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2年生2学期
9月24日(土)曇り時々晴れ 隣接する岸本路子その3
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体育祭前日の土曜日。
僕の住む地域は晴れ間が見えていて、非常に過ごしやすい日だった。
そんな日の朝、僕のスマホにメッセージが送られてくる。
しかし、その相手は清水先輩ではなく……路ちゃんだった。
――おはよう。朝早くからごめんなさい。
――突然なのだけれど……今日って暇だったりする?
その聞き方をするということは、暇だと何かあるということだ。
明日体育祭があるのに何事だろうと思いつつも、暇人の僕は素直に何も用事はないとお答える。
それから1時間後。
僕と路ちゃんは河川敷に集合する。
2人の家からは少し離れた位置にあるので、普段はあまり用がない場所だった。
ただ、今日みたいな休み日には子どもたちの遊び場やランニングする人のコースになっていることは知っている。
そして、路ちゃんの今日の目的はそんな人たちと同じように体を動かすことだった。
「本当にごめんね。直前になって練習しておきたいだなんて……」
そう、路ちゃんは明日の部活対抗リレーに向けて少し練習したかったから僕に声をかけたのだ。
でも、これはリレーに本気なのではなく、他の人に迷惑をかけないようにするための予行演習だと思われる。
「僕も普段は全然走ってないし、明日の肩慣らし……この場合は足慣らしかな? ちょうどできるから良かったよ」
「そう言って貰えると助かるわ。じゃあ、その……バトン渡す練習をしたいのだけれど……」
「本番と一緒で本をバトンにするんだね。一応、普通のバトンパスみたいにやろうか」
路ちゃんは頷いた後、僕の20メートル後ろに下がっていく。
去年は直前に少し確認をした程度で、こんな本格的な練習はしていなかった。
いや、そもそもこういうリレーの練習をするのは小学生以来な気がする。
僕はそれを思い出して少し懐かしみながら路ちゃんが到着に備えていた。
しかし……
「はぁはぁ……りょ、良助くん」
「はい! 路ちゃ……ん」
後ろからやって来た路ちゃんは20メートル走っただけでもかなり疲れており、バトンパスはゆっくりと行われた。
それはもうほとんど手渡しに近く、僕も本来のバトンパスでやるような少し前に出ながら受け取ることを忘れていた。
「うぅ……だから不安だったの」
一回目の練習が終わると、路ちゃんは地面に座り込んで露骨に落ち込む。
正直なところ、路ちゃんの運動が苦手さは僕の予想以上のものだった。
「だ、大丈夫だよ。このリレーは……ほら、レクリエーションみたいなものだし、そんなに本気でやらなくても」
「でも、わたしの場合は本気以前の問題だから……」
「一生懸命走ってるのはみんな伝わるから心配しないで」
「わたしが遅れたら良助くんに一番影響あるし、みんなにも迷惑が……」
「それも大丈夫。僕だって早く走れるわけじゃないし……」
「去年の良助くんは早かったように見えたのだけれど……」
「それは……」
路ちゃんのそのひと言に僕は一瞬止まってしまう。
……まだ引きずっているのか、僕は。
「……路ちゃんの不安、わかるよ。僕もリレーでは迷惑かける側だから。中学からは無理にリレー参加させられることも無くなって、正直めっちゃ嬉しかった」
「そ、そうなの……?」
「うん。あんまり路ちゃんには言ってなかったかもだけど、僕は体育祭自体がそんな好きじゃないからね。特に小学校の時は延期して無くならないかなーとか思ってたよ。でも、今はそんなに思うことは無くなって、明日のリレーも仕方ないけどやってやるかって感じ」
「良助くん、積極的に参加してるものだと思ってた」
「全然。僕は他のみんなが頑張ってる体育祭自体は成功して欲しくて、文芸部のみんなで走るなら悪くないって思ってるだけだよ。まぁだから、こんな感じの奴もいるし、路ちゃんもあんまり真剣に考えなくてもいいと思う」
路ちゃんと話す時にしては珍しく少し投げやりな態度で僕は話した。
本当ならポジティブな言葉をかけ続けたかったけど、今回のことに関して言えば、僕は路ちゃんと同じように考えるタイプだ。
その上で僕みたいにテキトーに参加して奴もいる……ということが伝わればいいと思った。
「……わかったわ。良助くんがそう言うならわたしも少し気楽に参加する。でも……練習はもうちょっとやっていい? その方が安心できるから」
「もちろん。いやぁ、路ちゃんは真面目だなぁ」
「わたしは今日の良助くんを見て、真面目じゃないところもあるんだと思ったわ」
「あはは……印象悪くなったかな」
「ううん……むしろ……」
「えっ?」
「な、なんでもない」
それから気温が上がる昼前までバトンパスの練習や走り方のコツを調べながらランニングしたりした。
結果的に今までの土曜日で一番健康的な過ごし方だったし、不安があったわけじゃないけど、明日のリレーについて安心感を持って挑めるようになった。
僕の住む地域は晴れ間が見えていて、非常に過ごしやすい日だった。
そんな日の朝、僕のスマホにメッセージが送られてくる。
しかし、その相手は清水先輩ではなく……路ちゃんだった。
――おはよう。朝早くからごめんなさい。
――突然なのだけれど……今日って暇だったりする?
その聞き方をするということは、暇だと何かあるということだ。
明日体育祭があるのに何事だろうと思いつつも、暇人の僕は素直に何も用事はないとお答える。
それから1時間後。
僕と路ちゃんは河川敷に集合する。
2人の家からは少し離れた位置にあるので、普段はあまり用がない場所だった。
ただ、今日みたいな休み日には子どもたちの遊び場やランニングする人のコースになっていることは知っている。
そして、路ちゃんの今日の目的はそんな人たちと同じように体を動かすことだった。
「本当にごめんね。直前になって練習しておきたいだなんて……」
そう、路ちゃんは明日の部活対抗リレーに向けて少し練習したかったから僕に声をかけたのだ。
でも、これはリレーに本気なのではなく、他の人に迷惑をかけないようにするための予行演習だと思われる。
「僕も普段は全然走ってないし、明日の肩慣らし……この場合は足慣らしかな? ちょうどできるから良かったよ」
「そう言って貰えると助かるわ。じゃあ、その……バトン渡す練習をしたいのだけれど……」
「本番と一緒で本をバトンにするんだね。一応、普通のバトンパスみたいにやろうか」
路ちゃんは頷いた後、僕の20メートル後ろに下がっていく。
去年は直前に少し確認をした程度で、こんな本格的な練習はしていなかった。
いや、そもそもこういうリレーの練習をするのは小学生以来な気がする。
僕はそれを思い出して少し懐かしみながら路ちゃんが到着に備えていた。
しかし……
「はぁはぁ……りょ、良助くん」
「はい! 路ちゃ……ん」
後ろからやって来た路ちゃんは20メートル走っただけでもかなり疲れており、バトンパスはゆっくりと行われた。
それはもうほとんど手渡しに近く、僕も本来のバトンパスでやるような少し前に出ながら受け取ることを忘れていた。
「うぅ……だから不安だったの」
一回目の練習が終わると、路ちゃんは地面に座り込んで露骨に落ち込む。
正直なところ、路ちゃんの運動が苦手さは僕の予想以上のものだった。
「だ、大丈夫だよ。このリレーは……ほら、レクリエーションみたいなものだし、そんなに本気でやらなくても」
「でも、わたしの場合は本気以前の問題だから……」
「一生懸命走ってるのはみんな伝わるから心配しないで」
「わたしが遅れたら良助くんに一番影響あるし、みんなにも迷惑が……」
「それも大丈夫。僕だって早く走れるわけじゃないし……」
「去年の良助くんは早かったように見えたのだけれど……」
「それは……」
路ちゃんのそのひと言に僕は一瞬止まってしまう。
……まだ引きずっているのか、僕は。
「……路ちゃんの不安、わかるよ。僕もリレーでは迷惑かける側だから。中学からは無理にリレー参加させられることも無くなって、正直めっちゃ嬉しかった」
「そ、そうなの……?」
「うん。あんまり路ちゃんには言ってなかったかもだけど、僕は体育祭自体がそんな好きじゃないからね。特に小学校の時は延期して無くならないかなーとか思ってたよ。でも、今はそんなに思うことは無くなって、明日のリレーも仕方ないけどやってやるかって感じ」
「良助くん、積極的に参加してるものだと思ってた」
「全然。僕は他のみんなが頑張ってる体育祭自体は成功して欲しくて、文芸部のみんなで走るなら悪くないって思ってるだけだよ。まぁだから、こんな感じの奴もいるし、路ちゃんもあんまり真剣に考えなくてもいいと思う」
路ちゃんと話す時にしては珍しく少し投げやりな態度で僕は話した。
本当ならポジティブな言葉をかけ続けたかったけど、今回のことに関して言えば、僕は路ちゃんと同じように考えるタイプだ。
その上で僕みたいにテキトーに参加して奴もいる……ということが伝わればいいと思った。
「……わかったわ。良助くんがそう言うならわたしも少し気楽に参加する。でも……練習はもうちょっとやっていい? その方が安心できるから」
「もちろん。いやぁ、路ちゃんは真面目だなぁ」
「わたしは今日の良助くんを見て、真面目じゃないところもあるんだと思ったわ」
「あはは……印象悪くなったかな」
「ううん……むしろ……」
「えっ?」
「な、なんでもない」
それから気温が上がる昼前までバトンパスの練習や走り方のコツを調べながらランニングしたりした。
結果的に今までの土曜日で一番健康的な過ごし方だったし、不安があったわけじゃないけど、明日のリレーについて安心感を持って挑めるようになった。
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