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2年生3学期
2月16日(木)晴れ 急接近する岸本路子その3
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良い日和の木曜日。
この日は部活と塾がない日ということで……前々から言われていた路ちゃんの家にお邪魔することになってしまった。
いや、その書き方だとまるで悪いことのように聞こえるかもしれないけど、実際には嬉しいことで……けれども緊張はするもので……
「お、お邪魔します」
「そんなに畏まらなくても大丈夫。こっちがリビングだよ」
1年生の文化祭で色々あった時以来の訪問で、その時は状況的に何か思うことはなかった……はずだけど、今はそうはいかなかった。
しかも、わざわざご両親がいない時に来てしまうなんて……こういう場合、他の人はどういう順序になっているのだろう。先に挨拶を済ませておいた方が気まずくない気もするけど……
「甘い紅茶、大丈夫だったよね?」
「う、うん。お構いなく!」
「ごめんね。来るのはわかっていたのだけれど、あまりおもてなしの準備ができてなくて」
「いやいや。バレンタインで十分貰ったから」
「それなら良かった。ここに置いておくね」
そう言いながら路ちゃんはリビングのテーブルに紅茶を置いた後、僕の隣に腰を下ろした。
今まで一番距離が近い……と思ってしまうほど、気持ちに余裕はない。
これから……何を話せばいいんだろうか。
「良助くん……緊張してる?」
「えっ……うん。隠せてないとは思うけど、めちゃめちゃしてる」
「わたしもしてるから大丈夫……いや、大丈夫じゃないのだけれど……でも、一度来て欲しかったのは確かだったの。両親がいない時に……恋人を呼ぶって定番のシチュエーションだし」
確かにその通りではあるんだけど、路ちゃんが読んだであろう作品では、その後の展開はどうなっているか僕は知らない。
ここは直接聞くべきか……それとも僕が男として……いや、そもそも僕の発想が間違っている可能性も……
「良助くんは……今、何かしてみたいことある?」
「い、今!?」
「うん。まずは良助くんの意見が聞きたい」
「……じゃあ、路ちゃんがしてみたいことも何かあるってこと」
僕の質問に路ちゃんは少しだけ目線を逸らしながらも頷いた。
でも、その答えは僕が何か言わない限り、言ってくれそうにない。
これだけお膳立てされたのなら……やるしかない。
「まず……手を繋いでもいい?」
「……うん」
「それから……肩に触れてもいい?」
「……駄目って言ったら?」
「こ、困らなくはないけど……」
「……大丈夫」
「……次は……頬に触れてもいい?」
「……う、うん」
「…………」
「その次は……?」
「つ、次は――」
その後、僕は体を前進させた。
きっとそれが合っていると信じて。
結果だけ言うと……想像していたよりも直前の紅茶に包まれていた。
だから、今後僕がそれを聞かれた時は、その紅茶の味や香りを思い出すのだろう。
もちろん、それ以上に感じるものはあったけど……そこまではさすがに書けない。
「良助くん、また近いうちに来てね」
「うん。今度は……挨拶させて貰いたいな」
「そ、それは……わたしも結構緊張するから」
「今日よりも?」
「……良助くん、最近ちょっとだけ調子に乗る時ある」
「ご、ごめん。僕らしくないか」
「ううん。嫌じゃないよ……わたしだけ見えてる姿みたいで」
そう言われた僕は調子に乗っているというよりは、舞い上がって強気に喋らないとふやけてしまいそうだったからだ。
長々と抽象的な話をして申し訳ないけど……思い出に残る一日だった。
この日は部活と塾がない日ということで……前々から言われていた路ちゃんの家にお邪魔することになってしまった。
いや、その書き方だとまるで悪いことのように聞こえるかもしれないけど、実際には嬉しいことで……けれども緊張はするもので……
「お、お邪魔します」
「そんなに畏まらなくても大丈夫。こっちがリビングだよ」
1年生の文化祭で色々あった時以来の訪問で、その時は状況的に何か思うことはなかった……はずだけど、今はそうはいかなかった。
しかも、わざわざご両親がいない時に来てしまうなんて……こういう場合、他の人はどういう順序になっているのだろう。先に挨拶を済ませておいた方が気まずくない気もするけど……
「甘い紅茶、大丈夫だったよね?」
「う、うん。お構いなく!」
「ごめんね。来るのはわかっていたのだけれど、あまりおもてなしの準備ができてなくて」
「いやいや。バレンタインで十分貰ったから」
「それなら良かった。ここに置いておくね」
そう言いながら路ちゃんはリビングのテーブルに紅茶を置いた後、僕の隣に腰を下ろした。
今まで一番距離が近い……と思ってしまうほど、気持ちに余裕はない。
これから……何を話せばいいんだろうか。
「良助くん……緊張してる?」
「えっ……うん。隠せてないとは思うけど、めちゃめちゃしてる」
「わたしもしてるから大丈夫……いや、大丈夫じゃないのだけれど……でも、一度来て欲しかったのは確かだったの。両親がいない時に……恋人を呼ぶって定番のシチュエーションだし」
確かにその通りではあるんだけど、路ちゃんが読んだであろう作品では、その後の展開はどうなっているか僕は知らない。
ここは直接聞くべきか……それとも僕が男として……いや、そもそも僕の発想が間違っている可能性も……
「良助くんは……今、何かしてみたいことある?」
「い、今!?」
「うん。まずは良助くんの意見が聞きたい」
「……じゃあ、路ちゃんがしてみたいことも何かあるってこと」
僕の質問に路ちゃんは少しだけ目線を逸らしながらも頷いた。
でも、その答えは僕が何か言わない限り、言ってくれそうにない。
これだけお膳立てされたのなら……やるしかない。
「まず……手を繋いでもいい?」
「……うん」
「それから……肩に触れてもいい?」
「……駄目って言ったら?」
「こ、困らなくはないけど……」
「……大丈夫」
「……次は……頬に触れてもいい?」
「……う、うん」
「…………」
「その次は……?」
「つ、次は――」
その後、僕は体を前進させた。
きっとそれが合っていると信じて。
結果だけ言うと……想像していたよりも直前の紅茶に包まれていた。
だから、今後僕がそれを聞かれた時は、その紅茶の味や香りを思い出すのだろう。
もちろん、それ以上に感じるものはあったけど……そこまではさすがに書けない。
「良助くん、また近いうちに来てね」
「うん。今度は……挨拶させて貰いたいな」
「そ、それは……わたしも結構緊張するから」
「今日よりも?」
「……良助くん、最近ちょっとだけ調子に乗る時ある」
「ご、ごめん。僕らしくないか」
「ううん。嫌じゃないよ……わたしだけ見えてる姿みたいで」
そう言われた僕は調子に乗っているというよりは、舞い上がって強気に喋らないとふやけてしまいそうだったからだ。
長々と抽象的な話をして申し訳ないけど……思い出に残る一日だった。
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