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2年生2学期
9月30日(金)晴れ 隣接する岸本路子その4
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文芸部の提出締め切りとなる金曜日。
提出方法は去年と同じくメールでの送信、USBにデータを入れて部室に持って来る、部室内で借りたノートパソコンからの提出の3種類だ。
去年の僕は最終確認をしたかったから部室に出向いていたけど、今年の1年生はメールでの提出が多かった。
「いやー 優秀な1年生だねー 日葵ちゃんとか絶対追い詰められるタイプだと思ったのに聞いてみたら、えっ、森ちゃんセンパイまだ書き終わってないんですか、って言われちゃったよー」
「まぁ、失礼ながら僕も意外だと思いましたけど……森本先輩はちゃんと完成しそうなんですか?」
「大丈夫ー 18時までには終わるからー」
それは表現や誤字チェックのことだと信じて、僕はその場を離れる。
17時の時点だと部室に残っているのは僕と路ちゃんを除くと森本先輩だけだった。
「あと提出してないのは森本さんと伊月さん……あっ、伊月さんからのメールが来たわ」
路ちゃんがそう言いながらメールに目を通すと、「ギリギリまで確認して遅くなりました。申し訳ありません」と書かれていたらしい。
時間的には何も問題ないので、LINEの方で路ちゃんがフォローを入れる。
「うん。これであとは森本さんだけ」
「部長からのプレッシャーだー」
「そ、そんなつもりはなかったんです。全然ゆっくりやってください」
「いやー、この後にも提出の確認とか大変なのはわかってるから、なるべく早く仕上げるよー……あと20分だけ待ってー」
森本先輩の言葉に路ちゃんは僕に向けて苦笑いした。
路ちゃんの反応は当然のことだ。
でも、部長としての苦労がわかっても筆の進み具合はどうにもならないのは仕方がない。
そんな路ちゃんの隣に座りながら僕は言う。
「この調子だと、本当に締め切りギリギリになりそうだ。あっ、あんまり遅くなるのが駄目だったら、僕に残り作業を任せてくれてもいいよ?」
「良助くん、わたしのこと小学生だと思ってる……?」
「ち、違う違う。親御さんが心配するかなと思って。ほら、最近は日が暮れるのも早いし」
「良助くんの妹さんは門限厳しかったりするの?」
「いや、門限とかはないけど……たまに遅かったりすると父親は心配する。どこに行ってるとかは母親に連絡してたりするんだけどね」
「そうなんだ。その遅くなる理由って……彼氏さんだったり?」
「ううん。遅くまで遊んでたのは結構前の話だよ。部活の付き合いもあったらしい。彼氏の家に遊びに行った時は晩ご飯食べて帰ってきたのが一番遅い時間かな」
「その話、詳しく聞かせて欲しいのだけれど」
路ちゃんはわざわざ椅子の向きを変えて食い付いてくる。
避けていたわけじゃないけど、路ちゃんの前で明莉と桜庭くんの情報を話すのは久しぶりだった。
時間もあったので僕は直近で発覚した親戚事情も含めて路ちゃんに話していく。
「知り合いの親戚が……そういうこともあるんだ」
「僕もびっくりしたよ。ちょうど男兄弟で同じ地元に帰って来たから苗字も同じだったって」
「何だかそれだけで一つお話が書けそうなくらい運命的だと思うわ」
「そうかな? その場合は……先輩との関係が深まっていく感じ?」
「えっ!?」
「あっ、違うよ!? 今のはお話として書く場合のことで、僕は桜庭先輩とどうこうってわけじゃないから!」
「そ、そうだよね。びっくりした……」
「むしろ、僕は……いや、これは言わないでおこう」
悪口ではないけど、言ってしまうと桜庭先輩に何か察知される気がした。
相変わらず僕は桜庭先輩をエスパーか何かと思っている節がある。
「……良助くん。前々からずっと聞きたかったことがあるのだけれど……」
「えっ? なになに?」
「……夏休みの」
「夏休み?」
「……や、やっぱり」
「お二人さーん。盛り上がってるところ悪いけど、5分前に提出したよー」
「「えっ!?」」
森本先輩の言葉に僕と路ちゃんは立ち上がって驚く。
「なんで言ってくれなかったんですか!?」
「いやー 楽しそうに話してたから邪魔したら悪いかなーと思って。まー、本当に遅くなってもアレだから最終チェックも仲良くがんばってー」
「お、お疲れ様です……って、元はといえば森本先輩がギリギリまでやるから……」
文句を言い終える頃には森本先輩は撤退していた。
その後、改めて全員の提出を確認して、冊子の印刷の注文を進めていった。
結局、路ちゃんの聞きたかったことは流れてしまったけど、改めて聞いてこなかったので、僕もわざわざ言わなかった。
まぁ、気になったらまた聞いてくれるだろう。
提出方法は去年と同じくメールでの送信、USBにデータを入れて部室に持って来る、部室内で借りたノートパソコンからの提出の3種類だ。
去年の僕は最終確認をしたかったから部室に出向いていたけど、今年の1年生はメールでの提出が多かった。
「いやー 優秀な1年生だねー 日葵ちゃんとか絶対追い詰められるタイプだと思ったのに聞いてみたら、えっ、森ちゃんセンパイまだ書き終わってないんですか、って言われちゃったよー」
「まぁ、失礼ながら僕も意外だと思いましたけど……森本先輩はちゃんと完成しそうなんですか?」
「大丈夫ー 18時までには終わるからー」
それは表現や誤字チェックのことだと信じて、僕はその場を離れる。
17時の時点だと部室に残っているのは僕と路ちゃんを除くと森本先輩だけだった。
「あと提出してないのは森本さんと伊月さん……あっ、伊月さんからのメールが来たわ」
路ちゃんがそう言いながらメールに目を通すと、「ギリギリまで確認して遅くなりました。申し訳ありません」と書かれていたらしい。
時間的には何も問題ないので、LINEの方で路ちゃんがフォローを入れる。
「うん。これであとは森本さんだけ」
「部長からのプレッシャーだー」
「そ、そんなつもりはなかったんです。全然ゆっくりやってください」
「いやー、この後にも提出の確認とか大変なのはわかってるから、なるべく早く仕上げるよー……あと20分だけ待ってー」
森本先輩の言葉に路ちゃんは僕に向けて苦笑いした。
路ちゃんの反応は当然のことだ。
でも、部長としての苦労がわかっても筆の進み具合はどうにもならないのは仕方がない。
そんな路ちゃんの隣に座りながら僕は言う。
「この調子だと、本当に締め切りギリギリになりそうだ。あっ、あんまり遅くなるのが駄目だったら、僕に残り作業を任せてくれてもいいよ?」
「良助くん、わたしのこと小学生だと思ってる……?」
「ち、違う違う。親御さんが心配するかなと思って。ほら、最近は日が暮れるのも早いし」
「良助くんの妹さんは門限厳しかったりするの?」
「いや、門限とかはないけど……たまに遅かったりすると父親は心配する。どこに行ってるとかは母親に連絡してたりするんだけどね」
「そうなんだ。その遅くなる理由って……彼氏さんだったり?」
「ううん。遅くまで遊んでたのは結構前の話だよ。部活の付き合いもあったらしい。彼氏の家に遊びに行った時は晩ご飯食べて帰ってきたのが一番遅い時間かな」
「その話、詳しく聞かせて欲しいのだけれど」
路ちゃんはわざわざ椅子の向きを変えて食い付いてくる。
避けていたわけじゃないけど、路ちゃんの前で明莉と桜庭くんの情報を話すのは久しぶりだった。
時間もあったので僕は直近で発覚した親戚事情も含めて路ちゃんに話していく。
「知り合いの親戚が……そういうこともあるんだ」
「僕もびっくりしたよ。ちょうど男兄弟で同じ地元に帰って来たから苗字も同じだったって」
「何だかそれだけで一つお話が書けそうなくらい運命的だと思うわ」
「そうかな? その場合は……先輩との関係が深まっていく感じ?」
「えっ!?」
「あっ、違うよ!? 今のはお話として書く場合のことで、僕は桜庭先輩とどうこうってわけじゃないから!」
「そ、そうだよね。びっくりした……」
「むしろ、僕は……いや、これは言わないでおこう」
悪口ではないけど、言ってしまうと桜庭先輩に何か察知される気がした。
相変わらず僕は桜庭先輩をエスパーか何かと思っている節がある。
「……良助くん。前々からずっと聞きたかったことがあるのだけれど……」
「えっ? なになに?」
「……夏休みの」
「夏休み?」
「……や、やっぱり」
「お二人さーん。盛り上がってるところ悪いけど、5分前に提出したよー」
「「えっ!?」」
森本先輩の言葉に僕と路ちゃんは立ち上がって驚く。
「なんで言ってくれなかったんですか!?」
「いやー 楽しそうに話してたから邪魔したら悪いかなーと思って。まー、本当に遅くなってもアレだから最終チェックも仲良くがんばってー」
「お、お疲れ様です……って、元はといえば森本先輩がギリギリまでやるから……」
文句を言い終える頃には森本先輩は撤退していた。
その後、改めて全員の提出を確認して、冊子の印刷の注文を進めていった。
結局、路ちゃんの聞きたかったことは流れてしまったけど、改めて聞いてこなかったので、僕もわざわざ言わなかった。
まぁ、気になったらまた聞いてくれるだろう。
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