上 下
605 / 942
2年生2学期

11月29日(火)雨 後輩との日常・姫宮青蘭の場合その12

しおりを挟む
 一日中雨が降り続いた火曜日。
 本日から文芸部ではおすすめ本の紹介と座学が始まる。
 おすすめ本を紹介する順番についてランダムに決められて、今回は姫宮さんが紹介することになっていた。

「私が紹介するのは『兄が構ってくれないくらいならわたしは世界を滅ぼす魔女になる』です」

 そうして、姫宮さんが堂々と提示したのはライトノベルだった。
 いや、ラノベも立派な本なので、紹介しても全然構わないのだけど……もしかしなくてもこの本は……

「妹モノです」

 姫宮さんは僕の心の声に応えたかのようにそう付け足す。
 冊子に載せる作品から言っていたけど、妹モノ好きは単に一時的なブームか何かだと思っていた。
 だけど、こういう感じのラノベを持ってくるということは、筋金入りの可能性がある。

「これは私の感覚ですが結構若い人が書いているので昨今の若者受けを知りたい人におすすめできます」

 ただ、おすすめポイントについてはしっかり読み込んでいることがわかる解説だったので、聞いている側は妙に納得させられてしまった。
 若者受け……って、僕らも若者ではあるんだけど、同年代に受け入れられる文章というのは、目指したいところではある。

「副部長。これを」

 そんなおすすめ本の紹介が終わった後、姫宮さんはわざわざ僕のところに来て、先ほどのラノベを差し出してくる。

「えっ? まさか貸してくれるの?」

「いえ。貸してあげてもいいですが見て欲しいページがありまして」

「どこのこと……?」

 僕はそう言いながらページを捲っていくと、突然、お風呂シーンの挿絵が目に飛び込んでくる。
 それに焦った僕はすぐに次のページを捲ろうとすると、姫宮さんは物理的に手を止めてきた。

「このページです」

「なんで!?」

「副部長が見たいと思って」

「どんな気遣い!? 別にいいから」

「冗談です。実はこのページに関連して聞きたいことがあるんです。今後の参考のために」

「いったい何を……」

「このシーンにおいて妹は小さい頃は一緒に入ってたじゃないと言っていますが実際の兄妹もそういうことはあるんですか」

「それは……このページを開いて聞く必要ある?」

「ありませんね」

 姫宮さんは薄く笑いながら言うので、僕は即座にページを閉じた。

「はぁ……お風呂については本当に小さい頃ならあったかもしれないけど、ほとんど記憶にないよ。たぶん、妹が赤ん坊で、父さんと一緒に入ってたとかそんな感じ」

「なるほど。参考になります」

「……姫宮さんって、なんでそんなに妹モノが好きになったの?」

 こういう場合、何が好きか答えるのは難しいとわかっているけど、純粋な疑問から僕はそう聞いてしまう。
 でも、姫宮さんは迷うことなくすぐ答えた。

「かわいいからです」

「お、おお。思ったよりもシンプルな答えだ。でも、姉妹の話じゃなくて、兄妹の話の方がいいんだ」

「はい。どちらかといえば兄に恋愛的な感情を抱いている妹がかわいいと思っているので」

「それは……確かにそっちでしか見られないか」

「あとは単純にそういう設定の方がドタバタとして面白いからです。日常的にありそうで絶妙にないラインなので」

 確かに普通のラブコメと比べると兄妹での恋愛は日常的にはない……いや、あってはならないものだ。
 具体的な理由を聞くと、姫宮さんが好きそうだと納得してしまう。

「……ありがとう、姫宮さん。真面目に答えてくれて」

「え。全然お礼を言われるような流れじゃなかったと思いますが」

「いや、好きな理由を聞かれるの、僕だったらちょっと嫌だから。自分で聞いておいてなんだけど」

「自分の嫌がることは人にしてはいけません」

「お、おっしゃる通り……」

「副部長こそ真面目ですね。先に仕掛けたのは私なのに」

「あはは……」

「そういう副部長は嫌いじゃありません」

 そう言い残すと姫宮さんはラノベを片手に今度は桐山くんの方に向かって行った。

 姫宮さんの言動には振り回されることが多いけど、最終的には素直に話してくれるのであまり不快感は残らない。
 むしろ、好きなものを堂々と言えるところは……僕も見習うべきところだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

下弦に冴える月

和之
青春
恋に友情は何処まで寛容なのか・・・。

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

隣の席のヤンデレさん

葵井しいな
青春
私の隣の席にはとても可愛らしい容姿をした女の子がいる。 けれど彼女はすっごく大人しくて、話しかけてもほとんどアクションなんか起こらなかった。 それを気にかけた私が粘り強くお節介を焼いていたら、彼女はみるみるうちに変わっていきました。 ……ヤンの方向へと。あれれ、おかしいなぁ?

陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君
青春
俺に青春など必要ない。 新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!? 絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく… 本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ! なろう、カクヨムでも連載中! カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601 なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

彼ノ女人禁制地ニテ

フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地―― その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。 柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。 今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。 地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――

処理中です...