上 下
545 / 942
2年生2学期

9月30日(金)晴れ 隣接する岸本路子その4

しおりを挟む
 文芸部の提出締め切りとなる金曜日。
 提出方法は去年と同じくメールでの送信、USBにデータを入れて部室に持って来る、部室内で借りたノートパソコンからの提出の3種類だ。
 去年の僕は最終確認をしたかったから部室に出向いていたけど、今年の1年生はメールでの提出が多かった。

「いやー 優秀な1年生だねー 日葵ちゃんとか絶対追い詰められるタイプだと思ったのに聞いてみたら、えっ、森ちゃんセンパイまだ書き終わってないんですか、って言われちゃったよー」

「まぁ、失礼ながら僕も意外だと思いましたけど……森本先輩はちゃんと完成しそうなんですか?」

「大丈夫ー 18時までには終わるからー」

 それは表現や誤字チェックのことだと信じて、僕はその場を離れる。
 17時の時点だと部室に残っているのは僕と路ちゃんを除くと森本先輩だけだった。

「あと提出してないのは森本さんと伊月さん……あっ、伊月さんからのメールが来たわ」


 路ちゃんがそう言いながらメールに目を通すと、「ギリギリまで確認して遅くなりました。申し訳ありません」と書かれていたらしい。
 時間的には何も問題ないので、LINEの方で路ちゃんがフォローを入れる。

「うん。これであとは森本さんだけ」

「部長からのプレッシャーだー」

「そ、そんなつもりはなかったんです。全然ゆっくりやってください」

「いやー、この後にも提出の確認とか大変なのはわかってるから、なるべく早く仕上げるよー……あと20分だけ待ってー」

 森本先輩の言葉に路ちゃんは僕に向けて苦笑いした。
 路ちゃんの反応は当然のことだ。
 でも、部長としての苦労がわかっても筆の進み具合はどうにもならないのは仕方がない。
 そんな路ちゃんの隣に座りながら僕は言う。

「この調子だと、本当に締め切りギリギリになりそうだ。あっ、あんまり遅くなるのが駄目だったら、僕に残り作業を任せてくれてもいいよ?」

「良助くん、わたしのこと小学生だと思ってる……?」

「ち、違う違う。親御さんが心配するかなと思って。ほら、最近は日が暮れるのも早いし」

「良助くんの妹さんは門限厳しかったりするの?」

「いや、門限とかはないけど……たまに遅かったりすると父親は心配する。どこに行ってるとかは母親に連絡してたりするんだけどね」

「そうなんだ。その遅くなる理由って……彼氏さんだったり?」

「ううん。遅くまで遊んでたのは結構前の話だよ。部活の付き合いもあったらしい。彼氏の家に遊びに行った時は晩ご飯食べて帰ってきたのが一番遅い時間かな」

「その話、詳しく聞かせて欲しいのだけれど」

 路ちゃんはわざわざ椅子の向きを変えて食い付いてくる。
 避けていたわけじゃないけど、路ちゃんの前で明莉と桜庭くんの情報を話すのは久しぶりだった。
 時間もあったので僕は直近で発覚した親戚事情も含めて路ちゃんに話していく。

「知り合いの親戚が……そういうこともあるんだ」

「僕もびっくりしたよ。ちょうど男兄弟で同じ地元に帰って来たから苗字も同じだったって」

「何だかそれだけで一つお話が書けそうなくらい運命的だと思うわ」

「そうかな? その場合は……先輩との関係が深まっていく感じ?」

「えっ!?」

「あっ、違うよ!? 今のはお話として書く場合のことで、僕は桜庭先輩とどうこうってわけじゃないから!」

「そ、そうだよね。びっくりした……」

「むしろ、僕は……いや、これは言わないでおこう」

 悪口ではないけど、言ってしまうと桜庭先輩に何か察知される気がした。
 相変わらず僕は桜庭先輩をエスパーか何かと思っている節がある。

「……良助くん。前々からずっと聞きたかったことがあるのだけれど……」

「えっ? なになに?」

「……夏休みの」

「夏休み?」

「……や、やっぱり」

「お二人さーん。盛り上がってるところ悪いけど、5分前に提出したよー」

「「えっ!?」」

 森本先輩の言葉に僕と路ちゃんは立ち上がって驚く。

「なんで言ってくれなかったんですか!?」

「いやー 楽しそうに話してたから邪魔したら悪いかなーと思って。まー、本当に遅くなってもアレだから最終チェックも仲良くがんばってー」

「お、お疲れ様です……って、元はといえば森本先輩がギリギリまでやるから……」

 文句を言い終える頃には森本先輩は撤退していた。
 その後、改めて全員の提出を確認して、冊子の印刷の注文を進めていった。
 結局、路ちゃんの聞きたかったことは流れてしまったけど、改めて聞いてこなかったので、僕もわざわざ言わなかった。
 まぁ、気になったらまた聞いてくれるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

俺を見てよ

水ノ瀬 あおい
青春
兄の同級生、女バスキャプテンの彩織に一目惚れした基晴。 でも、彩織の視線の先にはいつも兄が…。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

あの日の桜‐君との六年の恋‐

鳴宮直人
青春
君は今幸せですか。 君の手を離してから何年たったのだろうか。 笑顔を思い浮かべるほど山桜が脳をよぎる。 16年前の僕にとって、掛け替えのない出会いだった。そんな出会いが変わっていくとは知らずに、、、、、 主人公·田辺佑丞は登校中に 学校の前の染井吉野と山桜の木を見上げる可憐な少女、川城結香と出会う。 桜を儚げに見つめている結香を、可憐で優姿な所に一目惚れをしてしまうのだ。 佑丞の一目惚れはどうなっていくのだろうか

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...