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2年生2学期
11月18日(金)晴れ 後輩との日常・岸元日葵の場合その10
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お待ちかねの金曜日。
そう書いてしまうのは新作ゲームの発売日……というのもあるけど、何となく疲れた今週は早く休みたい気分だった。
でも、それはそれとして部活動は副部長としてきっちりやらなければならない。
文化祭に載せた作品の感想会はまだまだ終わっていなかった。
今日の作品は……
「……という語尾がやや続いていたので少し変えてみるもいいと思いました」
「そっかぁ……」
「ちょ、ちょっと日葵……」
「えっ?」
伊月さんの忌憚のない意見に対して日葵さんはがっつり反応してしまう。
そう、今日の取り上げられた作品の一つは日葵さんが書いたものだった。
ただ、これほどわかりやすい反応を見せたのは日葵さんが初めてかもしれない。
「あっ、そうだった!? でもまぁ、もう隠してもしょうがないのでこの作品はひまりが書きました!」
「なんで言っちゃうの……」
「ひまりは全然気にしないから大丈夫」
「そうじゃなくて、これから感想を言う人が困っちゃうじゃない」
伊月さんの言う通り、敢えてペンネームのままにしているのは、作者本人だけでなく感想や意見を言う側も言いやすい状態にするためだった。
もちろん、辛辣な評価をする人はいないのだけど、相手をわかっている状態だと変に気を遣ってしまう可能性もある。
「それにわたしの指摘でもちょっと凹んでるじゃない」
「それはひまりだってちょっとくらいは凹むよ。でも、これはもっと見直しとけばよかったなぁって反省だから。それよりも話止めちゃってるよ?」
「はっ!? 皆さん、すみません!」
律儀に頭を下げる伊月さんに僕らは気にしないでと声をかける。
それから日葵さんとわかった上で、作品に関する感想が伝えられていった。
「いや~ 自己肯定感上がっちゃったなぁ~」
そして、感想会が終わると日葵さんは先ほどと違って嬉しそうな表情になっていた。
「それなら良かった」
「あっ、産賀センパイも心配してたんですか? 茉奈と一緒で真面目ちゃんですね」
「まぁ、少しくらいはね」
「でも、ひまりってわかる前からも結構褒められてませんでした? 正直、ひまり的にはもっと文句言われまくると思ってたんですよ」
「そうなの? かなり独特で面白かったよ。推しに恋して突っ走る主人公」
「えへへ~ わりとテンプレかつご都合主義だなぁと思ってましたけど、書いて良かったです。あっ、産賀センパイも作者名教えてくれたら、ひまりがたくさん褒めてあげますよ?」
「うーん……それは遠慮しとこうかな……」
「えー? なんでですか? 承認欲求満たしていきましょうよー!」
日葵さんは明るく誘ってくるけど、なかなかの台詞を吐いていると思う。
日葵さんのようにポジティブ思考の人なら感想会で反省しながらも良い点を拾って、+のエネルギーにできるのだろう。
対する僕のようなタイプは良い点を自ら過小評価して、指摘された点に過剰な後悔を覚えてしまうのだ。
承認欲求よりも自己防衛を優先した方が僕的には正解だと思われる。
「はぁ……最近の若い子は何でも匿名にしたがっちゃうんですね……」
「いや、日葵さんは部室内だと若い分類だけど」
「ひまりはいつでも正々堂々としてますよ? たとえば……」
「推しに本名予備して貰うためにハンドルネームは平仮名でひまり」
突然会話に混じってきた姫宮さんは薄く笑いながら言う。
「珍しくない名前だけどネットリテラシー的には20点」
「べ、別にいいでしょー! 何ならフルネームで呼んで貰いたいくらいだし」
「副部長。日葵が世界を滅ぼしかねないような暴走した時には今回の小説をこの配信者とこの歌い手と――」
「こらぁ!? 何変な告げ口してるんじゃあ!」
その後、日葵さんと姫宮さんは暫く攻防を繰り広げてから、最終的にはネットでの名前の扱いは気を付けようという見解で落ち着いた。
たぶん、姫宮さんとしては日葵さんの心配していたのもあるのだろう。
でも、日葵さんのポジティブな一面は見習いたいと思った。
そう書いてしまうのは新作ゲームの発売日……というのもあるけど、何となく疲れた今週は早く休みたい気分だった。
でも、それはそれとして部活動は副部長としてきっちりやらなければならない。
文化祭に載せた作品の感想会はまだまだ終わっていなかった。
今日の作品は……
「……という語尾がやや続いていたので少し変えてみるもいいと思いました」
「そっかぁ……」
「ちょ、ちょっと日葵……」
「えっ?」
伊月さんの忌憚のない意見に対して日葵さんはがっつり反応してしまう。
そう、今日の取り上げられた作品の一つは日葵さんが書いたものだった。
ただ、これほどわかりやすい反応を見せたのは日葵さんが初めてかもしれない。
「あっ、そうだった!? でもまぁ、もう隠してもしょうがないのでこの作品はひまりが書きました!」
「なんで言っちゃうの……」
「ひまりは全然気にしないから大丈夫」
「そうじゃなくて、これから感想を言う人が困っちゃうじゃない」
伊月さんの言う通り、敢えてペンネームのままにしているのは、作者本人だけでなく感想や意見を言う側も言いやすい状態にするためだった。
もちろん、辛辣な評価をする人はいないのだけど、相手をわかっている状態だと変に気を遣ってしまう可能性もある。
「それにわたしの指摘でもちょっと凹んでるじゃない」
「それはひまりだってちょっとくらいは凹むよ。でも、これはもっと見直しとけばよかったなぁって反省だから。それよりも話止めちゃってるよ?」
「はっ!? 皆さん、すみません!」
律儀に頭を下げる伊月さんに僕らは気にしないでと声をかける。
それから日葵さんとわかった上で、作品に関する感想が伝えられていった。
「いや~ 自己肯定感上がっちゃったなぁ~」
そして、感想会が終わると日葵さんは先ほどと違って嬉しそうな表情になっていた。
「それなら良かった」
「あっ、産賀センパイも心配してたんですか? 茉奈と一緒で真面目ちゃんですね」
「まぁ、少しくらいはね」
「でも、ひまりってわかる前からも結構褒められてませんでした? 正直、ひまり的にはもっと文句言われまくると思ってたんですよ」
「そうなの? かなり独特で面白かったよ。推しに恋して突っ走る主人公」
「えへへ~ わりとテンプレかつご都合主義だなぁと思ってましたけど、書いて良かったです。あっ、産賀センパイも作者名教えてくれたら、ひまりがたくさん褒めてあげますよ?」
「うーん……それは遠慮しとこうかな……」
「えー? なんでですか? 承認欲求満たしていきましょうよー!」
日葵さんは明るく誘ってくるけど、なかなかの台詞を吐いていると思う。
日葵さんのようにポジティブ思考の人なら感想会で反省しながらも良い点を拾って、+のエネルギーにできるのだろう。
対する僕のようなタイプは良い点を自ら過小評価して、指摘された点に過剰な後悔を覚えてしまうのだ。
承認欲求よりも自己防衛を優先した方が僕的には正解だと思われる。
「はぁ……最近の若い子は何でも匿名にしたがっちゃうんですね……」
「いや、日葵さんは部室内だと若い分類だけど」
「ひまりはいつでも正々堂々としてますよ? たとえば……」
「推しに本名予備して貰うためにハンドルネームは平仮名でひまり」
突然会話に混じってきた姫宮さんは薄く笑いながら言う。
「珍しくない名前だけどネットリテラシー的には20点」
「べ、別にいいでしょー! 何ならフルネームで呼んで貰いたいくらいだし」
「副部長。日葵が世界を滅ぼしかねないような暴走した時には今回の小説をこの配信者とこの歌い手と――」
「こらぁ!? 何変な告げ口してるんじゃあ!」
その後、日葵さんと姫宮さんは暫く攻防を繰り広げてから、最終的にはネットでの名前の扱いは気を付けようという見解で落ち着いた。
たぶん、姫宮さんとしては日葵さんの心配していたのもあるのだろう。
でも、日葵さんのポジティブな一面は見習いたいと思った。
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