいに話している時にぽろりと言ってもおかしくないのに……少し前の僕は結構警戒心があったのか。

「まぁ、そこまで言うなら自分で探してみるか」

「さ、探すのもできればやめてください……」

「いいじゃないか。私は暇な方だし、読書週間としてしっかり読ませて貰うよ」

「うぅ……」

「ははっ。油断してた良助が悪いんだぞー」

 その後も僕は若干の恥ずかしさを覚えながら清水先輩との朝の時間を過ごした。
 冊子を読んでくれた事実は文芸部のみんなに公表したいけど……その度にちょっと恥ずかしさを思い出すことになりそうだ。
 でも……清水先輩と同じように他の先輩方も読んでくれていると嬉しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令和の中学生がファミコンやってみた

矢木羽研
青春
令和5年度の新中学生男子が、ファミコン好きの同級生女子と中古屋で遭遇。レトロゲーム×(ボーイミーツガール + 友情 + 家族愛) 。懐かしくも新鮮なゲーム体験をあなたに。ファミコン世代もそうでない世代も楽しめる、みずみずしく優しい青春物語です!  第一部・完! 今後の展開にご期待ください。カクヨムにも同時掲載。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

彼ノ女人禁制地ニテ

フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地―― その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。 柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。 今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。 地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君
青春
俺に青春など必要ない。 新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!? 絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく… 本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ! なろう、カクヨムでも連載中! カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601 なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
青春
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...