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2年生冬休み
12月27日(火)晴れ 忘年会と託す日
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冬休み4日目。
本日は夕方から文芸部の忘年会が行われる。
去年は冬休み前にやったけど、全員の予定を合わせた結果、冬休みまでずれ込んでしまった。
場所は文芸部恒例となっている鍋料理の店だ。
「皆さん、今年はお疲れ様でした。部長として頼りないところもあったと思いますが、皆さんの協力があって普段の活動や文化祭も楽しくできだと思っています。それでは……か、かんぱーい!」
恐らくこういう音頭を取るのが初めてだった路ちゃんは、少し恥ずかしそうに言っていた。
今の僕はそれさえも可愛く……いかんいかん。今日はあくまで文芸部の副部長として来ているんだ。
事前に路ちゃんと相談したところ、こちらからカミングアウトする必要はないということになった。
そうしないと……この忘年会の話題はそればかりになってしまう。
今日はそれよりも話すべきことが山積みなのだから。
「桐山くん。テーブルは分かれてるけど、女性陣は話に夢中で鍋は余りがちだから、ガンガン食べてね。男子3人しかいないし」
「了解っす!」
去年、新山先輩から言われたことを僕はそのまま伝える。
実際のところ、去年の僕と藤原先輩はたらふく食べさせて貰ったから、桐山くんの活躍には期待したいところだ。
すると、桐山くんの返事に続けて姫宮さんが喋り出す。
「副部長。私は食べられる方なので心配いりません」
「へぇ、そうなんだ。歓迎会の時はそんなに食べてた印象なかったんだけど」
「産賀センパイ、そこは察さないとダメですよ? いきなり食いしん坊キャラで定着するのはなんか嫌じゃないですかぁ。ねぇ、青蘭」
「いや。気付いてないだけでたくさん食べてた」
「えー、そうだっけ? 確かあの時は……そう、産賀センパイがまだ岸元さんって呼んでた頃」
そう言われると何だか懐かしい気持ちになる。
あの時は日葵さん達をちゃんと見られるか不安があって……いや、今も全く不安がないかと言われたら嘘にはなるけど、お互いに馴染んだのは確かだ。
「それで言うならわたしと日葵の呼び方も変わったよね」
「そいえば最初は茉奈も日葵ちゃん呼びだったっけ? えっ、なんで変わったの?」
「……ちゃんを付けるほど可愛げがないと気付いたから?」
「ひどっ!? でも、その理屈ならひまりも茉奈呼びだから可愛げ無くしてるよ!?」
「まぁ、別に日葵からどう思われたところで……」
「二重にひどいんですけどぉ!? 青蘭~ 茉奈がいじめるぅ~」
「もぐもぐ」
1年生の中で僕に一番近い立場なのは伊月さんだろう。
伊月さんも入部すると聞いた時はとても驚いたけど、今ではいてくれて本当に良かったと思っている。
そんな1年生の間で話がひとしきり盛り上がった後。
僕と路ちゃんは来年度の新部長・副部長について1年生に話していく。
これも去年やったことだけど、今年の1年生は4人なので、誰が部長と副部長をやるか選択肢があった。
「……って、ことなのだけれど、日葵ちゃん達の中で検討して貰えれば……」
「あっ、じゃあ、ひまりが部長やりますよ?」
「そ、そう。それは……ええっ!?」
「それで副部長は……男女バランス的に桐山?」
「え、えっと……そんなすぐに決めていいの?」
「いや、何となく話は出てたんですよ。それでリーダーシップ的には茉奈もありかなと思ってたんですけど、責任感強めだからひまりがやるのがちょうどいいんじゃないかなーって」
「なるほど……」
「ちなみに青蘭をトップに立たせると文芸部が別の組織になる可能性があるので、それは防ぎました!」
日葵さんはにこやかに報告するけど、なかなか怖い情報だった。
でも、1年生の中でそういう相談をしてくれていたのは、何だか嬉しかった。
「やっぱり俺が副部長で、日葵が部長っすか……」
「桐山くん的には不満があるの?」
「……それなら姫宮さん部長の方が良くないっすか!? 話す機会も必然的に増えるし」
「そ、そっちかぁ……」
「実際どうなんすか、産賀先輩!? 路先輩と話す機会多いんじゃないんすか!?」
桐山くんの問いかけに僕は返事を濁しながら目を逸らしてしまった。
そんな意図はないのはわかっているけど、今の僕には何とも言えない内容だからである。
職権乱用したつもりは決してないんだけど……
「副部長」
「おっ、どうしたの姫宮さん。おかわりなら遠慮なく……」
「部長と何かありました」
「へっ!?」
「今のは疑問で言っていません。確信で言っています」
「な、何を言ってるのか……」
「冬休み前よりも距離が近いですしお互いの笑い方に謎の照れが見えますし何より集合した時の――」
「青蘭!? それ本当に言ってる!?」
そう言って話題に飛び付いたのは……伊月さんだった。
伊月さんが唯一暴走してしまう要素かもしれない。
「え、えっと……」
「ミチセンパイ~ 今年の出来事は今年のうちに薄情すべきじゃないですかぁ~?」
「う、産賀先輩……嘘っすよね……?」
「おー、そろそろフレッシュな話題が欲しかったところだから助かるー」
「ちょっと、それってソフィア達がフレッシュじゃない感じになるんですけど! でも……話は聞かせて貰いたいな~」
「……産賀くん。ここに来て……水臭いのはなしで」
姫宮さんのひと言から他の部員の注目が一気に集まる。
無論、みんな未成年なのでお酒は飲んでいないけど、たぶん酔っ払いのような絡み方をされている。
「りょ、良助くん……お願い」
「ぼ、僕が言う……しかないか」
結局、僕の口から付き合い始めた報告をして、忘年会の後半からは質問攻めされることになった。
路ちゃんの方は何だか嬉しそうに話していたけど、僕の方は女性陣からやや弄られ気味だったし、桐山くんからは裏切りの目で見られて何だか疲れてしまった。
ひとまず来年の部長と副部長については安心できたので、そこは良かったと思っておこう。
本日は夕方から文芸部の忘年会が行われる。
去年は冬休み前にやったけど、全員の予定を合わせた結果、冬休みまでずれ込んでしまった。
場所は文芸部恒例となっている鍋料理の店だ。
「皆さん、今年はお疲れ様でした。部長として頼りないところもあったと思いますが、皆さんの協力があって普段の活動や文化祭も楽しくできだと思っています。それでは……か、かんぱーい!」
恐らくこういう音頭を取るのが初めてだった路ちゃんは、少し恥ずかしそうに言っていた。
今の僕はそれさえも可愛く……いかんいかん。今日はあくまで文芸部の副部長として来ているんだ。
事前に路ちゃんと相談したところ、こちらからカミングアウトする必要はないということになった。
そうしないと……この忘年会の話題はそればかりになってしまう。
今日はそれよりも話すべきことが山積みなのだから。
「桐山くん。テーブルは分かれてるけど、女性陣は話に夢中で鍋は余りがちだから、ガンガン食べてね。男子3人しかいないし」
「了解っす!」
去年、新山先輩から言われたことを僕はそのまま伝える。
実際のところ、去年の僕と藤原先輩はたらふく食べさせて貰ったから、桐山くんの活躍には期待したいところだ。
すると、桐山くんの返事に続けて姫宮さんが喋り出す。
「副部長。私は食べられる方なので心配いりません」
「へぇ、そうなんだ。歓迎会の時はそんなに食べてた印象なかったんだけど」
「産賀センパイ、そこは察さないとダメですよ? いきなり食いしん坊キャラで定着するのはなんか嫌じゃないですかぁ。ねぇ、青蘭」
「いや。気付いてないだけでたくさん食べてた」
「えー、そうだっけ? 確かあの時は……そう、産賀センパイがまだ岸元さんって呼んでた頃」
そう言われると何だか懐かしい気持ちになる。
あの時は日葵さん達をちゃんと見られるか不安があって……いや、今も全く不安がないかと言われたら嘘にはなるけど、お互いに馴染んだのは確かだ。
「それで言うならわたしと日葵の呼び方も変わったよね」
「そいえば最初は茉奈も日葵ちゃん呼びだったっけ? えっ、なんで変わったの?」
「……ちゃんを付けるほど可愛げがないと気付いたから?」
「ひどっ!? でも、その理屈ならひまりも茉奈呼びだから可愛げ無くしてるよ!?」
「まぁ、別に日葵からどう思われたところで……」
「二重にひどいんですけどぉ!? 青蘭~ 茉奈がいじめるぅ~」
「もぐもぐ」
1年生の中で僕に一番近い立場なのは伊月さんだろう。
伊月さんも入部すると聞いた時はとても驚いたけど、今ではいてくれて本当に良かったと思っている。
そんな1年生の間で話がひとしきり盛り上がった後。
僕と路ちゃんは来年度の新部長・副部長について1年生に話していく。
これも去年やったことだけど、今年の1年生は4人なので、誰が部長と副部長をやるか選択肢があった。
「……って、ことなのだけれど、日葵ちゃん達の中で検討して貰えれば……」
「あっ、じゃあ、ひまりが部長やりますよ?」
「そ、そう。それは……ええっ!?」
「それで副部長は……男女バランス的に桐山?」
「え、えっと……そんなすぐに決めていいの?」
「いや、何となく話は出てたんですよ。それでリーダーシップ的には茉奈もありかなと思ってたんですけど、責任感強めだからひまりがやるのがちょうどいいんじゃないかなーって」
「なるほど……」
「ちなみに青蘭をトップに立たせると文芸部が別の組織になる可能性があるので、それは防ぎました!」
日葵さんはにこやかに報告するけど、なかなか怖い情報だった。
でも、1年生の中でそういう相談をしてくれていたのは、何だか嬉しかった。
「やっぱり俺が副部長で、日葵が部長っすか……」
「桐山くん的には不満があるの?」
「……それなら姫宮さん部長の方が良くないっすか!? 話す機会も必然的に増えるし」
「そ、そっちかぁ……」
「実際どうなんすか、産賀先輩!? 路先輩と話す機会多いんじゃないんすか!?」
桐山くんの問いかけに僕は返事を濁しながら目を逸らしてしまった。
そんな意図はないのはわかっているけど、今の僕には何とも言えない内容だからである。
職権乱用したつもりは決してないんだけど……
「副部長」
「おっ、どうしたの姫宮さん。おかわりなら遠慮なく……」
「部長と何かありました」
「へっ!?」
「今のは疑問で言っていません。確信で言っています」
「な、何を言ってるのか……」
「冬休み前よりも距離が近いですしお互いの笑い方に謎の照れが見えますし何より集合した時の――」
「青蘭!? それ本当に言ってる!?」
そう言って話題に飛び付いたのは……伊月さんだった。
伊月さんが唯一暴走してしまう要素かもしれない。
「え、えっと……」
「ミチセンパイ~ 今年の出来事は今年のうちに薄情すべきじゃないですかぁ~?」
「う、産賀先輩……嘘っすよね……?」
「おー、そろそろフレッシュな話題が欲しかったところだから助かるー」
「ちょっと、それってソフィア達がフレッシュじゃない感じになるんですけど! でも……話は聞かせて貰いたいな~」
「……産賀くん。ここに来て……水臭いのはなしで」
姫宮さんのひと言から他の部員の注目が一気に集まる。
無論、みんな未成年なのでお酒は飲んでいないけど、たぶん酔っ払いのような絡み方をされている。
「りょ、良助くん……お願い」
「ぼ、僕が言う……しかないか」
結局、僕の口から付き合い始めた報告をして、忘年会の後半からは質問攻めされることになった。
路ちゃんの方は何だか嬉しそうに話していたけど、僕の方は女性陣からやや弄られ気味だったし、桐山くんからは裏切りの目で見られて何だか疲れてしまった。
ひとまず来年の部長と副部長については安心できたので、そこは良かったと思っておこう。
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