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2年生2学期
11月25日(金)晴れ 伊月茉奈との日常その9
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昼過ぎからは温かさも感じた金曜日。
本日は文芸部で年末の冊子に載せる作品について説明が行われた。
作品のお題は特に設けられていないけど、卒業生に向けた冊子であることから、その雰囲気にそぐわない作風は避けるように配慮しなければならない。
文化祭よりも短めの小説や短文になるので、人によっては難しさを感じてしまうかもしれない。
かく言う僕も……副部長ながらもまた考える時期がやってきたかと思ってしまった。
そして、文化祭の作品の感想会もほぼ終わったので、次からは文法の座学やおすすめ本の紹介を行うお知らせも行われた。
僕は副部長なのでそうなることは知っていたけど……最近は全然本を読めていない。
塾に通い始めたという言い訳を使おうにも恐らく路ちゃんはしっかり読んでいるので、僕の時間の使い方が下手なことが浮き彫りになりそうな気がする。
そんな今後のお知らせを終えた後、いつも通りの雑談タイムがやってきた。
「産賀さん、ちょっといいですか?」
すると、火曜と同じく伊月さんが声をかけてくる。
今日は路ちゃんに露骨に見てないし、他のミスもないと思うけど、僕は少し姿勢を正す。
「凄く個人的な話なので、もっとリラックスして聞いて貰らって大丈夫です」
それが伊月さんにも伝わったのか、そう言われてしまう。
「個人的っていうと?」
「その……浩太くんが最近欲しがってる物とか聞いてたりしないかなぁと」
「あれ? 松永の誕生日は7月なんじゃ……」
「えっと……クリスマスプレゼントの方です」
「あっ、そっちか。ごめんごめん」
伊月さんを困惑させてしまったので、僕は謝罪する。
マメな性格の伊月さんが松永の誕生日を忘れるはずがないのに、失礼な指摘をしてしまった。
「いえいえ。直接聞けばいいことなんですけど、ちょっと驚かせたいと思って」
「なるほどね。そうだなぁ……いや、意外と何か欲しいって話題は振ってこないな」
「ですよね! 浩太くん、わたしが欲しい物は聞いてくるのに、自分からはあんまり言わなくて……」
「強いて言うなら……愛とか、抽象的なやつ?」
「わかります! 軽率にそういうこと言ってきますよね」
伊月さんに言う場合は、友人間で言うそれとは別の意味だろうけど、松永らしさを感じる。
少し前の記憶を辿っても、どちらかといえばカラオケのような遊びに行きたい場所の希望は出すけど、服やアクセサリーの話題は出てこない。
かといって、僕や大倉くんほどゲーム欲が強いわけじゃないから、本当に何も思い付かなかった。
「もしかして、松永って物欲なかったのか……? いや、僕からすれば普通に私服はオシャレだし、何かしらこだわりはありそうなものだけど……」
「装飾品も全然付けないですし、何か収集してるって話も聞かないんです。だから、結構難しくて……」
「収集か……あっ」
その時、記憶の中でかなり古い情報が思い出される。
それは僕がまだ伊月さんと付き合っていることを知らなかった頃……
『りょーちゃんって写真集とか買ったりしないの?』
『しないな。芸能人やアイドルにそれほど詳しくないし』
『健全な男子としてそれはどうなの』
『そう言われても……』
『いや、わかってるよ。りょーちゃんも何らかの手段で欲を満たしてるって』
『余計なお世話だ。そういう松永はどうなんだよ』
『俺は好きなグラドルの写真集は買うよ。漫画雑誌のグラビアも好きな子はちゃんと歩損してるし』
『へ~』
……今思い出すことじゃなかった。
仮に続けているとしても伊月さんに言えるわけがない。
「何かありました?」
「い、いや、今度それとなく探ってみるよ。松永はわりと気付きそうだから、上手くっき出せない可能性もあるけど」
「いえいえ。どうしてもわからなければ、わたしで何とかするので。浩太くんについての認識を共有できただけでも良かったです」
伊月さんはそう言ってくれたので、僕は勝手に安心する。
友人間で何かしらプレゼントすると言えば、ご飯をおごる程度だったので、案外お互いに欲しい物を知らないというのは新鮮な発見だった。
伊月さんのためにも……写真集以外の欲しい物を何とか聞き出さなければ。
本日は文芸部で年末の冊子に載せる作品について説明が行われた。
作品のお題は特に設けられていないけど、卒業生に向けた冊子であることから、その雰囲気にそぐわない作風は避けるように配慮しなければならない。
文化祭よりも短めの小説や短文になるので、人によっては難しさを感じてしまうかもしれない。
かく言う僕も……副部長ながらもまた考える時期がやってきたかと思ってしまった。
そして、文化祭の作品の感想会もほぼ終わったので、次からは文法の座学やおすすめ本の紹介を行うお知らせも行われた。
僕は副部長なのでそうなることは知っていたけど……最近は全然本を読めていない。
塾に通い始めたという言い訳を使おうにも恐らく路ちゃんはしっかり読んでいるので、僕の時間の使い方が下手なことが浮き彫りになりそうな気がする。
そんな今後のお知らせを終えた後、いつも通りの雑談タイムがやってきた。
「産賀さん、ちょっといいですか?」
すると、火曜と同じく伊月さんが声をかけてくる。
今日は路ちゃんに露骨に見てないし、他のミスもないと思うけど、僕は少し姿勢を正す。
「凄く個人的な話なので、もっとリラックスして聞いて貰らって大丈夫です」
それが伊月さんにも伝わったのか、そう言われてしまう。
「個人的っていうと?」
「その……浩太くんが最近欲しがってる物とか聞いてたりしないかなぁと」
「あれ? 松永の誕生日は7月なんじゃ……」
「えっと……クリスマスプレゼントの方です」
「あっ、そっちか。ごめんごめん」
伊月さんを困惑させてしまったので、僕は謝罪する。
マメな性格の伊月さんが松永の誕生日を忘れるはずがないのに、失礼な指摘をしてしまった。
「いえいえ。直接聞けばいいことなんですけど、ちょっと驚かせたいと思って」
「なるほどね。そうだなぁ……いや、意外と何か欲しいって話題は振ってこないな」
「ですよね! 浩太くん、わたしが欲しい物は聞いてくるのに、自分からはあんまり言わなくて……」
「強いて言うなら……愛とか、抽象的なやつ?」
「わかります! 軽率にそういうこと言ってきますよね」
伊月さんに言う場合は、友人間で言うそれとは別の意味だろうけど、松永らしさを感じる。
少し前の記憶を辿っても、どちらかといえばカラオケのような遊びに行きたい場所の希望は出すけど、服やアクセサリーの話題は出てこない。
かといって、僕や大倉くんほどゲーム欲が強いわけじゃないから、本当に何も思い付かなかった。
「もしかして、松永って物欲なかったのか……? いや、僕からすれば普通に私服はオシャレだし、何かしらこだわりはありそうなものだけど……」
「装飾品も全然付けないですし、何か収集してるって話も聞かないんです。だから、結構難しくて……」
「収集か……あっ」
その時、記憶の中でかなり古い情報が思い出される。
それは僕がまだ伊月さんと付き合っていることを知らなかった頃……
『りょーちゃんって写真集とか買ったりしないの?』
『しないな。芸能人やアイドルにそれほど詳しくないし』
『健全な男子としてそれはどうなの』
『そう言われても……』
『いや、わかってるよ。りょーちゃんも何らかの手段で欲を満たしてるって』
『余計なお世話だ。そういう松永はどうなんだよ』
『俺は好きなグラドルの写真集は買うよ。漫画雑誌のグラビアも好きな子はちゃんと歩損してるし』
『へ~』
……今思い出すことじゃなかった。
仮に続けているとしても伊月さんに言えるわけがない。
「何かありました?」
「い、いや、今度それとなく探ってみるよ。松永はわりと気付きそうだから、上手くっき出せない可能性もあるけど」
「いえいえ。どうしてもわからなければ、わたしで何とかするので。浩太くんについての認識を共有できただけでも良かったです」
伊月さんはそう言ってくれたので、僕は勝手に安心する。
友人間で何かしらプレゼントすると言えば、ご飯をおごる程度だったので、案外お互いに欲しい物を知らないというのは新鮮な発見だった。
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